あはははー、一体何の話かな?





俺最近耳遠くなっちゃってさぁ〜。





・・・・で、誰が副委員長だって!?










hat is your hope ?









『スコール委員長。スコール委員長!至急ブリッジまで来てください。』

と話し、リノア達と仲直りをした翌日の朝、スコールは館内放送で目を覚ました。

外にはもう既に太陽が顔を出していて、時計を見ると午前9時を示している。

ぼんやりとする頭を必死に起動させ、館内放送で知らされたことを頭の中で整理する。

そして、むっと眉をしかめた。

「(・・・委員長?)」

自分に用があるのならば、普通に「スコール・レオンハート」とでも呼べばいいのだ。

なのに、急に「委員長」とはどういうことだろう。

スコールは首を傾げながらも、仕方なしにブリッジに向かった。





ブリッジには、キスティス、シュウ、そしてニーダが待っていた。

キスティスはスコールを見ると笑顔で言う。

「スコール委員長、ご苦労様!」

だからその委員長ってのは何だ。疑問を表情に表しながら、スコールは尋ねる。

「委員長って?」

「何か、肩書きがあった方がいいでしょ?私とキスティスで決めたわ。」

「勝手に進めて悪いと思ったんだけど私とシュウで、今後の役割も決めたの。」

また自分の知らないところで話が進んでいたのか。

スコールはうんざりしながらも、昨日感じた苛立たしさは覚えなかった。

もしかしたら、がいろいろと励ましてくれたからかもしれない。

自分よりの方が委員長に相応しいのではないか?

そんな風に思い、スコールは溜息をついた。

溜息をつくスコールに苦笑し、シュウが言う。

「私、ガーデン内のいろいろな物資の補充とかそういう手配を担当するから。」

それに続いて、キスティスも言う。

「私はカドワキ先生と手分けして生徒達の面倒見るわね。

あなたは移動や戦闘の方針決定に専念してちょうだい。」

やはりガーデンの移動や戦闘方針の決定は自分に任されるのか。

随分と忙しくなりそうである。

それから、キスティスはふと思い出したように付け加えた。

「あのね、セルフィをちょっと休ませてあげて。理由をあれこれ言ってたけど・・・

本当はミサイル基地とかの疲れがドッと出ちゃったんだと思うのね。どう? OK?」

「ああ、わかった。」

スコールは頷いた。

言われなくても、セルフィは少し休ませるつもりだった。

アーヴァインやゼルはともかくとして、セルフィにはトラビア・ガーデンのこともある。

精神的に相当参っているはずだ。

今の状態で無理をしても、失敗をするだけだろう。

それに、本当にセルフィのことを心配しているということもある。

「じゃあ、早速だけど報告があるの。」

シュウがニーダを促すと、ニーダは頷いて口を開いた。

「よぉ、スコール。ところで、F.H.の人達がガーデンを修復してくれていたのは知ってるだろ?

その作業が終わったんだ。つまり・・・ガーデン、動くぞ。」

やっと出発が出来るようになるらしい。

「あっ、そうそう。ガーデンの操縦は俺が担当する事になったから、よろしく。

出来れば操縦は俺とで担当したいと思うんだけどー、まぁ後で本人に聞いてみるよ。

F.H.の人から教えてもらったから操縦の事は任せてくれ。

出発する時は俺に話し掛けてくれよな。」

確かに、一番最初にこのガーデンを動かしたのはだ。

ガーデンの操作について学園長に解析を申し出されていたが、

いろいろとあって出来なかったようだし。

ニーダに操縦を教えてもらい、とニーダでパイロットをつとめるのもいいだろう。

キスティスは、腕を組んでスコールに尋ねた。

「何処へ行く?・・・って言っても情報は少ないのよね。」

魔女を倒す。とはいえ、魔女がどこにいるかというはっきりした情報は今のところない。

シュウは少し考えると、提案した。

「ねえ、バラムに戻ってみない? 街をかすめて出てきたっきりどうなったのかわからないし。

もしかしたら、F.H.の次はバラムかも・・・同じような港町だしね。」

「そうね。スコール、どうする?」

スコールは考え込んだ。

エルオーネを乗せた船のことがまず気になるが、どこに行ったか予想も出来ない。

それから次に気になるのが魔女の目的だ。

世界征服とかならわかりやすいのだが、どうも少し違うらしい。

まぁ、何にせよガーデンを動かさなければ始まらない。

スコールは腕組みを解き、顔を上げてニーダを見つめた。

「いよいよ出発か!?」

嬉しそうに尋ねるニーダに、スコールは頷く。

「出発する。目的地は追って指示する。館内の人間に注意するように伝えるのを忘れるな。」

「了解!」

ニーダは頷くと、スコールに言われた通りに館内放送をかけた。

「こちらはブリッジです。・・・」









≪こちらはブリッジです。まもなくガーデンは移動再開します。総員衝撃に備えてください。≫

は自室のベッドに横になったまま、館内放送に耳を傾ける。

自分はずっとバラム・ガーデンの中にいるのに、少し寂しい気持ちになるのは何故だろう。

『いよいよ、出発ですね。』

「そうだな。」

は頷き、目を閉じる。

ここまで来るのに随分いろいろな出来事があった。

最初バラム・ガーデンに転校して来たときは、まさかこんなことになるとは思いもしなかった。

普通に学生としての生活を終え、その後兄を捜しに旅にでも出ようと思っていたのだ。

なのに、気が付けば魔女と関わりが深くなってしまっていて。

そんな魔女と兄は繋がっていて。

かなりの近道をした気分である。

≪それから、スコール委員長の挨拶があります。≫

館内放送は続く。は、はて、と首を傾げた。

あのスコールが挨拶を?想像するだけで噴き出しそうになる。

案の定、スピーカーから聞こえてきたのは間抜けな会話だった。

≪挨拶なんて・・・・俺はいいよ。マイク、切れよ!≫

「ぶはっ。」

は噴き出し、枕に顔を押し付けて肩を震わせて大笑いした。

お腹が引き攣りそうである。

スコールらしい。いかにもスコールらし過ぎる。

≪わっ、わっ、わかったって!冗談だってばスコールっ!ちょ・・・っ!

悪かったからマイクを無理矢理切ろうとしないでくれ!まだ話すことがあるんだ!!≫

ニーダの焦った声は、の笑いに拍車をかける。

だが、その後スピーカーから聞こえてきた言葉に、は硬直した。

≪えー・・・失礼しました。スコール委員長は極度の照れ屋さんのようです。

それはそうと、もうひとつお知らせがあります。

委員長一人では、さすがにいろいろと大変過ぎます。委員長を支援する副委員長が必要です。

そこで、学園長を含めた我々は副委員長に・イオザムを指名しました。≫

の笑いがピタリと止まる。

副委員長には、スコール委員長の支援及び委員長不在の時の代理をつとめてもらいます。≫

は硬直したまま青褪めた。

≪これからガーデンの方針は、スコール委員長と副委員長にお願いします。

お知らせは以上です。先ほど言った通り、ガーデンはまもなく移動再開します。

総員衝撃に備えてください。≫

ピンポンパンポーン。

虚しく館内放送終了のチャイムが鳴る。

『・・・・・・・・・・。』

リヴァイアサンは何も言わない。呆気にとられて沈黙しているのだろうか。

「・・・・ふ」

の口から不吉な声が漏れる。

「・・・ふっ・・・ふふっ・・・ふふふふふふっ・・・・!」

『・・・・あ、あの・・・?』

リヴァイアサンが恐る恐る尋ねる。

は低い声で笑っている。だが、目は全く笑っていない。

目元には暗い影を帯びていて、リヴァイアサンでさえも「ひっ」と声を上げた。

そして次の瞬間。











「誰が副委員長だ!?ゴルァぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」












は薄いTシャツにスウェットのズボンというお休みスタイルのまま、部屋を飛び出した。

廊下をものすごい形相で走り抜ける

振り向く生徒が驚きに声を上げる。こうなりゃ男子も女子も関係ない。

男子はの形相に怯えた声を上げ、女子は滅多に見られないのお休みスタイルに

感激した黄色い叫び声を上げる。

だがはそんなことに目を向けもせず、ひたすら真っ直ぐブリッジを目指した。

「なんだなんだっ!?どうした副委員長!!」

「すっごーい!様速いっ!さすが“銀色の風”ね!!」

「きゃぁぁっ!様セクシーっ!お休みスタイルだわぁあ!!」

生徒達がどんな声を上げようが関係あるめぇ。

はエレベーターにひらりと飛び乗り、3階で降り、更にブリッジへのリフトに乗った。

そして。



「ふざけんなよテメェらぁぁっ!」



ブリッジに着くなり、叫んでみた。

いきなり現れたに、ブリッジにいる全員が固まっている。

スコールでさえもポカンと口を開け、硬直しているではないか。

とはいえ、何故全員が硬直しているかというと。

「・・・あなたその格好のままここまで走ってきたの?

が着ているものはお休みスタイルの服。

Tシャツもスウェットも薄い。それだけに、見える体の線もはっきりしている。

つまりはかなりセクスィーなのだ。

そして何より。

「・・・・どうしてそんなぬいぐるみを持っているの?

の左腕にしっかりと握られているのは、愛らしい目をしたぬいぐるみ。

ピンク色の全身で、耳が長い。

は怒鳴った。

「ぬいぐるみじゃねぇっ!ウサちゃんだ!!!




        似  合  わ  ね  ぇ




「お前そんな趣味だったのか?」

「俺が好き好んで買ったんじゃねぇよ!!ファンの子からもらったんだ!!

『これ、私だと思って可愛がってください・・・(ハァト♪)』って言われたんだ!!」

流れる沈黙。すごい形相のままの

キスティスは「おほん」と咳払いをし、改めてを見つめた。

「えーと、とっても可愛いウサちゃんね。」

「だろ?これ結構気に入っててさぁ・・・・ってそうじゃねぇ!!

何でどーちて俺が副委員長なんだっ!?俺そんなこと一言も聞いてねぇぞっ!!!」

「どうしてって・・・。」

キスティス、シュウ、ニーダ、スコールは顔を見合わせた。

どうして、と言われても。

スコールを支援するのに一番適任だと思ったからであって。

スコールと以外の全員が声を揃えて言った。

「「「以外にいないでしょう。」」」

「どうしてそうなるんだよ!!」

はウサちゃんを投げ付ける勢いで叫んだ。

「俺は絶対に嫌だからな!!!副委員長なんてクソ食らえ!!」

はそう言うと、フンッ、と腕を組んでくるりと後ろを向いてしまった。

いつも頭の回転が速く、キラキラと輝いてみるが、何故こうも子供っぽい。

拗ねたは、誰かが「じゃあやらなくてもいいよ」というまで動かない気らしい。

キスティスも、シュウも、ニーダも、困って顔を見合わせている。

だが、ただ一人スコールだけは、ふぅ、と溜息をつき、顔を手で覆った。

そして、ぽつりぽつりとしゃべり出す。

「そうか・・・お前が昨日言ったことは、全てただの出任せだったのか・・・・」

ギクリとの肩が震える。

スコールは続けた。

「俺と一緒に頑張りたい、俺の力になりたいって言ったのは、嘘だったのか・・・・。」

いかにも落胆したという様を見せながらスコールは言う。

は、まるで首が錆びついた鉄と化したかのように、ギギギと振り返った。

頬の筋肉が引き攣っている。ヒクヒクしているのは見間違いではなさそうだ。

「いやその・・・嘘とかじゃないんスけど・・・。」

「そうか・・・はそんな簡単なつもりで俺の力になりたいと言ったのか・・・。

つまり、結局は何の役にも立たないということか・・・。残念だ・・・。」

「あのー・・・スコールさん、聞いてます?」

「本当に残念だ・・・。結局俺は一人なんだな・・・。」

の顔に、だんだんと怯えの色が見え始める。

「俺は一人で、戦場の先頭で死んでいくんだな・・・。誰にも嘆かれることもなく・・・。」

それがトドメだった。

「だぁぁぁっ!!わぁーったよ!やりゃいいんだろうが、やりゃあ!

わかりました、やらせて頂きます!副委員長引き受けました、これでいいか!?」

ヤケクソ気味には怒鳴った。

さすがにスコールがここまで傷付くとなれば、断るわけにもいかないのだろう。

「・・・二言はないな?」

「ねぇよっ!!やってやろうじゃんかよ!!」

半泣き状態のは、ウサちゃんをぎゅうっと抱き締めてスコールを恨めし気に睨んだ。

スコールは、その言葉を聞くと顔から手を離す。

そして。

「・・・頼んだぞ、。」

その顔には、ニヤリとした「してやったり」という表情がありありと浮かんでいた。

は呆気に取られる。

今までの傷付いた様子は、全て演技だったというのか!?

これには、さすがのキスティス達も驚いた。

無愛想でクールが売りの彼が、こんな芝居を演じるなんて。

全員が思った。


   コイツもしや腹黒・・・?


やられた。

はその場に頭を抱えてしゃがみ込んだ。

こんなヤツに騙された。こんな腹黒男に。

とはいえ、今更言ったことを撤回するなんて出来なくて。

結局、は『副委員長』という看板を背負わされることになったのだった。








バラムに到着し、スコールは早速SeeD組に指示を出した。

スコール、、ゼルの3人はバラムへ突入。その他はガーデンで待機だ。

スコール達はバラムを見て、驚愕した。

「・・・遅かったか。」

の呟きが漏れる。バラムは、既にガルバディアに占領された後だったのだ。

これでも全速でここまで来たのに。間に合わなかったのが、どうしようもなく悔しい。

バラムに入ると、ガルバディア兵が入り口を封鎖していた。

どうやってバラムの中へ入ろうか。それが問題だった。

スコール達は腕を組んで眉をしかめる。

「・・・どうする?」

ゼルが、困ったようにスコールに尋ねた。スコールは小さく唇を噛んでいる。

はじっとガルバディア兵を見つめていたが、ハッとしてバラムの奥を見つめた。

大きい図体に日に焼けた体。そして、あの陽気な笑い声。

雷神だった。雷神がいるということは、もしかしたらサイファーもいるのかもしれない。

そう考えたら、もう止まらなかった。

は叫ぶ。

「雷神っ!!!」

かなりの距離があったが、さすがに聞こえたのだろう。

雷神は振り返り、そして驚愕の表情を浮かべた。

「うぉ! お前達、何でここにいるもんよ!?」

「バラムを解放しに来たもんよ!

・・・じゃなかった、バラムを解放しに来たぜ!」

つい雷神につられて、同じ口調で叫んでしまったゼル。

雷神はゼルの言葉を聞くと、口元にニヤリと笑みを浮かべた。

「サイファー、『スコール達が来たら、軽〜く捻ってやれ!』って言ってたかんな!」

戦いたくない。は入り口のガルバディア兵を押し退け、雷神に駆け寄った。

そして、必死の思いで叫ぶ。

「やめろ!俺達はお前らと戦いたくない。頼むから話を聞いてくれ!」

叫ぶを見て、雷神は目を細めた。

こんなに必死にが物を言うというのを、雷神は見たことがない。

それだけ、本気だということか。

雷神は困ったように眉根を寄せてから、小さく溜息をついた。

「・・・話だけなら、聞くもんよ。でも、風神も一緒にだかんな。それでいいか?」

「・・・ああ。サンキュ。」

は安心したように微笑んだ。






スコール達は、雷神に連れられてホテルへと向かった。

ホテルに入ると風神がいて、風神はスコール達の姿を見て驚愕の表情を浮かべる。

そして、一気に怒りを露にして雷神を睨んだ。

「怒!」

「待つもんよ!スコール達と話し合うために連れて来たもんよ!」

風神は雷神の言葉に、眉をしかめる。

「・・・我、意味不明。」

混乱しているようだ。それもそうだろう。

雷神は、“敵”を「話し合うため」に連れて来たのだから。

風神が警戒するのも当たり前だ。

スコールは、一歩前に出て言った。

「お前達・・・魔女に命令されてんのか?」

「否!」

即座に答える風神。雷神も頷き、風神に続いて口を開いた。

「魔女なんて関係ないもんよ! 俺らの考えでやってるもんよ。」

「どんな考えなんだよ・・・それ。」

「俺たちゃサイファー派だもんよ!」

その一言で、スコール達は思い知った。

風神と雷神が、本当にサイファーのために頑張っているのだということを。

自分達の損得は関係なくて、ただサイファーの力になりたいということを。

スコールは一度目を閉じてから、続けた。

「・・・それは構わない。でも、もう、手を引けよ。これはガーデン内の喧嘩とは違う。」

それは、風神と雷神の二人と剣を交えたくないから。

そして、風神と雷神のためだと思ったから。

けれど、本当は答えはわかっていた。予想出来ていた。

雷神と風神は、ぽつりと呟く。

「引けないもんよ・・・」

「・・・否。」

それはわかっていた答えだ。だから、スコール達も驚きはしない。

雷神は、小さな声で言葉を紡ぐ。

「サイファー、手先はたくさんいるけど仲間は俺達だけだもんよ・・・

ガルバディア兵たちゃ、魔女が恐いからサイファーに従ってるだけだかんな。

俺達、いなくなったら、サイファー・・・仲間いないもんよ・・・」

思いが強いのはよくわかった。けれど。

「仲間だったら・・・サイファーにバカな事、やめさせろよ!」

叫ぶゼルに、雷神達は叫び返す。

「全部肯定!」

「俺たちゃそんなケチくさい仲間じゃないもんよ!

そんなペラペラな仲間じゃないからサイファーの事全部認めるもんよ!」

全部認める。それだけ、サイファーのことを信頼しているということか。

そして、それだけ・・・サイファーとともに歩みたいと思っているということか。

本当は、二人と剣を交えることなど避けたかった。

けれど、仕方がないのかもしれない。

「気持ちは・・・わかった。ガーデンに戻る気はないんだな?」

尋ねるスコールに、雷神達は静かに頷く。

スコールも頷き返し、言った。

「・・・手加減はしないからな。」

正式に敵と見なした以上、手加減をすることは出来ない。

それは、自分達のためにもならないし、相手に失礼だ。

「(・・・仕方ないよな? 仲間ってそういう事なんだろ?)」

昨日、にそういうことを教えられた。

雷神と風神は、達と同じなのだ。

自分が本当について行きたいと思う相手に、ただついて行く。

それは、自分について来てくれる達と何ら変わりのないもので。

だから、雷神達を止めることは出来ない。自分達は、正々堂々と戦うまでだ。

「・・・お前らとは、出来ることなら戦いたくなかったよ。」

「俺達も同じだもんよ・・・。」

「・・・・・・我、感謝。」

風神の言葉の意味がわかり難かったが、きっと「感謝している」と伝えたいのだろう。

は頷いた。

「・・・ひとつ、お前らに聞きたいことがある。最後に、いいか?」

雷神と風神は顔を見合わせたが、おずおずと頷いた。

それを見て、は尋ねる。

「・・・は・・・どこにいる?」

の兄の名だ。

雷神と風神はもう一度顔を見合わせ、それから躊躇するように口を開いた。

「・・・は、今・・・バラムにいるもんよ。」

「港。船着場。・・・行。」

がバラムにいると聞いて、の胸は大きく跳ね上がった。

ドクン、と響いた鼓動。そして、はっきりと感じる恐怖感。

雷神達に感謝した。誤魔化さず、ちゃんと教えてくれたことを。

は微笑み、頷いた。

「・・・サンキュ。行ってみるよ。」

、スコール・・・いいのか?」

ゼルがおずおずと聞くが、これ以上言葉は必要なかった。

「もう話したくないもんよ! 何か辛いもんよ!」

だって、例え敵でも、自分達は仲間なのだから。

風神は涙を堪えるように頭を振ると、雷神の背中を思い切り蹴った。

「泣言禁止! 走!」

そう。走って行け。

自分達の信じる相手の元へ。

風神と雷神は、ホテルの入り口で一度スコール達を振り返り、そのまま走り去っていった。

胸がざわめく。哀しいのかも、しれない。

「誰が敵で誰が味方になるかなんて流れの中でどうにでもなってしまう。

俺達はそう言われて育ってきたんだ。だから・・・特別な事じゃない。」

スコールはそう言いつつ、自分の言葉に疑問を感じていた。

特別なことじゃないのならば、胸に渦巻くこの気持ちはなんなのだろう、と。

黙り込むスコールとゼルを横目に、はホテルの入り口へと歩き出す。

「おいっ、、どこ行くんだよ?」

ゼルはを呼び止め、じっとを見つめた。

わかっている。兄のところへ行くのだろうと、安易に予想出来た。

けれど、という男はやはり怖い。

ただ話をするだけかもしれない。けれど、を行かせたくはないのだ。

は立ち止まり、笑顔でゼルとスコールを見た。

「・・・大丈夫。話、してくるだけだからさ。」

「・・・俺達も行く。」

「ううん、平気。・・・大丈夫だよ、騒ぎなんて起こさないから。」

苦笑するを見て、ゼルはますます不安に駆られる。

スコールは目を細め、真っ直ぐにを見つめた。

「・・・その言葉、信じて良いんだな?」

「馬鹿。大袈裟なんだよ。・・・大丈夫。すぐにガーデンに戻るから、先に帰っててくれ。」

の言葉は信じたい。信じられる相手だから。

けれど、はどこかいつも一人で何でも背負うところがある。

は言った。「何でも相談して欲しい」と。

けれど、それはスコールにとっても同じなのだ。

相談するだけではなく、にも相談して欲しい。

力になれることがあるのなら、いつでも力になりたい。

勝手に、自分の前からいなくなるのは・・・やめて欲しい。

だから。

「・・・待っているからな。」

「おー。」

は帰って来るだろう。けれど、不安な気持ちは簡単には消せない。








は、ホテルを出てそのまま船着場へと向かった。

銀色の髪が海風に靡き、黒い服は威圧感を増幅させている。

圧倒的な存在感。それに、恐怖すら覚える。

「バラム解放、成功おめでとう。」

「・・・るせぇよ。」

ニヤリと笑いながら振り向いたに、は吐き捨てた。

こいつは、きっとバラムが解放されようが別に構わなかったのだ。

自分が不利になるとは、これっぽっちも考えていないに違いない。

は口元に薄い笑みを浮かべたまま、肩を竦めた。

「ご機嫌ナナメ、か。残念だな。」

「お前に聞きたいことがあって来た。質問に答えろ。」

「答えられることならばいくらでも?」

いけ好かない奴だ。はつまらなそうに眉根を寄せた。

「・・・どうして、収容所脱出の際、俺にガンブレードを返した?

敵の武器を敵に返すなんて、あんたの考えが全く読めないな。」

ずっと気になっていた疑問。

は、一瞬目を細めた。その表情に、はハッと顔を上げる。

目を細めたの表情。それは、ほんの少しだが、どこか泣きそうな子供の顔をしていた。

そう、スコールが、ときどきするような表情と同じで。


―――――何か、理由がある・・・?


もしかしたら、自分達と敵対しているのには何か深い事情があるのではないか。

そんな甘い考えすら頭に浮かぶ。

けれどは、すぐにその表情を消して答えた。

「・・・あんなとこで、簡単にくたばられちゃ面白くないだろ?

もっと苦しんで死んでもらわないとな。・・・まだゲームは終わってないんだから。」

「・・・悪趣味。」

やはり、事情などないのか。は溜息をついた。

まだ心のどこかで、実兄と戦いたくないと悲鳴を上げてる自分がいる。

それが悔しくて、どうしようもない。

「お前は、俺を倒すために強くなったんだろ?」

その通りだ。けれど、出来ることなら戦いたくなんてないのに。

はそんなの思いを見透かしたかのように、冷たく言い放った。

「教えてやるよ。俺達は、戦い、どちらかが死ぬことでしか決着をつけられないのさ。

俺が勝てばお前は死ぬ。お前が勝てば俺が死ぬ。戦いたくないなんて、甘い考えは捨てろ。」

でないと。

「・・・地獄を見るぜ。」

その兄の言葉が、深く胸に突き刺さる。

けれど、それは突き放すような言い方ではなかった。

何故だろう。には、間違いなく『助言』に聞こえたのだ。

兄の冷たい言葉が、何故か自分を助けるための言葉に聞こえたのだ。

それも、『戦いたくない』という気持ちが創り出した幻だったのだろうか。

は胸のざわめきを抑えながら、小さく頷いた。

「・・・もう、後戻りは出来ないんだな。・・・兄貴。」

「・・・ああ。」

すれ違い。


は踵を返し、兄の視線を背に受けながらその場を後にした。

地獄を見る?見てやろうじゃないか。

もう地獄なんて、ずっと昔に見ているのだから。







がバラム・ガーデンのブリッジに戻ると、そこにはスコールとキスティス、

それにシュウ、ニーダがいた。

スコールは戻ってきたを見て、ほっと安心したように息をついた。

心配だったのだ。が本当に戻ってくるのかどうか、ずっと気がかりだったのだ。

けれど、現実に戻ってきてくれて、安心したのだろう。

はスコールに尋ねた。

「次はどこに行くんだ?」

バラム解放が終わった今、また新しい目的地を決めなければならない。

スコールは腕を組み、考える。

その時、ブリッジのリフトが上がってセルフィがやって来た。

「お邪魔しま〜す。」

ミサイル基地から帰ってきたときは、かなり疲れた表情をしていたが、

今はもう大分落ち着いた表情をしている。

「どうした?」

「次の目的地決まった〜?」

「考え中だ。」

スコールが言うと、セルフィは少し微笑んで言った。

「あのね、トラビア・ガーデンも行ってみる〜?

すっごい山奥だから魔女も相手にしないかもしれないけど・・・

もしかしたらって事もあるし〜・・・・って訳。」

とはいえ、トラビア・ガーデンはミサイル攻撃で酷いことになっているのではないか。

そう思ったが、だからこそセルフィは行きたいのだという考えに辿り着いた。

きっと、今も気がかりでならないのだろう。

大切なガーデンが、ミサイルで攻撃されてしまったのだから。

スコールは少し考え、

「選択肢に入れておく。」

「ありがとう。」

セルフィはスコールの答えを聞き、安堵したように微笑むと、ブリッジを出て行った。

その後姿を見て、酷く辛い気持ちになる。

セルフィを見ているだけでわかった。無理に明るく振舞っているのだ。

仲間に心配をさせないように、笑顔で頑張ったのだろう。

無理をしながらでも立ち直ろうとしているセルフィ。

スコールは、くるりと振り向きニーダに言った。

「トラビア・ガーデンに向かう。」

「了解!」



ガーデンはゆっくりと、トラビア・ガーデンへ進路を向けて動き始めた。










<続く>

=コメント=
今回は普段より少々短めです。
というか、本当はこの長さが普通なんです。
最近長くなり過ぎてただけなんです。はい。
今回はギャグあり、シリアスありってカンジで忙しかったですね。
も心のどこかで何かを決意したようですが・・・?

次回は少々グロテスクな表現が入ります。
そして、の正体が明らかになる・・・かも?
ご期待ください。



[PR]動画