トラビア・ガーデン。




セルフィのガーデン。




俺は、そこで・・・自分の真実を、思い出した。










hat is your hope ?










最も北端に位置するトラビア・ガーデン。そこは、雪に覆われた世界だ。

あまり人が住むのに適さない土地のせいか、他国との交流もなく年月を積み重ねてきた。

もちろん交流がないということは他国の侵略対象になることもない。

平和で、バラム・ガーデン以上に開放的な校風のトラビア・ガーデン。

そんなガーデンで、セルフィは育った。




トラビア・ガーデンには、ミサイルによる襲撃の爪跡がしっかりと残されていた。

スコール達はトラビア・ガーデンの入り口に集まり、沈黙する。

本当に酷い有様だった。

もはや、ガーデンの原型を留めていない。

セルフィは、そんなガーデンの様子を見て呆然としている。

「ミサイル・・・直撃?」

ガーデンを見ていると、ミサイルが襲ってきたときの光景が頭の中に流れ込んでくるようだ。

それは、生徒達の念がこもっているからだろうか。

それとも、自分の想像が創り出す幻影なのだろうか。

「・・・あたし、行ってくる。」

セルフィは決意を固めたように言う。

いつまでも怯えているわけには、いかないから。

スコールは頷き、言った。

「気を付けろよ。」

スコールの言葉に励まされ、セルフィは小さく微笑んでトラビア・ガーデンへと入っていった。

それを見送り、スコール達も後を追ってガーデンに入る。

中は、外から見るよりも酷い状態だった。

下手をすれば、モンスターも入りこんでしまうような状況だ。

まかり間違えば、バラム・ガーデンもこんな風になっていたかもしれない。

止めることが出来て、本当に良かったと心から思う。

は、ボロボロになったガーデンを見回してから空を見上げた。

セルフィはここで育った。きっと、もっと早く来たかっただろうに。

スコール達はゆっくりと歩きながら、セルフィの後を追った。






ガーデンの奥へと進むと、意外にもガーデンの生徒達は元気に復旧作業を行っていた。

怪我人もいるようだが、それでも笑顔を絶やさずに行動している。

セルフィは、一人の女子と楽しげに話をしている。恐らくはトラビアの頃の友達なのだろう。

女子はスコール達の姿に気付くと、笑顔で寄って来て会釈をした。

「あ、セルフィがお世話んなってます。」

は微笑み、スコールを肘で突付きながら言った。

「セルフィは良くやってくれてるよ。な?」

「ああ。」

間髪入れず答えたスコールを見て、セルフィは驚いた。

「うひゃ〜、はともかく、全然スコールっぽくない〜。」

そう言って、ケラケラと笑う。

ちゃんと心から笑っているような感じで、スコール達は安心した。

「あ、ガーデンの奥にバスケットコートがあるの。そこで待ってて!」

セルフィはスコール達にそう言い、友達と別れると、更にガーデンの奥へと進んでいった。

その後を、スコール達も追う。




そこは、墓だった。

セルフィは墓標の前に座り込んでいる。

しんと静まり返った空間にぽつんと立ついくつかの墓は、とても哀しげで。

そんな場所に座り込むセルフィの姿は、もっと寂しそうで。

「・・・あたし、頑張ったよ・・・?」

セルフィは、絞り出すように呟いた。

「結局、ステージは壊れてしもたけど、あたし、夢のバンドやってみせたよ・・・。

みんなと約束したよね。あたし達だけで、あたし達のために心に残る事をやり遂げよって。」

掠れた声は、本当に今にも泣き出しそうで、とても小さくて。

スコール達は、黙ってセルフィを見守った。

「・・・ね、ね、あたしがやったステージ、みんながやりたがってたステージ。

みんな、見てたよね? みんな、聴こえてたよね?

・・・あたし、みんなに届くまで何度でも頑張るよ!

あたし達の夢、もっと大きくてもっともっと素敵なんやもんね!」

あのミサイルが直撃して、犠牲もたくさん出たのだろう。

セルフィの切ない言葉は、風に舞って千切れて消える。

そんなセルフィの姿を見つめ、スコール達は黙ってその場を立ち去った。





ガーデンの奥へ進むと、セルフィが言っていたバスケットコートに出た。

スコール達は、そこで思い思いの場所に立ち、セルフィの到着を待つ。

スコールは口を開いた。

「セルフィが来たら帰る。それまで待機だ。」

全員が頷いたのを確認し、スコールは視線を落とした。

このガーデンに敵は来ていない。もしかしたらこれからかもしれない。

早く魔女を倒さないと、セルフィみたいに哀しむ人間がもっと増える。

仲間達は、みんな独り言のように呟いた。

「私、スコール達に会ってからいろいろ考えさせられちゃった。

今も考え続けている事があるの。そしてずっと答えが出ないの。」

と、リノア。

そんな答えは、自分にしか見出せないのだろう。

誰かに教えてもらった答えでは、きっと納得なんて出来ないから。

ゼルは、空を見上げて呟いた。

「魔女ってのは何で突然現れたんだろうな。どっかで機会を伺っていたのかなぁ。

普通の人の振りをして普通に暮らしていたのかなぁ。」

イデアも、どこかで暮らしていたはずなのだ。

魔女の騒動が起こる前は、一体どこにいたのだろう?

キスティスは全員の顔を見回して、それから溜息をついた。

「エルオーネを捜す理由は一体、何? スコールを過去へと誘うエルオーネ。

そして、それを捜す魔女。魔女も過去へと旅立とうとしている?」

過去に、何かがあるのだろうか。魔女がどうしても願う“何か”が。

それが何なのかは、今のスコール達には想像も出来ないし、きっと考えても答えは出ない。

が、目を閉じながら呟いた。

「・・・俺は、最近よくわからないことが多いんだ。

何かを・・・そう、大切な何かを、俺は忘れてしまっている気がする。」

自分は周りの人間・・・親からも蔑まれて生きてきた。

けれど、何故蔑まれていたのかと考えれば、何故か思い出せないのだ。

霧が立ち込めた光景を見ているような、そんな手応えのない感覚。

沈んだ空気を明るくさせるように、アーヴァインが言った。

「セルフィが頼りに出来るような男のよゆ〜って奴を身に付けなくっちゃ!」

このナンパ男め。

全員がそう思ったが、今はその明るさが救いだった。




「ごめん、お待たせ!」

ふと、バスケットボールが飛んできて、全員そちらに視線を向けた。セルフィだった。

セルフィは笑顔で駆け寄ってきて、全員にペコリと頭を下げる。

「みんな、ワガママ聞いてくれてありがとう。」

肩の荷が降りたように、すっきりとした顔をしているセルフィ。

そんな彼女を見て、全員が安心したように微笑んだ。

「ホントにありがと。魔女とバトルする時はきっと連れてってね。

敵討ちだから。・・・皆の仇、絶対に討ちたいから!」

そんなセルフィの言葉を聞き、リノアが思い詰めたような表情をして言った。

「あのさ・・・バトル・・・しなくちゃダメなのかな?

他の方法ってないのかな? 誰も血を流さなくてすむようなそういう方法・・・」

そんな方法があるのなら、是非ともその方法を使いたい。

誰かがそんな方法を考えているのだったら、それで何とかすればいい。

でも、誰もそんなこと考えていない。

震えて、不安がって、文句言って、考えてるフリをしているだけだ。

それに、自分達はSeeDだ。“ガーデン”で育ったSeeDだ。

リノアは言った。「怖くなった」と。

皆と一緒にいて、今自分達の呼吸のテンポが合っていて、とても心地良いときがあると。

けれど、戦いが始まると違ってしまう。皆のテンポがどんどん速くなっていく。

リノアだけ置いて行かれて、何とか追いつこうとして。

それでも、・・・やはりダメで。

皆が無事でいてくれているか、とても不安に思うのだと。

そんなリノアの言葉を聞き、アーヴァインが口を開いた。

「わかるよ、リノア。誰かがいなくなるかもしれない。

好きな相手が自分の前から消えてしまうかもしれない。

そう考えながら暮らすのって辛いんだよね〜。

・・・だから僕は戦うんだ。僕が子供の頃・・・ありゃ4歳くらいだったかなあ。

僕、孤児院にいたんだよね〜」

アーヴァインはボールを拾い、ゴールへとシュートした。

「大勢の子供達がいて・・・みんな親がいなくてさ〜。

魔女戦争が終わった頃だったから親のない子はたくさんいたんだよね。

ま、僕がいたのはそんなところだった訳。

で、いろんな子供がいたんだけど、僕にとって特別な女の子がいたんだ〜」

アーヴァインはその頃の孤児院を思い出すように語った。

大好きな女の子が、自分を呼んでいる。「アービン」と。

舌っ足らずな声で、笑顔で呼んでいる。

セルフィが、ふと言った。

「その孤児院・・・石の家?」

アーヴァインが頷き、キスティスも何かを思い出したように尋ねる。

「石で出来た古い家? ・・・海の傍?」

アーヴァインは静かに頷く。

その瞬間に、キスティスとセルフィははっきりと何かを思い出したように目を見開いた。

アーヴァインは苦笑し、続ける。

「ガルバディア・ガーデンで会った時に僕はすぐにわかったよ〜」

孤児院にいたときの友達だと。成長していても、すぐにわかった。

どうして言わなかったのかと尋ねられて、アーヴァインは悔しかったと答える。

自分だけ覚えているのが、何だかとても悔しかったから、だと。

元気なセフィとえばりんぼのキスティ。そして。

「おい・・・もしかして花火したの覚えてねえか?」

ゼルが、ふと口を開いた。

ゼルの中にも、確かにあるのだ。孤児院で過ごした想い出が。

元気なセルフィ、えばりんぼのキスティ、とぼけたアーヴァイン。

そんな子供のころの仲間達の姿が。

だんだんと想い出が蘇ってくる。

その孤児院があった場所。海。灯台。花火をした想い出。

ゼルにちょっかいを出すサイファー。

いなくなったエルお姉ちゃんを思い、孤独に静かに泣いていたスコール。



みんな、一緒だった。



とリノア以外は、皆孤児院で育った仲間だったのだ。

何故忘れてしまっていたのだろう?それは、きっとG.Fのせい。

G.Fは力を与えてくれる。けれど、G.Fは自分達の頭の中に居場所を作る。

だから、大切な記憶が抜け落ちてしまうのだと。

は、そこまで聞いてふと踵を返した。

全員が首を傾げてを見つめる。

「・・・どこ、行くの?」

リノアが尋ねると、は笑顔で振り返って答えた。

「・・・どうやら、俺が聞くべき話じゃねぇな、って思ってさ。

ちょっとそこらへん、散歩してくる。話終わったら呼んでくれよ。」

過去の話は、嫌いだ。

逃げた?そうかもしれない。そう言われても、構わない。

過去の話は、したくもないし、聞きたくもない。






はバスケットコートから離れ、壊れたガーデンの壁に寄り掛かって座り込んだ。

そして、深い溜息をつく。

「・・・G.Fのせいで、記憶を忘れる・・・か。案外正しいのかもな。」

自分の抜け落ちている記憶が、G.Fのせいかもしれない。

そう思うと、どうしてもやるせない。

『・・・私達G.Fにも、正しいことはよくわからないんです。

ただ、私達はマスターに従うだけなので・・・。』

頭の中に、リヴァイアサンの声が響いた。は苦笑して、軽く頭を振る。

「別に責めてるわけじゃねぇさ。ただ、悔しいなって思うわけよ。」

『・・・・・・。』

今自分がなくしている記憶は、大切なものだとわかっている。

だから、悔しいのだ。何故忘れてしまったのだろうと思って。

この記憶があれば、少しはこの胸のざわめきも消えるのだろうか。

兄に対する気持ちも、少しは変化するのだろうか。

もしもの話は何の役にも立たない。そうわかってはいても、考えてしまう。

「・・・俺は、何かを忘れている。」

一体何を?そんなに良い思い出や記憶ではないはずだ。

けれど、思い出さなければならないと心が訴えている。

・・・無理はよくありません。そのうち思い出すかもしれないでしょう?』

リヴァイアサンの言葉は嬉しかったが、でもやめるわけにはいかなかった。

「・・・腹立たしいんだよ。忘れてる自分が。記憶を持たない自分が。」

大切なものをなくすというのは、哀しいと同時に悔しく、腹立たしい。

それが記憶のような形のないものであれば、尚更だ。

スコール達は記憶を取り戻したのに。自分は、何もわからず混乱している。

霧の中で、どっちに進めばいいのかわからずに迷っている。

誰かに頼らないと、自分は進めないのか?

そう思うと、どうしてもスコール達から離れたくなった。

スコールには偉そうに「相談して欲しい」なんて言っておいて、自分はこれだ。

「・・・情けねぇなぁ、全くもう。」

は苦笑を浮かべた。

「・・・戻るか。変に勘違いとかされると困るしな。話も終わってるかもしれねぇし。」

『・・・そうですね。』

急にあんな態度を取ってしまったから、心配しているかもしれない。

ちゃんと謝らなければ。説明しないと、きっと皆も納得しない。

そう思い、歩き出したその瞬間だった。










―――――愚かな・・・―――――









は、ビクリとして立ち止まった。

低い女性の声が、今間違いなく頭の中に響いた。

『・・・?』

急に立ち止まったを不思議に思ったのか、リヴァイアサンが話しかけてくる。

リヴァイアサンは気付いていない?今の声に。

「な・・・んだ・・・・?」

胸のあたりが、ざわざわと酷く荒れている。

胸の中で、何かが暴れ回っているような感覚すら覚える。

気持ちが悪い。それとともに、恐怖も襲ってくる。

?・・・ッ!』

リヴァイアサンの声が聞こえているのに、体は硬直して動かない。

そして、その次の瞬間、は激しく咳き込んだ。

「っ!がっ・・・げほっ!ごほっ・・・」

胸が熱い。呼吸が出来ないほどに咳き込み、苦しくて。

は、堪らずその場に崩れ落ちた。

地面に膝を付き、背中を丸めて激しく咳き込む。

リヴァイアサンが必死に自分を呼んでいるが、それに返事することも出来ない。

?話、終わったよ。」

その時、を呼びに来たリノアが現れた。

リノアは、屈み込んでいるを見て眉根を寄せ、それから驚愕して駆け寄ってきた。

ッ!?」

返事をしようにも、ちょっとでも空気を吸えば逆流して来てしまうのだ。

激しい咳が邪魔をして、声を出すことが出来ない。

っ!、どうしたの!?ねぇっ!!!」

パニック寸前のリノア。尋常じゃないの様子に、恐怖を感じたのだろう。

リノアはの背中をさすり、の体を揺すり、なんとかしようとしている。

けれど、自分の手に負えないと感じると、リノアは唇を噛み締めた。

「待ってて。今、スコール達呼んでくるから!」

泣きそうな顔でそう言い、リノアはスコール達を呼びに駆けて行った。

それでも、の咳は止まらない。それどころか、激しさがエスカレートしている。






「スコール!!」

泣きそうなリノアの声に、スコール達は振り返った。

涙を浮かべた瞳に、荒い息。明らかに何かがあったという様子だ。

スコール達は顔を見合わせ、眉根を寄せた。

がっ・・・!が死んじゃうっ!!!」

怖くて、そう叫ぶことしか出来なかった。

リノアはパニックに陥っていたのだ。あんな衝撃的なを見て、気が動転したのだ。

スコール達はリノアの言葉を聞き、目を大きく見開いた。

とくにスコールは、何が起こっているんだと言わんばかりに混乱した表情を浮かべている。

はどこだ!?」

「向こう!ものすごく苦しそうっ・・・!どうしよう、死んじゃうよぉ!!」

スコールは、リノアの言葉を最後まで聞かずに駆け出していた。




道を塞いでいる瓦礫を飛び越え、足場の悪い道を駆け抜け、スコールはの姿を探した。

苦労はしなかった。の咳き込んでいる声がよく聞こえたからだ。

スコールはの姿を見つけると、すぐにそこに駆け寄った。

!どうした!?」

胸と口を押さえ、激しく咳き込んでいる

リノアがを迎えに行ってからずっと咳き込んでいるのだとすれば、

もう5分強はまともな呼吸をしていないということになる。

このままでは危険だ。スコールはの肩を強く掴み、揺さぶった。

!!」

が咳き込み、何か水がはじけるような音がした。

スコールは目を見開く。

の手と口。そして地面は、真っ赤に染まっていたのだ。

―――――――――――吐血。

は、真っ赤な血を吐き出していた。

激しい咳を繰り返したため、体内のどこかを傷付けたのか。

それとも、今の体の中で何かが起こっているのか。

どちらにしろ、危険な状態に変わりはない。

第一、吐血をするなんてよっぽどのことだ。スコールは恐怖を感じた。

このまま、が死ぬのではないかと。

そんな縁起でもないことを考え、スコールは唇を噛み締めた。

吐血してもなお咳き込み続けるの体を抱き上げ、そのまま駆け出す。

急いでを休ませなければ。

「ス・・・コ・・・・」

は、かすかにスコールの名前を呼び、そのまま意識を手放した。











は、朦朧とする意識の中、あの女性の声を聞いた。

いや、正しくはまだ自分に意識があるのか、夢なのか、わからない。

けれど、はっきりとしたあの女性の声だけは、聞こえていた。




―――――お前の忘れている記憶を、思い出させてやろう―――――




ぼんやりと女性の名前を思い出す。

確か、「アルティミシア」と言っていた。

アルティミシアは告げる。




―――――お前の並外れた魔力、それが何故だかわかるか?―――――




は首を傾げた。自分に、そんな壮大な力はないはずだ。

けれど、アルティミシアは続ける。




―――――それは、お前が私の前世だからだよ

                私は、お前の生まれ変わりなのだ
―――――




意味が、わからない。

だって、自分はそんな力を持っていないのに。




―――――お前は、記憶を封じることでその力さえも封じてきた。

 フフ・・・だが、それもここまで。お前の力の扉は、もはや開かれた
―――――




記憶を、封じることで?




『魔女だ!!近付くな、殺されるぞ!!!』

『神よ、何故ですか!こんな子供、どうして我々の元に!?』

『嫌だ・・・!生みたくない!生みたくないぃぃぃっ!!』

『呪われし子供をどうしろと言うんだ!!こんな子供、我々の手には負えない!!』







大人達の声が、自分を包む。

頭が、やけにはっきりした。


「・・・はは、そっか。」


笑いが、漏れる。

クリアになった頭。全てを思い出し、脱力してしまったのかもしれない。







「・・・俺・・・魔女、だったんだ・・・。」







強過ぎる力を持って生まれたがために、大人から蔑まれ、友達もいなかった。

そして、そんな魔力を恨み、自分から記憶を封じたのだ。

自分はこんな魔力なんて持っていない。自分は魔女じゃない。

そう思い込ませて。自分を騙して。

封印された記憶に、こんな大切なことが仕舞われていたとは。

は、自嘲の笑みを浮かべた。


「俺、ばっかみてー・・・。」


どうして今まで忘れていたのだろう。

こんな辛い記憶を、こんな衝撃的な記憶を、完璧に忘れられるはずなどないのに。

アルティミシアは未来の魔女だ。

過去へ干渉し、世界を自分のモノにしようとしている、未来の魔女だ。

アルティミシアは膨大な魔力を持っている。それこそ、無限大ほどの。

は、そんなアルティミシアの前世なのだから。

魔力が膨大なのも当たり前だ。自分が魔女なのも当たり前だ。


「けどさ・・・俺にも、守りたいものがあんのよ。」


アルティミシアが、まるでじっとこちらを見ているかのようだ。

そんな沈黙を破り、ははっきりと言った。


「俺、今この力ごと死ぬことだって出来るぜ?

けどさ・・・俺がいなくなったら・・・スコールは、誰に頼るんだよ?」


リノア達がいるかもしれない。けれど、あのスコールが素直に相談出来るはずがない。

無愛想なあの顔で、必死に悩み、苦しんでいるスコールの姿が目に浮かぶ。

迷った子犬のような、そんな目で佇んでいるスコールの姿が。

あんなスコールを残して死んでも・・・・


「今死んでも・・・死に切れねぇよ、ばーか。」


アルティミシアの怒りが、はっきり自分に伝わってきた。

けれど、負けない。

絶対に、スコールを守ると決めたから。





―――――どこまで愚かなのだ、・イオザム―――――


―――――のように、私に全てを捧げれば良いものを・・・―――――




なんだって?




尋ねようとしたが、その前には夢の世界での意識を失った。













目を開けると、そこはバラム・ガーデンの保健室だった。

心の中で、「またか」と溜息をつく。

以前図書館で気を失ったときも、保健室にスコールが運んでくれたのだ。

そして、今回もスコールが運んでくれたのだろう。

トラビア・ガーデンで咳き込んだ時、自分を抱え上げてくれたのはスコールだったから。

感謝の気持ちと同時に、不安な気持ちが胸に渦巻く。

自分は、魔女だった。

SeeDは魔女を倒す。ガーデンはSeeDを育てる。

その言葉がとても辛く、胸が張り裂けそうなほど痛んだ。

もしかしたら、自分はスコール達と戦う運命なのかもしれない。

自分は、魔女だということをどこまで隠し通せるだろうか。

そもそも、スコール達の真剣な目を前に、本当に隠せるのだろうか。

こうしてベッドに横になっているだけでも感じるのだ。

莫大な魔力の強さが、体の中に渦巻いているのを。

封印を解いたのだから、魔力が溢れてくるのは当たり前だ。

けれど、水の中にいるようなこの感覚がどうも気持ち悪い。

咳き込んだ時に出来た胸の内側の傷は、相変わらずズキズキと痛むし。

もしかしたら、この傷は莫大な魔力に体が耐えられなかったから出来たのだろうか?

「・・・おハロー。」

ふと顔を覗かせたリノアに、は微笑んで言った。

声を出すと、胸や喉が鋭く痛む。

リノアは不安そうな顔で、そっとの傍に歩み寄った。

「・・・・・・。」

よく見ればその目は赤く、腫れている。

よほど長い間泣いたのだろう。きっと心配させてしまったに違いない。

はそっと手を持ち上げ、リノアの目元をなぞった。

しっとりとした肌。

こんな自分でも、心配してくれる人がいるんだ。

「・・・サンキュ、心配、させちまったな。」

しゃべる度に喉や胸が痛んだが、それよりもリノアを泣かせた自分が哀しかった。

泣いて欲しくないのになぁ。

・・・死んじゃうかと、思ったん・・・だよ。」

思ったことを口にすると、涙が込み上げてくる。

リノアは、もう涙なんて枯れ果てたと思っていたのに、また泣き出してしまった。

「怖かった・・・怖かったんだよぉ・・・。」

「うん。」

、真っ赤な血吐いて・・・ぐったりしてて、青白い顔してるから・・・。」

「うん。」

「だから・・・怖くて・・・怖くて・・・っ・・・」

は、微笑んで頷き、リノアの頭をそっと撫でた。

よしよし、と心の中で言いながら。

そして、掠れた声で呟く。

「ごめんね。」

まるで小さな子供をあやすように、は言った。

リノアはその言葉に、もっと泣いてしまった。

安心と嬉しさと、哀しさと、怖さが入り混じった涙を。

一度、イデアに嘘で「リノアの兄だ」と言ったことがあるが、

今では本当にリノアのことを妹のように思っている。

リノアが自分のことを「兄」か「姉」か、どちらを思っているかは知らないけれど。

もしかしたら、リノアにしてみれば普通の友達、仲間なのかもしれないけれど。

それでも、自分にとってリノアは、妹のようなものだ。

スコールとは違うけれど、守ってやりたい相手。

そして、何故だかリノアには全てを話したかった。

「・・・俺、魔女なんだよ。」

言うと、リノアは驚いたようにハッと顔を上げた。

泣き腫らした目を丸くして、不安そうな色を浮かべて。

「俺さ、昨日倒れてから夢を見たんだ。・・・ある魔女に、なくした記憶の話をされた。」

自分は記憶をなくしていた。けれど、それで何も疑わなかった。

最近になって不思議になり、悔しく思ったりしたのだ。

そしてそのなくした記憶というのは、自分が魔女だったというものだ。

「だから・・・俺は、魔女なんだよ。リノアも気付いているんじゃないか?

俺の体から、俺自身でもコントロール出来ないほどの、溢れている魔力の波動を。」

確かに、何かの違和感を感じていたのだ。

保健室に近付くたび、強いプレッシャーを感じていた。

その正体が、の持つ膨大な魔力だと言うのか。

「そんな・・・、魔女って・・・。」

リノアが何を言わんとしているのか、にはわかった。

“スコール達はSeeDで、魔女を倒すのに”と。

は目を細めて笑い、言った。

「そう。・・・スコール達はSeeD。俺は魔女。

・・・今は、イデアを倒すことを最優先にするだろうけど、イデアを倒したら・・・

もしかしたら、その次は俺かもしれない。」

だって、スコール達はSeeDだから。

SeeDにとって、魔女は敵なのだ。だから、きっと自分を殺しに来る。

けれど、自分は抗うなんてことはしない。

自分に、スコール達と戦えるとでも思っているのか?

まさか。大切な仲間と戦うなんて、無理に決まっているじゃないか。

スコール達が自分を殺すと言うのなら、それに従い消えるまで。

っ!そんなこと起こるわけないっ!!

スコール達がを殺すわけないよっ!絶対に、一緒に解決方法を考えるよ!」

リノアの気持ちは嬉しいが、そうなるとも限らない。

一緒に解決方法を考える、か。リノアらしい言葉だと思った。

はリノアの言葉には答えず、言った。

「リノア、ひとつ頼みがある。・・・このことは、スコール達には黙っててくれ。」

まだ、今は。

今は、言うべきときではない。

今それを告げても、スコール達の“魔女を倒す”という決意を鈍らせるだけだ。

「・・・・いつか、ちゃんとスコール達にも話すよね?」

「ああ。・・・必ず。時が来たら。」

「・・・うん、わかった。・・・黙ってるよ。」

全ては、イデアを倒してから。

けれど、にはひとつ不安があった。

アルティミシアは、自分の体を奪うつもりだ。

イデアを倒したら、もしかしたらアルティミシアは自分の中に入ってくるかもしれない。

それが、唯一の不安だった。

「それじゃ、スコール呼んでくるね。」

「どうして?」

は首を傾げる。

リノアは、泣き腫らした顔で微笑む。

「スコール、心配して心配して、不安でどうしようもないはずだから。」

またそんな冗談を。

スコールは確かに心配性かもしれないが、自分のことにそんな腑抜けるなんて考えられない。

F.Hのときも思ったが、周りの皆は自分をからかっているのではないか?

冗談にもほどがある。

が不満そうな顔をすると、リノアはクスクスと笑って保健室を出て行った。

『・・・、体は平気ですか?』

「ああ、もう平気。しゃべるときに喉と胸が痛むくらいかな。」

かなりの痛さではあるが、慣れれば平気だろう。

そんなに大きな問題ではないと思う。

リヴァイアサンは安心したようにほっと息をつき、自分の主人に言う。

『マスター、私はどんなことがあってもあなたについて行きますよ。

もし、スコール達があなたと対立するというのなら・・・私はあなたを守るまでです。』

例えあなたが魔女だとしても。あなたが世界を敵に回したとしても。

は苦笑し、手をパタパタと振った。

「馬鹿。んな面倒なことしなくていいさ。その時が来たら、お前はどこかに行けば良い。

そして、また新しいマスターを見つけろ。俺のことは忘れて、な。」

リヴァイアサンまで道連れにする気は毛頭ない。

けれど、リヴァイアサンは真剣な声で言った。

『言ったはずです。私のマスターは、世界でただ一人、だけだと。

それは、例えあなたが死んでも変わりません。私のマスターは、生涯あなただけです。』

真剣な言葉でも、にはそれを受け入れることは出来なかった。

自分のために尽くしてくれるのは嬉しい。けれど、引き際というものがあるだろう。

スコールと敵対したときに、そこまでしてもらっても嬉しくない。

自分の望みは、その時リヴァイアサンを自由にしてやること。

自分とともに堕ちることなど、望んでいない。

そんなの気持ちを感じ取ったのか、リヴァイアサンは叫んだ。

『どうしてあなたは私の気持ちをわかってくれないんです!!』

その言葉に、は眉根を寄せる。

リヴァイアサンは、の体から出て、目の前に姿を現した。

青い光を纏ったリヴァイアサンは、悲痛な表情を浮かべている。

「・・・リヴァ・・・?」

「どうしてあなたは私の言葉をわかってくれないんです・・・

どうして、私の気持ちに気付いてくれないんですか!!」

意味がわからない。何故ここまで彼が哀しげにしているのかも。

は目を細めた。

リヴァイアサンは、そんなの体を強く抱き締める。

突然のことには驚き、目を丸くした。

「ちょっ・・・リヴァイアサン!!」

「どうしてわかってくれないんですか・・・」

静かな叫びに、は抵抗をやめた。

様子がおかしい。こんなに感情的になるリヴァイアサンを、は初めて見た。

「好きです。」

その言葉に、は息を呑む。

許されるはずがない。G.Fと人間の間の感情なんて。

はリヴァイアサンの言葉が信じられなくて、ただ固まって目を見開いていた。








<続く>


=コメント=
これはリヴァイアサンドリームではありません。
どうしてこうなっちゃうかなぁ・・・いつの間にやらこんなことに。
や、ホントにこれはスコールドリーム(のはず)なのです。
しかも無駄に長いです。
途中のが咳き込むシーンは、描写が難しかったです。
ちょっと上手く読者に伝わってないなぁと思ってます・・・。
もっと激しいんですよっ。本当に狂ったくらいに激しいんですよ(怖い)
吐血ですから。
ちなみに、FF8のオリジナルサウンドトラックを持っている方は
あの吐血シーンはディスク2に入っている「A Sacrifice」を聴きながらドウゾ。
トラック11に入ってるはずです・・・。多分。
ハープシコードで流れる魔女のテーマです。
「愚かな・・・」あたりから聴けば、雰囲気が掴めるのではないでしょうか。
てかアルティミシアが、TOD2のエルレインと被ってしまう・・・(爆

次回はイデアの孤児院に行く話と、もしかしたらガルバディア突入出来るかもしれません。
ご期待ください。 [PR]動画