さてと、こんな収容所はもうごめんだ。






さっさと脱出してバラムに帰るぜ。










hat is your hope ?










『脱走警報です。各フロアにはモンスターが放たれます。

脱走者が速やかに投降しない場合生死を問いません。

魔法アンチフィールドが解除されます。』

「ちっ・・・随分と行動が早いな、奴ら。裏で誰かが密告しやがったな・・・。」

スコール達が拷問室を出た瞬間に、警報が鳴り響いた。

耳が痛くなるほどの大音量の警報だ。舌打ちをしたくなる気分である。

が言う「密告者」。それが誰なのかはわからないが、今は逃げることが先決だ。

「ラグナッ!ラグナッ!」

傍にいるムンバ達が叫ぶ。スコールとは顔を見合わせ首を傾げたが、

どうやら自分達を引き止めようとしているわけではなさそうだ。

「(ラグナ・・・知ってるのか?)」

疑問は浮かぶが、こうしている間にも追っ手は近付いてきている。

スコールはムンバ達を一瞥し、疑問を胸に抱いたまま駆け出した。









「お前、あっちの世界でラグナってここへ来てないのか?」

ゼルが走りながらスコールに尋ねた。スコールは首を横に振る。

拷問室に運ばれる前、どこかの村でのラグナの夢は見たが

この収容所に来たという夢は見ていない。

スコールが見たのは、レインとエルオーネ、キロスとラグナ、

その4人が、どこかの村で一緒に過ごしている夢。

それだけだ。

「・・・来てない。」

「じゃあ、スコールもここの脱出方法は知らない訳ね。」

キスティスが困ったように溜息をついた。

一度全員は立ち止まり、現在位置を確認する。ゼルは腕を組み、上を見上げた。

「う〜ん、どっちにしろ、俺達上へ上へって、来たじゃねぇか。

やっぱ、下に戻らねぇとダメだよな。」

「けど、1階ずつ戻るのはいくらなんでも厳しいだろ。

脱走者警報のおかげで警備員だけじゃなくてモンスターもいるし。なんつーか、厄介だな。」

も困ったように眉根を寄せる。

ふと、ゼルはあることに気付いたのかスコールに尋ねた。

「そう言えばスコール、お前どうやって、このフロアまで運ばれたんだ?」

スコールは顔を上げ、黙ったまま独房を運ぶクレーンを指差した。

一同の視線がクレーンに集まる。

沈黙。

「ぬぉっ!! 何だこりゃ!?」

見事なリアクションを示してくれたのはゼル。

スコールは腕を組み、クレーンを見つめたまま言う。

「下のフロアにある独房を取り外して運ぶクレーンみたいな物らしい。」

どうやら、SeeD達は考えるときに腕を組む癖があるらしい。

キスティス、ゼル、、スコールといった、セルフィ以外の全員が腕を組んで考えて込んでいる。

セルフィはクレーンの下に続いている穴を見つめ、目を輝かせて言った。

「へぇ、じゃあ、この穴ってば下まで繋がってんだぁ。

じゃあ、じゃあ、この穴をぴゅ〜〜っと、飛び降りればすぐに下まで着くんじゃないかなぁ。」

「やってもいいけど『しっぱ〜い』じゃ済まないぜ。」

そうなりかねない。

セルフィはエヘヘとに笑いかけると、穴の底を見つめた。

と、ゼルが声を上げる。

「うおっ!! 思い出したぜ!! このアーム、上のパネルと中の制御室で自由に動かせるはずだぜ。

ウォードがやらされてたのを思い出したぜ。でも、二つ同時に動かす必要があったはずだから、

誰かが残って上でパネルを操作しねぇと・・・・・。」

言ってしまったのが運の尽き。

全員の視線は、知らず知らずのうちにゼルに集まっている。

ゼルはしばし状況把握が出来ずに呆然としていたが、やっと理解するとびっくりして1歩後退りした。

「お、俺?」

「上の制御パネルの動かし方を知ってるのはゼルだけでしょう?」

キスティスの言葉にゼルはうっ、と言葉を詰まらせ、諦めたように溜息をつく。

「わかったよ。俺は上の制御パネルで指示を出すから、乗り込んでてくれ。」

「俺も念のためゼルと一緒に行動する。今の状況で単独行動はあまりに危険だからな。」

が小さく挙手し、スコールは頷いた。

ゼルは少々ほっとした様子を見せる。

そのまま、ゼルとは上のパネルのところに行き、スコール達はアーム制御室へと入った。

キスティスは制御室内を見回し、感嘆の声を漏らす。

「へぇ、ここがアームの制御室ね。」

たくさんのボタンがならんだパネルが部屋の中心にあり、ボタンは色分けされているので

操作はしやすそうである。

『マイクテストマイクテストー、えー、本日は晴天なりー本日は晴天なりー。』

「・・・、ふざけているのか?」

マイクを通しての声が聞こえてきた。

は笑っているようで、その声までちゃんと聞こえてくる。

『ジョーダンっ!冗談だよ、スコール。そうカリカリすんなって。聞こえてるみたいだな。』

「ゼル〜、〜、聞こえるよ〜」

セルフィがマイクに向かって手を振るが、見えているはずもない。

「で、どうすればいいんだ?」

『正面パネルの赤いボタンを押してくれ。後は、こっちで・・・・よっと!』

ガコン、と音がして、ゆっくりとアームが下がって行く。

アームの外から警報の音や兵士達の叫び声が聞こえてくる。

どうやら本気で探し回っているようだ。こちらの本気で対応しなければならない。



ゼルとはアームが無事下に下がって行くのを見送り、顔を見合わせ頷いた。

さぁ、ここからが勝負である。



「あっ、ヤベッ!!」

駆け出そうとしたゼルとだったが、の大声で足を止めた。

ゼルは不思議そうな顔でを見つめる。

「どうしたんだよ、急に。」

「ヤベェ、ヤベーよゼル!!」

慌てふためくだが、ゼルには何がなんだかわからない。

は一体何に慌てているのだ?

「ヤベーって、何がヤバイのかわかんねーよ。」

「俺、ガンブレード持ってねぇ!!」

「ぬわにぃっ!?」

さすがのゼルも驚いてを見つめた。

の腰。確かに、いつも装着されているガンブレードがない。

恐らく拷問の前に持っていかれてしまったのだろう。

これはまずい状況だ。

ゼルの武器は己の拳だから問題はないが、は立派なガンブレード使い。

ガンブレードがなければは戦えない。

「まままま、まずいぜ!!お前、どうする!?」

「参ったな・・・。」

は困り果てて腕を組んだ。がガンブレードを持っていったのだろうか?

だとしたら、に会えば取り返せるかもしれない。

いや、そういう問題ではない。

ガンブレードはガーデンに申し出れば新しいのをもらえるだろうし、ただなくしたのなら

そんなに大きな問題ではない。言ってしまえば、別に構わないのだ。

だが、今は武器がないと非常に困る自体である。

ガンブレードでなくてもいい。とにかく武器を手に入れなくては。

、お前ガンブレードしか使えないのか?」

「いや、これでも普通の銃からマシンガン、ブーメランなんかは使えるけど・・・。」

一番使い慣れているのがガンブレードだからガンブレードを使っている。

その他の武器も使えることは使えるが、やはり少々攻撃力が下がってしまう。

は考え込み、辺りを見回した。

そして、目を光らせる。

「・・・いいもんがあるじゃん?」

ニヤリと笑うを不思議そうに見つめ、ゼルはの視線の先を辿った。

「・・・マシンガン?」

「へへー、俺に戦闘を教えてくれた奴はマシンガンの使い手なんだ。

ガンブレードには劣るけど、マシンガンならそれなりの攻撃力も出る。」

の視線の先にあったのは、兵士や看守用のマシンガンだった。

5本のマシンガンが壁に立て掛けられており、傍には火薬や弾もある。

これは好都合だ。

は壁に急いで近寄り、一本のマシンガンを手に取った。

それを上から、横から、いろんな角度から見つめ、笑みを浮かべる。

「ラッキー。俺が一番得意としてるマシンガンの型だ。これからなんとかなるぜ。」

「マシンガンって、そんなに違いがあるもんなのか?」

「あるさ。持ったときの感触とか、撃ったときの振動感とか、全然違う。」

はマシンガンに弾をこめ、余分に弾の一束を道具袋に放り込んだ。

マシンガンを手に持つ感触。懐かしい記憶が蘇ってくる。

ニヤリと笑みを浮かべ、マシンガンを構えてみる。

大丈夫だ、感覚は鈍っていない。

ふとがゼルを見つめると、ゼルは驚いたようにを見ている。

「・・・どうかした?」

「いや・・・お前のマシンガンの持ち方が、ラグナにそっくりだからさ。

今ちょっと驚いた。ジャケットまでラグナとなんだか、似てるしな。」

そりゃそうさ。俺はラグナに戦闘を教えてもらったんだから。

は言おうとして、口を閉ざした。

まだ今は言うべきときではないと思ったから。

「・・・そうだな。それより、早く行こう。スコール達と合流しなくちゃな。」

「ああ。」

2人は笑い合うと、一緒にそろって駆け出した。







「いたぞ!!脱走者だ!!」

「ちくしょうっ!しつこいってんだ腰抜けども!!」

ゼルを先頭として、2人は走っていた。

階段を2段飛ばしで駆け降り、そして目前に迫る敵だけを倒して走る。

追ってくる敵まで倒している余裕がまったくと言って良いほどないのだ。

後ろを気遣えば前からやられる。ならば、行く手を遮るものだけを切り捨てるのみだ。

ゼルが至近距離の敵をなぎ倒し、が遠距離の敵を処理する。

上手く出来たコンビネーションで、2人は進んでいた。

だが、待ち構えていた数名の兵士がゼルとの間に入り込み、2人を別々に取り囲んだのだ。

これにはさすがの2人もたまったもんじゃない。

!!」

ゼルが慌ててを振り返った。けれど今この状況ではどうすることも出来ない。

「いたぞ! あそこだ!!」

「脱走者は生死を問わず確保せよ!!」

兵士達がうようよと現れる。どこから現れるのか不思議なくらいだ。

は舌打ちし、ゼルに叫んだ。

「俺のことは良い!!早く先に行け!!」

「馬鹿っ、んなこと出来るかよ!!」

ゼルは邪魔な兵士をなぎ倒し、に近寄ろうとする。

けれど、兵士は寄ってくるばかりで数がなかなか減らない。

そのとき、ゼルの後ろから近付く者に気付いたが声を上げた。

「ゼル!!馬鹿野郎、後ろだ!!!」

振り向くゼル。だが、遅い。

待ち構えていた1人の兵士に不意をつかれ、脳天にキツい一撃を食らった。

「ぐっ・・・」

その場に倒れ込むゼル。は目を見開き、叫んだ。

「ゼル!!」

「手こずらせおって・・・・死ね!!」

兵士の手には銃。兵士はゼルに銃をつき付け、引き金を引こうとした。

だが、そのときはハッと目を奪われた。

その場に颯爽と現れたその人物。

倒れたのはゼルではなく、兵士の方だったのだ。

「スコールっ!?」

兵士に斬りかかり、ゼルを助けたのはなんとスコールだった。

少々息を切らせており、急いで駆け付けてくれたというのがよくわかる。

スコールの登場で、兵士達の波も一気に引いた。

「手加減したつもりだが・・・」

まるで何でもないという様子でスコールは倒れた兵に言い放つ。

は目を見開き、かすかに笑みを浮かべた。

彼が今まで他人を助けようとしたことなんてなかったのに。

見捨てることはしないとわかっていた。だが、自分からこうして助けに来てくれるとは思わなかった。

何故だろう。異様に嬉しい。

ゼルは感激のあまり、呆然とスコールを見つめていたが、やがて満面の笑みを浮かべて

スコールに思い切り抱き付いた。

「スコール!! ありがとう!!」

突然のことにスコールは目を丸くし、驚いて体をよじった。

「な、何だ! は、離せ。離せって言ってるだろ。」

スコールの言葉なんて聞きもせず、ゼルはスコールにしがみ付いたままだ。

は苦笑を浮かべ、その様子を見つめている。

あまりにもしつこいゼル。スコールは思わずガンブレードの柄で彼の頭を小突いた。

その様子がなんともいえず微笑ましくて、はクスリと笑った。

「スコール! ゼル! 無事だったみたいね。」

「もう、スコール、1人でタッタと行っちゃうんだから。そんなに、ゼルが大事?」

そんな現場に駆け付けたキスティスとセルフィは、やはり笑みを浮かべている。

口では文句を言いつつ、やはりゼルの無事が嬉しいのだろう。

ゼルは照れ隠しに頭をかき、ニッと笑った。

が、そのとき急に銃声が響き渡った。自分達の方に向けて発砲されている。

スコール達は咄嗟に身を屈めた。

「キャッ!」

「うわわ!! こ、これじゃ身動き取れねぇぜ!?、何とか出来ねぇ!?」

「この位置からじゃいくらなんでも無理だろ!こんなときにアイツがいてくれれば・・・!」



BANG!BANG!BANG!



数発の銃声。それとともに、兵士達の呻き声も上がった。

誰だ?思い、スコール達は顔を上げる。

敵の悲鳴と同時に銃声が鳴り止んだ。一体誰が?

「アーヴァインっ!?」

それは、今まで姿を見せなかったアーヴァインが撃ったものだった。

アーヴァインは敵を倒したのが満足なのか、キザっぽく振るまい、静かに階段を降りて来る。

その後ろにはリノアの姿が。スコール達は目を見開いた。

が、リノアはアーヴァインが格好付けているのが気に入らないらしい。

「何、カッコ付けてん・・・のよっ!」

彼の背中へ思い切り蹴りを入れ、階段の上に仁王立ちした。

それとは反対に階段から転げ落ちるアーヴァイン。

「まったく、アーヴァインがもうちょっと、早く納得すればここまで、面倒になってないんだよ。」

「リノア無事だったの!?」

「ん、んんっ。そりゃそうさ。僕が連れ出したんだからね。」

偉そうに言うアーヴァイン。だが、スコール達には話が全く見えない。

「どういう事だ?」

首を傾げるゼルと

「それは・・・・」

「私の父が、ガルバディア軍を通じてした事なの。

私だけここから連れ出すようにって命令したらしいの。」

「それで・・・・」

「それで、この男。命令通りに、私だけ連れだしたのよ。

スコール達が捕まってるの知ってて。」

「いや、それは・・・・」

「ねぇ、酷いと思うでしょ!?」

アーヴァインが説明しようとするのを、ことごとく遮ってしゃべるリノア。

アーヴァインは項垂れ、リノアに言った。

「ああ!! もう、悪かったって。だからこうして助けに来たじゃないか。」

「私が散々、引っ掻いた後にね。大体、私やスコール達は出会って間もないから

助けに行く気が退けるのもわかるけど、はどうなのよ!

ガルバディア・ガーデンの親友なんでしょ?親友見捨てるなんて、最低。」

「いや、リノア。こいつは昔からこうだから何言っても無駄だって。

別に俺は気にしてないし。というか、最初から期待もしてねぇし。」

散々言われまくっているアーヴァイン。

アーヴァインは視線を泳がせてから、言葉に詰まりながら言った。

「うっ・・・と、とにかく、逃げ出すなら今のうちだ。」

スコールは首を横に振る。

「駄目だ、地下の扉は砂で埋まってた。」

「そりゃ、そうさ。この刑務所は今は潜ってるからね。」

「潜って?」

「そっ、この刑務所は・・・・」

「いたぞ!! 脱走者だ!!」

アーヴァインが肝心なところを言おうとしたとき、下からまた発砲してきた。

アーヴァインは銃を抜いて、見事な腕前で応戦する。

銃を撃ちながら、アーヴァインは言った。

「スコール! 君は2人選んで、上に先行してくれ。ここは僕が中心で引き止める。」

「上?」

「詳しい説明をしてる時間はないんだよ〜!出口は上だから、信じてくれよ〜」

こんなときに嘘を言うとも思えない。スコールは頷き、仲間達を見つめた。

リノアが挙手して言う。

「私、案内出来ると思う!」

ということは、リノアはメンバーの1人で決定だ。あとの1人をどうするか考え、

スコールはを指名しようとした。

だが。

「スコール、俺もここに残るわ。今んとこ俺の武器はこのマシンガンだし、こいつだけじゃ心許ないからな。」

はアーヴァインを顎で示し言った。

アーヴァインは苦笑して「ヒドイなぁ」と呟いている。

スコールはアーヴァインとを見つめ、小さく頷いた。

「リノア、それからセルフィ、行くぞ。」

スコールはと目を合わせ、頷き合った。

「大丈夫。こっちは心配すんな。」

「ああ。お前の腕は信用している。だが無理はするな。」

ふっと笑みを浮かべる

冷静な班長が、いつの間にか頼り甲斐のある班長になっていたようだ。

いつもならこんな風に心配してくれることはないだろう。

スコールが、自分のことを心配してくれている。

そして、自分のことを信用してくれている。

ここはスコールの思いに応えてやらないとな。は思い、マシンガンに弾を込めた。

「あっ、そうだ、!」

リノアが言った。はリノアに視線を向け、首を傾げた。

リノアは大きな包みを取り出し、それをに手渡す。

は不思議そうに包みを見つめた。

「それ、あのって奴から預かったの。に渡してくれって。」

「兄貴が?」

は包みを開いた。そこには・・・

「・・・これ、俺のガンブレードじゃん。」

包みの中からは、なんとのガンブレードが出てきた。

やはり、のガンブレードを持ち去っていたようだ。

だが、それをわざわざ返してくるとは、一体何を考えている?

「・・・ああ、サンキュ、リノア。さぁ、もう行け。ここは俺達で食い止める。」

疑問はあったが、とりあえず今はのんびりしている状況ではない。

はスコール達を促し発砲してくる兵士達に向き直った。







「ん?」

「死ぬなよ」

「俺が死ぬとでも思う?」

「いや」

「なら大丈夫」

「どこからその自信はわいてくるんだ?」

「スコールが信じてくれるなら平気」

「どういう理屈だ」

「スコールこそ、くたばんなよ」

「当たり前だ」





階段を駆け上がっていくスコール達の背中を見つめ、は微笑む。

死ぬ?馬鹿だな。死ぬはずなんてない。

こんなとこで死んだら、兄貴に馬鹿にされるだけじゃないか。

は思う。

そして、不敵に笑ってマシンガンを構えた。

「ここからが、僕の出番だ。」

「俺の出番でもあるってこと、忘れんなよアーヴァイン。」

2人は顔を見合わせて笑い、兵士達に向けて発砲した。







「ねぇ、スコール、って奴と・・・って、どういう関係なの?」

階段を駆け登りながら、リノアが尋ねた。

スコールはリノアを一瞥し、走りながら答える。

「・・・あいつは、は・・・、どうやら、の兄貴らしい。」

「うん、さっきのことを“兄貴”って呼んでたよね。

でも、どうして・・・敵同士なの?今。兄妹なんでしょう?」

スコールは黙り込んだ。実を言うと、スコールもよくわかっていないのだ。

の関係。兄妹だということ。そして今は敵同士だということ。

それ以外のことは、まだ謎に包まれている。

に尋ねようにも、恐らく上手くはぐらかされてしまうだろう。

はぐらかしたくなるほど、話したくない内容なのか。

もしそうなのだとすれば、自身が話そうとするまでこちらから聞くのはやめておいた方が良い。

誰にだって話したくないことはある。

スコール自身、過去の自分のことは他人に話したくはない。

だからの気持ちはよくわかるのだ。

どんな気持ちで、過去を抱えているか。どんな気持ちで、秘密を抱えているか。

下手に尋ねるよりも、話してくれるのを待とう。

「・・・きっと俺達がに聞いたとしても、あいつははぐらかすだろう。

無理に尋ねるよりも、あいつが話してくれるのを待った方がいい。」

「はーんちょ、なんだか良いこと言うねぇー!」

セルフィが嬉しそうに笑った。

スコールの優しさが、セルフィにも伝わってきたから。

リノアはスコールを見つめていたが、やがてふんわりと微笑んだ。










「あちゃ〜、キリがないね。」

自分達を狙う兵士を撃つアーヴァインと

その弾は見事兵士に当たっているし、今までに何人も倒している。

けれど。

「おい、こいつらどっから沸いて出てくんだ?撃っても撃ってもキリがねぇよ。」

は言い、一回壁に身を寄せて敵の弾から身を守った。

そして、うんざりというように溜息をついて項垂れる。

「おい、どうすんだよ。」

「うーん。」

どうすればいいのやら。キリがない敵を倒しても倒しても全くの無意味である。

と、キスティスが何かを思いついたらしく、指を立てて言った。

「ねぇ、もう1回アームを使って上がったらどうかしら。既にスコール達も上に着いてると思うし。」

「おっ、それ良い考え。さすがキスティス先生だ。」

「でも、上の制御室でも動かしてもらわないと駄目だぜ。」

がアーヴァインを見ると、余裕の笑みを浮かべている。

何か作戦があるようだ。アーヴァインは言った。

「それは、僕に任せてよ。よし、それじゃあアームの止まってる階までゴー。」

アーヴァイン達も上を目指して駆け出した。

と、は階段を上がろうとしてふと思い、マシンガンを肩からはずす。

そして、それをその場に置き、リノアから受け取ったガンブレードを腰に装着した。

ほんの少しだったとはいえ、相棒のガンブレードが返ってくるとやはり嬉しい。

これでやっと“自分らしく”戦える。

ニヤリと笑みを浮かべると、はアーヴァイン達を追って上へと駆け出した。




「おっ! アームだ、乗るよ!」

意外とすぐにアームは見つかった。4人はアームに飛び乗り、扉を閉める。

そして、アーム内を見回した。

「えーと、マイクはどこかなー?」

「マイク?」

アーヴァインはマイクを探してうろちょろしたが、がマイクを指差すとそっちに寄って行った。

電源をONにして、アーヴァインはマイクに話し掛ける。

「お〜い、スコール聞こえるか〜」

応答はない。アーヴァインは続ける。

「お〜い、お〜いってば〜」

「考えがあるってこれの事かよ。スコール達が先に行ってたらどうするつもりだ?」

呆れたようにがアーヴァインに言った。

アーヴァインは困ったようにマイクを見つめたが、

『聞こえてるぞ。』

スピーカーからスコールの声が聞こえてきて、全員が顔を見合わせた。

よかった。ちゃんと無事で上まで辿り着いたようだ。

「やりぃ〜 ほら大丈夫だったろ?」

アーヴァインが笑って言う。は苦笑を浮かべ、スコールに言った。

「スコール、アームの上昇許可をそこから出してくれよ。」

『どうやって?』

「右上に黄色いボタンがあるだろ。それを押してくれ。」

しばしの間があって、ゆっくりとアームが動き出した。

スコールがボタンを押してくれたのだろう。全員の顔に安心が戻ってくる。

「おっけー。じゃあ、直ぐ行くから待っててね〜。」

「あら?随分ゆっくりね。」

「ま、の〜んびり行きましょ。」

「の〜んびりしてる暇、本当はないんだけどな。」

ふざけた会話をして、全員で笑った。

マイクはまだ通じてるはずだから、スコール達も上で苦笑していることだろう。

何にせよ、アームで上まで向かえればなんとかなりそうだ。

「アーヴァイン、今この刑務所はどういう状態になってるんだ?」

が尋ねると、アーヴァインが腕を組んで首を傾げながら言った。

「今僕らがいるこの刑務所があるのは、一面の砂漠のど真ん中なんだよね。

んでもって、最上階は地上数十メートルの高さで、今の状態では出ることは不可能。」

「は?んじゃどうすんだよ。」

「だから、“今の状態では”って言っただろ〜?ま、見てればわかるさ。」

アーヴァインが言い終えたと同時に、急に強い揺れがアームを襲った。

全員がよろめき、バランスを崩す。

敵に見つかったか?いや、どうやらそうではないらしい。

揺れは止まらないが、アームはひたすら上へと上がり続けている。

「どういうこと?」

キスティスが不安げな表情を浮かべ、アーヴァインが言った。

「多分、今潜り始めたんだと思う。」

「モグリ?」

「この刑務所の特徴は、砂の中に潜ることがあるってことなんだよ。」

なんと。

砂の中に潜る刑務所。・・・なんだか格好のつかないネーミングである。

と、揺れが止まった。それと同時にアームも停止する。

どうやら着いたようだ。

4人はアームの扉を開け、フロアに降り立った。

スコール達がいるのが見え、それに向かって大きく手を振る。

するとスコール達も気付いたようで、こちらに駆け寄ってきた。

「無事だったか。」

「ああ。随分アームがゆっくりだと思ったら、潜行警報が出てたかららしいな。」

とにかく、無事に上まで来れて良かった。後はここを離れるだけだ。



スコール達は収容所の出口を出て、そして辺りを見回した。

一面の砂漠。アーヴァインの言ったことは本当だったようだ。

だだっ広い砂漠には、収容所の他に大きな建物が見当たらない。

どうやってこの砂漠を抜けようかと考えたスコールだったが、

アーヴァインがちゃっかり収容所の車を用意しているらしい。

「こういうところは気が利くんだよな。」

が呆れたように言ったが、確かに助かったのは事実だった。

車は2台。皆がどちらに乗るか決めなければならない。

「あたし、こっちの黄色いのに乗る!」

最初に言ったのはセルフィだった。スキップしながら黄色い車に乗り込んで行く。

それを見た女性陣が、次々と声を上げた。

「じゃあ、私もこっちに乗るわ。」

「う〜ん、じゃあ私も。」

セルフィ、キスティス、リノアは黄色い車。残りの男性陣はぽかんとその様子を見つめていた。

いや、は生物学上では女性であるが。

「あ、あれあれ?」

アーヴァインが情けない声を上げる。どうせ、女のコと隣の席に・・・などと思っていたのだろう。

「さ、行こうぜアーヴァイン。」

ゼルがアーヴァインを引き摺り、もう片方の青い車に乗り込んだ。

残されたスコールとは呆れて、一緒に青い車に乗り込もうとした。

が。

「ちょっとちょっと〜!、どこに行くのんっ!!」

「そうよ、あなたどっちの車に乗るつもりなの?」

はこっちだよ、ほら、早くー!」

女性陣達からの声が上がった。

青い車に乗り込もうとしていたはポカンと口を開け、女性陣を見つめる。

と、今度は男性陣から声が上がった。

「おい!は当然こっちだろ!?」

「だよねー、どう考えてもこっちの車に決まってるよー。」

「(どうでもいいから、早く出発させてくれ・・・。)」

は驚いて男性陣を見つめる。

何やら、おかしい展開になってきたようだ。

「はぁっ?あの、女性陣も男性陣も一体何を言ってるわけ?」

はこっち!早くっ、早くっ。」

セルフィが手を振っている。

「んだよっ、こっちに決まってんだろ!」

ゼルがの腕を掴む。

は女の子よ!私達の車に乗るのが普通でしょっ。」

リノアが叫ぶ。

は好んで男装をしてるんだから、当然僕達の車に決まってるじゃないか〜。」

アーヴァインが呆れたように言う。

、早くこっちに来なさい。」

キスティスが手招きをする。

「どうでもいいから早く決めろ、・・・。」

スコールが呆れ顔で呟く。

ぎゃあぎゃあと言い合いが始まってしまった。

女性陣vs男性陣。名付けて『を自分達の車に乗せよう!争奪戦』。

男性陣の方からはゼルに腕を掴まれ、女性陣の方からはセルフィに腕を掴まれ、

2人に思い切り引っ張られる。

「いだだだだっ!痛ぇってば!!」

バキバキと肩の骨が音を立てている。肩の関節がはずれそうだ。

それでもなお引っ張り続けるゼルとセルフィ。

ギリギリと音が聞こえてきそうなこの場面。

いや、今はこんなことしてる場合じゃないんだって。

さっさとバラムに帰って報告しなくちゃならないことが山ほどあるんだって。

はこっちだ!」

はこっちなの〜!」




「だぁっ!しつこい!」





大声で叫んだ。そのに、全員がビクリと身を竦ませて固まる。

はなお叫んだ。

「俺は女性陣の車に乗る!以上っ!!」

ゼルの手を振り払い、セルフィとともに黄色い車に向かう。

ポカンとしているのは男性陣。は運転席に乗り込み、助手席にはセルフィが乗り込んだ。

そして、はそんな男性陣を一瞥し、車を発車させる。

バックミラーを見れば、慌てて車を発車させる男性陣の姿が。

は喉で笑った。





―――――ざまぁみやがれ。これでも俺は女なんだからな。







こうして、スコール達は悪夢の収容所を脱出した。











<続く>


=コメント=
はいー、収容所脱出イベント終了です。
次回からメンバーが2つに別れるあのイベントになりますね。
バラムではマスター派か学園長派かってうざったいやつ(ぁ

最後の争奪戦は書いてて楽しかったです。
ギャグのノリがないとね、やっぱり面白くないし(ぇ
そんなこんなで収容所脱出出来てよかったです。
あと、ますます謎が濃くなる人物、(爆
とりあえず、の正体がわからないとの思惑もわからない仕組みになってるんですよ。
の正体がわかるのは、まだまだ先なので(ぇ
まだまだでもないかな?出来るだけ早く物語を進めるように頑張ります。

次回もご期待ください! [PR]動画