俺は・・・・
俺は、本当の魔女になってしまったのか・・・。
What is your hope ?
スコールとは、手を繋いでガルバディア・ガーデンの裏口から中に侵入した。
無力を感じた。けれど、スコールにはがいた。
恐怖を感じた。けれど、にはスコールがいた。
支えてくれる仲間がいるというのは、何故これほどまでに安心出来るのだろう。
大切な相手を想うだけで、どうしてこれほどまでに安堵出来るのだろう。
スコールはきゅっと手に力を入れ、強くの手を握り締めた。
それに反応して、がスコールを見つめる。
優しいスコール。頼れるスコール。そして強く、弱くて脆いスコール。
そんなスコールを見つめて、はふっと笑みを浮かべ、スコールの手を握り返した。
裏口から入ると、そこには先陣を切って突入した仲間達が待っていた。
ゼル、セルフィ、キスティス、アーヴァイン、そしてリノア。
全員がの無事な姿を見ると、目を見開いて安心したように微笑んだ。
「!」
最初に声を上げたのはアーヴァインだった。
アーヴァインはの両肩を掴み、不安そうな瞳で見つめる。
「、ケガしてない?ちゃんと生きてる?無事??」
心底心配そうに尋ねるアーヴァインに、はやわらかく笑みを浮かべて答えた。
「平気。スコールが治してくれた。ワリィな、心配かけてさ。」
アーヴァインはの言葉を聞くと、ふっと安心したように深く溜息をついた。
それから、くにゃりと脱力してその場に座り込む。
余程心配したのだろう。そんな気持ちが、素直に嬉しく思える。
「よかったよぉ、〜!!」
「ごめんな。俺も、一緒に戦うから。」
今度はセルフィが抱き付いてきた。
涙を浮かべているセルフィは、そのままの肩に顔を埋める。
うわーん、と声を上げるセルフィの頭を、は優しく撫でた。
可愛いなぁ。こんなときに思うことではないのに、可愛いなぁ。
セルフィがから離れると、今度はゼルとキスティスに頭を叩かれた。
「イテッ!」
ぽかりと叩かれた頭をさすりながら、はゼルとキスティスを見上げる。
ゼルは眉根を寄せてこちらを見ているし、キスティスは腕を組んでいる。
「エート・・・。」
「こんの馬鹿っ!!俺達がどれだけ心配したと思ってんだよ!!」
が口を開きかけたとき、ゼルが叫んだ。
はふっと目を見張り、ゼルとキスティスを見つめる。
「一人で敵に突っ込んでいく人がどこにいるの!?
相手は全員訓練を受けたエリート兵なのよ!?それなのにっ・・・!」
その先の言葉まで言えずに、キスティスは口を押さえる。
無事なの姿を見て、二人とも安心したようだ。
安心し過ぎたせいで、怒りがこみ上げたのだろう。
心底心配してくれたのだ。本当に、が無事なのか不安で心配してくれたのだ。
きっと、にもしものことがあったら、と考えたら、恐怖さえ感じただろう。
不安で。が無事かどうか、不安で。
ずっと落ち着けなかったに違いない。
はふっと微笑み、そのままゼルとキスティスに抱き付いた。
突然のことにゼルもキスティスも目を丸くさせ、自分達に抱き付いてきたを見つめている。
「・・・・ありがとう。」
こんな自分のために、心配をしてくれる人達がいる。仲間がいる。
嬉し過ぎるくらいだ。自分には、勿体ないほど素晴らしい仲間達。
ふとがゼルとキスティスから離れ顔を上げると、泣きそうな表情をしたリノアと目が合った。
「心配かけて、ごめんな。」
言うと、リノアはフラフラと歩み寄ってきた。
頼りない足で、それでも一歩一歩確実にに近寄る。
「ケガ・・・してない、の?」
「したけど、スコールが治してくれた。」
「・・・生きてる、の・・・?」
「生きてるよ。ここに。」
リノアの手を取り、それを自分の頬に押し当てる。生きてるぬくもりを感じさせるために。
リノアはの頬に手が触れると、その瞬間にふわりと微笑んだ。
「・・・無事なんだね。」
「ああ。」
スコールは、の肩を軽く叩き、仲間達を一度見回してから口を開いた。
「この奥に魔女がいるはずだ。」
スコールが見つめるのはガーデンの奥へと続く扉。
全員その扉を見つめ、目を細めた。
これで終わりにするために。これで最後にするために。
「(今更迷ってないよな?)」
スコールは自分に尋ね、それから言う。
「この先にいるのは『敵』だ。『敵』の名前なんか忘れてしまえ。
『敵』と自分の関係とか・・・『敵』の事情とか考えるのはやめろ。
そういう事を考えながら戦えるほど・・・少なくとも俺は強くない。
『敵』は戦う事を選んだから俺達の『敵』になった。俺達も戦う事を選んだ。
選択肢は多くなかった、いや・・・多くなかったと思いたい。」
そこまで言って、スコールは自分の気持ちに気付く。
もしかしたら、迷っているのは自分かもしれない、と。
「・・・ここまで来たんだ。俺の話なんかいいよな?」
なんだか照れ臭くなってそう言うと、がやわらかい微笑みを浮かべて言った。
「聞きたい。スコールが考えてる事、知りたいんだ。」
「終わってからにしよう。聞きたかったら・・・生き残れ。」
生き残って、皆でまた笑い合うために。
「行こう。」
スコールのはっきりとした言葉を胸に、SeeD達は最初の一歩を歩み出した。
最後の戦いへの、第一歩を。
スコール達はの案内でガーデンの奥へと進んだ。
ガーデン内はひっそりと静まり返っていたが、モンスターの巣窟のようになっていた。
ガーデン生徒は既に避難した後のようで、残っていたのは数人だけだった。
残っていた生徒の中には、の知り合いやのファンもおり、
皆の無事を喜んでくれた。
「、どうしてこんなことになっちまったんだろうな・・・。
俺、お前と敵対したくねぇよ・・・。」
「心配すんな。こんな滅茶苦茶な戦い、これで終わりにするんだ。」
「様、きっとガルバディア・ガーデンも元に戻るよね?」
「当たり前だろ?また皆で騒ごうぜ。皆で騒いだあの日・・・すげぇ楽しかったじゃねぇか。」
男子生徒も女子生徒も、の言葉を聞くと安心したように微笑んだ。
「さぁ、早くここから逃げるんだ。ここは俺達がなんとかする。」
二人は頷くと、先に進むためのカードキーをに手渡してガーデンから避難して行った。
それを見届けてから、スコール達は更に奥へ進む。
途中で見慣れた二人と出会った。
「風神・・・。雷神・・・。」
二人ともスコール達の姿を見ると、目を細めた。
少し悔しそうで、少し哀しそうな表情で。
「・・・疲労。」
「早く行けだもんよ。・・・終わらせるもんよ。」
二人も、早くこんな戦いは終わらせたいと思っていたのだ。
二人の疲労もピークに達しているのだろう。あからさまに疲れた様子が見える。
「・・・依頼。」
風神が言った。
「・・・サイファーの事頼むもんよ。もう、訳わからんもんよ。
・・・・元のサイファーがいいもんよ。」
雷神が風神の言葉を代弁して言う。
二人が慕うサイファーなら、きっともっと優しくて頼り甲斐のあるヤツだったのだろう。
それが今はどうだ?魔女というものに囚われ、周りを見ることすらしない。
あの頃の、優しい頃のサイファーに戻って欲しい。
そんな二人の願い。
「わかった。」
スコール達は頷き、風神に言われた道を進んだ。
魔女の元に辿り着く最短の道だったようで、スコール達はガルバディア・ガーデンのホールへ出た。
魔女の強い気配を感じる。
もう少しで、魔女との対面だ。
「・・・覚悟はいいな?」
スコールは立ち止まり、仲間達に尋ねる。
答えはもう決まっている。今更引き返すヤツなんて、いやしない。
全員は自分達のリーダーを見つめ、しっかりと頷いた。
その決意をスコールも受け止め、ひとつ頷く。
「行くぞ。」
スコール達は意を決して、魔女の部屋への扉を開けた。
薄暗い魔女の部屋には、サイファーと、そして魔女イデアが待ち構えていた。
は興味なさそうに腕を組んで壁にもたれ掛かっているが、
サイファーは口元に不敵な笑みを浮かべている。
「何だよ、久し振りに母校に行こうと思ってたのによ。」
サイファーが言った。
バラム・ガーデンのことを、母校だなんて思っていないくせに。
スコール達の決意を、覚悟を、何も知らないくせに。
「黙れ。」
スコールが怒りを押さえた声で言った。
それを面白がるように、サイファーは続ける。
「お前、ママ先生を倒しに来たのか?ガキの頃の恩は忘れたか?」
スコールは答えない。もう、イデアのことをママ先生だなんて思っていない。
サイファーはリノアを見つめ、言う。
「リノア、お前、俺と戦えるのか?1年前はよ・・・」
「やめて!」
1年前に何があったかは知らないが、リノアの目に迷いはなかった。
「キスティス先生。俺は可愛い教え子だろ?」
「そんな事忘れたわ。」
さも興味なさそうにキスティスは答える。
そのキスティスの様子につまらなそうに舌打ちをし、サイファーはゼルを見た。
「よう、チキン野郎。お前とはいろいろあったよな?」
「おう! 決着つけてやる!」
ニヤリと笑うサイファーの表情からは、何を考えているか読み取れない。
サイファーは、次にアーヴァインの方を向いた。
「そこのお前、このガーデンの生徒だろ?いる場所、間違ってるんじゃねえのか?」
「こっち側が気に入ってるんだよ〜」
皆、仲間がいるから。
「セルフィ・・・だったよな。あんまり話出来なくて残念だよな。」
「べっつに〜」
セルフィは頬を膨らませ、言った。
サイファーのことなんて、なんとも思っていないのだから。
最後に、サイファーはを見つめてクスリと笑った。
「お前・・・自分の兄貴と戦う覚悟は出来てんのかよ?今更泣いても無駄なんだぜ?」
「そんな覚悟、とうにしてる。俺の気持ちも、兄貴の気持ちも決まってるさ。」
はチラリとを見つめて答えた。
だが、そんな答えにさえサイファーは笑みを浮かべている。
「変だと思わないのかよ、今自分がいる場所に。お前、本来なら俺達側だろ?
から聞いたぜ、お前本当は・・・」
「言うな!!」
は叫ぶ。その声に、驚いたようにスコール達はを見つめる。
いや、リノアだけは困惑した表情を浮かべている。
・・・今は、まだ知られたくなかった。
まだ、スコール達の“仲間”でいたいと思った。
「・・・いずれちゃんとそのことは話すつもりだ。・・・今は言うな。」
静かに言うと、サイファーは満足そうに笑った。
人が苦しむ姿を見て、喜ぶ奴なんだ。こいつは。
「クク・・・まだ今は知られたくないって?スコール達の決心を鈍らせたくないってか?」
「・・・それもある。けど、もう少しだけ・・・“仲間”でいたいと思うのは悪いことか?」
自分が魔女だとバレてしまえば、きっとスコール達の決心を鈍らせることになる。
そしてそれ以上に、今の関係が崩れてしまうのが嫌だった。
あと少し。スコール達の“今”の敵を倒すその瞬間までは、“仲間”でいたい。
スコールは一歩前に出て、サイファーに言い放った。
「あんたは何者でもない。あんたは、ただの『敵』だ。
あんたの言葉は届かない。あんた、俺達にとってモンスターと同じだ。」
その言葉に、サイファーは鼻を鳴らした。
「モンスターと同じだあ? 俺は魔女イデアの騎士だ。
群れて襲いかかるモンスター。そりゃ、お前達だ。」
確かに、魔女側は三人、七人。
卑怯と言うならそれでもいい。自分達は、ここで終わらせなければならないのだ。
この悲し過ぎる戦いを。この意味のない戦いを。
サイファー、どうしてわかってくれない?どうして、理解しようとしない?
「さぁて、モンスター共を退治するか! さあ、かかってこい、雑魚共。
決定的な実力差を、教えてやるぜ!スコール、とどめを刺してやる。
『魔女の騎士』の力、とくと味わいな!」
そう言いながら、サイファーが襲い掛かってきた。
スコールはサイファーの攻撃をガンブレードで受け、唇を噛み締める。
強い。
明らかに以前より力を増している。
が慌ててスコールの元へ駆け寄ろうとしたとき、それをが遮った。
目の前に立ち、自分を見下ろす。それだけで、威圧感が気持ち悪い。
「そこ、どけよっ。」
が負けじと叫ぶと、は無表情のまま鼻を鳴らした。
「お前は俺達側じゃないのか?お前は俺達の仲間のはずだ。」
その言葉に、は言葉を詰まらせる。
そうかもしれない。自分は、達魔女サイドの人間なのかもしれない。
いや、事実はそうなのだろう。何故なら、自分は魔女なのだから。
魔女の自分が、魔女と敵対すること自体がおかしいのだと思う。
わかっている。矛盾していることくらい。
けれど。
「俺には、あいつらを裏切ることなんて出来ない。
例え、俺の存在がスコール達を苦しめることになるとしても。」
絶対に。裏切りたくなどない。裏切れるはずなどないのだから。
もう、自分の仲間はスコール達なのだから。
自分の仲間は、達ではない。スコール達だ。
「・・・その気持ち、もう変えられないというんだな。」
「ああ。悪いけど・・・兄貴、もう俺はあんたと道を違えたんだ。
あんたが俺を見下し、俺の前から姿を消したあの日から。
俺の気持ちは変わらない。ましてや、変えられるもんじゃない。」
それに、気持ちを変えようとも思わないから。
それだけ、自分の気持ちは固く決まっているから。
後悔なんてしない。したくない。だから、自分の気持ちに正直に走る。
今のが正直に進めるのは、スコール達のおかげだ。
スコール達がいてくれたから、真っ直ぐに、正直に走ることが出来る。
「俺は、あんた達に屈しない。」
のはっきりとした声が、の胸を突き刺した。
もう戻ることのないあの日の幻影。幼き日々。
走馬灯のように頭の中を駆け巡る光景は、見ていて楽しいものではなかったけれど。
「・・・そうか。」
はそう呟き、腰の剣に手をかけた。
そして、低く呟く。
「ならせめて・・・お前のその体、アルティミシアのために開け放してもらおうか。」
「・・・!?」
は自分の耳を疑った。
てっきり、正々堂々と勝負をするものと思っていたのに。
まだ、アルティミシアは自分の体を諦めてはいないということか?
は一歩後退りする。
その時だった。
「クソッ、まだだ!俺は、まだ終わる訳にはいかない。何故だ!何故、お前に勝てない!?」
サイファーの声が響いた。とは弾かれたように振り返る。
そこには、激しく肩を上下させるスコールと、床に倒れたサイファーの姿があった。
それだけで勝敗の結果はわかる。スコールが勝ったのだ。
「スコール・・・!」
が歓喜の声を上げると、は憎々しげに呟いた。
「チッ・・・役立たずが・・・。」
そんなの呟きにはハッと振り向いたが、すぐに魔女イデアを見た。
魔女イデアは、つまらなそうな表情を浮かべたまま床に吸い込まれるように消えた。
驚愕するSeeD達。が叫ぶ。
「大講堂だ!この下は、大講堂に繋がってる!!」
「行くぞ!!」
スコール達は駆け出す。
「お前ら、魔女には敵わないぜ。」
冷たいの囁きが背中に向かってきたが、それに足を止めている余裕はなかった。
スコール達は大講堂に駆け込んだ。
だが、予想とは違い、無人の大講堂は静まり返っている。
魔女の姿がないのだ。しかし、どこからか見つめられているようなプレッシャーを感じる。
「(・・・? 何だ・・・?)」
スコールが天井を見上げた、その瞬間だった。
突如として天井のガラスが割れ、そこから魔女イデアが降りてきたのだ。
その様はまさに優雅で、敵とはいえ美しいとさえ思える姿だった。
魔女イデアはスコールを見つめると、表情のない顔で言った。
「お前が伝説のSeeDだったのか。」
「(意味不明・・・黙れ。)」
突然“伝説のSeeD”などと言われても、わかるはずもない。
スコールは内心でぼやき、魔女を真っ直ぐに見据えた。
「なるほど立派なものだ。お前、充分立派だよ。
・・・立派すぎて目障りだ。ここで消してやろう・・・」
すると、先程倒されたはずのサイファーを抱えたがやって来た。
はサイファーの体をドサリと床に降ろし、薄い笑みを浮かべて魔女を見る。
イデアは不気味に笑い、の顎に手を伸ばした。
「ああ、・・・。私の愛しい・・・。」
そんなイデアを見て、スコールは目を細める。
「(・・・『ママ先生』じゃない。)」
このイデアは、ママ先生ではない。心のどこかで、そうサイレンが鳴っている。
イデアは愛しそうにを見つめた後、キッとスコール達を睨んだ。
「SeeDなぞ消えてしまえ!」
「悪いが俺も魔女の騎士でね。俺がいる限り、イデアには指一本触れさせない。」
は言い、腰の剣をすらりと抜いた。そして、それを構える。
こんなことでは時間の無駄だ。体力だって持つかどうかわからない。
はガンブレードを抜き、を見据えた。
そして、スコールに言う。
「・・・俺があいつの相手をする。スコール達は魔女を。」
その言葉にスコールは目を見開き、の腕を掴んだ。
「馬鹿を言うな!また・・・!」
また、さっきと同じことを繰り返そうと言うのか。
教室に一人で戦いに向かった。そして、それを止められなかったスコール。
また、それと同じことを繰り返そうと言うのか。
「ふざけるな、俺はそんなこと・・・」
「俺に、」
がスコールの言葉を遮る。それに、スコールは言葉を飲んだ。
は強い光を秘めた瞳で、スコールを見つめる。
「・・・俺に、行かせてくれないか。」
頼むから、と。
懇願するような瞳で自分を見つめるに、スコールは言葉を失った。
不意に、掴んでいたの腕を放してしまう。
は、優しく微笑んだだけだった。
「・・・俺とゼル、キスティス、リノアでイデア撃破目標!
アーヴァインとセルフィはの援護!これは命令だ!!」
―――――――了解!!―――――――
SeeDは一斉に駆け出す。
各々の敵に向かい、決意を胸に駆け出す。
ついに、魔女との最終決戦が始まったのだ!
世界を支配しつつある魔女を、これ以上好き勝手にさせる訳にはいかない。
これ以上、世界を哀しませる訳にはいかない。
だから、こんな戦い止めてやる。終わらせてやるんだ、この手で。
はガンブレードでに切り掛かった。
は表情を変えずにそれを受け止め、を見つめている。
「その体、明け渡せ。」
「出来ねぇよ。俺はバラム・ガーデンのSeeDだ!!」
剣を払い、とは距離を取った。
すかさず、アーヴァインがを銃で狙う。セルフィは回復魔法の詠唱を始めた。
を鋭く睨みつけながら、アーヴァインとセルフィは言う。
「あんた、を苦しめるんだろ?そんな奴を、見過ごすわけにはいかないんだよね〜。」
「はあんた達のもんじゃないんだよ〜。あたし達、仲間なんだから!」
アーヴァインの攻撃を避けながら、は軽く体を捻って着地した。
なんと華麗な動きだろう。無駄な動きを全く見せない。
隙すら見当たらない、その動き。
はガンブレードを構え直し、そのまま唸り声を上げてに突っ込んだ。
僅かにが息を漏らす。はそこを見計らい、の体を弾き飛ばした。
「ぐっ!」
の苦しそうな声。しかし、それだけだった。
の体は吹っ飛ぶことなく、すぐに体制を立て直したのだ。
動きだけでなく、頭の回転も速い。
「負けない!俺達は負けない!!」
魔女イデアにも。自分の兄にも。
決して、負けはしない。
「ぅああああっ!!」
はもう一度ガンブレードを振り上げ、に飛びかかった。
は表情を歪めてそれを受け止め、クスリと笑みを浮かべる。
「それが全力か?ならガッカリだな。」
の手から、眩い閃光が放たれる。サンダガだった。
の体が跳ね、壁に強かに打ちつけられる。
「がはっ!!」
「「!!」」
アーヴァインとセルフィの声が重なった。
は痛みを堪えて、震える体で立ち上がる。
横を見れば、スコール達も必死に戦っているのが見える。
自分だけ、甘えてなんかいられない。
「ヘヘ・・・兄貴、俺にはもう一人心強い相棒がいるって知ってるか?」
「・・・何?」
が眉を寄せ、を見つめた。
は震える腕を頭上に持ち上げ、クロスさせる。
そして、叫んだ。
「偉大なる海の龍神よ!今こそ我に従え!!」
「まさか!!」
の顔に、初めて焦りの色が浮かんだ。
「リヴァイアサン!!!」
の叫びに反応し、リヴァイアサンが美しい龍となって姿を現す。
巨大な龍神は、を見つめて僅かに目を細めた。
「海龍・・・!リヴァイアサン・・・!!」
が呟く。圧倒され、声が震えている。
美しい姿に?それとも恐ろしさすら感じるプレッシャーに?
大きな津波が、を襲った。
は腕でダメージを最小に押さえるため防御している。
それでも、それなりにかなりのダメージはあるはずだ。
波が消え、リヴァイアサンもの中へと戻る。
は深く息を吐いて、目の前で防御の形を取ったままのを見つめた。
はゆっくりと腕を解き、俯いてクスクスと笑う。
「・・・クク・・・お前、いつの間に海龍リヴァイアサンなんて従えたんだ・・・?」
フラつく足で床を踏み締める。もう限界なのだろうか。
はその場に倒れ、ぐっと拳を強く握った。
「『魔女の騎士』の俺が、負け・・・る・・・?」
それっきり、は気を失った。
達は荒い息を押さえて顔を見合わせ、小さく頷き合った。
それから、まだ戦っているスコール達に目を向ける。
それは、スコールがイデアにとどめを刺す瞬間だった。
スコールのガンブレードが、イデアを貫く。
「ぅあぁっ!ぁ・・・ああ・・・」
イデアの体からどんどんと力が失われていくのがわかる。
だが、はハッと目を見張った。
魔女の体から、怪しげな煙と光が溢れ出しているのだ。
まずい。
は疲労した体を叱咤し、駆け出した。
「アルティミシア―――――ッ!!!」
「!?」
は手にしていたガンブレードを放り投げ、そのままイデアに飛び付いた。
その瞬間に、の頭の中に声が響く。
―――――やっとその体、私に差し出す気になったか・・・
ハッとしたときには遅かった。
急に頭を鈍器で殴られたような鈍い痛みが走り、は眩暈を覚える。
自分の体なのに、急に自分のものではなくなってしまったような感覚に陥る。
スコール達を見れば、皆体の力を奪われ床に倒れていた。
朦朧とする意識の中、スコールは魔女に飛び付いたの姿を探した。
「(どうなったんだ・・・。・・・・・・身体が。)」
は無事なのか。魔女はどうなったのか。皆生きているのか。
果たして自分達は、勝ったのだろうか。
スコールはハッとして目を見張った。
が、ゆっくりと倒れたサイファーとに歩み寄って行くのだ。
「(・・・)」
そして、はサイファーとの上半身に触れ、その耳元に顔を近付け何かを囁く。
いや、音はしなかったから囁いたように見えただけだが。
その囁きを耳にしたサイファーとは体を起こし、ゆっくりと立ち上がった。
「(・・・?・・・!!)」
何かがおかしい。が、やサイファーに何かを囁いたりするはずがない。
いや、それとも、サイファーが言ったようには魔女サイドの手先だというのか?
そんなこと、信じたくない。自分はを信じると決めたのだ。
だからどこまでも、信じて行きたいのに・・・。
意識が遠くなる中、スコールの目には更に信じられない光景が映った。
激しく咳き込み、血を吐き、倒れ込む。
スコールは目を見開いた。
「(!!)」
その瞬間、突然意識が戻った。
視界ははっきりしているし、意識もはっきりしている。
「? ・・・・・・・?」
セルフィが、心配そうにゆっくりと倒れたに歩み寄って行く。
そのとき、魔女イデアが語りかけてきた。
「スコール、キスティス、セルフィ、アーヴァイン、ゼル。
・・・大きくなりましたね。・・・強くなりましたね。
この日を待っていました。この日を恐れていました。
今日は善き日ですか? 今日は忌まわしき日ですか?
・・・エルオーネは!? 私はエルオーネを守りましたか!?」
今までの感じと違う。『ママ先生』だ。
エルオーネのことはわからない。スコールが頭を振ったとき、セルフィが叫んだ。
悲痛な叫び声に、全員はハッとして振り返る。
「スコール! ・・・が!!」
「(・・・が? がどうしたって?)」
スコールはを見て、目を見開いた。
信じられないと、頭を何度も振った。目も何度もこすった。
けれど、先程見たのは幻ではなかった。
そこには、血を吐いて真っ白な顔で倒れ込んだの姿があった―――――――
<続く>
=コメント=
とうとう魔女戦の終了です。
ここまで長かったですね。
の意識がなくなりました。アルティミシアの支配が始まります。
なんというか・・・今回はとにかく戦闘描写が難しかったです。
全然迫力の出ない文というのは泣けるほどに哀しいですね、ハイ・・・。
サントラを持ってる人は、戦いのシーンはDisk4の9番目、「The Extreme」を聞きながら
読んで下さい。私はそれを聞きながら書きました(笑
次回は・・・宇宙まで行けるでしょうか。行けたら行きたいです。
次回からしばらく“”の登場シーンは少ないかもしれません。
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