ったく、学園長派だの、マスター派だの。




バラム・ガーデンの奴らは、相当暇なのか?




まぁ、俺にとっても良い暇潰しにはなるけど、さ。










hat is your hope ?










そういえば、ひとつ気になることがある。

バラム・ガーデンがこんな状況の時に考えることではないが、気になるものは気になる。

収容所で奪われた愛用のガンブレード。奪ったのは自分の実兄の

普通は敵から奪った武器を、敵に返すなんてことはしない。

そんな敵に塩を贈る・・・いや、魚に水を与えるような馬鹿は、おかしいのだ。

大体、やたらと変な知識をたらふく持っていて、頭の回転も速く、

滅多にヘマをするような奴ではないが、敵に武器を返すとは到底思えない。

そう。何故、は自分に武器を返したのだろうか。

もし自分がの立場だったとしたら、絶対に武器は返さない。

むしろ破壊でも破棄でもして、相手に武器を取らせないようにするだろう。

「(・・・な〜んか、臭うんだよな。アイツ、何企んでやがる?)」

何かを企んでいるとしか思えない。

胡散臭い雰囲気はあるが、その意図がさっぱり見えない。

?」

ふと声を掛けられて、はハッとして顔を上げた。

リノアが不思議そうに自分の顔を覗き込んでいる。

恐らく、難しい顔をして急に黙り込んだためだろう。

「どうかした?」

「や、なんでもねぇよ。ちょいと考え事。気にすんな。」

は苦笑で返し、前を走るスコールの後に続いた。








保健室から駆け出したスコール達は、ひとまず図書館に向かうことにした。

図書館なら死角となる場所も多いし、隠れやすいのではと思ったからだ。

図書館の前でマスター派の生徒やモンスターと戦闘になるかと思ったが、ならなかった。

スコール達は顔を見合わせる。

図書館へと向かう渡り廊下には、人がいなかったのだ。

もしや、マスター派に襲撃されているのでは?

スコール達は図書館へと飛び込んだ。だが。

「ここには学園長はいないぜ。」

図書館に入るなり、一人の男子生徒にそう言われた。

争っている様子はない。図書館は、学園長派が制圧した後だったのだ。

意気込んでやって来たスコール達は、良かったのか悪かったのか複雑な表情を浮かべている。

「よぉ、スコール、。」

と、また別の男子生徒が声を掛けてきた。

振り返ると、そこにはSeeDの制服を着た青年が立っている。

スコールは首を傾げた。

「誰だ?」

その返答に、青年は目を丸くして言う。

「なっ! ひでぇなぁ、俺だよ、俺。一緒に、SeeD試験に合格したじゃねぇか。」

「ああ、お前ニーダ?」

「おぉっ!は覚えててくれたんだな、嬉しいぜ!んで、スコールは?」

「忘れてた。」

あっさりと言うスコールに、ニーダは項垂れた。

「ガクッ。ま、まぁ、お前らしいけどな。

ここは、俺に任せとけよ。きっちり敵を引き付けて、きっちり守ってやるさ。」

ニーダはガッツポーズをして言う。

は笑顔でそれに応え、ニーダと軽く拳をぶつけ合った。

とりあえずニーダがいる限り図書館は大丈夫そうだ。

スコール達は安堵し、学園長を探すため再び駆け出した。






次に辿り付いたのは校庭だ。ここは随分と静まり返っている。

校庭には、セルフィが学園祭のために作っていたステージがあるはずだが・・・。

は校庭の奥へと進み、ステージがあることを見て溜息をついた。

「壊れてないみたいだぜ。セルフィも泣かずにすむだろ。」

がスコール達に振り向いて言った瞬間、人影が飛び出して来た。

瞬時にスコール達は身構える。

「誰だ!!」

「マスター派か!?」

飛び出してきたのは、どうやら学園長派の生徒達らしい。

スコールとは顔を見合わせたが、言った。

「「マスター派だ。」」

その瞬間、生徒達の表情に緊張が走る。

「・・・って言っておいた方が、今は行動しやすいな。」

がそう付け加えると、生徒達は大きな溜息とともに緊張を解いた。

生徒達は顔を上げ、苦笑を浮かべている。

「ひゅ〜、びっくりさせんなよな!」

「うんうん、やっぱりスコールやとは戦いたくないもんね〜。」

生徒達が口々に言うのを聞き、も苦笑を浮かべた。

「なぁ、今ガーデンにはSeeDはいないのか?」

はひとつ疑問をぶつけてみる。

そう。ガーデン内を見ていて思ったのだ。SeeDがほとんどいない、と。

SeeDがいれば、ここまで騒ぎが大きくなることはないはずである。

なのに、SeeDの数は少ないし、騒ぎは大き過ぎるしで気になっていたのだ。

その問いには、男子生徒が答えた。

「ほとんどのSeeDは、学園長が『SeeDの本当の戦い』だかに出してしまったんだ。」

「『SeeDの本当の戦い』、ねぇ・・・。よくわかんね。」

は眉根を寄せて、溜息をついた。

「学園長はここにはいないんだな?」

「うん、ここには学園長はいないよぉ〜。でも、もうチョットここで頑張るつもりぃ〜。」

校庭にも学園長の姿はない。

スコール達は小さく肩を竦め、校庭を後にした。





次に向かったのは食堂だ。

そこにはガーデン教師がいて、スコール達は否応無しにモンスターと対峙させられた。

とはいえ、スコールとの最強コンビの前ではほぼ雑魚のモンスターだ。

軽くあしらうと、スコール達は食堂へと駆け込んだ。

食堂には、数人の生徒がいた。見回してみるが、学園長の姿はない。

すると、生徒達が言った。

「バックアップ、ありがとうね。でも学園長は、ここにはいないよ。

私達は、いると見せかけてここを守るように、言われたのよ。」

「モンスターを連れてる奴らに一斉に攻められたら、いくら俺らSeeDでも敵わないからな。」

「戦力を分断させて各個撃破作戦って訳。ま、私が考えた訳じゃないけどさ。」

は首を傾げる。

「誰が考えたんだ?」

「シュウだよ。」

「この騒ぎが、起こった時にとっさに指揮を執ったのが彼女。」

はああ、と納得して頷いた。

彼女なら確かに的確な指示が出せるだろう。

さすがシュウだ。見事と言わずにはいられない。

スコール達は、もう少し耐え抜くように生徒達に伝え、その場を後にした。






次に向かったのは訓練施設だった。

「いたぞ! 学園長派のSeeDだ!」

ふとそんな声が聞こえ、スコール達は身構える。

だが、周りを見てもガーデン教師は見当たらない。

自分達のことを言われたのではなかったのか?

「スコール、あれ!」

リノアが指差した方向を見ると、そこにはマスター派に囲まれた女子生徒がいた。

しかも、その隣には年少クラスの男の子と女の子までいる。

まずい。非常にまずい状況だ。

「ドジったわ・・・逃がす前に見つかるとはね。」

女子生徒は男の子を背に庇いながら武器を構える。

「俺も戦う!」

叫ぶ男の子。それを笑うマスター派の生徒。

「ははっ、調子に乗ってやが・・・ぐおっ!」

「甘く見てると、痛い目に遭うのはそっちだ!だてに毎日走り込んでないぞ!」

なんと、男の子がマスター派の生徒に体当たりをかましたのだ。

マスター派は急にいきり立つ。

「この野郎!!」

「はいはい、女子供を苛めるとは、男の片隅にも置けねぇぜ。」

マスター派の生徒が振り上げた武器を支えたのは、のガンブレードだった。

間一髪のところで、はマスター派と学園長派の間に滑り込み、ガンブレードで対抗したのだ。

を見た途端に、マスター派の生徒が青褪める。

「ま、まさか・・・!!?お前、任務でいないんじゃ・・・!」

「残念。ついさっき戻ってきたんだよ。俺だけじゃないぞ?お前、後ろを見ろよ。」

恐る恐る振り返るマスター派。そこに見たのは、ガンブレードに手をかけたスコールと、

腕を組んで睨み付けているリノアの姿。

「う、嘘だろ・・・!スコールまで!?」

「さてさて、お前ら、俺達に逆らうとはイー度胸してんじゃん?

前俺と戦って負けたの、忘れたか?んじゃ、今度はもっと足腰立たなくしてやらねぇとなぁ。」

「にっ、逃げろ!!!」

が軽く脅すと、マスター派は呆気なく逃げ出した。

尻尾を巻いて逃げるとは、まさにこういうことを言うのではないか。

はつまらなそうにガンブレードを腰に戻した。

「ありがとう、スコール、。」

SeeDの女子生徒が安堵して言った。

年少クラスの子供達の顔にも、笑顔が戻っている。

「アリガト、兄ちゃん達。俺も、将来は兄ちゃんみたいな立派なSeeDになるよ!」

「ありがとう、お兄ちゃん、お姉ちゃん。」

とりあえず、守り抜くことが出来てよかった。

スコール達は学園長の姿がないことを確認し、その場を後にした。






もう随分とガーデン内を探し回った。

どこにもない学園長の姿。このフロアの部屋は全て見たはずだ。

だが、学園長の姿はなかった。

ということは、二階か三階にいる可能性も否めない。

「二階に行ってみよう。」

スコールの提案で、三人はロビーへと向かって駆け出した。

だが、ロビーを目前にして三人は驚いて立ち止まる。

「シュウ!?」

今一瞬だが、エレベーター前にシュウの姿が見えたのだ。

「上か?」

スコール達はその後を追いかけ、エレベーター前にやって来た。

シュウはそこで立ち止まって、警戒した様子でこちらを睨んでいる。

「あなた達、どっち!?」

やはり、マスター派か学園長派かを疑っているようだ。

スコールは戦う意思がないことを伝える。

「どっちでもない。シド学園長に報告がある。学園長は何処だ。」

「シュウ先輩、本当なんだ。 何だか知らねぇけどよ、こんな争いしてる場合じゃねぇんだ。」

スコールとが言うと、シュウはほんの少しだけ警戒を解き、改めてスコール達を見つめた。

「スコールと言うなら信じたいけど・・・私から伝えるわ。ここで言って。」

「ここを狙ってガルバディアのミサイルが飛んでくるかもしれない。」

それを聞くと、さすがのシュウも驚いて目を見開いた。

「ここに!? わかったわ。学園長に伝えましょう。」

「学園長は何処だ?」

「学園長室よ。逃げたと見せて、何処にも行ってない。王道よね。先に行くわ。直ぐ来て。」

シュウが言い、一足先にエレベーターで学園長室へ向かった。

スコール達は顔を見合わせる。

「学園長室か・・・そりゃぁ見つからねぇわけだなぁ。」

の言葉は、もっともだった。









スコール達を待っていたのは、既に到着していたシュウだった。

学園長室の前で立っている。

「学園長が詳しい話を聞きたいって。私は、皆にガーデンから避難するように伝えてくる。」

それだけを告げると、シュウは再びエレベーターで下の階へと向かっていった。

スコール達は頷き合い、学園長室へと踏み込む。

室内で背を向けている人物。スコール達は敬礼をし、言った。

「スコール班、戻りました。」

シド学園長は無傷だった。擦り傷ひとつ負っている様子すらない。

シドはゆっくりと振り返り、そしてゆっくりと頷いた。

「ミサイルの事は聞きました。避難命令を流そうとしたのですが、

館内放送がダメになってるみたいです。」

「シュウ先輩と、雷神風神がみんなに伝えに行ってます。」

シドは頷く。

「それでは、君達もみんなに知らせつつ避難してください。」

その言葉に、スコール達は顔を見合わせた。

避難云々の前に、いろいろと尋ねたいことだってある。それに、報告だって。

スコール達の気持ちを見透かしたかのように、シドが言った。

「無事再会した時にいろいろと報告してもらいましょう。いいですね。」

どうも腑に落ちない。

「気に入りませんか?」

「(何だか・・・中途半端なんだよな。)」

スコールは微妙な表情をしている。

「学園長はどうするんですか?」

が、シドに尋ねた。

「私はここで最後まで頑張りますよ。ここは私の家みたいなものですからね。」

死ぬ気か?スコールが口を開こうとしたが、それよりも先にリノアが叫んだ。

「ダメよ、シドさん! ガーデンはまた作ればいいけど、シドさんは一人なのよ!」

とスコールは驚いてリノアを見つめたが、すぐにリノアに同意して叫ぶ。

「シド学園長!」

「馬鹿なことはやめろよ!!」

必死なスコール達を見て、シドは苦笑を浮かべた。

「勘違いしてはいけません。試してみたい事があるのです。

このガーデンを守る事が出来るかもしれません。」

と、言ったと同時に学園長はフラリとよろけ、床に躓いて転んでしまった。

スコールはそれを見て手で顔を覆う。

「(・・・こんなんでどうするんだよ。)」

「あはは・・・年は取りたくないですねえ。」

言葉もない。

「何をするつもりなんですか? それ、俺達にやらせてください。」

「何故そうしたいのですか?」

問われ、スコールは黙り込んだ。

何故?学園長がやったら失敗しそうだから?

避難命令なんてつまらないから?ここは大切な場所だから?

「(・・・理由は・・・たくさんある。

方法があるなら試したいから。ここは俺にとっても家だから。

・・・どれも、きっと俺の気持ちだ。・・・わかってもらうの、面倒だな。)」

スコールは自問自答し、結局は

「・・・俺の気持ちなんて関係ないと思います。」

そう締め括った。シドは苦笑している。

「キスティスの報告通りですね。自分の考えや気持ちを

整理したり伝えたりするのは苦手のようですね。」

「(・・・面倒なんだ、そういうのは。大体何の話だ?俺の評価か?)」

今はそんな話をしている場合ではないはず。

何故この人はこんなにもお気楽なのだろう。それだけ余裕があるということか?

いや、そんなことはない。ギリギリの場所にいるはずなのに。

「学園長! 何処へ行って、何をすればいいんですか!」

叫んだのはだった。シドは真っ直ぐにを見つめる。

「この建物は元々シェルターでした。それを改造したのが今のガーデンです。」

シドはそう言うと、ポケットからひとつの鍵を取り出し、スコールに投げ渡した。

スコールはそれをキャッチし、訝しげにシドを見つめる。

「それはエレベーターのロックを解除する鍵です。

ロックを解除するとMD層へ行く事が出来ます。

MD層の最も深いところには何かの制御装置があるらしいのです。

シェルター時代の装置らしいのですが、私は一度も見た事がないのです。」

なるほど。それが最終手段になるかもしれないということか。

「もちろん、どんな機能なのかも知りません。

ただ、シェルター時代の装置ですからミサイルにも効果があるかもしれません。

それに賭けてみようという訳です。」

とはいえ、随分と頼りない話である。MD層に行くのはいい。だが、深奥で何もなかったら?

もし何もなかった場合、ミサイルを防ぐ術は残されていない。

「(・・・まぁ、何もしないよりマシか。)」

それがスコールの出した結論だった。

「わかりました。MD層最深部へ行って、その未確認の装置を起動します。」

「お願いしますよ、スコール。」

スコール達はシドに敬礼すると、すぐに鍵を持ってエレベーターへと向かった。

鍵でロックを解除し、MD層へと降りて行く。




と、突然でエレベーターが止まり、明かりも消えてしまった。

スコール達は驚き、狭いエレベーター内を見回す。

「おいおい、何が起こったんだ?

「(・・・!? ・・・反応しない。)」

スコールはエレベーターのボタンを操作してみたが、うんともすんとも言わないではないか。

「ここから出れないなんてゴメンだからね!」

「外への出口が何処かにあるはずだ。」

スコール達は明かりの乏しいエレベーター内を、出口を探して彷徨った。

ふと足元を見ると、丁度人間一人が出られそうな穴に蓋がしてあるのを見つけた。

それを開けると、そこから下に出れそうである。

「スコール、行こう!」

リノアが言い、スコールはとリノアの顔を見た。

そして、はっきりと言う。

「長い間、放置されてたんだ。何があっても驚かない事。」

とリノアが頷いたのを確認し、スコール達は下へと降りた。








MD層は酷い有様だった。

オイルや錆びた鉄の臭いが充満し、どこからかガスでも噴き出しそうな雰囲気である。

しかも長い間放置されていたということもあり、モンスターの巣窟と化している。

うんざりしたくなるのも当たり前だ。

それでも道を進んでいると、急に行き止まりに着いてしまった。

梯子がある他は道はない。

梯子を見て、リノアが駄々をこねる。

「え〜っ、また梯子登るのー?」

ずっと梯子を登ったり降りたりを繰り返していたのだから、リノアの気持ちもわかる。

「この梯子はあの部屋に繋がってるみたいだな。制御室みたいだぜ、あの部屋。」

が梯子の先を見上げて言った。

「スコール、どうするか決めて。」

リノアが言うと、スコールはうんざりという様子を見せて溜息をつく。

班長とはいえ、いつもいつも自分が決めなければいけないのは面倒この上ない。

スコールは、少し投げやりに言った。

「皆行くしかないだろ。他にどうしろって言うんだ?」

「でもこの梯子、他の梯子より随分痛んでるみたいだぜ?」

スコールは沈黙した。

こいつ、絶対にわざと言ってるだろ。

「・・・・・。」

はわざとらしく梯子をツンツンと突付き、「心配だなぁ」と呟いている。

スコールはその様子をみて頭を振った。

「もういい、わかった。俺が行って様子を見てくる。

とリノアはここで待機していてくれ。」

スコールは言い、一人で梯子を登って行った。

だが、途中で梯子が倒れ、乗っていたスコールは向こうの部屋へと投げ出された。

派手にガラスが割れる音が響き、スコールは床に転がって溜息をつく。

投げ出された先は、向かおうとしていた部屋であった。

幸運か。はたまた不運だったのか。

部屋を見ると、制御盤を見つけた。

スコールはそれに歩み寄り、制御盤を動かす。

すると、振動が走った。どうやら、更に下へと行けるようになったようだ。

さて、下へ戻ろうとするスコールだったが、どうしようかその場で考え込んだ。

部屋から下に繋がる通路はあったが、制御盤を操作したせいで無くなってしまったのだ。

となると、下に降りるには部屋に倒れ掛かっている梯子を使うしかあるまい。

「(少々危険だが、仕方ないか・・・仕方ないな、降りよう。)」

スコールは、倒れた危険な梯子を使い、ゆっくりと下へと戻った。

とにかく梯子は最悪だった。

錆びているせいで動くたびにギシギシいうし、スコールの重みでしなるし、

ついでに言うといつ折れるかわからないような状態だったのだ。

やっと下へ辿り着いたスコールを迎え、リノア達が言った。

「スコール、大丈夫?」

「・・・ああ。」

「今度ばかりはダメかと思ったぜ。さすがのスコールも今回は身の危険を感じただろ?」

全く心配なんてしていない口調でが言う。

スコールは溜息をついた。

「確かに危険だったけど、今は無事を喜んでる場合じゃない。

ここにミサイルが飛んできているかもしれないんだ。それを忘れるな。」




スコール達は更に地下へと潜り、ようやく最下層へと到着することが出来た。

奥へ進むと、そこには巨大な機械が。

一体何の機械かすらわからない。リノアはもちろん、スコールやも首を傾げている。

「MD層最深部・・・」

「ここで何をすればいいの? 複雑そう・・・」

不安の色が、三人の顔にしっかりと浮き出ている。

いくらか機械を動かす訓練を受けたとはいえ、こんな昔の機械までは知らない。

シド学園長だって知らないのだ。自分達にわかるはずがない。

「眺めてても仕方ねぇな。」

は軽く肩を竦めると、機械の制御盤に歩み寄ってそれを見つめた。

埃の被った、錆びた制御盤。は腕を組み、制御盤と機械本体を見比べる。

「わかりそうか?」

「まさか。全然わかんねーよ。」

スコールが尋ねると、は「お手上げ」とばかりに溜息をついた。

ならもしかしたらわかるかも、と思ったが、さすがに無理だったか。

「う〜ん、こういう機械なら、結構得意だと思ったんだけどなー、さすがに型が古過ぎる。」

は少々悔しそうに口を尖らせ、制御盤の埃を掃った。

「でもまぁ、動かさないことには先に進まんし。テキトーに動かしてみる?」

「何処を操作したか覚えといた方、良くない?」

リノアが言い、ふむ、とは顎に手を当てた。

と、その時だった。

機械から、まるで地鳴りのような、けれど大きな音が聞こえてくるではないか!

「「「?!!!」」」

次の瞬間だった。

突然機械が動き始め、スコール達のいる足場を迫り上げたのだ。

ぐんぐん上がっていく足場に驚きつつも、スコール達はどうすることも出来ない。

制御盤を見てみるが、何かに反応している様子もない。

これだけの震動ならば、ガーデンの方にも相当伝わっているはずだ。

「ひゃっほーっ!なんかのアトラクションみたいだな!!」

「楽しんでる場合か!!どうなるかわからないんだぞ!!」

スコールはに向かって叫び、不安定な足場に屈み込んだ。

立っていたら転んでしまいそうだったからだ。

リノアはとっくに座り込んでいて、今の状況を楽しんでいるを見つめている。

は上を見上げ、大声で叫んだ。

「上だ!!どこかに出るぞ!!」

上から光が見える。恐らく、ガーデンのどこかに繋がるのだろう。

スコール達を乗せた足場は、そのまま上へと飛び出した。

「んなっ!学園長!?

どうやら飛び出したのは学園長室だったらしい。シドは混乱した表情で足場に乗っかっている。

スコール達を乗せた足場は、やっと動きを止め、しかしそれと共にガーデンが変形を始めた。

土煙がガーデンを覆い、ガーデンは更に揺れ出す。

大きなガラス窓が正面にあるブリッジと化した学園長室。

とスコールは、正面を見て目を見開いた。

ミサイルがこちらに真っ直ぐ向かってくるではないか!

まだかなりの距離があるようだが、それでも肉眼ではっきりと確認できる。

「来るぞ!!ミサイルだ!!」

の叫び。

ミサイルはもう目の前だ。もうダメだ。頑張ったけどやっぱりダメだった。

ここで終わりだ、ガーデンが破壊されてしまう
―――――――――――








ガーデンが、ガクン、と激しく揺れた。

だが、何かにぶつかったというような衝撃ではない。

スコール達は、恐る恐る目を開ける。

「・・・!?」

爆音と閃光が激しく交錯する中、なんとガーデンは動き出してミサイルから逃れていたのだ。

スコール達はあまりの驚きに、口を半開きにしている。

「動いてる?!」

こんな巨大なガーデンが、まさか動くだなんて。

今日からガーデンをこう呼ぼう。『シドの動く庭』と(元ネタ:ハウルの動く城(爆))

シドは驚きと感激が混ざり合ったような声で、ぽつりと呟いた。

「そうですか・・・こういう事ですか・・・」

「そういう事だったんだな。」

全員の顔に、だんだんと笑顔が戻ってくる。

「嘘みたい。あははっ!」

「スッゲーよ、マジで信じられねぇ!」

とリノアは顔を見合わせて笑い、スコールは溜息をついた。

シドはハッとし、呟く。

「外が気になりますね・・・」

急に動き出したのだ。外が一体どういうことになってるのか気になるのも当たり前である。

リノアは服の埃を落としながら立ち上がり、笑顔で言った。

「ね、スコール、、見に行こうよ!」

「そうだな、行ってみようぜ。」

「他の生徒達も心配です・・・見てきてもらえませんか?」

スコールはまだ少々放心している様子だったが、軽く頭を振ると頷いた。







学園長に言われ、スコール達はガーデン内を見て回った。

さすがにこんな事態になったため皆驚いていたが、予想していた大きな混乱はないようだった。

そのことにスコール達は胸を撫で下ろす。

こんな状況でマスター派だの学園長派だのなんてやっていたら、混乱どころでは済まないだろう。

今はとりあえず落ち着いている。それが、救いだった。

二階の非常口から外に出ると、全員が息を呑むような素晴らしい景色が広がっていた。

動いているガーデンから、海や山が広がる景色、それに風が気持ち良い。

辺りを海鳥が飛び交っていて、ほのかに潮の香りがする。

ここは良いストレス解消スポットではないだろうか。

気分転換には持って来いである。


景色をたっぷり堪能し、廊下に戻るとシュウが何やら血相を変えてやって来た。

スコール達は顔を見合わせる。

「スコール! 学園長が呼んでるわ! 大至急戻って!!」

ただ事ではなさそうだ。スコール達は驚き、急いでブリッジに向かった。





ブリッジに戻ると、シドがおろおろと制御盤を見て混乱している。

シドはスコール達を見ると、心底困った様子でこう捲くし立てた。

「スコール! 操作が効かない、と言うかわからないんですよ!

このままでは、バラムの街に突っ込んでしまいます!」

んなアホな。この人が言うと、冗談に聞こえない。

「大変! 何とかならないの!?」

「ふむ、バラムの街に衝突するまで、あと30秒くらい、ってとこかな。」

はノンキにガーデンの速度とバラムへの距離を見て、計算している。

「スコール、な、何とか出来ませんか?」

シドに懇願され、スコールは手で顔を覆った。

「(それは、俺の台詞だ・・・)」

先ほどMD最下層で機械を動かせなかったスコールが、わかるはずもないのに。

どうして、いつもいつも皆自分を頼るのだろう。

「スコールお願い!」

リノアまで。は制御盤を真剣に見つめ、何やらぶつぶつ呟いている。

「(何で俺が・・・出来る訳ないだろ。)」

自棄になりかけたスコールを正気に戻させたのは、の一言だった。

「皆、ちょっくら何かに掴まっててくれよ。大きく旋回するから、

ぶっ倒れてすっ転んで怪我しても知らねぇぞ!」

「わかるのか!?」

スコールが驚いて尋ねたが、は制御盤を操作しながら言うだけだった。

「黙ってろよ、舌噛むぜ!!」

がボタンを押すと、それと共にガーデンが大きく揺れた。

激しい震動に見舞われながら、ガーデンが大きく旋回したことがわかる。

小刻みに震動が続き、その後に更に大きな揺れがガーデンを襲った。

ガーデンは、港の横から海に滑り込んだのだ。

やっとのことで震動が収まり、ガーデンは海に浮いたままゆっくり流れて行く。

全員が恐る恐る顔を上げ、ゆっくりと立ち上がる。

はというと、得意げに笑って親指を立てて見せた。

「バラム回避成功!ちなみに、操作方法はまだちゃんとわかってねぇからな。」

そんなに、皆笑った。

シドもやっと穏やかな笑みを見せている。

「ふう・・・皆さん、ご苦労様でした。これで私達は助かったと解釈してもいいでしょう。」

「・・・ガーデンは何処に向かうんだろう。」

ぽつりと呟いたスコールに、シドは言う。

「操縦の仕方を理解出来ないうちは波任せ風任せ・・・ですか。

さて、何だか時間だけはたっぷりありそうです。今後の事、ゆっくり考えましょうか。」

シドはブリッジを見回し、困ったように笑った。

「あははは。私の部屋、なくなっちゃいましたね。」

ゆっくりと海を上を漂うガーデン。そのブリッジには、笑いが溢れていた。









<続く>



=コメント=
ガーデン起動おめでとう!
MD最下層にいる、あの雑魚ボスは面倒なので省きました。
あれって弱いですよね(笑)ホントにボスなのかぁ!?みたいな(笑
次回は久々、リヴァの登場です。
とリヴァの会話?みたいな、そんなカンジになると思います。
そして、ノーグとの戦闘。多分相当短くなります。
というか、次回スコールの出番ないと思われ(笑
とリヴァイアサンの活躍舞台ですよ!

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