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つんと鼻を突く水と草木の匂い。

冷たい空気に包まれたまま、は目を開けようと試みた。




風に舞う記憶第三章






「ん・・・・。」

体の上がやけに重い。何かに押さえ付けられているカンジだ。

ほんの少し目を開けてみる。そこはかなり薄暗く、窓から入ってくるかすかな光のみが部屋を照らしていた。

「・・・あれ・・・?」

、目ぇ覚めたか?」

額に右腕を乗せ、視線を泳がした。が。

急に目の前にドアップジタンが映し出されてみたらどうだろう。

「に゛ゃーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」

絶叫のひとつくらい、許したくもなるだろう。

「・・・・っくりしたぁ・・・。なんだよ、どうした?。」

「『なんだよ、どうした?』じゃないっしょ!!びっくりしたのはこっちだよぉ。目を開けたら急にジタンのドアップが映るんだもん。

あー・・・びっくりしたぁ・・・。ところでどうしたの?」

いつもの「へにゃ」っとした笑顔ではジタンに問うた。ジタンは苦笑を浮かべる。

「覚えてないのか?お前、劇場艇が墜落する時に自分まで墜落して気を失ったんじゃねぇか。」

ああ、そういえば、と思い出す。スタイナーを左手で抱え、右手で体を支えようとしたが無理だったのだ。

そりゃあの振動の中、右手一本でぶら下がっていられたら表彰物だろう。は苦笑いを浮かべた。

「そーだったねー。ところでボクが抱えてたスタイナーとかいうおっさんは?」

「あー、無事だぜ。あのおっさん見かけによらずなかなかの運動神経でよー、が墜落する時、お前を抱えて

見事に『スタッ』と着地したんだ。まぁ、お前は落ちかけた時に気を失ってたみたいだからわからなかったのも当たり前だけどな。」

あの見るからに運動神経が悪そうなおっさんが?

はジタンにそう聞き返したかったが、ジタンが言うなら事実なのだろう。そう思い、「ふうん」と返すだけにとどめた。

「動けるんだったら、あのおっさんのとこに行ってやれよ?自分の所為でが気を失ったって思い込んでたから、

きっとあいつ後悔してるぜ?の元気そうな顔見たら安心するだろうよ。」

「うん、わかった。でもさ、誰が気絶したボクをここまで運んだの?」

ジタンはそのの問いに「にやぁ」と意味ありげな笑みを浮かべ、言った。

「オレ。」

「ところでさ」

あっさりとは話題を変えた。いや、もちろん意図的にやったことなのだが。

あまりにあっさりと受け流されたため、ジタンはがっくりとうな垂れる。

「ボクが寝てる時、なんかボクの上に何かが乗ってるような感じで・・・重かったんだけど、何で?」

「そりゃオレが座ってたからに決まってんだろ。」

一瞬「へ?」と言いそうになった。

「・・・何で座ってたの?」

「おま・・・・失礼なヤツだな〜。お前の看病してたんだぜ?オレは!」

なんとなく、だが、その言葉を疑いたくなった。ジタンだったら、あの王女さまと話し込んでるに違いないと思っていたから。

そう、なんとなく、意外だったのだ。だが、それ以上に嬉しかった。

「・・・ありがとっ!」

「おわっ!!」

はジタンの首元に抱き付いた。急に引っ張られたため、ジタンは素っ頓狂な声を出す。

「えへへ〜。」

「なんだよ、。」

ほんの少し、ジタンの顔が赤くなる。ジタンも、ここまで素直なを見たのは初めてだったのかもしれない。

「別に〜♪なんか嬉しかったからさ。」

「なんだよー、なんかそんな言い方だと、いつもオレがのこと苛めてるように聞こえるじゃん。」

「えっ?違うの?」

「アホか。」

二人で顔を見合わせると、同時に吹き出した。は昔から、ジタンとのこういうやり取りが好きだった。

ほのぼのとした空気の中で、くだらないことで笑ったり、怒ってみたり、ジタンを困らせてみたり・・・。

そしてまた、どちらともなく二人で笑うのだ。

「そう言えば、王女さまは?」

「・・・・それが・・・。」

ジタンは何やら言い難そうに言葉を濁らすと、小さく息を吐いて言った。

「行方不明なんだ。」

「行方不明・・・?」

は怪訝そうな顔をすると、腕を組んだ。

「どういうこと?」

「どうやら、あの騒ぎの中どっかに行っちまったみたいなんだ。恐らくは衝撃でどこかに飛ばされたんだろう。劇場艇のどこにもいなかった。」

「・・・それ、さ、・・・モンスターに攫われたってことも考えられる訳だよね?」

「・・・ああ。」

ジタンは苦そうに舌打ちをする。

「・・・とにかく、探しに行かないとマズくない?」

ジタンは頷いた。はダガーを腰に装着すると、ジタンと共に部屋を出る。王女ガーネットはどこに行ってしまったのか。



ジタンとは劇場艇の外に出て、辺りを見回した。スタイナーと黒魔道士が何やら話している。

あの黒魔道士は、確かジタンと一緒に戦っていた黒魔道士だ。

「二人共何話してんの?」

が近寄りながら声をかける。すると二人はの姿に気付いて振り向いた。

殿!お体の方は・・・!」

と目が合うなりスタイナーが言った。その顔は本当に心配そうで、きっとスタイナーは自分自身を責めていたんだろうなと思う。

「ぜーんぜん大丈夫だよ、もうピンピン。ゴメンね、心配かけちゃって。」

笑顔で言う。スタイナーは安心したらしく、「へにゃ」と口元を緩めるとヘナヘナとその場に座り込んだ。

は苦笑し、スタイナーの腕を持って立たせてやった。

「えっと・・・、お姉ちゃん・・・?」

おどおどとした様子で黒魔道士の子が口を開く。名前を呼ばれ、は「ん?」という表情で振り向いた。

「あ!黒魔道士の子!」

「え、えっと、ぼく、ビビっていうんだ・・・」

どこか脅えているような言い方。

そう、ビビは今までずっと蔑まれてきたのだ。黒魔道士で、黒魔道士独特の容姿ゆえに。だから怖かった。嫌われたり、離れられるのが。

「ビビ君ね!よっしゃ、覚えたぞ〜!」

ビビは顔を上げる。返ってきたのは、予想してたのと全然違う返事だった。

「・・・お姉ちゃん・・・ぼくのこと、怖くないの・・・?」

「え?なんで?ビビ君、すごく可愛いのに、どうして怖がらなくちゃいけないの?」

はにっこりと笑いながら言った。ビビは大きな目を更に見開いた。

「な?ビビ。心配することねぇって言っただろ?」

ジタンが悪戯な笑みを浮かべながら言う。ビビはずっと心配だったのだ。

ジタンからという仲間がいることは聞いていた。王女を探しに行くなら、きっとついて来てくれるだろうという話だった。

けれどビビは不安だったのだ。

という少女に嫌われてしまうのではないか、怖がられてしまうのではないかと。

ジタンにその事を話すと、ジタンは笑いながら「それは絶対にあり得ない」と言った。

ジタンの言葉を信じていない訳じゃなかった。けれど、今までにそういう風に言われ、何度期待を裏切られたかわからない。

めまぐるしく頭の中に聞こえてくるのは、酷い蔑みの声ばかり。そんな毎日だったのに。

「それじゃ、改めまして!ボク、・トライアンフ!よろしくね、ビビ君!!あ、呼び捨てでもいいかな?」

「あ、う、うん!ボク、ビビ・オルニティア!呼び捨てで、いいよ。」

が手を差し出しているのに、ビビはどうしたらいいかわからなかった。

3秒ほど経った後、は更にニッコリと笑ってビビの手を掴んだ。の手は、とても暖かかった。

「なー、どうでもいいけどよ、オレとの名字って似てるよな。」

ジタンが言い出す。は「ああ」と顔を上げて言った。

「そうだねー。ボクがトライアンフでジタンがトライバルだもんね。」

「何か関係があったりしてな!」

「いや、それは絶対にないと思うよ〜。あったら面白いけどね。」

とジタンは肩をすくめた。

「貴様!!そんな話をしてる暇があったら、早く姫様を探しに行くのである!!」

スタイナーが痺れを切らしたようだ。とジタンは顔を見合わせて苦笑し、ハイハイと手を振った。

「でもさ、スタイナー。女の子に対して「貴様」はないと思うなー。」

「えっ!?いや、あのその、それはこいつに対して言ったことで・・・殿のことではないのである!」

「ちぇ、オレのことだけかぁ?」

スタイナーの意見にジタンは拗ねた。

「それじゃ、行くとしますか!」

の声で、全員の気持ちがまとまった。





「いやぁ、それにしても寒い森だね、ここは。」

「何のんきなこと言ってんだよ。」

が両肩を抱えて身震いすると、ジタンはため息をつきながら突っ込んだ。

どこからどう見ても二人が漫才をしているようにしか見えない。いや、それとも二人は既に漫才コンビなのだろうか。

「だって寒くない?ほら、手だってこんなにヒエヒエ。」

「はぁ?」

は両手でジタンの顔を挟んだ。確かに冷たい。

「ほらほら〜。」

「っさいな〜、だから何なんだよ。寒いなら戻ればいいじゃねぇか。」

「ヤダ」

「なら文句言うな。」

「文句じゃないよー。寒いって言っただけだよ。」

「それを文句って言うんだ。」

「言わないよ?」

「言うんだ!」

「言わないってば!」

「言う!」

「言わない!」

二人が睨み合い始めた時、ビビが慌てて止めた。

「ふ、二人共やめようよ・・・。今はお姉ちゃんを助けなきゃ・・・。」

しばらくとジタンは睨み合っていたが、やがてが吹き出すとジタンもつられて笑い出した。

その様子を見てビビは驚く。てっきり、二人は喧嘩しているものだと思っていたのに。

「け、喧嘩してたんじゃないの・・・?」

「喧嘩!?なんで?」

ビビが聞くと、は驚いたように聞き返した。そう言われて口篭もるビビ。

「え・・・、だ、だって・・・。」

はゴニョゴニョと口篭もっているビビを見て、クスリと笑った。

その時だった。

「ひ、姫様!!!!」

スタイナーの大声が響く。いや、大声というより叫び声と言うべきか。

達は何事かと視線を走らせた。すると、スタイナーの目の前に一匹のモンスターがいる。

そのモンスターは頭上に木の牢屋のようなものを付けており、なんとその中にはガーネット姫がいるではないか。

「プリゾンケージ!!」

「なんだって!?」

モンスターの名を叫んだにジタンが聞き返す。

「プリゾンケージを攻撃しちゃダメだよ!プリゾンケージは体力が少なくなると捕らえている獲物の体力を吸い取るんだ!

今の場合、体力を吸い取られるのは王女だよ!!攻撃すればするほど、王女の命が危なくなる!!」

「そ、そんな・・・ではどうしろと言うのだ!?」

の説明に絶望感を覚えたスタイナーが叫んだ。は少し考え、言った。

「・・・上手くいくかわからないけどっ・・・。皆でプリゾンケージを攻撃して!間違っても王女には攻撃しないで!」

「し、しかし!それでは姫様の身がっ・・・。」

「プリゾンケージが王女の体力を吸い取ったら、すぐにボクがケアルをかける!任せて!絶対に王女の体力をゼロにさせたりなんかしない!」

凛とした笑顔で言うを見て、スタイナーは思った。

――――――――信じられる、と・・・。

「許さねぇぞ!プリゾンケージ!!!」

ジタンの体が光を帯びてゆく。スタイナーとビビは目を見張り、光がおさまるとそこには体から赤い光を発しているジタンの姿があった。

ふと気が付くと、の姿もジタン同様変化している。赤い光を放ち、明らかに怒っている表情。

「お、お主達・・・、その姿はなんだ!?」

スタイナーが聞く。

「体に力が溢れてくるんだよ!」

「もしや・・・トランス!?聞いた事があるぞ。感情が高ぶると、普段は出せない力が出せるようになると・・・。」

スタイナーが驚きの表情を浮かべながら言った。

「よし!一気にやっちまおうぜ!!」

ジタンがプリゾンケージに飛び掛かって行く。スタイナーも遅れるものかとその後に続く。

ジタンの攻撃がプリゾンケージに入り、追い討ちとしてスタイナーが切り裂いた。

プリゾンケージは慌てた様子も見せず、両蔓をケージ内のガーネットに当てた。



来る



プリゾンケージが体力回復のため、ガーネットの体力を吸い取ろうとしているのだ。

「ケアルっ!!!」

すかさずがケアルをかける。ガーネットの体力は吸い取られたが、すぐにケアルによって回復した。

よし、作戦は間違っていない。

「ジタンッ!!!」

「任せろ!!!」

ジタンが体をひねり、その反動をつけてプリゾンケージを切り裂く。トランス能力によってパワーアップしているジタンの攻撃は

プリゾンケージにかなりのダメージを与える。妙な呻き声を発し、プリゾンケージはそっくり返った。

「王女さまっ!」

が駆け寄ろうとしたが、プリゾンケージはガーネットを手放す気はさらさらないらしい。

最後の力を振り絞って、その姿を消してしまった。

「チッ・・・・。」

ジタンが舌打ちをする。だが、あれでかなりのダメージをプリゾンケージに与える事が出来たはずだ。

少なからず希望が見えたに違いない。

ジタンとのトランスがとける。スタイナーは落胆のため息をついた。

「姫さま・・・・。」

と、その時だった。

「うわぁぁぁあ!!」

ジタン達は反射的に振り向いた。そこには再びあのプリゾンケージの姿が。だが、ただひとつだけ違う事があった。

「助けてぇ〜〜〜!!」

「・・・・あの、ビビ、何してるの?」

プリゾンケージに捕まっていたのはビビだった。ガーネットを捕らえたプリゾンケージがいなくなり、安心したところを捕まったらしい。

「今度はビビかよ・・・。助けるぞ!!」

少々呆れたような物言いだったが、にはわかった。ジタンは本気でビビを心配していると。

ガーネット姫を助けようとしたときと同じくらい、真剣に戦おうとしているのだと。

!ビビの回復は頼んだぞ!それからビビ!そいつに魔法が効くか試してみてくれ!」

「了解!」

「う、うん。わかった!」

ジタンが再びプリゾンケージに向かって行く。そして、ビビがファイアの呪文でプリゾンケージを攻撃する。

ビビの体力が失われかけたら、すぐにがケアルをかける。スタイナーももちろん攻撃を手伝う。

そんなやりとりが繰り返され、プリゾンケージは倒れたようだった。檻が煙を立てながら開き、ビビの自由が確保される。

「ビビ!君すごいじゃん!魔法技すっごくかっこよかったよ?」

「え、え?」

に言われ、ビビは戸惑う。嬉しいのだが、うまく言葉で表せない。

その時だった。

「危ない!!!」

ジタンの切り裂くような声が響いた。は反射的に身をかがめ、何事かと目を見張る。

「うわぁ!!」「どわぁぁ!」

スタイナーとビビが叫んだ。死んだと思っていたプリゾンケージはまだ生きていたのだ。

何やら毒の粉のようなものを吐き出し、そして絶命した。プリゾンケージの側にいたビビとスタイナーは毒を吸い込んでしまったのだ。

ビビとスタイナーはフラリとよろめくと、そのままバッタリと倒れてしまった。

「ビビ!スタイナー!!」

「ちっ!まずいぞ!!」

ジタンはスタイナーを担ぎ、はビビを担ぎ上げた。

「とりあえず劇場艇まで戻ろう!きっとブランクがなんとかしてくれる!」

「うん!」

二人は劇場艇、プリマビスタに向けて駆け出した。











「ん・・・・。」

ビビはそっと目を開ける。そこは薄暗い部屋の中だった。

「よぉ、目ぇ覚めたか?」

声がして、ビビはそちらに目を向けた。そこには赤い髪を持つ青年、ブランクが立っていた。

「動けるようになったら、ジタンとに礼を言っとけよ。あいつらがいなかったら、お前はとっくに死んでるぜ。」

「僕・・・死んじゃうの?」

「ん?ああ、悪い、怖がらせちまったな。正確に言うと、お前が浴びたのは毒じゃないんだ。植物の種だな。

植物の種は毒よりも厄介でな。でももう大丈夫だろう。念の為、この薬を飲んどけよ?」

ブランクは紫色のビンをビビに手渡した。中には液体が入っている。何やら怪しげな薬だ。

ブランクは薬をビビに渡すとそのまま部屋を出て行った。

ビビはしばらくの間、薬と睨み合っていたがやがて薬を一気に飲み干した。

「っ・・・にがっ・・・・。」

つい、薬の味にそんな言葉が漏れてしまった。






「はぁっ・・・はぁっ・・・・じ、自分はこんなところでのんびりしている暇はないのであるっ・・・。」

ビビと違ってプリマビスタの倉庫に押し込められたスタイナーは、渡された薬を飲まずに床を這いずり回っていた。

痺れ薬かもしれない。毒が入っているかもしれない。そんなことを考えると、飲む気になれなかったのだ。

「まぁだ薬を飲んでなかったのずら?」

ドアが開いてシナが入ってきた。テーブルの上に置かれたままの薬を見て、シナはため息をつく。

「飲まないとよくならないずらよ。」

「うっ、うるさい!!自分は姫さまを助けに行くのであるっ!」

シナはやれやれと言わんばかりに頭を振った。

「その体じゃ無理ずら。いいから薬を飲んで、ゆっくり休むずらよ。」

「ま、待てっ!まだ話がっ・・・。」

スタイナーはそう言いかけたが、シナは何も言わずに部屋を出て行ってしまった。しかもご丁寧に鍵まで閉めて。

「お、おのれぇぇ!!」

スタイナーは立ち上がって地団駄を踏んだ。着ている鎧がガッシャガッシャと音を立てる、が、本人は気にしない。

「大体、こんな怪しげな薬を飲めるはずなどないっ・・・。」

そう言いつつ、テーブルの周りをぐるりと歩く。

「毒でも入っていたらどうするのだ・・・。」

薬と睨み合い、それでも尚薬を拒絶する。

「だが、この体では・・・・。」

先ほどから目がかすむ。スタイナーは意を決して薬を飲んだ。

「んっ?イケる・・・・。」



「どうして!ねぇ、ボス!!」

そのころ、プリマビスタの一室ではバクーと、ジタンが言い合いを繰り広げていた。

言い合いのネタは現在行方知れず・・・もとい、囚われのガーネット姫である。

「ガーネット王女が捕まってるんだぜ!?助けに行くのが当たり前だろ!!」

「そうだよ!みすみす見殺しにするのっ!?」

ジタンとが訴える。だが、バクーは意見を変えようとはしなかった。

「馬鹿言うんじゃねぇ。プリマビスタは故障、歩いて魔の森を越えなきゃならねぇんだぞ。王女を助けたい気持ちはわかるが、

犠牲を増やす訳にはいかねぇ。残念だが、王女のことは諦めな。それとも、タンタラスを抜けるか?」

バクーの意見はあまりにも残酷だった。

確かにバクーの言っている事は正しい。むしろ、本当にそうするべきなのだろう。

だが、ジタンとは「はい、わかりました」と納得する気にはなれなかった。

どこかで苦しんでいるかもしれない。どこかで泣いているかもしれない。怖がっているかもしれない、脅えているかもしれない。

そんなガーネットを捨て置けと、バクーはそう言うのだ。

もしも助けたいのならば、タンタラスを抜けるしかないと。そうバクーは告げたのだ。

「っ・・・くそっ!!」

「あっ、ジタン!!」

ジタンはバクーを睨み付けると、そのまま部屋を飛び出して行った。も慌ててその後を追い、部屋にはバクーが残された。

バクーはジタン達がいなくなると、「やれやれ」とでも言うように頭を振った。

そして、下品なくしゃみを一発かました。



「くそっ!なんなんだよ、ボスのやつっ・・・。」

階段を下りながら、ジタンは肩を怒らせて呟いた。

「・・・でも、確かに仕方ない事だよね。」

「なんだよっ!まで王女を見殺しにするってのか!?」

はビクっと身を竦ませたが、ぶんぶんと首を横に振った。

「そんな訳ないじゃん!!」

今度はがジタンの前に立って歩き出した。ジタンは呆けていたが、慌てての後について歩き出した。



「相変わらず・・・お前らも仕方ねぇなぁー・・・。」

階段を下り切ると、そこにはブランクが立っていた。はブランクに飛びつく。

「わ〜。ブランク兄貴だ〜!」

「いででででっ!こ、こらっ!引っ張るなってば!」

ブランクは赤くなりながらを引き剥がそうとしている。ジタンは苦笑した。

「ほら、ジタン、。あのビビとかいうガキに会ってやれよ。礼が言いたいって言ってたぜ。」

ブランクはひとつのドアを指差した。ジタンとは頷くと、ブランクに礼を言ってドアを開けた。

「あ・・・。」

ビビは寝ないで起きていた。ジタンとが近寄ると、ビビは体を起こそうとする。

ジタンは「寝てろよ」と促してビビを寝かせると、ビビは黙って横になった。

「あの・・・ありがとう。ブランクさんからジタンさんとお姉ちゃんが助けてくれなかったら僕危なかったって聞いて・・・。」

ジタンとはニッと笑う。

「いいってことよ。困った時はお互いさま、だろ?あとオレのことは呼び捨てでいいぜ?ジタン、ってカンジでな。」

「そうだよ、ビビ。全然気にする事ないよ。早く元気になってね!」

ビビは頷く。

「あと・・・あの、お姫さまは・・・大丈夫?」

は黙ろうとしたが、ジタンが口を開いた。

「大丈夫だ!オレとが絶対に助けてやるから、安心しろ。」

は少々驚いた。確かに王女を助けに行こうと思っていたが、まさかこんな簡単に言うと思わなかったのだ。

まだ行けるかどうかわからないというのに、「絶対」という単語まで持ち出している。

そこまで、ジタンは王女を助けたいのだろうか。いや、きっと助けたいのだろう。

「それじゃ、ビビはもうちょっと休んでな。ちゃんと休むんだぞ?」

「う、うん。」

ジタンはバイバイと手を振ると、部屋を出て行った。は一回ビビに笑いかけると、部屋を出て行った。

バタンとドアが閉まり、再び部屋は静寂に包まれる。

ビビは少々肌寒さを感じて、毛布に潜り込んだ。




「ジタン、どうするの?」

ジタンは部屋を出てから黙っている。が話しかけても反応を見せないのだ。

真剣な顔をして、腕を組んで、どうしようか悩んでいるようだった。

「・・・やっぱやるしかないよな・・・。」

「え?」

組んでいた腕をほどき、ジタンは言った。

「やるしかないんだよ、ボスと。ガーネット姫を助けるには、タンタラスを抜けるしかないんだ。」

ジタンの意思はそこまで固かったのか。は驚いた。だが、次のジタンの発言で三度驚かされることとなる。

「オレはタンタラスを抜ける。だけど、お前は残ってもいいんだぜ?オレに付き合ってお前までタンタラスを抜けることはない。」

は驚くと同時に、ムッとした。

「そうだね。ボクはタンタラスに残るよ。」

ジタンが小さくため息をついたのがわかった。

「・・・なぁんて言うとでも思ったか!!この馬鹿ジタン!!!!」

ダンッ、と床を足で鳴らす。ジタンはビクっとしてを見る。

「バーカ!何が「お前は残ってもいいんだぜ?」だよ!ボクは残る気なんてサラサラないからねっ!王女を助けに行くんでしょ?

だったらボクだってボスと戦ってタンタラスを抜けるよ!絶対に残ったりなんかしないからねっ!!」

そこまで言うと、はぷいっとそっぽを向いた。どうやら本気で怒ったようだ。

ジタンは安堵のため息をつくと、おう、と小さく返事をした。




ジタンとは会議室へと踏み込んだ。そこには既にバクーがいて、いつもの下品なくしゃみをしながら振り向いた。

「おう、遅かったじゃねぇか。すっかり体が冷えちまったぜ。」

バクーはうんと伸びをすると、目の前に立つジタンとを見つめた。

ジタンとの瞳には歪みのない光が宿っている。もう何を言ってもタンタラスに残る気はないのだろう。

バクーは内心ニヤリと笑った。自分達だけでは何も決められなかった奴らが、今自分達の意思で自分と戦おうというのだ。

これが嬉しくない訳がない。親として、父として嬉しいのだ。

「よし、それじゃ、隣の貨物室で相手をしてやる。オレは手加減しねぇからな。ただし、『戦う』のはジタンだけだ。」

えっ?という声が上がる。

とオレを戦わせるつもりかぁ?は仮にも女なんだ。はジタンの援護をやってみろ。

オレはには手を出さない。その代わり、もオレには手を出しちゃいけねぇ。いいな。」

よく意味がわからなかったが、受けて立つしか今はない。ジタンとは頷く。

「よし。」

バクーとジタン、は貨物室へと入った。森の空気で部屋は満ちていて、少々肌寒かった。

「来い!!」

バクーが言うと、すぐさまジタンが飛び掛かって行った。

右へ、左へ、下から、上から。さまざまな角度からジタンは切り付ける。

バクーは自分の興奮を抑えられなかった。

――――強くなったじゃねぇか。

「ガハハハ!くすぐってぇなぁ!そんなことじゃお姫さまは助けられねぇぞ!!!」

ジタンは唇を噛む。バクーの一撃がジタンの肩に入り、ジタンの洋服が千切れる。

「ケアル!」

すかさずがジタンに回復魔法をかけ、ジタンは再び飛び掛かってくる。

――――ちゃんとも考えてるじゃねぇか。

バクーの口元には笑みが浮かぶ。もう充分だ。

ここまでしっかりと出来るのなら心配はいらない。きっとガーネットを救出出来るだろう。

「ジタン!お前の勝ちだ!」

バクーはダガーを納める。ジタンとはキョトンとしている。

「お前らの勝ちだって言ってるんだよ!さぁ、タンタラスじゃねぇヤツらがここで何をしてる?さっさと行っちまえ!」

バクーはだまって貨物室を出て行った。それと入れ替わりでブランクが入って来る。

「やったじゃねぇか。お前ら!」

ブランクはジタンの頭をど突き、と肩を組む。ジタンは俯いて黙っていたが、やがて一言だけ言った。

「・・・手加減してくれるなら、そう言ってくれよ・・・。」

ジタンはぽつりと呟くように言った。はニコッと笑いつつ、ジタンの顔を覗き見た。

「倉庫の鍵は開いてるぜ。あの兵士のおっさん、どうせ連れてくつもりなんだろ?」

ジタンとは頷く。

「ん、じゃぁさっさと行ってやりな。あのおっさん、何でもいいから外に出たいみたいだしな。」

ジタンとはブランクに礼を言うと、貨物室を出て行った。




<続く>


=コメント=
うげぇぇぇ!!長いっ!!!(何事)
なんじゃ、この文章・・・・(汗
すみません、超長いですね(汗
本当はこれで魔の森脱出まで書いちゃおうと思ったんですけど、
なんだか長くなり過ぎちゃうのでここで一回切りました(笑
次章で多分魔の森脱出します。
ああ・・・ブランク兄貴が・・・(何

ではでは。