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「ねーねージタン、ボクお腹すいたよ?」


人の懐のことも考えずに、そいつは「ほわーん」とした顔で言い放った。


けれどそいつのことを本気で怒ったり、責めたり出来ないのは・・・どうしてなんだろう。









風に舞う記憶










薄暗い船内。揺れる空間。歩くたびに、軋む床。

ギィ、ギィ、と規則的に響くその音は、狭い通路ではやけに耳障りだ。

だが、そんなこと気にした様子も見せず、二つの人影の片方が声を発した。

「ジタン、アレクサンドリアに行って何をするの?」

可愛らしい声。通路のランプに照らされたその顔は、まだ幼い少女の顔だ。

森を思わせる深い緑の髪と、道化師のような緑色の服。

そして、瞳は燃えるような赤。その瞳と同じ色の羽が、髪に装飾として刺さっている。

そんな少女の問いに、隣の少年はニッと笑って答えた。

は何をすると思うんだ?」

少年の髪は金色。猫のような大きくつり上がった目はグリーン。

まだ幼さを残したその顔は、けれども逞しく見える。

少年と少女の共通点。それは、尻から生えた猿のような尻尾だった。

二人の尻尾は可愛らしく歩くたびに揺れている。

と呼ばれた少女は頬に指を当て、可愛らしく「ん〜」と考え込んだ。

そして「にぱっ」と笑いながら言う。

ボクはアレクサンドリアって言ったら美味しいごちそうかなぁ〜・・・♪

少年思わずすっ転ぶところだった。あまりに見当違いの答えを出したを呆れ眼で見る。

は「あつ〜いスープと美味しいハーブパンが食べたいなぁ・・・♪」と呟き、

夢を見ているようなトロンとした瞳で遠くを見つめている。そう、遠くを。

少年は心底撃沈した。無理もない。いや、当たり前の反応ではないだろうか。

「・・・あのな、なんでそこで食いモンの話になるんだよ・・・・!」

「アハハ★やだなぁジタンったら。冗談に決まってるデショ〜?」

嘘だ。

断言してもいい。あれは本気の目だった。

が食いしん坊・・・失礼、食べるのが大好きなことは、ジタンもよく知っている。

そして、食べ物に関してが本気になった後、彼女の口から飛び出すお決まりのセリフも、

ジタンには予想が出来ていた。

「ねーねージタン、ボクお腹すいたよ?」

予想通りの反応に、ジタンはがっくりと項垂れた。

キョトンとした彼女は、それは傍から見れば可愛らしいものなのだが、

ジタンにとっては呆れるという以外に何も意味を成さないものなのであって。

とくに食いモンの話をしているの顔は。

「・・・食いもんの話題から頭を離せ。で、はアレクサンドリアで何をすると思うんだよ。」

「だからアレクサンドリアと言ったら美味しいごちそう・・・」

だぁぁ!違う!!!そうじゃなくて、今回の作戦についてだよ!!」

ジタンは本当に頭を抱えたくなった。一体の頭の中はどうなっているのだろうと本気で心配になった。

彼女の脳味噌は、本当に食いモンでできているのではないかと疑ってしまう。・・・のも無理はない。

「アハハ☆ んーとね、ボクは〜・・・。やっぱりガーネット姫をさらうのかなぁって思うけど?」

ふざけながらも、小さくニヤリと笑った

ジタンは呆れと苦笑の間くらいの笑顔で「大正解」と返した。






現在ジタンとは劇場艇プリマビスタの中にあるタンタラス団会議室に向かっている。

プリマビスタは総トン数8235t、劇場付き、収容乗客数288名を誇る巨大な豪華飛空艇である。

工業都市リンドブルムで製造され、霧を利用する動力により霧の海を駆け巡る。

劇団『タンタラス』の所有物であり、今回アレクサンドリアにて行う劇のため、移動中だ。

“劇団”という仮の姿を持つ盗賊団タンタラス。ジタンとは、そんなタンタラスの一員である。

本拠地はリンドブルム。普段は近隣諸国からも引っ張りダコの有名劇団として名を馳せている。

しかしその実体は狙った獲物は逃がさない盗賊団だ。

現在はバクーを中心に、十人ほどのメンバーが所属している。

今は漫才のような会話を繰り広げているジタンとだが、戦闘や任務になると

表情は打って変わって真剣そのものに。

ジタンとの戦闘能力は、タンタラスの中でもかなり認められている。

・・・とはいえ、今はまだ任務前であり、二人が漫才を繰り広げるのも日常茶飯事のこと。

「ねージタン、アレクサンドリアに着いたら、ボクになにか奢ってよ〜。」

「オレは女にしか奢らない主義なんだ。」

「あ、酷い。そういうこと言う?ボクこれでも女の子なのにィ〜・・・。」

きっぱりと言うジタンに、は頬を膨らませた。

それに気付かないフリをしながら、ジタンは小さく肩を竦めた。

は一人称こそ「ボク」という少年形だが、実際は正真照明の女の子である。

タンタラス入団当時は「私」だったが、男達に囲まれて生活するうちに「ボク」へと変わってしまった。

一時期「オレ」だったのだが、それではあまりに可愛らしい外見とのギャップが激し過ぎるため

仲間の一人、マーカスに止められた。

その他の仲間達は皆「オレ」でいいじゃないかと言ったものだが、

「何言ってるんスか!!は仮にも女の子ッスよ?「オレ」なんてダメッス!」

というマーカスの訴えにより、の一人称は「ボク」へと変わったのだった。

仮にも、という単語がくっ付いてる辺り、あまり説得力もなかったのだが。




「・・・っと、ここだな。」

ジタンは立ち止まった。その所為で、自然との歩みも止まる。

ひとつの部屋の前にジタンとは佇み、顔を見合わせた。

この部屋こそが、タンタラスの会議室。どうしても、緊張してしまう自分がいる。

「なんだよ、任務前でビビってんのか?」

「馬鹿言わないでよねっ。アレクサンドリアのご飯が食べれるなら、なんだってするよ!」

「ちぇっ、単純な奴だなぁ。」

ジタンはドアノブに手をかけ、そっと開ける。中は暗かった。

暗い部屋の中は、機械音が騒々しく鳴り響いている。

少しの明かりもない部屋内では隣にいるの顔も見えず、ジタンは溜息をついた。

「暗いな・・・まだ誰も来ていないのか?」

「あ、ジタン、ランプはっけーん。」

の手が自分の腕を掴み、それからぐいと引っ張った。

それに付いていくように少し歩くと、暗闇に少し慣れた目が小さなランプを捕らえる。

「お、、なんか今日は冴えてんじゃん?」

「・・・あのね、ジタン君。『今日は』ってどういう意味かなぁ?『今日は』って。」

「気にしない気にしない。言葉のアヤだっつの。」

苦笑を浮かべながらジタンはマッチに火をつけ、ランプに灯りを灯した。

部屋いっぱいにランプの光が広がる。

少し暖かい、そんな気分になって、二人は顔を見合わせてどちらともなく微笑んだ。

安心したのかもしれない。



「誰だっ!!!!」



突然声がして、ジタンとはザッと飛び退いた。

だがすぐに、現れた相手を見て警戒を解く。

「あ、ブランク兄貴。だよ〜。」

「オレだよ、ジタンだよ。」

二人が言うと、現れた青年・・・ブランクは武器にかけていた手を離し、ニッと軽く笑う。

更に奥の部屋から仲間のシナとマーカスが現れ、五人は仲間内の決まりのポーズをとる。

それからブランクは溜息をつき、話し出した。

「二人とも遅かったじゃねえか。何やってたんだよ?」

「何もしてないぜ?ただ、こいつが飯の話ばっかするから・・・。」

ジタンはを親指で示しながら言った。

そんなジタンに、は怒鳴る。

「何っ!?ジタンはボクの所為だって言いたいの!?ご飯は大切なんだよ!

人が生きていくのに本当〜っに重要なものなんだよ!

ジタンだって聞いたことあるでしょ、ホラ、あの、えっと・・・『腹が減ってはヤクザは出来ぬ』って!」

一瞬その場の空気が凍り付いた。

とんでもない単語の間違いを、心底正してやりたくなる。

「・・・・・戦は出来ぬ?」

「そうそれ。」

沈黙に耐えられなくなったジタンがそう言うと、がコクリと頷いた。

それから、アハハと笑い飛ばす

そう、こいつはこんな奴だった。何故か昔からことわざや四字熟語に弱いのだ。

それだけ脳味噌が単純ということなのだろうが。

〜。少しは学習するずらよ〜。」

「いーの、だって意味は伝わるでしょ?戦とヤクザ、ほら、そっくり。」

無茶苦茶なことを言っていることに気付いていないのだろうか。はアハハと笑うだけだった。

だが、そんな彼女だからこそ、ジタン達はずっと仲良くやっているのだろう。

彼女の陽気さは欠点でもあり、そしてそれ以上に皆が大好きに思っている部分だから。

「ところで、ボスはもう来てるのか?」

一人足りない人物を探すように、ジタンはキョロキョロと部屋を見回した。

けれども、探している人物は見当たらない。

「いんや、まだずらよ。」

「ボスはいつも遅刻だもんね〜。」

がジタンの右肩に顎を乗せながら言った。

その顔は、まるでリラックスをしている猫のようである。

ジタンは呆れたように眉根を寄せ、の顎が乗っている肩を軽く揺さぶった。

、重い。」

「んにゃー。」

ジタンに言われ、はしぶしぶ顎をジタンの肩から離した。

それから、さもつまらないとでも言うように小さく溜息をつく。




その時、別の扉から青いドラゴンの面を被った男が突然現れた!

急なことに全員の顔に緊張が走る。だが、そのモンスターの下半身を見た途端に全員の顔がニヤけた。

・・・見たことのある、いや、いつも見慣れているズボン。そして大きな太鼓腹。

ブランクとジタンは何かを企むような顔で合図を送り、マーカスとシナ、はクックックと笑いを漏らしている。

そして、がわざとらしく言った。

「うわぁ〜、すっごい!倒しちゃっていい?

「うん、いいんじゃねぇ?」

モンスターの顔に冷や汗が浮かんでいるように見えるのは見間違いではなさそうだ。

の顔が今までの「ほわ〜ん」顔から緊張な顔へと変わる。

「それじゃいっきまーすっ!」

彼女は即座に腰にある二本のダガーを構え、目を閉じ詠唱を始め、

そして手を青いモンスターへと向けて言った。


「エーアーローッ!!!!」


「「「「「って、いきなりソレかいっ!!!!????」」」」」

の容赦のない攻撃はモンスターへとしっかり命中した。

ものすごい音がして、モンスターの断末魔の悲鳴が響く。

ここまで来ると、モンスターが逆に哀れである。

モンスターの動きがスローモーションに見え、何気にモンスターは目からキラキラするものを飛ばしながら・・・・



バタッ!!



倒れた。

「あや?ん〜、ちょっと力加減失敗したカナ?」

「「「「いや、入れ過ぎだって。」」」」

全員息ぴったりの突っ込みが入る。力いっぱいの突っ込みである。

はやはりアハハと笑い、モンスターに近寄りケアルをかけた。

それとともにモンスターは息を吹き返し、それから叫ぶ。

「グハーーーーーッ! 頭が痛ぇーっ!ちったぁ、手ぇ抜かねえかっ!」

「あ、ボスだー。」

《最初からわかってたくせに・・・・。》

その突っ込みがの耳に入ることはなかった。

そのボスと呼ばれた男バクーは、に向かって怒鳴る。

!てめ今本当に殺す気でやっただろ!?」

バクーが涙目で訴える。だがは。

「だって本物のモンスターだと思ったんだもん。話をややこしくするボスが悪い。」

ビシっとバクーを指差してはきっぱりと一言。

相手がバクーだとわかっていたとしても、とりあえずバクーが話をややこしくしたというのは間違いない。

胸を張っているの後ろでは、何気にジタン達がうんうんと頷いている。

バクー、敗北。完敗である。

「まぁまぁ、もこれからはもっと力を押さえるずらよ。ボス、作戦会議始めるずらか?」

シナがとバクーの間に割って入り、上手く丸め込んだ。

もうここまで来るとヤケクソだ。

「・・・・ああ・・・始めよう、今すぐ始めよう、即急に始めよう、いいから始めよう!!!」

バクーは涙目で叫ぶように言い、隣の部屋に入っていった。

ジタン達も肩をすくめ、バクーの後に続く。



隣の部屋に移ると、バクーは城の模型が置かれたテーブルの前に座り、ジタン達もまたその周りに集まった。

「今回の作戦の確認だっ!!」

バクーがテーブルに手を叩き付けながら言う。

「我らの目指すはアレクサンドリア王国・・・

そして、我ら盗賊タンタラス団の目的はこの国の王女、 ガーネット姫をかっさらう事だっ!!」

バクーはシナお手製のガーネット姫人形を取り出し、城の模型の上に置く。

それを見て、シナが口を開いた。

「さて、後は、おいらが説明するずら。

もうすぐ、おいら達の乗っている船がアレクサンドリアに到着するずらよ。

到着したら、おいら達は平然とした顔をして・・・」

「アレクサンドリアで大人気の芝居『君の小鳥になりたい』を演じるんだよね!」

が口を挟み、そこで再び全員がずっこけた。

キョトンとしながらは首を傾げている。

「・・・一番いいところをに言われたずら・・・。

ま、まぁとりあえず頼むずらよ、主役のマーカスさん!!」

マーカスは苦笑を浮かべながら頷く。

「頑張るっス! だけど誘拐作戦の主役は、ジタンさんとブランク兄貴とっス!」

マーカスがブランクに視線を送ると、ブランクは服のポケットから小さな虫を取り出した。

そして眉をひそめ、嫌そうにその虫を見つめる。

「幕間に俺がこいつで城の連中を混乱させる・・・と。

だけど、どうもこのブリ虫ってのは苦手だぜ。まあ仕方ないから我慢するけどよ・・・。

で、その後は、ジタンと、お前達の出番だぜ!」

「うぉーっし!ブランクが混乱を起こしてくれるから、その隙に俺達が、」

「ブラネ女王を誘拐すればいいんだよね!!」

「そうだ〜、我々が誘拐するのは、この太って醜い〜、ブラネ〜〜〜・・・って何でじゃあ!!!」

ぐっと拳を握りながら二人は言い、バクーはご苦労もガーネットの母親で、

アレクサンドリアの女王であるブラネ女王の人形を取り出した。

そのリアクションがなんとも言えずおかしく、ジタンとは噴き出す。

こういうところは息ぴったりな二人である。

「わかってるよ、その隙に、ガーネット姫を誘拐すればいいんだよね?」

「そうだ〜、我々が誘拐するのは、アレクサンドリア始まって以来の美姫と名高いガーネット姫!!」

「あー、ブラネの娘とは思えないくらいに美人だよねぇ。」

の呟きに、反論をする者はいなかった。

そして、劇場艇はそんなことを知ってか知らぬか、アレクサンドリアへと順調に向かうのであった。










ジタン達が乗っている劇場艇がアレクサンドリアに着いた。

到着から作戦まで三時間。その間に、何度も作戦の確認を行う。

タンタラスに失敗は許されない。今までもそうだったし、これからもそうだ。

今回の作戦は、すばやくガーネット姫を捕らえること。そしてある場所に届けなければならない。

今までの中で、恐らく一番重要な作戦だろう。

「開演10分前ずら!皆配置に着くずら〜!」

小声でシナが命令する。全員が舞台裏で配置に着いた。

そう、ゲームはまだ始まっていない。

「さてさて・・・今回のゲームは、どんなシナリオなのかな?」

はクスクスと笑い、劇場艇からアレクサンドリア城へと急いだ。

緑色の髪を靡かせ、生き生きとした表情で。





はちきれんばかりの拍手とともに、舞台の幕はゆっくりと上げられた。











<続く>




=コメント=
修正しました第一話!
9復活のために今必死に頑張ってます(笑)
とりあえず以前書いたものを読んでみれば顔から火が出そうだったので(爆
これでまだ大分読めるようになったと思われます・・・(汗
砂糖微量、更新激遅のFF9連載ですが、
最後までお付き合いいただけると嬉しいですm(_ _)m