戦うんだ。この体が動く限り。






先へ進むんだ。この足で立てる限り。










hat is your hope ?









敵が、来る。

急いでやるべきことをやってしまわなければ、ガルバディア兵が乗り込んでくる。

スコールを始めとしたSeeD達は、ひたすらにガーデン内を走っていた。

敵が乗り込んでくるまで、もう時間は少ない。

急がなければ、行動するのも困難になってくる。

「校庭へ行くぞ!!」

スコールは叫び、とゼルを引き連れて校庭へ向かった。

そこでは、もう既に生徒達が作戦を決めて行動し始めていた。

俊敏な動きに、スコール達は目を丸くする。

「俺達は前衛部隊を援護するぞ!この戦いがきっと最後になる。何が何でも勝利するぜ!」

意気込む生徒達。ここは問題なさそうだ。

スコール達が安心して別の場所へ向かおうとしたとき、セルフィ達がやってきた。

その中には、リノアの姿もある。

「リノア」

リノアは少々不安そうな表情を浮かべていたが、とスコールを見上げて、はっきりと言った。

「私、戦うから。守られるだけじゃ嫌だから戦う。

私にも誰かが守れるなら、戦う。みんなと一緒にいたいから、戦う。」

その言葉に、もう迷いはなかった。

戦いを避ける方法を考えた。けれど、そんな方法は見つからなかった。

どうしても戦わないといけないのかと考えた。

自分は、戦いに見を投じることが出来るのかと考えた。

そして、決めた。スコール達仲間と戦うことを。

覚悟と決意を胸に誓ったリノアの目は、しっかりと光り輝いている。

とスコールは頷き、口元に笑みを浮かべた。

皆で戦う。そして、絶対に勝利を掴むのだ。

「ここが戦場になるなんて最後にしてえよな・・・。」

ゼルが呟く。

その通りだ。こんな悲劇を繰り返さないためにも、この戦いに勝たねばならない。

はセルフィ達に言った。

「ここが外部からの侵入の可能性がある場所。だから重要な守備拠点なんだ。

少しでも生徒達が危険だと思ったら、セルフィ達もここの守備に回ってくれ。

ゼル、校庭攻撃班のリーダーはお前だ。頼んだぞ。」

「了解!!」

ゼルが敬礼をして答えた。

ガルバディア・ガーデンが近付いている。

リノアは少し震える腕で、しっかりと拳を握った。

その時、ブリッジからニーダの放送は流れた。

スコール達は動きを止める。

『スコール!! ブリッジに戻って来てくれ!』

焦った声だ。何かがあったのだろう。

「行くぞ。」

スコールが言い、駆け出した。

もその後を追おうとしたが、ふと立ち止まり、リノアに囁いた。

「気を付けろよ。」

仲間として。大切な、仲間として。

リノアの驚きの表情を背に受けながら、はスコールの後に続いて駆け出した。







ブリッジに行くと、ニーダが悔しそうに唇を噛み締めていた。

ニーダはスコール達の姿に気付くと、前方を指差して叫んだ。

「見ろ!」

スコール達はニーダの傍に寄り、前方を見つめる。

そこには、対峙するガルバディア・ガーデンの姿があるではないか!

確かにもうそろそろ敵が乗り込んで来るころだとは思っていたが、こんなに早いとは。

敵の動きを予測出来なかった悔しさに、スコールとは悔しげに表情を歪める。

だが、こんなに早く行動するとは妙だ。誰が指揮を執っているのだろう。

よく見ると、見覚えのある人影がガルバディア・ガーデンのブリッジに立っている。

サイファーだった。あの皮肉な笑みを浮かべて、こちらを見据えている。

「向こうはサイファーが指揮してるぞ。奴ら、正面から来る気だ!」

「このまま進め。」

スコールが即座に答えた。

ニーダは指示通りに、更に前進を続ける。

ガルバディア・ガーデンでは、バイクに跨った兵士達の前にサイファーが立っている。

そして、サイファーの合図でバイク部隊が発進した。

バイクは発射台から飛び出し、綺麗に弧を描きながらバラム・ガーデンへと突入してくる。

ニーダが叫んだ。

「ダメだ! ぶつかる!」

「右へ!」

スコールが叫び、ニーダは必死に舵を右へと傾ける。

その瞬間、二つのガーデンは大きく激突した。

激しい揺れがガーデンを襲い、ブリッジの三人はよろめく。

スコールは即座にマイクのスイッチを入れ、指示を出した。

『敵ガーデンとすれ違うぞ! 校庭攻撃班! 気を付けてくれ!』

それは、ゼル達に向けた指示だった。

スコールはマイクのスイッチを切り、に向き直った。

「思ったより激しい戦闘になりそうだ。ここからは俺とで分かれて行動しよう。」

力のある者二人が、一緒に行動していたのでは力も半減してしまう。

分かれて、それぞれで指示を出して回った方が効率が良いと考えたのだ。

はその考えに頷いた。それが一番良いだろう。


が頷いたのを見て、スコールは駆け出そうとする。

だが、はふとその腕を掴んで引き止めていた。

驚くスコール。は、眉根を寄せて強くスコールの腕を握った。

そして、反対の手で懐から小さなリングを取り出して、それをスコールに握らせる。

何のつもりだと首を傾げるスコールに、は言った。

「持っててくれ。俺の、大切なものなんだ。」

そのリングは、が今まで何回も利用してきたリングだった。

とおそろいの、ずっと大切にしてきた指輪。

スコールはじっとリングを見つめていたが、小さく頷いてそれをポケットにしまった。

それから、自分も手袋を取り、指輪を外してに手渡す。

ずっしりとした重みが、の手に伝わった。

「持ってろ。その指輪、気に入ってるんだ。無くすなよ。

絶対に、ちゃんと手渡しで俺に返せ。いいな。」

は驚き、スコールを見上げた。スコールは目を細めて、を見つめている。

は頷き、指輪をポケットにしまい込んだ。

「指輪に描かれてる動物・・・なんて名前なんだ?」

「・・・生きてこの戦いをくぐり抜けられたら、再会したその時におしえてやる。」

スコールはするりと手を滑らせ、の手を一度強く握った。

そして、すぐに踵を返して駆け出す。

強く握られた感覚が、に勇気を与える。

どうしてスコールが自分の手を握ってくれたのかはわからない。

けれども、スコールが自分を信頼してくれているということは確かだ。

スコールの背中を見送った後、は決意を新たに駆け出した。





ガーデン内の至るところでガルバディア兵とガーデン生徒が対峙している。

そんな中を駆け抜け、は正門へと向かった。

正門から敵が飛び込んでくるのだ。なんとか食い止めなくてはならない。

正門に行くと、ゼル達やシュウ、スコールの姿もあった。

だが、どうもゼル達の様子が変だ。は急いでゼル達に駆け寄った。

「どうした!?何があったんだ!?」

!」

皆がに気付き、ゼルとセルフィ泣きそうな声で叫んだ。

「リノアが・・・リノアが!」

「校庭から落ちそうになってる!」

「なんだって!?」

は驚愕した。

おかしいと思ったのだ。ゼル達の姿はあるのに、リノアの姿がないことに。

校庭でガルバディア兵に襲われた際、足場をすくわれたのだろう。

スコールが舌打ちしたのが聞こえた。

その時、再びニーダから放送が入った。

『スコール、聞こえるか! 教室が敵に襲われている!

あそこは年少クラスがいるんだ。早く何とかしてやらないと!

ガーデン内の兵の排除も間に合わない!指示を急げ!!』

今度は危機を知らせる連絡だ。

ガルバディア・ガーデンは旋回し、こちらに方向を変えようとしている。

シュウが叫んだ。

「敵!旋回している!!」

「スコール、リノアが!!」

仲間達の叫び。スコールは苛立たしげに言った。

「わかってる!! でも、危険なのはリノアだけじゃない!!」

助けられるのなら助けたい。けれど、それだけの余裕が今の自分達にはない。

どうすればいい。パーティを分けて、それから・・・。

「アーヴァインはシュウ先輩とここで。」

「オ〜ケイ!」

「セルフィとキスティスは俺と来い。教室の方へ行く。

それとゼル、リノアを助ける方法を捜してくれ。絶対助け出すんだ。頼んだぞ!」

「うっしゃぁ〜〜!」

「待ってくれスコール!」

が言った。スコールは振り返り、を見つめる。

「俺が教室の方へ行く。スコール達はガーデン内のガルバディア兵の排除を。」

まさか一人で教室へ行くというのか?

「無謀だ、やめろ!」

「平気だ。俺とリヴァイアサンなら、絶対に切り抜けられる!」

自分とリヴァイアサンは、強い絆で結ばれているのだから。

その絆は、決して破られたりはしない。

「ガーデン内の兵の排除は俺一人じゃ無理だ。けど、教室の生徒の救出なら俺一人でも出来る。

こうした方が、SeeDの有効利用にもなる。」

「しかしっ・・・!」

心配だったのだ。どれだけのガルバディア兵が待ち構えているかわからないというのに。

そんな中に、を一人で向かわせるということが、どれだけ不安か。

しかしは、笑って言った。

「信じろよ。死にゃしないさ。」

もしも死ぬのなら、“魔女”として“SeeD”のスコール達に殺されようと、決めているから。

秘めたる決意を胸に、は微笑んだ。

決して、死にはしないと。

その時、ガーデンが再度激突した!

強い揺れに耐え、は駆け出した。

後ろからスコールの制止の声が聞こえてきたが、止まるわけにはいかなかった。

これは、ガルバディアとの戦いというだけではない。

にとっては、自分自身との戦いでもあるから。






は二階の教室に飛び込んだ。

飛行用の小型兵器に身を包んだ兵士達が、次々と教室に突入してくる。

その兵士達の前には、年少クラスの子供と女子生徒が。

「作戦通り、ガーデンの人間はすべて処理しろ!」

兵士の言葉に、はガンブレードを振り上げて地面を蹴る。

「そんな事はさせねぇよ!!」

叫んで、剣と剣が交わる。

ガルバディア兵はを見つめ、驚いたように目を見開くと憎々しげに呟いた。

「SeeDのガキか・・・」

「もうガキなんて年じゃねぇよ、おっさん。」

は一度兵士達から距離をとった。

兵士の数は、ざっと十名。しかも普通のガルバディア兵ではなく、小型兵器に身を包んだ兵士だ。

通常よりもキツい戦闘になることは目に見えて明らか。

はガンブレードを構えたまま、背中の女子生徒に叫んだ。

「俺がここを食い止める!子供達を安全な場所へ!!」

「はいっ!!」

女子生徒は頷き、子供を連れて教室を出て行った。

それを確認してから、は兵士達の方を見た。

「行くぞ、バラム・ガーデンの犬が!!」

「生憎犬じゃなくて狼なんでね!!」

以前どこかで聞いたような会話を合図に、とガルバディア兵達は衝突した。

襲い掛かって来るガルバディア兵の攻撃を避け、上手く下から攻撃する機会を窺う。

三回攻撃を避けたところで、敵チームに隙が出来た。

―――――今だ。

「はあぁぁっ!!」

は深い唸り声を上げ、ガンブレードを下から兵士の顔面に向かって叩き付けた。

命中。兵士は断末魔の叫びを上げ、その場に崩れ落ちた。

あと九人。なんとかこの場を切り抜けられれば。

リヴァイアサンを召喚したいところだが、九人では敵が多過ぎる。

全体に与えるダメージが下がってしまうだろう。

出来れば、あと四人の兵士を削って五人になったところで召喚したい。

「ガルバディアを舐めるなぁぁ!!」

しまった。

兵士が大きく振り被り、へと武器を叩き付ける。

「ッ!!」

は体をひねって攻撃をかわそうとしたが、兵士の武器はの脇腹に深い傷を負わせた。

赤い血が溢れ出る。焼けるような痛さが脇腹に広がったが、それに構ってる余裕はなかった。

!召喚してください!!』

「リヴァイアサン!?」

リヴァイアサンが叫んだ。だが、今召喚したところで打撃的なダメージは与えられないはず。

しかし、リヴァイアサンは退こうとしなかった。

『私を信じてください!が傷付くのを、黙って見てはいられません!』

は脇腹を押さえ、ぐっと唇を噛んだ。

血が止まらない。早く戦闘を終わらせなければ、自分も危うくなる。

「偉大なる海の龍神よ、今こそ我に従え!!」

は意を決して、両手を頭上でクロスさせる。



「リヴァイアサンッ!!」



大きな波が巻き起こった。

召喚者のでさえも、その波に耐えるのが辛いほどだ。

リヴァイアサンは大きな龍の姿で現れ、キッと兵士達を睨みつけた。

兵士達は息を呑む。

「リ・・・リヴァイアサンだ!!」

「どうして海龍リヴァイアサンをこいつが!?」

―――――我の主を傷付けた罪・・・万死に値する!

リヴァイアサンは兵士達を見下ろし、波を自分の方へと引き寄せた。

そして、一気にその波で兵士達を飲み込む!

「うわぁぁぁぁぁぁっ!!!」

も目を見開いて驚いた。

今まで、こんなにすごい大海嘯を見たことがなかった。

この威力ならば、兵士九人なんてひとたまりもないだろう。

呆気なく、兵士達は息絶えた。

リヴァイアサンはの中へと戻り、はその場に膝をついた。

脇腹の傷が、相当深いようだ。

回復したいところだが、生憎自分は回復魔法をストックしていない。

後でスコール達に回復してもらうしかないだろう。

、無理をしては・・・』

「無理なんて・・・今しないで、いつするんだよ。」

は脇腹の傷を押さえて立ち上がった。

ふらつく足と揺れる視界。それでも、は倒れなかった。

ずっと聞こえていたガーデン内の戦闘音が、ほとんど聞こえなくなった。

なんとか、食い止められたのだろうか。










「どんな感じなの?」

スコールがブリッジに着くなり、カドワキ先生にそう言われた。

ブリッジには、アーヴァインやセルフィ、その他SeeD全員が集まっている。

リノアも、ゼルに救出されてその場に来ていた。

ただ一人、を除いては。

スコールは疲労した表情で答えた。

「第一波、第ニ波は何とか食い止めたと思う。

その代わり、生徒達はボロボロだ。もう一波来たらもう・・・」

「そっちは?」

カドワキ先生はアーヴァインに尋ねた。

アーヴァイン達も、相当疲れているようだ。

「正門部隊も今は何とか食い止めているけど・・・」

「もう、ここまでって事かい?」

溜息混じりにカドワキ先生が尋ねる。

それに、キスティスが答えた。

「あっちのガーデンに乗ってるのはほとんどがプロの兵士みたいね。

こっちは訓練中の生徒ばかり。スコールの言う通り後一回でも攻撃を受けたら・・・」

スコールは唇を噛んだ。

「(守備を固めた俺の作戦が間違っていたのか・・・最初から攻撃していれば・・・)」

もしかしたら、現状は変わっていたのだろうか。

もしかしたら、もっと有利に事を進めることが出来ていたのだろうか。

けれど、過去はもう変えられない。

カドワキ先生はスコールを見つめ、口を開いた。

「あっちにはサイファーがいるんだろ? あんた、あの子から逃げる訳にはいかないんだろ?

カッコつけるんなら今しかないよ! ここまで来て何考えてるんだい?

逃げるんじゃないだろうね?」

「そんな事はしない。こっちから攻め込めばチャンスはある。

問題は、どうやって向こうのガーデンに乗り込むかだ。」

アーヴァインは少し考えてから言った。

「このガーデンをぶつけてみるか?そうすれば乗り移れるだろう?

あっちのガーデンの操縦士がやってるんだ。ニーダに出来ない訳ないさ。」

「任せてくれ。絶対にヘマはしない。」

「決まりだな。」

スコールは頷いた。

「俺はガルバディアガーデンの中は詳しいから、皆を案内する。」

アーヴァインが言った。

「私達で道を切り開いておく。スコールが来たら、最後の攻撃よ。」

キスティスが言った。

皆の気持ちは嬉しい。皆で戦いたいと思っている。

けれど。

がどうなったかわからないんだ・・・。」

「なんですって!?」

キスティスが叫んだ。

皆がその場を見回して、目を見開く。

がいない。いつもスコールの隣にいる、の姿がない。

そうだ。彼女は、教室の生徒を助けに行ったまま、まだ戻っていない。

全員の顔に、不安の色が浮かぶ。

その時、カドワキ先生が口を開いた。

「スコール、あんたここにもう一仕事残ってるよ。」

スコールは顔を上げる。カドワキ先生は、マイクを指差す。

「生徒達に勇気をあげなさい。あんたは皆の指揮官なんだからね。」

「あんた、結構皆に慕われてるんだぞ。だって、どこかで聞くかもしれないだろ?」

ニーダにも言われ、スコールは黙ってマイクを見つめた。

マイクで、に今の自分の気持ちを伝えられたら。

今絶望に包まれてる生徒達を、少しでも励ますことが出来たら。

スコールは小さく頷き、放送のスイッチを静かにONにした。



『・・・こちらはスコールだ。・・・皆、怪我の具合はどうだ?』



マイクを通して、ガーデン内にスコールの声が響いた。

心地の良いテノールヴォイスが、生徒達の耳に届く。



『戦いに疲れて立っているのも辛いかもしれない・・・。

・・・でも、聞いてくれ。勝利のチャンスのために力を貸してくれ。』



この戦いは、絶対に勝利しなくてはならないから。

勝利しないと、更に先に進めないから。



『俺達はこれから最後の戦いに向かう。

敵の攻撃部隊がやってくる前にこっちから敵陣に乗り込む。

そのために、このガーデンを向こうにぶつける事にしたんだ。

でかい衝撃に耐えられる準備をしといてくれ。周りに年少クラスの子がいたらよろしく頼む。

道が開いたらアーヴァイン、キスティス、ゼル、セルフィが先発隊として行動する。

まだ力の残っている生徒は先発隊をサポートして欲しい。』




決して、皆に希望を失って欲しくないから。

この戦いで、真の強さを知って欲しいから。





『・・・SeeDは魔女を倒すために作られたそうだ。

ガーデンはSeeDを育てるために作られた。

だから、これはガーデンの本当の戦いなんだ。』





ガーデンの本当の戦い。

それは、泣きたくなるほど過酷なものだけれど。





『キツくて、嫌になるような戦いだ。・・・でも、後悔はしたくない。

みんなにも悔いを残して欲しくはない!』





だから。





『だから、皆の残っている力、全部、俺に貸してくれ!』





その言葉が、生徒達の心に染み渡った。

この指揮官に付いて来て良かった。ガーデン内の生徒全員が、そう思った。

まだ戦いは終わりじゃない。まだ、これからが本当の始まりなのだ。




スコールはマイクの電源を切ろうとして、ふとその手を止めた。

周りで見ていたカドワキ先生やSeeD達は、どうしたのかと首を傾げる。

スコールは、マイクの電源を切らずに・・・再び、口を開いた。






『それから・・・・・・・。今、どこにいるんだ?

怪我をしていないか?・・・くたばってはいないか?

皆、お前がブリッジに戻ってくるのを待っている。

最後の戦いには、俺達SeeD全員で乗り込みたいと思っている。

・・・お前がいないと、始まらない。

お前がいないと、俺はちゃんとした指示を出すことが出来ない・・・。

指輪の動物の名前、おしえるって約束しただろ?

俺に、約束を守らせろ。・・・戻ってきてくれ。

・・・俺は、お前を待ってる。だから・・・戻ってきてくれ・・・。』







は教室の壁に寄りかかって座り込んでいた。

そして、スコールの放送を聞いてクスリと微笑む。


「・・・ばかやろー。言われなくとも、戻ってやるってんだよ・・・。」


脇腹が熱い。焼けるように熱くて、痛い。

けれど、今の放送を聞いて、へばってはいられなかった。

は棒のように固くなった足を叱咤し、必死に体を立ち上がらせた。

そして、足を引き摺りながら、ゆっくりとブリッジへ向かう。

歩くたびに額から嫌な汗が滲み出た。

脇腹の痛みが、鼓動とシンクロして、気を抜いたらその場に倒れてしまいそうで。

それでも、は気を抜かずに歩いた。

震える手足。壊れそうなほどに鳴る心臓。

荒い呼吸。揺らぐ視界。

けれど、絶対に倒れるものか。

ここで倒れれば、自分に負ける。スコールだって、呆れるに違いない。

負けるものか。倒れるものか。








スコールはマイクの電源をOFFにし、深く息をついた。

は、今の放送を聞いてくれただろうか。

・・・ちゃんと、戻ってきてくれるだろうか。

ぽんと肩を叩かれ、スコールは振り向く。

そこには、笑みを浮かべたSeeD達とカドワキ先生が。

「うん、それでいい。立派だったよ。」

初めて、“リーダー”として認められた気がした。

スコールはニーダの方に向き、声を上げた。

「突っ込むぞ!!」

「了解!!」

ゼル達はブリッジを出て、ガルバディア・ガーデンに乗り移るために待機した。

ニーダは操縦桿を思い切り前に押し倒す。

ガーデンは速度を上げ、真っ直ぐにガルバディア・ガーデンに向かって行く。

激しくガーデン同士が衝突し、大きな揺れがガーデンを襲った。

その瞬間に、ゼル達はガルバディア・ガーデンに乗り込む。

「うぉーっし!! 敵陣に乗り込んだぞ!」

「さあ覚悟はいいわね?」

「皆頑張ろう!」

真っ直ぐにガルバディア・ガーデンを見つめる。

自分達のために。友達のために。皆のために。

そして、自分自身のために。

「さあ、かかってこい!」








スコールは、二階の教室に向かって走っていた。

は教室の生徒を助けに行った。そして、まだ戻ってこない。

ということは、教室かその近くにいる可能性が高い。

エレベーターが二階に着いて、スコールはエレベーターから飛び出した。

教室に向かって駆ける。

そして、ふと視界の端に入ったものを見て目を見開いた。

!!」

そこには、深手を負って座り込んだの姿が。

脇腹からは酷い出血をしており、致命傷ではないにしろ重傷だということがわかる。

スコールは即座にに駆け寄り、その体を腕で支えた。

はスコールを見て、苦笑する。

「ワリ・・・また助けてもらっちまったな。」

「馬鹿・・・だから無謀だと言ったんだ!」

最初から自分は反対だった。一人でガルバディア兵に立ち向かうなんて。

いくらが強いとはいえ、大勢と対峙すれば結果は見えている。

スコールはストックしてあるケアルラでの脇腹を回復させた。

随分と疲労しているに肩を貸しながら、二人は立ち上がる。

「大丈夫か。」

「平気。」

足で床を踏みしめ、二人は歩き出した。

教室の前を通り掛かったとき、はふと足を止めた。

は教室の中を見つめ、何かを考えている。

「・・・どうした?」

「あれ、使えるかも。」

が指差したのは、敵のガルバディア兵が乗っていた飛行兵器だ。

あれを使えば、上からガルバディア・ガーデンに乗り込めるだろう。

スコールは一瞬目を閉じ、「やってみよう」と呟いた。

二人は飛行兵器に近寄り、動くかどうか見てみた。

先ほどリヴァイアサンの攻撃でボロボロになってるかと思ったが、まだ動くようだ。

飛行兵器の下からは縄が出ていて、それに掴まれば飛び降りるときにも楽だろう。

スコールは飛行兵器の電源をONにし、縄を掴んだ。

そして、を振り返って左手を差し出す。

「来い!」

は迷わずスコールの手を取った。

スコールはの腰を持ち、出来る限りに負担をかけないようにした。

その瞬間、飛行兵器は教室の窓から外に飛び出す。

開けた風景が視界に写り、スコール達二人は息を呑む。

ガルバディア・ガーデンでは、もう既に戦闘が始まっている。

SeeDでない生徒も、必死に応戦しているのだ。

こんな戦いは、もう終わらせなくてはならない。

スコールとはガルバディア・ガーデンへと着地し、

そのままガーデン内部に向かって走り出した。

「こっちだ!」

敵ガーデン内部については、の方が断然詳しい。

スコールは素直にの後ろについて走った。

戦いの音が随分と離れたとき、ガルバディア・ガーデンの裏口に辿り着いた。

はそこに着くと振り向き、笑みを浮かべる。

スコールも立ち止まり、溜息をついた。

「サンキュ・・・助けてくれて。」

「俺は最初から反対だったんだ。一人で教室に向かって戦うなんて・・・。」

心底心配した。どれだけ不安だったか。どれだけ怖かったか。

は優しく微笑み、少し照れ臭そうにポケットに手を入れた。

「俺、あのまま倒れるわけにはいかなかったんだ。この戦いは、俺自身との戦いでもあるし・・・

何より、スコールの大切なものを、預かってるから。

それを、ちゃんと返さないでいなくなるなんて、俺には出来ない。」

はポケットからスコールの指輪を取り出し、目を細めてそれを見つめた。

スコールは少し不貞腐れたような表情を浮かべる。

「それは一番気に入ってるんだ。ちゃんと返せよな。」

「カッコいいもんな、これ。何てモンスターがモデルなんだ?」

首を傾げるに、スコールは静かな口調で言った。

「モンスターじゃない。想像上の動物・・・ライオンだ。

とても強い。誇り高くて・・・強いんだ。」

「誇り高くて・・・強い?なんか、スコールみたいだな。」

「そうだといいけどな。」

は指輪を見つめ、嬉しそうに目を細めた。

この指輪に込められた想いが、ゆっくりだがの中に流れ込む。

この指輪は、今までずっとスコールを見守ってきたのだ。

「このライ・・・オン? って、名前はあるのか?」

「もちろんさ・・・グリーヴァ。」

グリーヴァ。強そうな、逞しそうな、そんな名前。

スコールはの指輪を取り出し、それを見つめながら尋ねた。

「・・・この指輪は、の大切なものなんだな。」

「ああ。・・・兄貴と、おそろいで買ってもらったものなんだ。」

兄貴とは、のことだ。

スコールは少々目を細めた。

「兄と決別しても、その指輪が俺にとって大切だということに変わりはない。」

はそこまで言って、急にクスクスと笑い出した。

スコールは首を傾げてを見つめる。

「なんだ?」

「こんな風にさ、お互いの指輪を交換して持ってたら・・・皆に誤解されそうだな。」

スコールは溜息をついた。

クスクスと笑うは、どう見ても誤解されたがってるようにしか見えない。

けれど、何故だか嫌ではなかった。

その時は、それでもいいかな、なんて思う。

「まだその指輪は受け取らない。俺もこの指輪は返さない。

ちゃんと魔女を倒した後に、お互いに返す。・・・これでいいな?」

スコールは尋ね、はしっかりと頷いた。

どっちも倒れてはならない。

生きて、バラム・ガーデンに戻ってこれたら。

「さあ、皆が待ってる。行くぞ、。」

「了解! 行くぞ、スコール!」

二人は言い合い、笑いを漏らして、ガルバディア・ガーデンへと突入した。









<続く>


=コメント=
ガルバディア・ガーデン突入おめでたう。
なんとかここまで来れました。もうちょっとでDISK2も終わりですね。
ちゃんと終わらせることが出来そうでちょっと安心です。
魔女戦ではどうなってしまうのか?
予想しててください(笑

次回は魔女戦まで行きます。
どんなに長くなろうとも、魔女戦は絶対に終わらせます。
ご期待ください。 [PR]動画