とうとう終わる。



こんな歪んだ戦いが。



そして、俺達はこれからも進み続ける。










hat is your hope ?











孤独な空間。

存在するのは魔女アルティミシアのみ。

寒く、冷たいその空間。

そして、泣きたくなるほど哀しい、部屋の空気。

アルティミシアの間の扉を押し開けたとき、冷たい空気が流れ出してきた。

それでも、スコール達はその扉を更に押す。

徐々に見えてくる部屋の中。

スコール達は覚悟を決め、一気に扉を押し開けた。



部屋の中央高く設置された玉座に、その主はいた。

深く、黒い空気を纏うその女性。・・・魔女、アルティミシア。

背筋が凍るほどの美貌を持つ、美しい魔女だった。

長い髪に、白い肌。そしてはっきりとした輪郭。赤い唇。鋭い目。

一歩近寄るだけで、肌が総毛立つようなプレッシャー。

これが、魔女アルティミシア。

目を閉じていてもわかる存在感を持つこの女性こそが、魔女アルティミシア。

アルティミシアは部屋に入ってきたスコール達を見つめ、冷たく目を細める。

その空間に侵入して来た来訪者を、魔女は歓迎しなかった。

「・・・eeD・・・」

アルティミシアが呟く。見た目と同じように、美しい声だった。

けれど、その声はぞっとする恐ろしさを含んでいる。

「SeeD・・・SeeD・・・・」

魔女はスコール達を見つめ、鋭く目を吊り上げた。

「SeeD、SeeD、SeeD!!」

叫ぶアルティミシア。スコール達は身構え、アルティミシアを真っ直ぐに見上げた。

強い意志を秘めたスコール達の目を見て、アルティミシアは腹立たしそうに唇を噛み締める。

目障りなSeeD。魔女にとって。どれほど邪魔な存在か。

「気に入らない・・・何故魔女の邪魔をする! 何故私の自由にさせない!?

もう少しで完全なる時間圧縮の世界が完成するというのに・・・・」

時間圧縮の世界なんて、完成させない。

そんな世界は、存在しなくてもいい。

過去、現在、未来。それが流れる本当の姿こそが、世界の一番美しい姿だ。

ごちゃ混ぜになった世界なんて、歪んだ世界なんて、存在する権利はない。

アルティミシアは鼻で笑い、スコール達を見下ろした。

「邪魔は許さん・・・お前らの存在など時間圧縮のアルゴリズムに溶け込んでしまうがいい!!

激しい痛みと共に思考が分断され、記憶も思い出も極限にまで薄められるのだ。

何も出来ず、考えられず、思いすら何もない! そんな世界に、お前達を送ってやろう!」

「テメェが俺の生まれ変わりだなんて考えると反吐が出るぜ!

記憶も思い出も極限にまで薄められる?そんなことさせるかよ!!

俺達は今までいろんなことを考え、そして進んできた。

そしてそんな中で、大切な記憶と思い出を作り上げて来た!!

俺達の絆を・・・思い出を、記憶を!!お前なんかにいじられてたまるか!!」

が叫んだ。それに続くように、リノア達も口を開く。


「負けない!私達の時代を、壊させたりなんかしない!!」

「トラビア・ガーデンの恨み、ここできっちり晴らすんだからね〜!」

「僕達の決意、ちゃんと受け止められるか見物だね〜。」

「今まで散々やってくれたが、ここまでだぜ!」

「未来の人間が過去に手を出すなんて卑怯よ。ここで終わらせるわ!」


仲間達の思いが重なる。

スコールは一歩前に出て、アルティミシアを真っ直ぐ見据えた。


「きっと歴史は繰り返すだろう。

アルティミシアが消えても、また別の力を持つ者が現れるだろう。

けれど俺達は諦めない。」


そう。自分達は、この星で生まれ、そして育った。

そしてこれからも、この星で過ごし、この星で果てて行く。

自分達の“故郷”を、壊させやしない。





「俺達は、この星に蒔かれた種なのだから!!」





広い部屋の中にスコールの声が響き、アルティミシアは表情を消してスコールを見つめる。

明らかに怒気を含んだその顔に、スコールは鋭く睨み返した。

はぐっとアルティミシアを見つめ、静かに言った。

「俺とお前の魂が同じという事実は、どう足掻いても変えられない。

けれどここで終わりにするんだ。俺の魂は、俺が生きている限り俺だけのものだ!」

アルティミシアはゆっくりと口を開く。

「・・・お前が私の前世だと考えると吐き気がする。

お前は私の愛しいまでも奪った。例え私の前世だろうと、容赦はせぬ。」

そう言うと、アルティミシアは玉座から立ち上がった。

そして、両手を大きく広げて叫ぶ。

「お前達に出来る事は、唯一で永遠の存在である私を崇めること!!

さあ、最初に来るのは誰だ!? 誰が私と戦うのだ!?

ふ・・・誰であろうと結果は同じ事! 私が選んでやろう!」

アルティミシアは言うと、スコール達に襲いかかった。

スコール達は武器や魔法で応戦したが、すぐに首を傾げることとなる。

手応えがないのだ。相手は世界を支配しようとする最強の魔女のはず。

なのに、全くと言っていいほど手応えがない。

だが、すぐにその疑問は打ち消された。

アルティミシアは叫ぶ。


「お前の思う、最も強い者を召喚してやろう!

お前が強く思えば思うほど、それは、お前を苦しめるだろう!」


最も強い者。最も強く、誇り高い者。

とスコールはハッとした。顔を見合わせ、まさかという表情を浮かべる。

スコールがに渡したあの指輪。想像上の動物が描かれた、あの指輪。

そう思った時、目の前にそのライオンの姿が現れた。

ライオン・・・グリーヴァは、アルティミシアの魔力により更に強靱に見える。

「ふっ・・・記憶がなくなる? 本当のG.Fの恐ろしさはそんなものではない。

G.Fの恐ろしさ、貴様らに教えてやろう。その力、見せてやれ! グリーヴァ!」

アルティミシアが叫んだ。それに応えるように、グリーヴァが唸り声を上げる。

スコールが思う、『最も強い存在』をG.Fとして召喚するなんて。

アルティミシアの強大な魔力により、G.Fでありながら消える事なく戦い続ける。

負けたくない、そう思えば思うほど、グリーヴァは力を増して行く。

そして、その力に圧倒されればされるほど、グリーヴァは強大になって行く。

敵はスコールが最も強いと思う者。言ってしまえば、スコールの戒めのような存在なのに。

「はぁぁぁっ!!」

スコールは叫びながら、ガンブレードを振りかざした。

けれど、グリーヴァに致命的なダメージを与えることは出来ず、弾き返されるばかりだ。

相手は、自分の思いに比例して強くなって行く。

どう太刀打ちすれば良いというのだろう?

「スコール、心を無にしろ!!」

が叫ぶ。その声に、スコールは振り向いた。

「スコールがグリーヴァのことを思えば思うほど、こいつは強くなる!

心を無にして、戦え!何も考えるな、目の前にいるのはただのモンスターだ!」

ただのモンスター。スコールは再びグリーヴァを見据える。

強大な力を持つこのライオンを、自分は倒すことが出来るのだろうか?

心を無にするなんて、本当に出来るのだろうか?

そう思った瞬間、更にグリーヴァは唸り声を上げる。

いけない。このままじゃ、苦戦が長引くだけだ。

スコールは一度目を閉じ、ゆっくりと息を吐いた。

何も考えず、ただひたすらに心を落ち着け、無にするために。

そんなスコールを見たアルティミシアが、鼻で笑った。

「前置きは終わりだ!今度は私がグリーヴァにジャンクションしよう!」

今度はアルティミシアがグリーヴァに直接入り込んで来た。

グリーヴァの力に、アルティミシアの魔力。

この二つが融合した恐るべき異形の怪物が誕生したのだ。

もはや無心どころではない。どうすればいいのかわからない。

頭が混乱して、何も考えられなくなる。

「スコール!連続剣でも叩き込んでやれよ!

グリーヴァとアルティミシアに、お前の本当の力見せてやれ!!」

スコールはハッとして顔を上げた。



皆戦っている。



ゼルも、セルフィも、キスティスも、アーヴァインも、リノアも。

そして、だって。

ゼルのデュエルがグリーヴァに炸裂するが、グリーヴァは倒れない。

アーヴァインはそんなグリーヴァに、隙を見てハイパーショットを打ち込んだ。

リノアの攻撃。キスティスの攻撃。

仲間を支えるセルフィのフルケア。

そして、印を結んでホーリーを唱える

皆、力を合わせて全力で立ち向かっている。

スコールはガンブレードを構え直し、グリーヴァを鋭く睨みつけた。



自分は何を迷っていたのだろう。



皆、自分を支えてくれている。皆、平和のために戦っている。

迷う必要などどこにもない。ただ突っ込めばいいだけだ。

仲間達の攻撃は、スコールの勇気へと繋がった。

グリーヴァの一瞬の隙を突いて、スコールの連続剣が炸裂する!

鉄がぶつかる音が何度も響き、そのたびにグリーヴァの雄叫びが響いた。

よろめくグリーヴァ。もう一息だ。

はスコールに歩み寄ると、その肩を叩いた。

振り向くと、笑顔のが立っていた。

「俺達、立派な相棒がいるだろ?」

はグリーヴァを見据えたまま、自分の胸を指差した。

「ここにさ!!」



リヴァイアサン。



ケツァクウァトル。




もう一息。

もう一息で、グリーヴァを倒せる。

スコールとは顔を見合わせると、しっかりと頷いた。

二人はグリーヴァの真正面に立ち、神経を集中させて叫ぶ。


「大いなる雷の神鳥よ!」

「偉大なる海の龍神よ!」


『今こそ光を重ね、我らの敵に力を示せ!!』




黄金と青い閃光が交わり、ケツァクウァトルとリヴァイアサンが同時に姿を現す。

突風が巻き起こり、スコール達ですら体を支えるのに必死になった。

同時召喚。

雷と海の神は、スコールとの想いを乗せ、グリーヴァへと向かって行く。

全てを切り裂くような、グリーヴァの雄叫び。



スコール達の想いが、グリーヴァの力を上回った。



それは、スコールが自身の戒めを撃ち破った瞬間でもあった。

「うごごご・・・!」

グリーヴァの中のアルティミシアが苦しみ出した。

ジャンクションしていたとはいえ、倒されたダメージは彼女に対しても計り知れないのだ。

崩れ去るグリーヴァの体を見ながら、スコール達は急に体が引っ張られるのを感じた。














突然、辺りが静まり返り、真っ暗な闇に包まれた。

そんな闇の中に、ぼんやりとした光が見える。

圧倒される光。それが、アルティミシアの光だと気付くのに時間はかからなかった。

『私はアルティミシア。すべての時間を圧縮し、すべての存在を否定しましょう。』

静かに語るアルティミシアからは、先程の憎しみや殺気を感じない。

アルティミシアは、時間を圧縮する事により全ての時代に生きる魔女の力を取り込み、

世界を己の思うがままに作り直そうとしている魔女だ。

全ての時間と空間を圧縮し、体内に取り込むために身体を変化させ、

現在も少しずつではあるが、全ての存在を取り込みつつある。

この世界も徐々に時間圧縮が始まったのだろうか。

周りの空間はアルティミシアと融合してきている。

急に、体から力を奪われる感覚がスコール達に走った。

時空を超えた存在となりつつあるアルティミシア。

だがそれはまだ不完全のものだ。

ここにいるスコール達が存在するという事からもそれは証明される。

だがこのままでは徐々にその存在を消されてしまうのは明白だ。

「消されるわけにはいかない・・・!」

リノアが呟いた。

「消されるわけには、いかない!!」

このまま消される訳にはいかない。

このまま全てを失う訳にはいかない。

リノアの想いに応えるように、仲間達が叫ぶ。

「自分を信じ、そして仲間を信じる!」

ゼルが顔を上げた。

「自分が相手を信じれば、相手も自分の存在を信じてくれる!」

辛い体に力を入れ、キスティスがアルティミシアを睨みつける。

「強い絆!強い想い!!」

アーヴァインはぐったりとした腕を持ち上げ、もう一度銃を構える。

「これがお互いの存在を消さない、そして、アルティミシアに対抗すべき唯一の方法!

ラグナ様、そう言ってた!!」

セルフィの叫び。

仲間達の視線が、スコールとに集まる。

がぐっと体に力を入れて、アルティミシアを見据えた。

「俺達は諦めない!俺達は信じる!自らの存在を!そして仲間達の存在を!!」

そんなを支えながら、スコールが叫んだ。

「その想いがある限り、俺達の存在を消させはしない!!」

アルティミシアが、そっと顔を上げたのがわかった。

静かなその動きが、スコール達を魅了する。



『思い出した事があるかい、子供の頃を。』



何度も思い出した。そしてそのたびに、思い出したくないことまで思い出した。

けれど、そんなことがあったから、自分達は今ここにいる。



『その感触、その時の言葉、その時の気持ち。』



忘れはしない。記憶を忘れていたときのあの虚しさを。

常に胸にあった、あの虚無感を。



『大人になっていくにつれ、何かを残して何かを捨てていくのだろう。』



そう。何かを残し、何かを捨て行く。

けれど、そのたびにまた新しい何かが自分に飛びこんでくることを、知っているから。



『時間は待ってはくれない。握りしめても、開いたと同時に離れていく。』



時間は待ってくれない。それは、とても残酷なことかもしれない。

けれど、自分達はその“時間”とともに流れて行く。

時間に置いて行かれることはない。自分も、常に時間とともにある。






『そして・・・・』






やがて目映いばかりの光が辺りを覆った。

アルティミシアが崩壊し、圧縮していた時間が崩れていく。

終わった。

スコール達は戦いの終わりを感じながら、元の時代に戻る事を思い出した。









「終わった?」

白い空間に、アーヴァインの声が響いた。

「帰ろ〜! 僕達の時代へ帰ろうよ〜!」

真っ白な空間を、皆それぞれ走り抜ける。

響く足音。広がる虚無感。そして、崩れ落ちていく時代の音。

「落ち着いて! 落ち着いて帰る場所を思い浮かべろ!」

ゼルが叫んだ。

自分達の帰る場所。

自分達の、本当に在るべき場所。

「時代を間違えないように〜!」

「時間の歪みに落ちないように!」

セルフィが、キスティスが、叫ぶ。

皆で、帰るために。

「時間、場所、一緒にいたい人!本当にある想い出を思い浮かべて!」

リノアの声。



仲間達の足音が響く中、遠ざかって行く中、は動けずにいた。

「一緒にいたい人・・・・」

ぽつりと呟く。

それから、自分の周りを見回した。

「・・・スコール・・・?」

いない。どこにも。

一緒にいたい人。一緒に歩みたい人。

彼が、どこにもいない。

は駆け出した。真っ白な空間を、ただひたすらに。

方向感覚すらわからなくなる空間を、ただひたすらに。

「あの場所へ!!」

叫ぶ。

「スコールと約束したあの場所へ!」

花畑での約束。たくさん笑い合った、あの想い出。

「スコール!スコール! 一緒に帰ろう! 何処にいるんだ!?」

しっかりと思い出せるあの花畑。

スコールの怒った顔、呆れた顔、泣きそうな顔、照れた顔。

・・・そして、一番大好きな笑顔。



「スコール!!」



胸に広がるこの想い。

この想いの名を、はまだ知らない。













スコールは、暗闇の中を彷徨っていた。

どこで道を間違えてしまったのだろう。どこで、道がわからなくなったのだろう。

独り。孤独。

それは、過去の自分を思い出させた。

独りぼっち。自分以外誰もいない、空間。

けれど、スコールは過去の自分とは違う。

あれから何年も生きてきて、人のぬくもりが優しいことを知った。

そして、それを教えてくれたのは・・・。

「(俺は独りじゃないから。・・・独りじゃないから。

・・・・呼べば答えてくれる仲間がいるから。)」

スコールは暗闇の中、仲間の姿を捜して駆け出した。

暗闇に、自分の走る足音だけが響く。

「皆、どこだ!? ! どこだ!

ゼル! セルフィ! キスティス! アーヴァイン! リノア! !!」

スコールは大声で叫んだ。

けれど、闇からは何も聞こえない。

ただ静寂が、辺りを覆うだけだ。

そんな現実を突き付けられて、スコールは急激に恐怖を感じた。

「(・・・俺、独りなのか?)」

誰に問うでもなく、心の中で呟く。

「(? 声、聞かせてくれよ。俺、どっちへ行けばいい? 独りじゃ・・・帰れないんだ。

・・・? 俺・・・また、独りぼっちか?ここは・・・どこだ?)」

暗闇の中、走り回るが誰の姿も見つける事は出来なかった。





気が付くとスコールは、荒地の中に一人佇んでいた。

暗雲が立ち込め、砂煙が舞い、見渡す限り何もないところ。

見ているだけで、寂しさと虚無が胸に広がるような、哀しい場所。

スコールはゆっくりと歩き出した。

もしかしたら、この先に行けば帰れるかもしれない。

疲労した体を必死に動かし、スコールは先へと進んだ。

・・・けれど、いつまでたっても変わることなく荒れ地が続くだけ。

振り返っても、今来た道は霧に隠れてしまって、引き返すことが出来ない。

「(先にも行けない、引き返すことも出来ない・・・)」

やがて歩き疲れ、スコールはふと足元を見回した。

そこは空間に浮かぶ小島。

先程までは、広い荒地だったのに、いつの間にか小さな小島へと変化してしまっていた。

どこに行っても決して出る事の出来ない閉ざされた空間。

いずれこの空間も、消えてしまうのだろうか。

スコールは絶望を感じ、もはや何の気力も湧かずにただそこに座り込んだ。

ふとスコールの目に空から落ちてくる一枚の白い羽が映った。

そしてその羽を掴むと突然目の前が開け、暁の中、後ろ姿のを映し出す。

「・・・?」

彼女の名を呼ぶ。はゆっくりと振り返ったが、その姿は何故か歪んでいて、

曖昧な様子でスコールの目に映し出された。

突然スコールの脳裏にが笑っている様子が閃く。

はスコールの方を振り向き、ニッと微笑み、軽く手を上げた。

けれど、肝心のの顔がぼやけている。

「・・・・・・・?」

いや、違う。ぼやけているのではない。

の顔が・・・はっきりと、思い出せないのだ。

何度も何度も思い出そうとするが、どうしてもの顔が思い出せない。

霞みがかった光景は、スコールをどんどん追い詰め混乱させた。

押し寄せる幾場面もの今までの思い出。

それはあまりにも曖昧で、やがてそれが誰だったかまでも思い出せなくなった。

?その名が、誰のものかすらわからない。

考えることすら苦しくて、胸が痛くて、頭の中はぐちゃぐちゃだった。



突然、スコールは自分の中で何かが弾けるのを感じた。

頬を伝う涙。

何故自分が泣いているのかわからない。

けれど、苦しいほど寂しくて、痛いほど哀しかった。

ふっと意識を手放し、その場に倒れ込む。







「スコール!!」

は、白い空間を走っていた。ただ一人、スコールを探して。

リヴァイアサンに話しかけようとしたが、リヴァイアサンの気配がない。

どうやら、時間圧縮が元に戻るときに引き離されたらしい。

一人でも、は走り続けた。

絶対に一緒に帰ると約束したのだから。

ポケットに手を入れれば、スコールからもらった指輪が手に当たった。

今どこにいるのかわからない。

怖くて不安で、泣きそうにもなってしまう。

「・・・スコール!!」

強い想いを込めてその名を再び呼んだ瞬間、白い空間が真っ白な羽根となって飛び去った。

突然のことには目を細め、顔を腕で庇う。

真っ白い羽根は風に飛ばされ、宙に舞った。

そして、開けた視界。寂しさと虚無感が胸に広がる、哀しい場所。

静寂が広がる、荒地だった。

「スコール・・・?」

は呟き、ゆっくりと歩を進めた。

このどこかにスコールがいるかもしれない。無事でいてくれるかもしれない。

は辺りを見回しながら荒地を進み、そしてある場所で足を止めた。

「・・・・・スコール・・・・・・?」

の目には、スコールが横たわっている姿が映っていた。

ぐったりとしたスコールは、ピクリとも動かない。

は脱力したようにその場に跪き、スコールの上半身を起こすように抱え込んだ。

その頬に、涙の跡を見つけて目を細める。

そっと頬を撫でれば、驚くほど冷たかった。

「スコー・・・・ル・・・・?」

小さく揺さぶってみる。けれど、スコールの瞼は固く閉じられたまま。

ふと視界が歪んで、は眉根を寄せた。

上手くスコールの顔が見えない。

目の上が熱くって、胸が痛くって、苦しくて。

「スコール・・・スコール・・・!」

涙が邪魔をして、スコールの顔を良く見ることが出来ない。

はスコールの頬に触れて、絞り出すように呟いた。

「なぁ・・・約束したじゃないか・・・花畑で、待ってるからって・・・!

待ってるから、来てくれって・・・!」

最後は、もう言葉にならなかった。

胸が苦しくて、言葉を紡ぐことが出来ない。

探し求めていたスコールが、今自分の腕の中にいるというのに。

彼は、目を開けてくれない。



「スコール!!!」



は叫び、スコールの体を思い切り抱き締めた。

胸が苦しくて、痛くて、どうしたらこの胸の苦しみがなくなるのかわからなかった。

「スコール・・・俺・・・スコールのためなら何でも出来るって思ったんだぞ・・・?

何だよこの気持ち・・・!苦しくて痛くて・・・意味わかんねぇよ・・・!」

ズキズキと痛む胸。これは全部スコールのせいだ。

全部、彼が悪いんだ。

「・・・・好きなんだよっ・・・!俺お前のことが好きなんだよ・・・!!

どうして目を開けてくれないんだよっ・・・!何でだよ!!」

は叫んだ。

その瞬間、後頭部に手が回され、強い力で引っ張られる。

何が起こったのか、わからなかった。

気が付けば自分の唇に、スコールの唇が重ねられていて。

自分の頭に回された手が、スコールのものだとわかって。

目を見開いて、ただ驚いていた。

しばらくして唇が離れると、ずっと聞きたかった声が耳に届いた。

「・・・俺も・・・好きだよ。」

その言葉に、は驚きを隠せず自分の腕の中のスコールを凝視する。

まだぼんやりした表情ではあったけれど、彼は優しく笑みを浮かべていて。

また、涙が流れた。

気が付けば辺りは寂しい荒地ではなく、スコールと約束した花畑だった。

色とりどりの花が地面を埋め尽くし、花弁を宙を舞う。

そんな美しい光景の中で、は声を上げて泣いた。

「テメ・・・殺してやる!何だ散々心配させやがって!!テメェなんか死刑だ!!」

「おい、せっかく助かったんだ。死刑は勘弁してくれないか?」

スコールは重たい体を起こし、大泣きするを見つめた。

今まで何度もが泣いているのを見てきたが、

ここまで激しく泣きじゃくっているのを見たのは初めてだった。

それだけ、心配してくれた。

スコールはひたすら泣くを抱き寄せ、自分の腕に閉じ込める。

優しく抱き締め、その額にキスを落とした。

「なぁ、もう一度言ってくれよ。」

「何をだよ・・・!」

泣いているくせに、不貞腐れたの返事が返ってくる。

スコールはクスリと笑い、囁いた。

「・・・好きって、もう一度言ってくれよ。」

「ふざけんな!あんなのもう二度と言わねぇよ!!」

「じゃあ、俺が言う。」

そっと腕の力を緩めてを見つめる。

真っ赤なの目が痛々しくて、そっと瞼にもキスをした。

「好きだ。ずっと言いたかったけど、上手く心の整理が出来なかった。

今なら胸を張って言える。・・・大好きだ、。」

はその言葉に顔を歪め、スコールの胸に顔を押し付けた。

「馬鹿野郎・・・!」

「かもな。」

はスコールの胸を滅茶苦茶に叩いた。

そんなの様子を見て、スコールは苦笑を浮かべる。

そういえば、リヴァイアサンにも胸を叩かれたことがあったな、と。

はしばらくスコールの胸を叩いていたが、やがてその腕をスコールの背中に回した。

そして、しがみ付くようにぎゅっと強く抱き締める。

スコールはふと気付いて、懐からの指輪を取り出した。

「これ、やっぱりが持っていた方がいいと思う。

・・・との、大切な指輪なんだろ?」

スコールから手渡された指輪を見て、はふっと目を細めた。

兄とおそろいのその指輪は、にとってとても大事なもので。

はひとつ頷いて、その指輪を握り締めた。

「じゃあ、俺もスコールの指輪・・・返さないと。」

「あれはいいんだ。・・・に持っていて欲しい。」

ポケットから指輪を取り出そうとするの手を制し、スコールは優しく微笑んだ。

そして、またそっとの体を抱き締める。

優しいぬくもりに包まれながら、は静かに目を閉じた。

「私・・・スコールとなら、歩いていけるって思ったんだ・・・。」

「ああ・・・。歩いて行こう。ずっと一緒に。」

消え入りそうな声で、は言った。

そんなを抱き締めながら、スコールはそっと目を瞑った。





花の香りが、二人を包み込む。

泣いて、怒って、また泣いて。

そして、嬉しくて、涙が止まらなかった。











<続く>


=コメント=
こんなところで切ってすみません(笑
とりあえずラスボス戦終了おめでとう!!
あと数話で終わります。
予定としては、あと2、3話くらい。
もうちょっとですので、最後までお付き合いください!! [PR]動画