どうしてこんなことになるのかなぁ・・・。




こんなの、誰も予想なんて出来ないんじゃない?




酷いよ、先生っ!!










図書館に今キミと二人きり










それはいつもの放課後。日が少しずつ沈み始めている時間。

授業が終わり、校庭ではいろんな運動部がクラブ活動を行っている。

幻想学院の図書室から校庭はよく見える。

サッカー部のキーパーがボールを取り損ねたところとか、

バスケ部の部員が綺麗にシュートを決めたところとか。

ほとんど男子の運動部なのに、ちらほらと混ざっている女子部員の姿とか。

そんな光景を見ていると、自然と笑みが浮かんでくる。

賑やかな校庭は、いつ見ても楽しくなる光景だ。

一生懸命に走る生徒の姿は、どうしてこんなに綺麗なのだろう。






は、現在図書室で勉強中だった。

別に成績がガタ落ちしたとか、テストで追試を言い渡されたとか、

そういうことではないのだが。

これでも一応全校30番以内に入っている。

むしろ優秀と言ってもよい成績を持つである。

ただ、今日は少し特別だった。肝が冷える思いをしたのだ。

もちろん、あれは確かに自分が悪い。それはちゃんと反省している。

けれど、ぽかぽかとした昼下がり。

窓際席のが睡魔に襲われるのは当たり前のことで。

よりにもよって、数学(担任はセフィロスである)の時間に居眠りをしてしまったのだ。

チョークを突き付けられて黒板を振り向けば、まったくわからない問題がズラリ。

答えられるわけがない。わかるはずもない。

そして、その罰として、セフィロスから直々に数学プリント5枚を頂戴したのだ。

たかが5枚。されど5枚。

セフィロスの作成した問題がぎっしり詰まったプリントが5枚である。

頭がこんがらがって泣きたくなるのは必須。

寮に帰ってからプリントの問題を解いてもいいのだが、テレビがある部屋の中。

ついテレビのリモコンに手を伸ばしてしまうのは明らかだ。

だから仕方なく、せめて少しだけでも終わらそうと図書室に足を運んでみた。

のは良いのだが。

外の部活に視線が向いてしまい、どうにもこうにも集中出来ない。

「はぁ・・・。」

の溜息も虚しく。

プリントに視線を落としてみるが、わからないものはわからないもので。

嬢は随分とお困りの様子だな。」

ふと降ってきた声に顔を上げる。

「何、それ。セフィロス先生の宿題?」

「クラウド。」

顔を上げた先にいたのは、分厚い本を5冊ほど抱えたクラウドの姿。

クラウドはの手元のプリントを覗き込んで、小さく唸っている。

は言った。

「クラウドが図書室に来るなんて珍しいね。どうかしたの?」

「いや、俺司書。とはいえ、手伝いの図書係ってとこだけどな。」

机の上に本をどすんと置き、クラウドは軽く首を回した。

試しにクラウドが持っていた本を両手で持ち上げてみるが、かなりの重さだ。

の腕では、1分も持っていたら力尽きてしまうだろう。

そんな重さのものが持てるなんて、さすが男の子。

クラウドはの隣の椅子に腰掛け、尋ねた。

「で、どうしたんだよ。」

「あはは・・・。これにはふか〜い事情がありまして・・・。」

かくかくしかじかとクラウドに事の発端を話す。

クラウドはところどころ相槌を打ちながら聞いていたが、

が話し終えた後に言った言葉はザックリの一言だった。

「つまりは、セフィロスの授業中に居眠りした罰ってことか。」

「うぅぅ・・・簡潔な答えをバッサリザックリ言ってくれてありがとう・・・。」

ああ、そうですとも。そのとおりですとも。

言えば言うだけ虚しくなってくる。

「・・・そこの問題は、問1の応用だ。」

「え?」

きょとんとして彼を振り返る。クラウドはプリントの問1を指差して続けた。

「ほら、ここ。よく見るとxとyの関係が同じだろ?解き方としては同じ。」

「あっ、本当だ。」

「問1と同じように分配法則を使って求めれば簡単だ。」

クラウドに言われたとおりに問題を解いてみる。

二人で口を閉ざしているせいかもしれないが、やけに辺りが静まり返っている気がした。

カリカリとシャーペンでプリントに文字を書き入れる音だけが響く。

外で活動していた運動部は、下校の時刻が過ぎたせいもあっていなくなっていた。

そう、下校の時刻がもう過ぎている。

けれど、何故かまだ椅子を立ちたくはなかった。

クラウドが立とうとしていないのも理由のひとつかもしれない。

だが、きっとそれだけではない。

彼が丁寧に教えてくれるのが、何故かとても心地よくて。

ただ無心で問題を解くのがとても楽しくて。

クラウドが丁寧に教えてくれるからかもしれない。

考えてみればクラウドとその親友スコールは3学年の首席を争う頭脳を持っているのだ。

が悩んでいる問題をスラスラ解いてしまうのは当たり前。

「はぁ・・・。いいよね、クラウドは頭良くてさぁー。」

「は?別にも悪くはないだろ?むしろ良い方じゃないか。」

ああ哀しい。首席には“成績としては優秀”という者の気持ちがわからないのだ。

「というか、クラウドっていつ勉強してるの?家では家事に追われてそうだし、

かといって健康に気を配るクラウドが徹夜や夜更かしなんてするように思えないし。」

ふと気になった疑問を問い掛けてみる。

クラウドは一瞬キョトンとした表情を浮かべ、やはりキョトンと答えた。

「・・・勉強って、授業外でやるものなのか?」

その言葉には思い切り椅子からずり落ち、震える手で机の端を握った。

「あ・・・あのねえ。普通は授業外でもするものなの!!」

「そんなこと言ったって・・・。授業の内容をしっかり聞いてれば、テストなんて

満点くらい取れるだろ?なのになんでわざわざ勉強するんだ?」

ああ哀しい。元から頭の構造が違っているらしい。

は椅子に座り直して、深い溜息をついた。

そして、プリントに残された最後の問題を勢いで解き、それからもう一度溜息をついた。

「・・・もう5時半だ。クラウド、そろそろ帰ろう。寮の門限過ぎちゃってる。」

「大丈夫なのか?」

「うん、ティファに迎えに来てもらうから平気。」

が言い、プリントを鞄に仕舞いながら立ち上がった。

クラウドは自分の腕時計を見つめ、小さく頷く。

「ホントにありがと、クラウド。すっごく助かったよ。

寮に戻って今日は徹夜かなぁなんて思ってたのに、全部終わっちゃった。」

笑顔で言うを見て、クラウドもやわらかい笑みを浮かべた。

教えた甲斐がある。の笑顔は、クラウドにとっての報酬なのだから。






ふと、声がした。

「やぁっ!!誰かいるか〜い!?」

沈黙。

クラウドとは顔を見合わせて首を傾げた。

声からしてクジャのようだが、図書室に何の用だろう。

図書室の入り口からしゃべっているようだ。

入り口から達がいる場所は本棚で隠れて見えない。

「誰もいないのか〜い!?」

なんと返事をして良いのかわからずに二人とも黙り込んでいると、クジャが言った。

「うん、誰もいないんだね!?そうなんだね!?よし、そういうことにしておこう!」

いつものことだが、なんという滅茶苦茶な。

図書室の扉が閉まる音がした。結局クジャが図書室に何をしに来たのかは不明だった。

とクラウドは再び顔を見合わせて首を傾げる。

「・・・なんだったんだろう。」

「・・・さぁ。」

とりあえず、もう下校時刻はとうに過ぎている。

は鞄を持ち、クラウドは司書の仕事を終わらせる。

二人が一緒に図書室を出ようとした時、クジャが何をしに来たのかがわかった気がした。




ガタ。



「・・・・・。」




ガタガタガタガタ。




「・・・・・・・・・・・・・。」





沈黙。





「えぇぇぇええぇっ!?!?」






図書室の扉は、押しても引いても開かない。

何故?答えはわかっている。

クジャが鍵をかけたのだ。

幻想学院は一部の施設や教室は外側からしか鍵の開け閉めが出来ないようになっている。

図書室もその中のひとつで、図書室は外からしか鍵の開け閉めが出来ないのだ。

図書室が1階にあればよかったが、生憎幻想学院の図書室は3階。

窓から外に出ることは不可能である。

「ちょ・・・冗談でしょ・・・。」

日は沈んだ直後。まだ少し辺りは明るいが、暗くなるのも時間の問題だ。

「今日は厄日・・・?」

を黒い影が覆っている。

クラウドはそんなに目もくれないで、図書室内を見渡した。

そして、あることを思い付いたのかの手を取り歩き出す。

「え?クラウド?」

「こっち。」

暗い図書室の中を、ただクラウドに連れられて歩く。

クラウドは図書室の貸し出しカウンターの中へと入り、その奥にある部屋の扉を開けた。

「え?ここって入って良いの??」

普段なら司書や図書室の管理人しか入ってはいけない場所だ。

確かにクラウドは司書のようだが、部外者のが入って良いものか。

「今は緊急事態だろ。別に構わないさ。俺も一緒だし。」

クラウドは部屋に入ると、その更に奥にある図書室のブレーカーを上げた。

「悪い、そこにある電気のスイッチ付けてくれるか?」

「これ?」

は傍にあったスイッチを押した。

その瞬間にパッと部屋に光が溢れる。電気が付いたのだ。

は少し驚きながら、部屋の椅子に腰掛けた。

「あーあ・・・。なんだか最悪。今日の正座占い何位だったっけ・・・。」

「そんなの当たるのか?」

呆れたようにクラウドが言う。

「当たるよ!!“今日はなくした物が見つかるでしょう”って言われた日、

本当になくしてた手袋が見つかったんだよ!びっくりしちゃった。」

「へぇ。」

クラウドが軽く相槌を打つ。

はふぅと息をつくと、机に頬杖をついて唇を尖らせた。




まさか一晩ここで過ごすわけにもいかないし。

どうやって寮まで帰ろうか。

ふとは顔を上げる。

「そうだ、クラウド、携帯でスコールとかジタンとかティーダとか呼べない?」

電話して、迎えに来てもらおうと思ったのだ。

だがクラウドは。

「・・・悪い、携帯教室に置いて来てる。」

「えぇ・・・?」

せっかく思い付いた良い方法だと思ったのに、それもパーである。

ちなみには今携帯を持っていない。

クラウドと同じく、教室に置いて来てしまっているのだ。

こういう日に限って何故悪いことが連続するのだろう。

授業中に居眠りするわ、プリントは渡されるわ、図書室に閉じ込められるわ、

携帯は教室に忘れてくるわ、もう最悪の一日である。

「別に良いんじゃないか?ここエアコンの設備は良いし。給湯室は付いてるし。」

「そういう問題じゃないよ・・・。」

そう、考えてみれば今現在部屋にはクラウドと二人きりなのだ。

友達。そう、友達である。

だが、原点に戻って考えてみればクラウドは男、は女。

男女が二人きり。非常にまずい状況ではないか。

「(な、何を考えてるのよ私は。)」

顔が赤くなるのを必死に抑えながら、は別の話題を考えた。

『今日は楽しい一日だったねー!!』

・・・現在最悪の状況なのに、そんなことが言えるはずがない。

『明日は雨降るかなー?』

言ってみれば少しは会話が続くだろうが、だがあまりに間抜け過ぎる。

クラウドは適当にその辺にあった本を読み始めているし、どうしようもない。

も本を読みたいところだが、この緊張した状況で本に集中出来るはずがない。

仕方なく、明日やるという数学の範囲の予習をすることにした。

だが、教科書とノートに視線はあっても、向かい側に座るクラウドが気になって仕方ない。

ああどうしよう。

厄日。きっと今日は正座占いも最悪だったんだ。

そう思いながら教科書を睨み付ける。

「・・・

「ぅあ!?は、はいっ!!」

急に声をかけられたので慌てて声が引っ繰り返ってしまった。

クラウドはそんなの様子に首を傾げながらも言った。

「寒くないか?」

「え?」

確かに言われてみれば寒い(ような)気がする。

小さく頷くとクラウドは立ち上がり、エアコンの電源を入れた。

はエアコンを見つめ、深い溜息をついた。

なんだか調子が狂う。

いつもはこんな緊張せずに、自然体で話が出来るのに。

「・・・ねぇクラウド。今晩、ここで過ごすつもり?」

「・・・それしかないだろ?」

こいつは本気なのか。

本気で一晩をここで過ごすと!?

は溜息をつこうとしたが、慌てて口を押さえる。

元はといえば、こうなったのはの責任でもあるのだ。

勉強をクラウドに手伝ってもらったのだから、クラウドが被害者といえるだろう。

なのに自分のことを考えてばかりではいけない。

は立ち上がると、クラウドに尋ねた。

「クラウド、何か飲む?」

「え?」

「給湯室、あるんでしょ?お茶くらいなら淹れるけど。」

言うと、クラウドは少し考えてから「それじゃ頼む」と答えた。

は小さく笑って頷き、給湯室へと足を運ぶ。

給湯室の電気を付けて中を覗き込むと、結構綺麗に整理されていた。

茶葉はもちろんのこと、インスタントコーヒーや紅茶パックもある。

は給湯室から顔を覗かせ、クラウドに言った。

「緑茶とコーヒーと紅茶、どれがいい?」

「じゃあコーヒーで。砂糖はいらないから。」

「はーい。」

は給湯室に戻り、インスタントコーヒーを手に取った。

ヤカンに水を入れ、火にかける。

よし、クラウドと他愛のない会話を続けるうちに、大分いつもの調子が戻ってきた。

うんうんと頷き、は軽く頬を撫でた。

いつも通りでいいじゃないか。

変に緊張するよりもずっと楽だし、クラウドが変なことを仕出かすとは思えない。

何か緊急事態に陥ったとしても、きっとクラウドなら冷静に対処してくれるだろう。

そう思うと、緊張よりも安心の方が大きくなった。



コーヒーを二人分淹れてクラウドの元に戻る。

机にカップを置くと、クラウドは本から顔を上げて笑顔で「ありがとう」と呟いた。

「あ、お砂糖は入ってないからね。ブラックだけどいいの?」

「ああ。俺甘いのってあんまり好きじゃないんだ。苦い方が良い。」

「カッコつけてるだけじゃないの?」

からかって言ってみる。クラウドは苦笑し、小さく肩を竦めた。





「・・・もう9時だね。」

「そうだな。」

腕時計が9時を指している。もう随分とここにいるようだ。

は授業の予習をし、クラウドは相変わらず本を読んでいる。

勉強をしないというのは本当らしい。

羨ましいなぁ。

「あーぁ・・・なんだか眠くなってきちゃったよ。」

「少し寝たらどうだ?どうせ今日はここにいることになりそうだし。」

とは言われるものの。やはり緊張とはしてしまうもの。

は困ったように首を傾げている。

「んー・・・。それじゃ、少しだけ寝ても良い?」

「ああ。何かあったら起こしてやるから。」

クラウドが笑顔で言うと、は少し笑う。

そして、机に伏して目を閉じた。

よほど疲れていたのだろうか。緊張疲れかもしれない。

すぐに眠気がやってきて、はすぐに眠りに落ちていった。






「・・・。」

声をかけても返事はない。

「・・・寝たのか?」

尋ねても返ってくるのはの静かな寝息だけだ。

クラウドは本を机に置いて立ち上がり、の傍に近寄った。

顔を覗き込んでみても、はぐっすりと夢の中だ。

クラウドはの隣に腰掛けた。そして、の寝顔を見つめる。

白い肌。長くて黒いまつげ。葡萄のような、綺麗な唇。

「・・・ずっと・・・この時が続けばいいのにな・・・。」

小さな呟き。それを聞く者はいない。

クラウドはそっとの髪に触れた。

さらさらの美しい髪はクラウドの指をすり抜ける。

クラウドはそんなの髪に顔を寄せ、軽く口付けた。

それからの前髪をかき上げ、白い額にも唇を落とす。

「・・・悪戯して、ごめんな?」

小さく、囁くように呟く。

「本当は、携帯持ってるんだ。・・・ともう少し、二人でいたかったから。

嘘ついてごめんな。けど、には・・・秘密だ。」

苦笑したクラウドの顔は、少し寂しそうでもあり、嬉しそうな顔でもあった。





もう9時半過ぎ。

そろそろスコールかユフィあたりを呼んだ方がいいだろう。

きっとと同室のティファも心配しているに違いない。

けれど、あまりにぐっすりと眠るキミの顔が美しいから。

その細い体を、まだ抱きしめていたいから。



だから、あともう少しだけ。

今だけは、図書館にキミと二人きり。









<完>


=コメント=
どうもでした。ほのぼの系の話です。
図書館で居残り勉強・・・そして、優しく勉強を教えてくれる男の子・・・。
このシチュエーションって、萌えませんか?(ヤメレ
この話を書いてるとき、もう顔のニヤけがヤバかったです。
始終ニヤけっぱなし(ぇ
美味しいシチュエーションは美味しいのです・・・!
ほのぼのということでしたが、いかがでしたでしょうか。
天城尋様、可愛い挿絵を描いてくださってありがとうございました!!


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