魔女って・・・なんだっけ?





ときどき、変な夢を見る。










hat is your hope ?










とリノアが保健室に行くと、もう既にスコールが学園長と話をしているところだった。

来たのが遅かったため、もしかしたらいくつか聞きそびれているかもしれないと思ったのだが、

どうやらまだ本格的な話には入っていないらしい。

とリノアはスコールの隣に立ち、シドを見つめた。

「君達には、恥ずかしいところをたくさん見られてしまいますねえ。

さて、どんなお話をしましょうか?」

「報告したい。」

間髪入れずスコールが言った。けれど、シドは苦笑を浮かべる。

「いやいやそれには及びません。大体何が起こったのか想像がつきますから。」

つまり、報告する必要はないということか。スコールは溜息をつき、次の話題に移った。

「・・・SeeDの本当の意味を教えてください。」

「・・・SeeDはSeeD。バラム・ガーデンが誇る傭兵。

いやいや、君は何か気付いているようですね。」

スコールは頭を振る。

「(・・・俺はいつだって何も知らない。)」

わかっているフリをしているだけ。本当は何もわからなくて、混乱しそうなほどなのに。

けれど、誰もこんな自分に気付いてくれない。見抜いてくれる者が、いない。

「SeeDは魔女を倒します。ガーデンはSeeDを育てます。

SeeDが各地の任務に出かけるのは魔女を倒す日のための訓練のようなものです。

でも、魔女が世界に恐怖をもたらす存在となった今、

SeeDの本当の戦いが始まったと言えましょう。」

SeeDの本当の戦い。その言葉を、スコール達は深く胸に刻んだ。

「魔女イデアの事を教えてください。学園長の奥さんだと聞きました。」

「・・・そうです。イデアは子供の頃から魔女でした。

私はそれを知りながら結婚しました。幸せでした。

2人で力を合わせて働きました。とても幸せでした。

ある日、イデアはガーデンを作ってSeeDを育てると言い出しました。

その計画に私は夢中になりましたがSeeDの目的だけが気懸かりでした。

イデアとSeeDが戦う事にならないか、と。イデアは笑って言いました。

それは絶対にない、と。それなのに・・・・。」

結局、戦うことになってしまった。

シド学園長は、その戦いをなんとか止めたかったのだろうか。

「マスター・ノーグの事を教えてください。」

「あれはシュミ族の者です。一族の変わり者とでも言いましょうか。

私がガーデン建造の資金造りに走り回っている時に知り合いました。

ガーデン建設に興味を示して私達は意気投合・・・彼のお金でガーデンは完成。

ところが、ガーデンの維持にも莫大な費用が必要でした。

我々はそのお金を得るためにSeeDの派遣業務を始めたのです。

ノーグのお金儲けのアイディアはことごとく当たりました。

莫大なお金がガーデンに入ってくるようになりました。

そしてガーデンは変わっていきました。最初の理想は失われ、真実は覆い隠され・・・・。

・・・この辺でいいですか? はっきりした態度を示さなかった私が一番悪いのですから・・・」

シドはそこで話題を切ってしまった。きっと、話すのも辛いのだろう。

とりあえず次の話に移ることにした。

「これからガーデンはどうなるんですか?」

「まず、この漂流状態を早く終わらせて・・・その後は・・・

ガーデンとSeeD。本来の姿に帰れるといいのですが・・・」

そう簡単なことではないだろう。ガーデンにはたくさんの生徒がいて、その生徒は

皆それぞれ違う考えを持っているのだから。

ふとシドは顔を上げ、に言った。

、ガーデンの操作の解析をしてもらってもいいですか?」

「・・・俺が!?」

驚愕するを見て、シドは苦笑した。

「バラムに衝突しそうになったとき、ガーデンを捜査して回避させたのはあなたですからね。」

「そりゃ、そうだけど・・・!!」

「頼みますよ、・イオザム。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・了解。」

ものすごく長い間だった。

スコールとリノアはその様子に噴き出し、クスクスと笑っている。

少し、リラックス出来た瞬間だった。




学園長との会話を終え保健室を後にすると、ロビーでシュウに呼び止められた。

かなり焦っているようで、いつもの彼女らしい冷静さは窺えない。

「スコール! スコール!! あ、あのね、シド学園長知らない?」

「保健室だ。」

「何かあったのか?」

が尋ねると、シュウは慌てた様子で言った。

「2階廊下奥のデッキへ行くとわかるわ。船が近づいてくるの。

も、もしかしたらガルバディアの船かもしれない。

ま、魔女が報復に来たのかもしれない。と、とにかく、学園長に報告しなくちゃ。」

シュウはそのまま、保健室へと走っていった。

スコール達はその後姿を見送り、顔を見合わせる。

三人は、急いでデッキへと向かった。




デッキに飛び出して、全員で目を見張る。

シュウの言った通り、確かに船がこちらに向かって来る。

けれど、規模は大きくない。小さめの船である。

もし戦闘になったとしても、あれなら勝てるかもしれない。

船はそのままガーデンに近寄り、デッキから見える位置に船を付けた。

すると、相手の船のデッキに、数人の白い服を着た青年達が現れた。

青年の一人が言う。

「シド学園長いらっしゃいますか!!」

「学園長はいない。お前達は・・・ガルバディアの船か?」

「我々はSeeD! これはイデアの船!我々は魔女イデアのSeeD!」

その言葉に、スコールとは顔を見合わせる。

「(・・・SeeD!?)」

SeeDというのは別にいい。問題はそこではない。

魔女イデアのSeeD、というところに疑問を持ったのだ。

シドの話によれば、SeeDは魔女を倒すための部隊のはず。

なのに、その魔女のSeeDだと?意味がわからない。

「そちらへ行きます! 武器は持っていません!」

白いSeeD達は、そう言うとこちらのデッキに飛び移ってきた。

スコール達は思わず身構える。

だが、どうやら武器を持っていないというのは本当のようだ。

青年達は言う。

「我々には戦意はありません。シド学園長にお話があります。シド学園長は・・・」

「ここです。」

シュウに連れられて、シドが姿を現した。

「シドさん。エルオーネを引き取りに来ました。ここはもう安全ではありませんよね?」

問われ、シドは表情を曇らせる。

「・・・そうですね。残念ですが、確かにそうですね。」

エルオーネ。その人物の名前に、スコールもも覚えがあった。

スコールはラグナの世界で見たウィンヒルの少女、エルオーネ。

はラグナから聞いた不思議な少女、エルオーネ。

スコールとが思っている人物は、同一人物だ。

シドが、スコールを見つめて言った。

「スコール。君はエルオーネを知ってるはずです。

ガーデンの何処かにいるはずだからここに連れて来てもらえますか?」

「・・・了解。」

スコールは頷き、とリノアと共にガーデン内に捜しに向かった。







スコール達は、手分けして捜すことにした。

はガーデン内を走りながら、エルオーネがいそうな場所を考える。

駐車場や保健室はないだろう。却下だ。

ついでにいうと、寮の方にいるとも思えない。

エルオーネはガーデンの生徒ではない。ということは、2階も却下だろう。

「・・・エルオーネ・・・確か、本が好きって言ってたか?」

かつてラグナから聞かされたエルオーネの話を思い出す。

不思議な力を持っていて、けれど至って普通の女の子のエルオーネ。

本を読むのが好きで、笑顔が絶えない女の子だったという。

「・・・図書室にでも行ってみるか。」

は考え、図書室へと歩を進めた。







図書室に行くと、彼女は、やはりそこにいた。

女性はくるりと振り返ると、を見てにっこりと微笑む。

「こんにちわ、。」

自分の名前を知っている。は目を細め、尋ねた。

「あんた・・・エルオーネか?」

「そう、エルオーネ。」

女性は頷く。ラグナから聞いた少女、エルオーネが、彼女なのか。

もし本当に彼女が“ラグナの”エルオーネなのだとしたら、ラグナを知っているはずだ。

「ラグナを・・・知ってるな?」

聞くと、エルオーネは再び頷いた。

「知ってる。大好きなラグナおじさん。」

「なぁ、教えてもらってもいいか?アレは何なんだ?時々夢のように現れる、アレは。」

「ごめんね、。上手く説明出来そうにない。でも、一つだけ。あれは『過去』よ。」

は納得したように溜息をついた。

わかってはいたが、やはりあれは過去だった。

は顔を手で覆う。エルオーネは続けた。

「過去は変えられないって人は言う。でも、それでもやっぱり・・・

可能性があるなら試してみたいじゃない?」

「過去を変えたいだって? あんた、それ本気で言ってんのか?

その言い方からすると、あんたがやってるんだな。

あんたが、俺達を『あっちの世界』に連れていってるんだな?」

「ごめんね。」

エルオーネは、弁解することもなく静かに謝る。

それが、逆にを苛立たせた。

「どうして俺達なんだ・・・。俺達、今自分のことだけで精一杯なんだぞ?

スコールなんて、もう少し無理したら・・・本当に壊れちまうかもしれない。

今、俺達はそういう窮地に立たされてるんだ。どうして俺達なんだ?

頼むから俺を・・・俺達を巻き込むな!!俺達をあてにしないでくれ!!」

「ごめんね。」

謝るだけで、「もうしない」とは言ってくれない。

どうして、謝る?どうして、自分達が巻き込まれないといけない?

が混乱して叫んだ直後、シュウとスコールがやって来た。

、エルオーネはいた?」

「あの・・・私です。」

エルオーネは立ち上がる。はそれを見て、じっと睨み付けた。

このエルオーネという女性が、自分にとって危険人物だと思った。

苦手な人物だと、そう思った。

エルオーネは黙ってに近付くと、消え入るような声で囁く。




       『頼れるのは、あなた達だけなの・・・。』




その言葉に、は目を見開く。

ガタガタと、自分の意思とは反対に体が震え出す。

スコールはそんなの様子に、ふと気付いて振り返った。

?」

は、小刻みに震えるからだを、自分自身の腕で抱き締める。

こうでもしないと、震えを止められないと思った。

怖くて、寒くて、不安で、混乱していて。

胸が何かに圧迫されて、上手く呼吸が出来ない。

だんだんと速くなる鼓動。そして、呼吸。

「・・・・・・!?」

スコールが眉をひそめ、の両肩を掴んだ。

ッ!どうしたんだっ。」

「・・・頼れるのは、俺達だけ、だって・・・?あいつ、正気なのかよ・・・。

エルオーネは、俺の本当のことを知ってるのかよ・・・、知って言ってるのかよ・・・」

震えが止まらない。

怖くて怖くて、たまらない。

スコールは、これはまずいと思ったのか、の肩を強く揺さぶった。

!!目を覚ませ、!!」

揺さぶられて、やっとはスコールを見た。

けれど、その顔はスコールを見た瞬間、更に怯えた色を浮かばせた。

「俺に触るなっ!!!」

は思い切りスコールを突き飛ばす。

スコールは咄嗟のことに受身が取れず、壁に強かに背中を打ちつけた。

ドンッ、という音がして、スコールが痛みに顔を歪める。

は、それでも悪いことをしたという様子を見せなかった。

ただひたすらに怯えて、ガタガタを体を震わせ、顔色は真っ青だ。

ッ・・・・!!」

スコールが必死にを正気に戻そうとするが、スコールの声は届かない。

「あ・・・あぁあ・・・・ぁ・・・・!」

呼吸が出来ない。息苦しい。めまいがする。












「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」




















































真っ暗だ。




どっちを見ても、真っ暗で、何も見えない。




―――――言ったであろう?お前は、普通の人間ではないのだと―――――




声が、暗闇から聞こえた。




は、ぼんやりと頭を上げ、上を見上げる。




―――――お前は、特別な存在としてこの世に生まれてきた―――――




特別な・・・存在・・・?




―――――お前は、・・・・の天性の才能を持っているのだよ―――――




わかってる・・・。俺はその力のせいで、周りの人間・・・親からまでも、蔑まれてきた・・・。




―――――我が名はアルティミシア。イデアの次は、お前の番ぞ・・・―――――




俺の、番?




―――――その力に、自分でさえもほとほと困っているのだろう?

   ふふ、私が助けてやろうではないか。その力を、有効に使ってやろう。
―――――




この力は、誰にも使わせちゃいけねぇんだ。絶対に。




―――――愚かな。ならば、無理矢理にでもその体奪い取るまで。―――――




その時は、お前に奪われる前に死んでやるよ。・・・この力ごと、な。




―――――愚かな・・・・是非もない・・・―――――











夢を、見た。







































ぼんやりと目を開けると、白いカーテンが見えた。

薬品のツンとした匂いや、清潔なシーツの心地良さから、ここが保健室なのだと気付く。

体を起こすのが億劫で、ベッドに横になったまま深く息をついた。

その時、カドワキ先生が顔を覗かせた。

「やぁ、目が覚めたかい?」

「カドワキ先生・・・。」

カドワキ先生は、やれやれと肩を竦めると、こちらに歩み寄ってきた。

それから、呆れたように口を開く。

「全く・・・。急に、スコールが気を失ったあんたを抱えてくるから何事かと思ったよ。

あんたはあんたで真っ青な顔をしてるし、ホントに何があったんだい?」

何があった、と言われても。

エルオーネに囁かれ、その後のことは覚えていない。

けれど、どうしようもなく怖くなったことだけは記憶にある。

体が震えて、止まらなくて、呼吸が乱れて、苦しくて。

そして、何かの夢を見た気がする。

「スコール、随分と慌てていたよ。あんなに焦ったスコールを見たのは初めてだよ。」

「スコールが?」

あの無愛想で他人のことなんてあまり考えないスコールが、慌てていたなんて。

それは惜しいことをした。気絶したフリをして、是非とも拝みたかったものだ。

「カドワキ先生、・・・エルオーネ、どうなったか知ってる?」

「エルオーネ?ああ、あの彼女かい?彼女なら白いSeeDの船に乗って行ったって話だよ。

それはそうと、今大変なことになってんのさ。このガーデンがフィッシャーマンズ・ホライズンに

突っ込んじまってね。今スコール達が謝罪に行って、帰ってきたとこさ。

しかもなんと、途中で別れたセルフィ達も戻ってきたみたいだよ。」

「セルフィ達が!?」

はベッドから勢い良く体を起こし、それから急に襲ってきためまいによろめいた。

カドワキ先生はそんなに黙って手を貸す。

「慌てても良いことなんてないよ。セルフィ達はもう逃げないんだから。

さっきスコール達がそろってあんたの様子を見に来たんだけどね、あんたがまだ寝てたから

心配しながら出て行ったよ。会いに行ってやれば喜ぶだろうさ。

スコールなんて、フィッシャーマンズ・ホライズンで腑抜けてたみたいだからね。」

は頓狂な声を上げた。

「・・・なんで?スコールが腑抜けてたら意味ねぇじゃん。」

「あんたのことが気になって仕方なかったんだろうさ。ほら、さっさと行ってやんな。」

カドワキ先生に背中を叩かれて、目が覚めた。

スコールが何故腑抜けてたのか、よく理由はわからないが、とりあえず行った方がいいだろう。

はカドワキ先生に礼を言い、保健室を後にした。







『スコール・レオンハート、・イオザム、学園長室まで来てください。』

ふとロビーに行けば、アナウンスがかかった。

スコールを捜そうと思っていたから、丁度いい。学園長室に行けば会えるだろう。

はそのまま、足を学園長室へと向け駆け出した。


学園長室に行くと、スコールがもう既に来ていた。

スコールはの姿を見ると、少し目を見開いて、それからすぐに目を細める。

心配、してくれたのだろうか。

「もう・・・大丈夫なのか?」

絞り出すようにスコールは尋ねる。は少し微笑んで、頷いた。

「ああ。・・・ワリィ、俺覚えてないんだけどさ・・・なんかスコールが俺を保健室まで

連れてきてくれたってカドワキ先生から聞いたからさ。・・・サンキュ。」

「覚えてないのか?」

問われ、少し言葉に困りながらも頷く。

スコールは頷いたのを見て、そうか、とだけ呟き、黙り込んでしまった。

何かいけないことを言ったのだろうか?は首を傾げる。

「学園長は上だ。行こう。」

スコールに言われ、はハッとして頷いた。

そうだ。自分がここに来たのは、学園長に呼ばれていたからだった。

スコールとはブリッジへと上がった。

学園長がスコールを呼んだのは、フィッシャーマンズ・ホライズンでの報告を聞くためだった。

スコールの報告を聞いて、フィッシャーマンズ・ホライズンで何があったのかを知った。

ガルバディア兵がF.H.に現れたこと。そして、それはエルオーネを捜すためらしいということ。

それを命令したのが、魔女イデアらしいということ。

ガルバディア兵のせいで、F.H.は相当なだけ気を受けたらしい。

セルフィ達が、命からがら帰ってきたということも聞いた。

は聞きながら思った。

エルオーネは人に過去の世界を体験させる力がある。

もしかしたら、魔女もその力を狙っているのかもしれない。それとも、他に理由があるのだろうか。

「魔女の手先となったガルバディア軍がF.H.に現れて、

エルオーネの行方を捜している・・・という事ですね。」

「エルオーネ捜索の結果がどうでも街を破壊するという命令も受けていたようです。」

「街を焼き払うのはエルオーネの居場所をなくすためでしょう。」

なるほど。とスコールは頷いた。

「エルオーネを見つけ出すまで魔女は世界中で同じ事を繰り返すでしょうね。

もう迷ってはいられません。」

その先に続く言葉は、安易に予想出来た。

魔女を倒せ、だ。

すると、シドは館内放送のマイクを起動させ、しゃべり出した。

スコールとは顔を見合わせ、首を傾げる。

『こちらは学園長のシドです。皆さんにお知らせがあります。

これからの皆さんの生活に関する重要なお知らせです。ガーデンは移動装置の復旧作業中です。

この作業が終わり次第、我々はF.H.を離れ、旅に出ます。この旅は魔女を倒すための旅です。

ガーデンは魔女討伐の移動基地となります。

ガーデンの運営は今まで通り私と職員が中心になってやっていきます。

しかし、この旅は戦いの旅です。戦いには優秀なリーダーが必要です。』

何を言い出すつもりだ?スコールとは眉をしかめた。

『私は学園長として、皆さんのリーダーにSeeDのスコールを指名しました。

今後、ガーデンの行き先決定や戦闘時の指揮を執るのはスコールです。』

「(・・・・マジかよ。)」

スコールは心底嫌そうに表情を歪めている。

はポカンと口を開け、驚きを隠せない。

『みなさん、よろしくお願いします。』

「(・・・こんなやり方、ありかよ。)」

スコールは心の中で吐き捨てた。

自分はリーダーになんてなりたくない。ましてや、向いてなんていないのに。

どうして、こんなことを勝手に決められなければならない?

『この決定に意見のある職員、生徒は私に直接お願いします。』

「(俺の意見はどうなるんだ・・・)」

意見無視も大概にして欲しいところである。

今まで通りの働きでは、いけないというのか?

シドはマイクを切ると、スコールに向き直って口を開いた。

「スコール、よろしくお願いしますよ。これは君の運命です。

魔女討伐の先頭に立つ事は君の定めなのです。」

その言葉に、スコールは叫んだ。

「俺の人生が最初から決まってたみたいに言わないでくれ!!」

そうスコールは叫ぶと、そのままブリッジを去っていってしまった。

はそれを止めようとしたが、手は空を切る。

沈黙がブリッジに流れ、は溜息をついた。

それから、ぽつりとシドに言う。

「・・・学園長。学園長は、スコールのこと・・・わかってやってて、今回の決断をしたんですか?

リーダーなんて、スコール以外にも出来る奴はいる。シュウ先輩や、キスティス先生だって。

なのに、どうしてスコールに任命したんです?」

「彼は、彼自身の力で、強くならないといけないんですよ。」

は、ハッとして振り返った。

シドは、変わらずいつもの笑みを浮かべているだけだった。






スコールは、自室に戻って寝転んでいた。

突然指揮官に任命されるなんて予想もするはずがない。

大体、どうして自分に?

魔女と戦うのはいい。第一、スコールがSeeDでいる限りそれは避けられない。

指揮官になった以上、ガーデンを指揮し、魔女を倒す。それが使命だ。

だが、ふと思う。魔女イデアは、シドの妻なのだ。

魔女を倒せとは、そのシドの妻を倒せという命令である。

「(・・・そんな命令を出すのは、どんな気持ちなんだろう?)」

スコールは思った。例えば自分がシドの立場だとして、自分にとって大切な人を殺せと

命令するとき、どんな気持ちになるのだろうか。

大切な人。考えたとき、ふとの顔が浮かんだ。

自分でも驚き、頭を振る。

どうしてが頭に浮かんだのかわからない。

スコールは考えるのも面倒臭くなって、そのまま眠りに落ちた。









はその夜、自室で本を読んでいた。

いや、本を読んでいるというのは正確には嘘だ。

本の文字に目は向いているが、実際には読んでいない。

『これから、スコールも大変になりますね。』

「そうだな。けど、確かに学園長の言った通りアイツは自分自身の力で強くならなきゃならねぇ。

やっぱ学園長はすげぇよ。フラフラしてるようで、しっかりしてる。」

は、本に視線をやりながらリヴァイアサンと話をしていた。

これからのこと。そして、スコールのことについて。

前回のノーグの件から、リヴァイアサンはの中にいても敬語で話すようになった。

それが本当の彼だと知っているから、はそれで満足している。

『スコールは、どうするんでしょう。』

「さぁ。生真面目なあいつのことだから、普通にリーダーとしてやってくんじゃねぇか?

それがあいつの使命だ。学園長じゃねぇけど、俺もそう思うよ。」

本人が聞いたら、怒るだろうけど。

はクスクスと笑った。リヴァイアサンも、苦笑している。

と、その時だった。

ドタドタと走っている足音が近付いて来る。

は本から顔を上げ、眉根を寄せた。

そして。

!」

勢い良く開かれたドアの先には、困った表情を浮かべたリノアが立っていた。

息を切らせた様子で、何故かパーティドレスを着用している。

「どうした?」

「あのね、私達スコールの指揮官就任祝いにコンサートを開いたの。

それで、頑張って欲しいって思って・・・これから、私達ももっと頑張るよって伝えたの。

でも・・・スコール、「お前らに何がわかる」って怒鳴って、どこかに行っちゃって・・・。」

あちゃぁ、とは顔を手で覆った。

恐らくスコールは今、どうしようもなく不安定な位置に立たされているのだろう。

リノア達は励ますつもりだったのかもしれない。

けど、あのニブチンスコールにそんなところまで理解できるわけがない。

きっと、逆にプレッシャーを感じてしまったはずだ。

「お願い。私達、そんなつもりなかったの。ただスコールと頑張りたいって思ったの。」

「わかってる。ちょっとした誤解があっただけだ。スコール捜して、ちょいと話してくるよ。」

が笑って言うと、リノアは幾分安心したように頷いた。

「後のことは心配するな。」

「わかった。、スコールのことお願いね。」

は頷き、スコールを捜しに部屋を出て行った。







「とはいえ・・・なんつー自分勝手なヤツ。」

『それは随分前からわかっていたことでは?』

突っ込むリヴァイアサンに苦笑し、は「そうだな」と頷いた。

「全く・・・世話が掛かるヤツだぜ。リヴァ、スコールの居場所とかわからねぇか?」

『私にそんな能力はありませんよ。でも・・・そうですね・・・。

彼なら人気がないところにいると思いますよ。今は特に、一人でいたいでしょうから。』

なるほど、とは頷き、人気のない場所を考えてみる。

自室にいるかと思ったが、きっと今はそんな気分ではないだろう。

保健室や訓練施設、駐車場、食堂はパスだ。

となると、ガードレールの方か校庭になる。

「・・・校庭に行ってみるか。」

は校庭へと駆け出した。




校庭は、無人だった。

何本か立っているライトが暗い校庭を照らしているだけで、明かりは乏しい。

は校庭を見回し、それから校庭のベンチに腰を降ろした。

『スコールを捜さないんですか?』

「なんとなく、スコールがここに来るような気がするんだ。」

俺のこういう勘って、はずれたことねぇし。

は言い、笑った。

もし来なかったとしても、その時はその時である。

また捜しに行けば良い。焦っても、良い結果は導き出せないだろう。

「・・・Whenever sang my songs・・・On the stage, on my own・・・」

は、ふと歌い出した。

ジュリアの初めての歌の発表作。『Eyes On Me』だ。

のハスキーな声が、美しい旋律に合っていて綺麗な歌声だった。

夜空を見上げれば満天の星。どこか、切ない気持ちになってくる。

「・・・whenever said my words・・・Wishing they would be heard・・・」

カツン、と。

靴音がして、は振り返った。

そこには、驚いたように佇むスコールの姿。

ほら。

やっぱり、来てくれた。

俺の勘は当たっただろ?

は微笑んだ。

「よぉ。綺麗な星空の下で、俺と雑談でもいかが?」

「・・・・帰る。」

おちゃらけて言うと、スコールはすぐ不機嫌そうに踵を返した。

けれど、はそれを追おうとはしない。

その代わり、言った。

「今寮の方に戻れば、リノア達が待ち構えてるぜ?今の状態で顔合わすこと出来んの?」

ピタリとスコールの足が止まる。

はクスリと笑った。

「いいから来いよ、こっち。」

「・・・・・・・・・・・。」

スコールは、仕方なくの隣に腰掛けた。

そして、黙ったまま俯く。

はチラリとスコールを見て、小さく溜息をついた。

これは相当の重症のようだ。こんなに沈んでるスコールは見たことがない。

は、しばらくして口を開いた。

「セルフィ達はスコールのためにコンサート開いたんだと思うぜ?」

「・・・俺はそんなこと頼んでいない。」

またこんなひねくれたこと言いやがって。

は内心苦笑した。

「あのさ、じゃあ俺からも言わせてもらう。俺もリノア達と同じこと考えてたから。

・・・もっとさ、俺やリノア達皆に、スコールの思ってること話してくれよ。

俺達だって人形じゃねぇ。確かにスコールからすればほんの少しの力かもしれねぇけど、

それでも俺達だってスコールの役に立てるんだ。

だから、もっといろいろ頼って欲しいし、相談して欲しい。」

スコールは黙り込んでいる。

スコールは怖いのだ。

他人に頼ると、必ずいつか辛い思いをする。

何故なら、いつまでも一緒にいられるわけではないのだから。

自分を信じてくれる仲間がいて、信頼出来る大人がいて、それはとても居心地の良い世界だ。

けれど、それに慣れるともう後には戻れない。

ある日突然その世界から引き離され、誰もいなくなって。

それはとても寂しくて、それはとても辛くて。

・・・いつか、そういうときが来てしまうのを、スコールは知っている。

そして、そんなときに嘆いてしまうのを知っている。

ならば、最初から一人がいい。仲間なんていらない。そう思いたいのだ。

「・・・そうそう。そうやって、たくさん悩んで良いんだよ。」

言われ、スコールは顔を上げた。が微笑んでいる。

「今、一生懸命考えてるんだろ?俺の言った言葉のこと。

きっと俺達の気持ち、わかってくれる。だろ?」

「皆の気持ちはわかった。でも・・・。」

「馬鹿。『でも』や『けど』ってのはいらないんだよ。」

はムッと口を尖らせ、けれどすぐに笑んで話し出す。

「だって・・・皆で一緒にいられるの、今だけかもしれないんだぞ?

せっかく一緒なんだから、もっとたくさん話そう。もっとたくさん考えよう。」

「明日いなくなるかもしれない仲間なんていらない。」

ああ言えばこう言う。こう言えばああ言う。けれど、これがスコールだ。

は苦笑を浮かべた。

「何でも悪く考えるなよ。未来の保証なんて誰にも出来ないんだ。だから、『今』があるんだろ?

皆が、今したいことってのはスコールの力になりたいってことだ。

皆、スコールのこと・・・大好きなんだぜ?スコールと一緒に頑張りたいんだよ。」

「俺と一緒に・・・」

スコールは、ぽつりと呟いた。

は優しく笑い、スコールの髪にそっと触れる。

「スコールはその事だけ覚えとけよ。

一人じゃどうしようもなくなった時に思い出せ。皆、待ってるから。

そりゃ、保証は出来ねぇけど、明日とか明後日とか・・・そんなすぐにいなくなったりはしない。

スコールがしたいことってなんだ?今とか・・・将来とか。」

スコールはの手を振り払おうともせずに、ふっと目を細めた。

「・・・悪いな、そう言う話ならパスだ。はどうなんだ?」

「遠い将来の話は・・・俺もパス。よくわからねぇな。」

が苦笑すると、やっとスコールも少し微笑んだ。

まだ困ったような、どう笑っていいのかわからないような、不安定な笑みではあったけれど。

「俺だって、不安さ。これからどうなるんだろうとか。この先どうすればいいんだろうとか。

けどさ、未来が予想出来たら・・・きっと、人生楽しくない。

『今』があって、『今』何をするかによって未来が変わってくるだろ?

きっと、それが楽しいんだよ。人生ってのは。スコールは、そうは思わない?」

尋ねると、スコールは黙って視線を落とした。

きっと、また考えているのだ。これが、彼の癖だから。

「俺・・・嬉しかったよ。俺が気絶しちまったとき、スコールが心配してくれて。

本当に嬉しかったんだ。」

は言うと、そのままスコールの首筋に抱き付いた。

スコールは少し驚いたが、抵抗しようとはしなかった。

もしかしたら、驚いて動けないだけだったのかもしれないけれど。

「これからも、頑張っていこう。・・・俺も、頑張る。スコールの力になれるように、頑張るよ。」

「・・・・ああ。」





これからも、頑張っていける。

そして、仲間がいる。




スコールは、おずおずと腕を持ち上げると、そっとを抱き締めた。

それが嬉しくて、はもっと体をくっ付ける。



空には満天の星。

そして、心地の良い空気。

抱き締めたぬくもり。





―――――愚かな・・・・





誰かの声がしたような気がしたが、それはあまりに小さ過ぎて、気付くことが出来なかった。












<続く>


=コメント=
この話すんげー長かったです。
とりあえずスコール就任イベント終わりです。
フィッシャーマンズ・ホライズンとか、コンサートのシーンとか、
かなり省いてますがそれはご愛嬌ということで。
近頃思うのですが、このドリームはリヴァイアサンドリームに近いような・・・?
・・・ハッ!断じてそんなことはないのです!!
これは正真正銘スコール寄り逆ハーなのです!!
そりゃリヴァイアサンも活躍しますけど・・・
でもスコールが相手なんです!!!

今回、の正体についてほんの少し触れましたが、
明らかになるのも近いと思われます。
というか、今回の話でわかっちゃった人もいるでしょう。
アルティミシア登場したので、結構気付いた人もいるんではないでしょうか?

次回はスコールが委員長になる話ですね。
早くガルバディア・ガーデンとの戦いが書きたいです。

[PR]動画