もうすぐに会えるかもしれない。



あの明るい笑顔を見せてくれるかもしれない。



そう思うと、宇宙の危険なんて怖くなかった。









hat is your hope ?











スコール達を乗せたカプセルは、大気圏を越えて宇宙へと到達していた。

広がる星の世界。見れば幻想的な世界だが、見るのと実際に宇宙に行くのとでは違う。

スコール達のカプセルが向かうその先には、巨大な施設が。

その中の制御室では、宇宙服を着た男と管制官達がカプセルの接近について協議していた。

「カプセルが接近しています。回収しますか?」

管制官の問いに、宇宙服の男は面倒臭そうに答える。

「しない訳にはいかねえだろ?」

「そりゃそうですね。」

管制官は軽く返事をして、モニターに向き直る。

近付いているカプセルの様子が映るモニター。

宇宙服の男は、そのモニターを見て、ぽつりと呟いた。

「な〜んか、面倒な事起こらなきゃいいけどな。」

嫌な予感、というよりは、胸が痒くなるような胸騒ぎを感じた。

あまりに小さいその感覚。嫌な、というほどではない。

「兵を配置しますか?」

「・・・俺の勘じゃあ、いらねえな。」

それじゃあ、配置しましょう。

『カプセル回収班、回収プロセスをスタートせよ。

警備班、非常事態に備えて待機せよ。』」

あっさりと自分の言葉を無視され、宇宙服の男はずっこけた。

そんな男には目もくれず、管制官は黙々とモニターに向かって作業を進めている。

「お前ら、普通そういう事するか?俺を誰だと思ってるんだあ?」

なんだか虚しい気持ちになっていたりする。

宇宙服の男は溜息をつくと、ヒラヒラと手を振って部屋の出口へと向かった。

「んじゃ、俺はアデル見てくっから後は頼んだぜ。」

「了解。」

「了解。」






管制官の指示の下、カプセルの進行ルートに電子ネットが次々と張られる。

カプセルはもの凄い勢いでネットに突き刺さるが徐々に速度を落とし、やがて停止した。

それを見計らって宇宙服を着た作業員が回収し巨大な施設・・・ルナサイドベースへと運んだ。

「はい、緊急解凍。ちょっと痒いけど我慢我慢。・・・はい、終わり〜。」

作業員の間抜けな声が聞こえて、スコールとリノアはふと目を覚ました。

体が宙に浮いている。

どちらが天井でどちらが床なのかがわからない無重力空間。

確か自分達はコールドスリープ状態にあったはず。

今の作業員の声は、そのコールドスリープを解かれたという意味だったのか。

『回転リングユニット部分にロック。ロック完了。人工重力発生。』

重力が発生し、スコール達は無難に床に着地した。

傍には、が倒れている。そのとき、職員がやってきた。

「エスタ大使からの紹介状です。」

職員に紹介状を手渡すと、職員は頷いた。

「おおっ! 年の頃なら17、8の若い美男子・・・・。・・・・死んでるの?」

医療クルーがを見て声を上げた。スコールはクルーを睨み付ける。

に触れるな。それには女だ。」

「事情はわかった。まず彼女を医務室へ。話はそれからにしよう。

私はピエット。さぁ、ついてきたまえ。」

渡された紹介状を見た男・・・ピエットはそう言って、スコール達を医務室へと案内した。




「この先です。」

医療クルーが示す先には、小さな部屋がある。

その部屋に入ると、部屋の中心にベッドが備え付けられていた。

ベッドといっても、機械で覆われた医療用のベッドだ。

スコールはそのベッドに、そっと優しくを横たえた。

そして目を細め、その顔をじっと見つめる。

スコールはそっとの頬に手を添えて、眉根を寄せた。

相変わらず冷たい頬は、スコールの不安を駆り立てるばかり。

「話はつけてきた。では、制御室へ行こう。」

ピエットが部屋の入り口からスコールに言った。

スコールは振り向き、頷く。

部屋出ると、先程の医療クルーが興味を持ったようにを見つめていた。

に触れるな。」

低い声で言うと、クルーは苦笑を浮かべて肩を竦めた。

「わかったわかった。君は・・・この子の騎士か何かみたいだな。」

騎士。そうかもしれない。そうでないかもしれない。

スコールに、そこを判断することは出来なかった。






制御室に入ると、そこは月面を映したモニターがたくさん設置されていた。

リノアはモニターを見て声を上げる。

「すごい! 月がこんなに大きい〜!」

リノアの声を聞き、管制官は思い詰めた顔でひとつのモニターを指差す。

「そんなに驚いてばかりもいられないんだ。このモニターを見てみろよ。」

「ん〜?」

「月の表面を見てみろ。」

スコールとリノアは、管制官の指差したモニターを見つめた。

そこには、月の表面上で蠢く黒い陰が映し出されていた。

スコール達は驚愕の表情を浮かべる。

「(何だこれは!?)」

「何、これ・・・全部モンスター!?」

管制官は溜息混じりに答える。

「月はモンスターの世界だ。そりゃ習った事あるだろ?

そのモンスター達が月の一点に集まってきてるんだ。

月の涙が始まるんだ・・・・歴史は・・・・繰り返される。」

「月の涙は何十年という周期で起こるの。

セントラ地方の大クレーターは知ってるでしょ?

あれは100年以上も前に起こった月の涙の傷跡よ。

あれでセントラの都市は滅んだと言われているの。」

月と星の重力バランスが微妙な位置にある時、月のモンスターの群が異常な行動を起こす。

例えると海の潮の満ち引きに似ているという者もいる。

潮か、モンスターかの違いはあるが、どちらも月と星が影響を与えあった結果。

月の表面上のモンスターが溢れ出して、ついには地表に零れ落ちる。

人類その現象を月の涙と呼んでいるのだ。

「エルオーネのところには行ったか?」

ふとピエットが言った。スコールは首を横に振る。

「この部屋を出た廊下の階段を上がればその先がエルオーネの部屋だ。

許可は出ている。行ってきてもいいぞ。」

その言葉に、スコールは目を見開いた。

いよいよエルオーネと会える。いよいよ、エルオーネと話が出来る。

スコールは即座に部屋を飛び出し、エルオーネの部屋に向かった。



エルオーネの部屋に入ると、そこには前と変わらないエルオーネの姿があった。

エルオーネはスコールに気付くと、優しい笑みを浮かべる。

「久し振りね、スコール。」

「ああ。」

エルオーネは苦笑し、俯いた。

「ごめんね、いろいろ。あなた達を巻き込んで。」

「いいんだ。あんたが何をしたかったのかわかったから。俺達は役に立ったのか?」

「もちろん。あなた達は私の目になってくれた。

あなた達のおかげで私がどんなに愛されていたかわかった。

過去は変えられなかったけど、それを確認出来ただけで充分。本当にありがとう。」

スコールは頭を振った。

「もういい。その代わり頼みがある。過去は変えられないって言ったな?」

「知らなかった過去を知る事は出来る。過去を知る事でそれまでとは違った今が見えてくる。

変わるのは自分。過去の出来事ではないの。」

事実そうなのだと思う。それが本当なのだと思う。

けれど、それが本当かどうか確かめるために、スコールはエルオーネに会いたかった。

「・・・そうなのか? 本当に過去は変えられない?

俺は自分で確かめたい。俺をの中に送ってくれ。

過去のの中に。の身に起こった事を知りたいんだ。

そしてに危機を知らせて・・・・・」

スコールの必死さを汲み取ったエルオーネは、優しく微笑んだ。

そして、スコールの頭に手を伸ばし、そっと撫でる。

「・・・助けたいのね? をなくしたくないのね。

うん。ラグナおじさんも、そう言うと思う。は、本当に素敵な人だから・・・。」

スコールは顔を上げ、エルオーネを見つめた。

エルオーネは変わらず、微笑んでいる。

「医務室へ来てくれ。の様子も、あんたに見て欲しいんだ。」

「うん。」

スコールはエルオーネを連れ出して部屋から出た。

ふと、通路の脇にクルー達が屯っているのを見つけた。

この施設のことを聞いてみたいと思っていたが、丁度良い。

スコールは、クルー達に話しかけた。

「この施設は何なんだ?」

「十七年前はエスタは邪悪なアデルに支配された悪の国だった。

その後アデルは封印されここに飛ばされた。

月と我々の星の重力バランスがとれたこの場所が封印するには好都合な場所だったの。」

窓の外を見ると、確かに巨大な何かが浮かんでいる。

「あれをパックしている素材も特殊な物なの。

アデルを押さえつけるのと同時に外からの干渉も一切受け付けない。

電波、音波、思念波、そしてジャンクションも・・・

あまりに強いWAVE妨害処理を施しているから地上の電波にも影響を及ぼしているのね。」

もしもアデルが復活したら、十七年前の悪夢が復活してしまう。

そうならないために、この施設の人間が監視している。

「今もほら! ああやって大統領が自らチェックに出てる。」

クルーが窓の外を指差した。見ると、確かに宇宙服の男が機械を点検している。

「アデルをああやって封印したのも大統領自らの活躍なの。

それ以来ずう〜っと監視は怠らなかったわ。」

「この国の大統領も珍しいわよね。ああやって自ら宇宙服着て走り回ってるんだもの。」

「万一、アデルの封印が解けたら大変な事になるもの。大統領も気が気じゃないのよ。」



その時、急に警報が鳴り響いた。

耳障りな警報の音。スコールは辺りを見回し、眉をひそめた。

『医務室で異常事態発生! 医務室で異常事態発生!付近のクルーは武装して急行してくれ!』

医務室という言葉に、スコールは目を見開いた。

医務室といえば、がいる部屋ではないか。

「医務室・・・? ・・・?」

スコールはエルオーネに向き直り、言った。

「俺が行く。危険だからエルオーネは制御室で待機しててくれ。」

「うん!」

「制御室にはリノアもいるから、リノアと一緒に待ってろ。」

エルオーネが制御室に向かったのを確認し、スコールは急いで医務室に向かった。

すると、突然医務室の扉からクルーが突き飛ばされて出てくる。

ドンッと鈍い音がして、壁に叩きつけられたクルーは機を失った。

スコールは目を見開き、医務室の扉に近付こうとして足を止める。

ゆっくりと、おぼろげな足取りでが出て来たのだ!

ベッドで休んでいたはず。眠っていて、絶対に目を覚まさなかったはず。

そのが、今医務室から出て来たのだ。

!」

スコールはに近付くが、気を失ったクルーと同じく、不思議な力によって弾き飛ばされた。

背中を壁に強かに打ち付け、痛みが背中に広がる。

スコールは苦痛に表情を歪めながらも、を見つめた。

「(・・・どうしたんだ。、無事なんだぞ。・・・?)」

は意識がないのか、スコールには気付きもせずにふらふらと歩きながら制御室へと向かう。

スコールは必死に制止するが、近付こうにも弾き飛ばされて近付くことが出来ない。

今のは危険だ。何をするかわからない。

だが、制止が出来ないのだ。はスコールに気付かず、近付くことすら出来ないのだから。

何度も何度もに弾き飛ばされ、背中を打った。

背中の鈍い痛みに耐えながらも、スコールはを追う。


とうとう制御室に辿り着いたは、真っ直ぐにコントロールパネルへと向かう。

「スコール・・・が!」

「やめて!」

リノアとエルオーネの叫び声が制御室に響く。

ピエットが強張った面持ちでスコールに言った。

「あれはアデル・セメタリーの封印解除装置なんだ。」

止めたくても、近寄ることが出来ない。

は誰も近寄らせないまま、コントロールパネルへと歩み寄り、

そして操られるかのように封印を解除してしまった。

『アデル・セメタリー封印LV1解除。封印LV1ハ解除サレマシタ。』

コンピューターの無機質な声が、制御室に響いた。

エルオーネとリノアは不安な面持ちでを見つめている。

「封印はLV2までしかないんだ!」

「知り合いだろ? やめさせろ!」

管制官達がスコールに叫ぶ。スコールは舌打ちをし、もう一度に近付いた。

だが、結果は同じ。弾き飛ばされ、壁に強かに背中を打ち付ける。

はそのまま部屋から出て行ってしまう。

「見て見て! 月が凄い事になってるよ。」

リノアの指差すモニターを見れば、前にも増して活性化するモンスターの群れが。

とうとう月の涙が始まるのだ。

ならば、尚更を止めなければ。

の目的がアデルの封印解除なら、宇宙に出て行くつもりだ。

ピエットの話によると、封印LV2の解除装置はアデル・セメタリーその物にあるという。

スコールは慌ててを追いかけ、制御室を飛び出した。

そして通路に出たときだった。


「見て! 月が!」


月に生息するモンスター達が一点に集まっている。

その様子は月が巨大な眼球のようにも見える。

モンスター達の数はますます膨れ上がり、やがて重力を無視して天高く飛び出していく。

それは巨大な眼球から流れ出す涙のようである。

その『月の涙』は星へと向かって、勢いよく弾けて一直線に流れ出した!

スコールはそれを見て時間がないと判断し、傍のロッカールームに駆け込んだ。

ロッカールームに入ると、宇宙服を着たが今まさに宇宙へと出ようとしている。

!」

スコールは叫び、すぐに宇宙服に着替えて追いかけた。

せっかく“会えた”のに。せっかく、動くを見ることが出来たというのに。

こんなのは、悲し過ぎるではないか。

こんなのは、酷過ぎるではないか。



遥か向こうにが見える。はどんどん遠くへと向かって行く。

手を伸ばしても届かない。どうして、こんなことに。


そこに、作業を終えて帰ってくる人とすれ違った。

「お? 何だい? 誰だい?」

宇宙服の男のうち一人が、通り過ぎていくの姿を見て言った。

不思議そうに首を傾げながらも、男達は施設へと戻っていく。

「モンスターの群がアデル・セメタリーに接近しています!」

「このままではアデル・セメタリーもエスタ周辺に落下する可能性があります!」

「どうしてこんなにいっぺんにいろんな事が起こるんだ〜?

これじゃ、まるで誰かが仕組んだみたいじゃねえか!・・・あん?・・・仕組んだ?」

彼らの会話がマイクを通じて伝わってくる。

スコールは、このことが誰によって仕組まれたか大体の予想がついていた。

恐らくはそう。

「(・・・・魔女アルティミシア。)」

そんなことを考えているうちにも、はあっという間に宇宙に消えていってしまう。

追い駆けようにも、ドッグの入り口が塞がれてしまいこれ以上先に勧めないのだ。

その時、ふと頭の中に声がした。





―――――スコール、ごめんな。・・・抵抗したいけど、どうやら出来そうにない・・・。





スコールはハッとした。

その声は、間違いなくのもので。

もしやは、意識があるのだろうか。を操っているのは十中八九アルティミシアだろう。

だが、アルティミシアに操られながらも・・・は意識を保っているのだろうか?

「(!いるのか?っ!!)」

呼びかけてみるが、声はもうしなかった。

ドッグの入り口は閉じられている。戻るしかない。

スコールは舌打ちをし、一旦施設へと引き返した。




施設に戻ると、先程すれ違った男達が何やらやり取りをしていた。

「このままじゃここも危ないです。ルナサイドベースを放棄しましょう!」

「脱出します! 帰還用ポッドヘ急いで!」

「俺は後でいいって言ってんだろ!」

必死に帰還用ポッドへ向かわせようとする者達。それを拒否する男。

だが、拒否し続けることは出来なかった。

「カッコつけないで早く!」

補佐官の二人は、男の足を同時に引っ張った。

たまらず男はその場に間抜けな姿でぶっ倒れ、それでも最後の力を振り絞ってスコールに言う。

「のわぁ! そこのお前! エルオーネを守れ! 任せた!くわぁ!」

男はそう告げると、補佐官にずるずると引っ張られながら帰還用ポッドへ向かって行った。

スコールはとりあえず制御室へ戻ることにした。

エルオーネとリノアがいるのだ。今の状況をどうにかしなければならない。


制御室に戻ると、皆が叫び声を上げていた。

モニターには月の様子とアデル・セメタリーの様子が映し出されている。

「あたしの知ってるじゃない!」

「危険よ! 月の涙が迫ってきてる。このままだとがモンスターの滝に飲み込まれる!」

「だめだ! アデル・セメタリーの封印が解かれる。」




真っ暗闇の宇宙に漂う

何かに操られて、魔女アデルが封印されているアデル・セメタリーに向かっていく。

スコールもリノアもエルオーネも、ピエットも。

皆、見ていることしか出来なかった。

がアデル・セメタリーの封印を解き、アデル・セメタリーが月の涙に飲み込まれ、

その衝撃で宇宙空間へ放り出されるのを。

ーーーーっ!」

スコールは叫んだ。急がないと、を見失ってしまう。もう会えなくなってしまう。

けれど、自分達も逃げ出さなければならない。

とりあえず脱出するため、スコール達は駆け出した。

「俺を・・・頼む、俺をの中に。」

走りながらスコールはエルオーネに言った。エルオーネは俯く。

「あなたをきちんと送れるかどうか・・・・自信がないの!」




月の涙はアデルを飲み込んだまま大気圏へと突入する。

そしてエスタにあるティアーズ・ポイントに向かい、その上空に停まっている

ルナティック・パンドラ目掛けてモンスター達が降り注いだ。

そしてアデルも、ルナティック・パンドラに吸い込まれていった。




・・・あのまま死んじゃうの?」

脱出ポッドに乗り込みながら、リノアがぽつりと言った。

それにピエットが答える。

「あの宇宙服生命維持装置は20分が限度。

予備タンクを使ってもプラス5分がいいところだろう。

・・・残念だが運命と思うしかないだろう。」

そんな残酷な言葉も、今のスコールには関係ない。

スコールはエルオーネに懇願した。

「エルオーネ! お願いだ。俺は自分でこんなに考えて

何かをしたいと思った事初めてなんだ。俺を・・・俺をに!」

エルオーネはスコールの言葉を聞き、しばらく考えて静かに頷いた。

「わかった。でも上手くいかないかもしれない・・・それでもいい?」

スコールは頷いた。心なんて決まっている。

少しでも希望があるのなら、それに縋りたい。



スコールはポッドに入り、そのままポッドはルナサイドベースから脱出した。

ルナサイドベースは無惨にも月の涙に飲み込まれて破壊されていく。

その脱出の最中、エルオーネはスコールをに送り始めた。

スコールの意識は徐々に失われていく・・・・。




「兄貴、あんた一体何考えているんだ。」

辺りは、一面白。白い空間に、と・・・の兄、が立っていた。

もしやこれは、の夢の中なのだろうか?

それとも、の頭の中に話しかけてきたときの光景だろうか。

は口を開く。

「俺はアルティミシアとともにある。そして、もそうあるべきだ。」

「俺はアルティミシアになんて屈しない。」

はっきりと答えるに、は鼻で笑った。

「俺は・・・もう“そちら側”には戻れない。」

「あんた何言ってるんだ?」

「俺はもう・・・“魔女の騎士”だからな。とは交わることが出来ない。」

その言葉を聞き、はしばしの沈黙の後クスと笑って顔を手で覆った。

それから、思い切り兄に向かって叫ぶ。

「はっ・・・それが兄貴の出した答えかよ!!!」

は、泣いていた。

何故泣いているのかはわからない。けれど、泣いていた。




そこで、一度辺りが暗くなり、また新しい光景が映し出された。




「(ここは・・・あの時の・・・?)」

それはガルバディア・ガーデンで魔女イデアを倒した直後である。

倒れているサイファーとに、が操られているかのように歩み寄り

サイファーとを抱え起こし、顔を近づける。

「(・・・これはじゃない!)」

その時サイファーとに対しての口から出た言葉は、

とは全く違う声だった。


『忠実なる魔女の騎士、サイファーよ。魔女は生きている・・・魔女は希望する。』


「(アルティミシア!?未来の魔女がの中に!?イデアから移ってきた?はどこだ!)」


『海底に眠ると伝えられしルナティック・パンドラを捜し出せ。

さすれば魔女は再びお前達に夢を見せるだろう。』


「(! どこにいる? 答えろ!)」


『仰せの通りに、アルティミシア様。』


とサイファーがそう口にしながら、立ち上がり、その場を去っていく。

スコールの目に入ってきたのは、の後ろに立つ魔女の姿だった。

あれこそが、未来の魔女アルティミシア。

そして、の声が聞こえてきた。

「(・・・スコール・・・ごめん、俺・・・。)」

そこで、は血を吐いて倒れた。






ハッと目覚めるスコール。

ッ・・・!」

エルオーネは今ので力を使い果たしたのか、ポッドの中で倒れ込んだ。

スコールは慌ててエルオーネに近寄る。

エルオーネは細い声で、言った。

に何が起こったのか・・・わかった?過去は・・・変えられた?」

「駄目だった・・・俺に出来るのは、今、あそこにいるを助ける事だけなんだな?」

逞しいスコールの言葉に、エルオーネは驚いたように顔を上げ、優しく微笑んだ。

「いつの間にこんなに逞しくなったのかな・・・びっくりしたよ。

を安心させてあげなさい。きっと心は通じるから。

行くわよ、スコール。限りなく今に近い過去へ・・・未来に一番近い・・・今へ・・・」



エルオーネは、スコールを今現在のへと送り込んだ。





漆黒の闇の中、宇宙をぽつんと漂うの姿。

そして、の消えかけている意識の中で、残酷で絶望的なことが告げられる。

『生命維持装置残量15秒。』

このまま、宇宙の塵となってしまうのだろうか。

は苦笑した。

「(馬鹿みたいだな・・・俺。ヘマやって・・・スコール達に迷惑かけて・・・。

・・・俺、生きられるのか・・・?でも、どうやって?

自分ではどうすることも出来ない。これじゃ、兄貴に馬鹿にされんの当たり前だな・・・。)」

『残量0。』

残酷な声が聞こえる。は諦めともとれる溜息をつき、目を閉じた。

「(もう駄目・・・なのか。俺・・・。)」

『生命維持 完・全・停・止』

コンピューターの声が聞こえて、今まで送られてきていた酸素が止まる。

内部の酸素が少なくなってきているのが手に取るようにわかる。

だんだんと、息苦しくなってきているのだから。

「(・・・俺、スコールに・・・皆に、謝ることも出来ないんだな・・・)」


―――――駄目だ・・・諦めちゃ、駄目だ。


どこからか声が聞こえるような気もするが、それはにとって

走馬灯のようなものでしかなかった。

「(俺はこのまま・・・・宇宙の塵となって・・・・)」


―――――駄目だ、!!


息苦しさが増してくる。呼吸も満足に出来なくて、顔色も真っ青になっていく。

すぐ隣に“死”を感じて、はぐっと手を握った。

今まで何度も“死”を感じたことはある。だが、こんなに強い“死”は初めてだ。

これが本当の“死”。こんなに残酷なものだとは、思いもしなかった。


―――――・・・思い出せ・・・お・・・もい・・・だせ。


は体の力をふっと抜き、薄く目を開けて宇宙を見つめた。

輝く星々。地球から夜空を見上げるのとでは、全然違う。

最期を、こんな美しいところで迎えられるのなら、それでもいいか。

そんなことを考えて、はもう一度目を閉じる。

だが、その時ズボンのポケットに小さな物質感を感じて、は目を開けた。

今ポケットに入っている、小さなもの。

は大きく目を見開いた。

「(スコールの・・・・指、輪・・・・・?)」

自然と、涙が浮かんできた。どうして泣いてしまったのかはわからない。

けれど、スコールはこんなに近くにいてくれたのだと思った。

「(まだ頑張れる)」

は腕を必死に動かし、胸元にある予備タンクのスイッチを入れた。

「(まだ・・・死ぬわけにはいかない)」

新鮮な空気がヘルメットの内部に入ってきて、息苦しいのが和らいだ。

目の前に希望が見えてきた。そして、スコールが近くにいるような気がして来た。

は微笑む。

「(まだ・・・死なないよ、スコール・・・)」






スコールはハッと目を開ける。そこは、脱出ポッドの中だった。

もう大丈夫だ。はまだ頑張ってくれる。

スコールは立ち上がった。

のところに行く。」

「私の力なんて必要なかったね。」

エルオーネがやわらかく笑って言った。スコールは首を横に振る。

「ありがとう、お姉ちゃん。」

ピエットが驚いた様子でスコールを見つめている。

「馬鹿な! どうやって戻るつもりだ? 結局パック噴射の燃料も尽き、

生命維持装置も切れて2人とも死ぬのがオチだぞ。」

けれど、このまま退くわけにはいかない。

もう、心に決めているのだから。

リノアは、スコールと目が合うと叫んだ。

「お願いっ・・・!絶対に、と二人で戻ってきて!」

「約束する。」

スコールは頷き、宇宙服を身につけ、脱出ポッドを飛び出した。




目の前に広がる無限の宇宙。このどこかに、がいる。

スコールは目をこらしての姿を探した。

「(・・・どこだ・・・どこにいるんだ?正面に回って・・・捕まえなくては・・・)」

ふと、スコールは目を止めた。

遥か向こうに白い影が見える。あれは小さな星ではない。

だ。がゆっくりと流されている。

スコールは必死で追い駆けた。絶対に逃しはしない。この腕に捕まえると心で叫んで。



あと少し。



スコールは手を伸ばし、の腕を静かに掴んだ。

がゆっくりと振り返る。

スコールはをぐいっと引き寄せ、その腕をしっかりと自分の腕に絡ませた。

「・・・・サンキュ・・・スコール・・・。」

マイクを通じて、聞きたかったの声が聞こえてくる。

不意に涙が出そうになった。

ずっと聞きたかったの声。ずっと見たかったの笑顔。

それが、今自分の目の前にある。

やっと、再会出来た。

「スコールの声・・・聞こえた。」

「何も言うな・・・」

「俺達助かる?」

「俺が助ける。」

そうは言うけれど、スコールには何の術もない。

燃料はもうない。酸素も残り少ない。

このまま宇宙の漂流者となるか、重力に引っ張られて燃えカスとなるか。

自分の無力が悔しくて、スコールは唇を噛んだ。

せっかくと再開したというのに、このまま漂流してしまうのか。


その時、2人の目に不思議な物体が映った。それは真っ赤に塗られた飛空艇である。

が呟いた。

「あれ・・・何かの資料で見たことある。多分ラグナロクだ・・・。どうしてこんなとこに。」

、捕まってろよ。」

スコールはを抱え、その飛空挺に近付いた。

中に入ることは出来そうだ。スコールはとともに、飛空挺の中へと入った。





「(空気は・・・あるな。・・・OKか?)」

飛空挺内部には、充分な空気があった。二人だけなのだから、空気は充分過ぎるほどだ。

スコール達は宇宙服を脱ぎ、ようやく生きていることを実感した。

あの広い宇宙に放り出されたときにはどうなるかと思ったが、

こうしてまた二人で顔を合わせることが出来た。

スコールはを見る。はスコールの視線に気付くと、優しく微笑んだ。

何だか、非常に恥ずかしい気がするのは何故だろう。

ずっと会いたかったのに、こうして目の前にいるのを見るとどうしたらいいのかわからない。

はそんなスコールの様子を見て、クスリと笑う。

はスコールに歩み寄ると、その首に手を回して、ぎゅっと抱き付いた。

突然のの行動にスコールは驚き、顔を瞬時に赤くする。

「(な、何だよ・・・)」

「ありがとう、スコール。また、助けてもらった。すごく・・・すごく、感謝してる。」

の声。ずっと聞きたかったの声が、のぬくもりが、こんなにも近くにある。

「いいんだ、別に。そうしたかっただけだ。」

本当に、そうしたいと思ったから。を助けたい、にもう一度会いたい。

そう思って、そうしなければおかしくなりそうなほどに苦しかったから。

スコールは、そっとの背中に手を回した。

そして、の存在を確かめるように、強く・・・強く抱き締める。

「・・・捕まえた。」

「ああ。・・・捕まえられた。」

「もう、逃がさないぞ。」

「わかってる。・・・俺だって、逃げようなんて思わない。」

やっと、会えたのだから。やっと、交わることが出来たのだから。

今、自分達は生きている。

「帰ろう。皆のところへ。まだ終わりじゃない。もっと生きよう。」

スコールは言い、は頷いた。

ゆっくりと体を離し、笑顔でスコールを見つめる。

「過去形には・・・されたくない?」

「そういう事だ。」

そう言って、二人でクスクスと笑った。





やっと、会えた。やっと、触れられた。

スコールはの手をしっかりと握る。

も、強く握り返した。




帰ろう。俺達の星へ。









<続く>

=コメント=
宇宙編の前編が終わりです。
次回やっとあのイベントです。楽しみです。
も戻ってきましたし・・・一安心です。
でも、この話かなり長かったです・・・;;
これでも大分文章削ったんですけどね、無理でした。

漂流するイベントのところですが、ここのセリフは大分リノアと変えてあります。
リノアはとにかく「生きたい。でも生きられないかもしれない」という強い思いを持ってますよね。
でもはそんなこと結局はどうでもよくて、
そんなことよりも「スコールに謝りたい、スコールにもう一度会いたい」という
強い思いを持っています。
は実際には自分の命なんて大切には思ってなくて、自分よりも人が大事という奴なんです。
だから、「生きたい」とは思ってますが、「絶対に生きたい」ではなく、
「生きられたらいいのになぁ」程度にしか思ってません。
自分の命なんて結局はどうでもいいんでしょう(笑)
けれど、「スコールに会う」ためには生きなくてはならない。
そのためには、自分の命を守らなくてはならない。
その繋がりが、今回を生かした最大のキーワードとなってます。
リノアとは違うところを見せたかったのですが、私の文才ではそれも難しいようです・・・;

次回はとうとうあのイベント。
スコールに自分が魔女だと告げるにご期待ください。 [PR]動画