俺達はデリングシティへと向かう。




ムカつくドドンナから離れ、魔女狙撃のためデリングシティへ。










hat is your hope ?










スコール達はガルバディア・ガーデンを出発し、デリングシティへと向かう列車の駅に進んだ。

列車はもう既に止まっている。スコール達は乗り込み、ふぅと息をついた。

だがふとスコールは顔を上げると、チェッカーにカードを通して扉のロックをはずした。

セルフィのためにはずしたのだろう。何かを言われる前に行動を起こすのが彼だ。

とアーヴァインは顔を見合わせて苦笑した。

そこにタイミング良くガーデンで別れた4人がやって来たものだから、笑ってしまう。

セルフィは扉を見てロックが解除されているのを見て、嬉しそうに笑った。

「えへへ〜、わかってるぅ〜」

スコールの行動は正しかったようだ。

セルフィは列車の奥へと進んでいった。それを見て、アーヴァインもその後を追う。

「どうすんだ? あれ。」

ゼルが不安そうに言う。アーヴァインのことを言っているのだろう。

「ねえ、様子見なくていいの? セルフィ、大丈夫?」

リノアまでそんなことを言い出す。は苦笑して答えた。

「平気だって。どうせ口説いてんだよ。あいつの趣味はナンパだから。」

「だから心配なのよっ。スコール、様子見て来た方がいいんじゃない?」

スコールは溜息をつき、それでもやはり心配なのか列車の奥へと進んでいった。

彼が行ったのなら大丈夫だろう。皆に疑われてるアーヴァインは少し可哀想かもしれない。

は列車の扉を見つめ、苦笑しながら溜息をついた。

と、アーヴァインが戻ってきた。全員は不思議そうにアーヴァインを見つめる。

すると今度は・・・。

「リノア・・・」

なんとアーヴァインはリノアに絡み出した。同じく戻ってきたスコールはそれを見てうんざりしている。

もさすがに頬の筋肉が引きつっているようだ。

見兼ねたキスティスが言った。

「アーヴァイン・キニアス! あなた今回の作戦の主役なのよ。もっとしっかりして頂戴。」

おお、とは呟く。さすが元教師。しっかりしているものだ。

アーヴァインは少し不貞腐れた表情をして、言った。

「・・・誰もわかってくれない。狙撃手は独りぼっちなんだ・・・

独りぼっちの世界で精神を研ぎ澄まして一発の弾丸に自分の存在を賭けるんだ。

その瞬間のプレッシャー。その瞬間の緊張感。僕はこれから・・・それに耐えなくちゃならない。

・・・恐いんだ。だから、ちょっとくらい・・・・」

急にアーヴァインは顔を上げる。

「ちょっとくらい羽目はずしても・・・いいじゃねっかよ〜!」

「ふざけんなこのお調子モンが。俺はお前と付き合い長いからな。

んな格好付けても無駄だってくらいわかってんだよ。

どうせその後「・・・なんて言ったりしてみた」とか言うつもりだったんだろ?」

が呆れたようにアーヴァインに言った。

アーヴァインは苦笑してアハハ、と空笑いなんてしてる。

「さすが。にはバレバレかぁ。」

「ったり前。ばーか。」






こうして、列車はデリングシティに到着した。

デリングシティはガルバディアの首都。首都というだけあって、かなり大きな街だ。

街の名は大統領の名前より付けられている。

街の中心にある凱旋門。そびえ立つその門は、ガルバディアの栄華を物語っている。

「カーウェイ大佐の家へ行くんでしょ?08番のバスに乗ればすぐよ。」

さらりと言ったリノア。全員は少し驚いてリノアを見つめた。

「へぇ、よく知ってんな。」

「だって私、ガルバディア人だもん。だってガルバディアには来たことあるでしょ?」

「まぁ、俺のガーデンと繋がりは深いからな、何度かは。」

リノアの言った通り、スコール達は08番のバスに乗り込みカーウェイ邸へと向かった。

カーウェイ大佐はガルバディア軍事実上のNo1だ。

命令書を見て、スコールはカーウェイ大佐のクーデターかと思ったが、

大統領を倒そうというわけではないらしい。

カーウェイ邸前のバス停で下り、スコール達はカーウェイ邸を見つめた。

大きな屋敷だ。スコールは班長として、大佐邸警備兵に声をかけた。

「俺達は派遣されてきたSeeDだが・・・」

警備兵はじろりとスコール達を見つめ、口を開いた。

「カーウェイ大佐の邸宅はこの門の奥です・・・んが、簡単にここを通す訳にはいきません。」

むっとしたスコールが問い返す。

「俺達がここに来る事は連絡済みのはずでは?」

「連絡は受けています・・・んが、カーウェイ大佐は、あなた方の実力を

自分で確かめるまではここを通すなと。」

舐められたものだ。スコール達の苛立ちがオーラとなって現れる。

スコールは溜息をつきながらも尋ねた。

「一体何をすればいい?」

「街を出て北東にある名も無き王の墓。そこに行くだけでいいです。

簡単な事です・・・んが、ただ行って帰ればいい訳ではありません。

証明のための暗号が必要です。」

「暗号?」

「あなた達と同様に大佐を訪問してくる学生は毎日後を絶ちません。

昨日も一人、ガルバディアガーデンの学生が来ましたが名も無き王の墓の試練から

未だ帰ってこないのです。名も無き王の墓に行って彼の痕跡を捜し出し、

出席番号を覚えてくるのがあなた達の課題です。」

随分とまどろっこしいことをしなければならないものだ。

スコールはこれで何度目かという溜息をついた。癖になりそうである。

スコールと同じく溜息をついたのはだ。

「んなまどろっこしいことしてられるかよ。」

「・・・だがどうすることも出来ないだろう。名も無き王の墓に行くぞ。」

出発しようとするスコールを引き止めながらは言った。

「まぁ待てって。ここは俺に任せてみれば?あんまりしょっちゅう“コレ”使うのも嫌なんだけどな。」

スコールは首を傾げる。以前にもそんなセリフを聞いたことがあるが。

は警備兵に歩み寄り、懐から何かを取り出した。

スコールは目を細める。それは、ティンバーの時兵士に見せたものと同じものに見えたのだ。

小さくて、きらりと光るそれ。

は警備兵にそれを渡しながら言った。

「カーウェイ大佐にこれを見せてさ、通してくれるように頼んでもらえねぇかな。」

警備兵は手渡されたものを見て、すっと目を細める。

「これは・・・もしや、あなたは様では?」

「おっ、わかってくれた?お久し振りです、兄のことで礼が言いたいんですが、って伝えてくれよ。」

「・・・少々お待ちください。」

警備兵は緊張した面持ちでカーウェイ邸の中へと入っていった。

はそれを見送り、ふぅと溜息をつく。

スコール達は顔を見合わせ首を傾げ、一体何が起こっているのか考えているようだ。

警備兵はすぐに出てきた。そして、深々と頭を下げると道を開けた。

「申し訳ありませんでした。派遣されたSeeDの中にまさか様がいらっしゃるとは思わず・・・

とんだご無礼を。カーウェイ大佐がお待ちです。どうぞお進みください。」

「サーンキュ。さ、行こうぜ。」

ティンバーの時と同じく、あっさりと話が進んでしまった。

スコール達は不信に思いながらも、カーウェイ邸宅へ向かうの後に続く。

は歩きながら、ふとスコールに尋ねた。

「スコール、バラムとガルバディア両ガーデンとガルバディア軍の大佐が手を組むとしたら、

それは何故だと思う?」

「・・・わからない。俺もさっきから考えていたが、『SeeDは何故と問うなかれ』だ。」

「そう言われちまうと何も言えないんだよなぁ。仕方ねぇけどさ。」

苦笑する

カーウェイ邸に入る寸前、リノアが口を開いた。

とスコール、リノア以外はもうカーウェイ邸に入っている。

「あのね・・・私が持ってる契約書ってまだイキ?」

「今度はどうした?」

が尋ねる。

「この家に私を置いていかないで。事情説明、する?」

「(・・・うだうだ始まるのか?)俺達の使い方は覚えただろ?あんたは、ただ命令すればいい。」

スコールは必要ないことをだらだら説明されることを嫌う。

だから事情説明も省略したのだろう。

リノアは頷いて「じゃ、お願い」と言葉を繋げた。





スコール達はカーウェイ邸に通され、客間で待たされた。

だが、なかなかカーウェイ大佐は現れない。現れる気配もない。

ゼルは苛立ちを隠せないようだし、キスティスもセルフィも皆退屈しているようだ。

リノアに至ってはぶちぶち愚痴まで漏らしている。

「もう・・・・人を待たせても何とも思わないんだから。ちょっと文句言ってくる。」

立ち上がるリノアを引き止め、スコールが言った。

「俺が行く。」

「あ、だいじょぶなの。ここ、私んちだから。みんなは待ってて。

ね、私を置いてきぼりにしないでね。」

一同は驚いて硬直した。とスコール以外は、だが。

「あんたとの契約はまだ切れていない。今のは命令なんだな?」

「命令って言うか・・・ま、いっか。お願いね!」

スコールは不信そうに出て行くリノアの後姿を見つめていた。

きっと頭の中では面倒なことにならないか心配しているのだろう。



リノアが出て行ってしばらくして、1人の男性が入って来た。

は顔を上げ男性を見つめると、いつもの営業スマイルで近寄っていく。

「お久し振りです大佐。お元気でしたか?」

君か。久し振りだな。私は相変わらずだ。君もそのようだな。」

知り合いのようだ。は軽く会釈する。

「いつも兄がお世話になっております。」

「ああ・・・アレのことか。アレには私も手を焼かされているよ。なんとかならないものかね?」

「すみません。しかしご心配なく。すぐに兄のことは私がなんとかしますので。」

「なら良いがね。軍隊を率いる力があっても、アレは少々手に余る。早急に対処を頼むよ。」

「心得ております。」

は笑顔で大佐を見つめ、それから急に不敵な笑みに表情を変えた。

目を細めているのに、口元には変わらず笑みが浮かんでいる。

「・・・それより大佐。リノア嬢はどちらに?」

「あれは君達のように鍛えられていない。足手まといにならないとも限らん。

彼女が作戦に参加しない事はここにいる全員のためでもある。」

なんという正論なのだろう。だが、SeeDとしてスコール達には納得出来なかった。

セルフィがおずおずと大佐に尋ねる。

「もしかしてリノアのお父さん?」

「そう呼んでもらえなくなって随分になる。」

それは肯定を意味する言葉だ。ゼルが驚いて言った。

「親父は軍のお偉いさんで娘は反政府グループのメンバー!?まずいんじゃないっすか!?」

「そう・・・・非常にまずい。が、私の家庭の問題だ。君達には関係ない。

何より、これから我々がやろうとしている事に比べると余りにも小さな問題だ。」

普通ならそう思うだろう。けれど、SeeDとして、そういうわけにはいかないのだ。

SeeDの雇い主はリノア。つまり、ガーデンの命令もリノアの命令も、自分達にとって価値は同じ。

スコールは言った。

「俺達は今回の任務が終わったら契約通りリノアの傭兵に戻ります。

事情はわかりませんがその時は邪魔しないでください。」

「邪魔したら?」

「俺達はSeeDです。SeeDのやり方で行動します。」

は見兼ねたのか、スコールと大佐の間に割り込んだ。

そして少し引きつり気味の笑顔で言った。

「とりあえず、俺達は魔女暗殺の任務で来たんだし、先にそっちの話をしましょう。」

大佐は鼻で笑い、言った。

「一時停戦だ。計画の説明をしよう。」





ガルバディア政府と魔女イデアが協定を結んだのは知っている。

その協定を記念して、セレモニーが開かれるらしい。

セレモニー会場は大統領官邸であり、セレモニーの最中にSeeDは2チームに分かれて行動する。

セレモニー終了とともに魔女のパレードが開始され、そのパレードはデリングシティを一周するらしい。

そして、20時丁度に凱旋門の下に魔女の乗ったパレードカーが入る。

その時に凱旋門の鉄格子を下ろし、魔女を凱旋門に閉じ込め狙撃するというわけだ。

凱旋門チーム、狙撃チーム、どちらも失敗してはならない作戦である。

「さて、チーム編成に移ろうか。」

カーウェイ大佐が言った。

「狙撃チームは狙撃手とリーダーで構成してくれ。

リーダーは総攻撃の指揮を執ってもらう。」

「大佐」

が軽く手を上げて尋ねた。

「総攻撃というのはどういうことですか?」

「何らかのアクシデントで計画が進められない場合・・・或いは狙撃に失敗した場合、

リーダーの指揮下で魔女に総攻撃をかけてもらう。我々はすべてを秘密裏に進めたい。

そのための複雑な暗殺計画だ。しかし、最終目的は魔女の排除。

あらゆる犠牲を払ってでも目的を果たさねばならない。

例え私の存在や君達の所属が明るみに出てもな。

リーダーは?」

「俺です。」

スコールが一歩前に出て言う。大佐は頷いた。

「後は君が決めたまえ。」

狙撃チームと凱旋門チーム。狙撃チームでスコールとアーヴァインは決定だ。

凱旋門チームが問題となる。スコールはSeeDの面々を見渡して言った。

「俺とアーヴァイン・キニアス、それから・イオザムが狙撃チームとして行動する。

凱旋門チームはセルフィ、キスティス、ゼルの3人で固めてくれ。」

3人の「了解」という声がはもる。

だが、ここでひとつの疑問が浮き上がった。

「凱旋門チームのリーダーは?」

そう、全体のリーダーであるスコールと、副リーダーといえるが狙撃チームに入ってしまっている。

となると、凱旋門チームの指揮を執る者がいないのだ。

メンバーはセルフィ、キスティス、それからゼル。

この中で一番妥当なのは・・・。

是非任せてくれ、と言わんばかりにフットワークを始めたゼルには悪いが。

「・・・キスティス・トゥリープ、頼む。」

「OK! 任せておいて。」

ゼルががっくりと項垂れたのが横目に見えた。

「さ! 計画実行だ!」

「悪い、スコール達先に行って待機しててくれ。すぐに行くから。」

「・・・遅れるなよ。」

「俺が遅れて作戦に参加出来なくても、お前ら2人いれば大丈夫だろ。」

スコールは不思議に思ったが、がへまをするとは思えない。

きっと何かやることがあるのだろう。は充分に信じられる相手だ。

スコールはアーヴァインを連れ、一足先に外へと出た。

ゼル達もその後に続いて外に出ようとしたが、ふと動きを止めた。

「よっ!やっと脱出成功! あの男、何か言ってた?」

「リノア。」

は顔を上げる。どこかに閉じ込められていたのだろうか。

「別に何も言ってなかったぜ。」

「スコールは?」

だらだらと話が続きそうになったとき、キスティスが苛立った様子でリノアに言った。

「ごめんね、リノア。私達、もう行かなくちゃ。」

「でも、ちょっと待って。」

そう言ってリノアは懐から何かを取り出し、それを自慢げに掲げて見せた。

「これ見て!! これ、オダイン・バングルって言うの。あの男の部屋で見つけたのよ。」

「オダイン!?」

オダインといえば有名な教授の名前だ。オダインブランドというブランド名まである。

「何すんの、それ。」

「魔女の力を制御するみたい。でも効果わからないから今回の作戦では使わない事にしたらしいの。」

「オダインブランドならきっと効果アリだぜ。魔法系グッズじゃ一番だからな。」

「だよね、だよね!」

嬉しそうにリノアが言う。けれど、それはキスティスの苛立ちに拍車をかけるだけだった。

いつぞやのスコールとのようだ。

キスティスは言った。

「それで、あなた、どうしたいの?魔女にそれをつけさせるの?

誰が? いつ? どうやって?」

「それをみんなで考えるのよ!」

「時間がないって言ったでしょ。スコール達、もう待機してるわ。

私達にも任務があるの。わかるでしょ?家出娘の反抗とは違うの。これは遊びじゃないの。」

キスティスはそう言い放つと、そのまま部屋から出て行った。

ゼルとセルフィもリノアになんと声をかけていいのかわからずに、黙ったまま出て行った。

リノアは唇を結び、床に座り込む。

はその様子を見て、小さく溜息をついた。

「遊びじゃないの、だって。わかってるもん。私だって・・・考えてるんだから。」

「言っただろ?リノアは覚悟がないって。

ちゃんと考えてるのかもしれない、遊びのつもりなんてないのかもしれない。

けど、覚悟がまだ足りないんだよ、あんたには。」

「だって、どうすればいいのかわからないもん。」

はうんざりしたように溜息をついた。

「それじゃ、何にも出来ない。よく考えてみろよ。相手は本物の魔女だぜ。

そこらへんにいる雑魚のモンスターなら、リノアの考えてる作戦でもいけるかもしれない。

けど、魔女は雑魚じゃない。知能が高いんだ。そう簡単に引っかかるわけないだろ。」

「だって」

リノアは言いかけて、口を噤んだ。

の言う通りだと思ったから。自分の考えた作戦が、あまりに子供染みてると思ったから。

涙が寸前まで込み上げてくる。けど、泣かない。泣いたら負けたような気持ちになる。

そんなリノアを見て、今度は呆れた溜息をついた

が近寄ってくる足音が聞こえる。

「でも、ま」

すぐ後ろから、声が聞こえた。

「遊びじゃない、って言うなら、リノアの作戦がどこまで通じるか付き合ってやるけど?」

リノアはハッとして振り向いた。

そこには、悪戯な笑みを浮かべて立っているの姿が。

リノアはを見上げたまま、尋ねる。

「だって・・・だって任務があるんじゃないの?」

「スコールとアーヴァインがいりゃ大丈夫だろ。間に合うようなら俺も駆けつけるし。」

ケロリと言う

リノアは、もう一度尋ねた。

「・・・私の作戦に、付き合ってくれるの?」

「雇い主・・・クライアントは、一応あんただからな。」

「失敗しても?」

「命令ならこの命だって投げ打つさ。俺がやられるわけないけど。」

「だって、もし死んじゃったりしたら」

「死なねぇよ。危険な状態になっても、スコール達の作戦が進んでいる限り死にゃしねぇさ。

それに、あんた俺がスコール達のとこに行ったら1人で作戦進める気だろ?

そんなことになるより、俺が護衛に付いた方があんたの安全性も高くなる。」

全てハッタリで言っているわけではない。ちゃんとした根拠があるから言っているのだ。

言っていることは全て本当のこと。事実である。

リノアは呆然とを見つめていたが、やっといつもの笑みを浮かべた。

「・・・うんっ!それじゃ、作戦開始しよう!!」

「了解。マスター。」






ガルバディアは完全に魔女の手中。

ガルバディアは、もはや魔女の道具にしか過ぎないのかもしれない。

世界は魔女に対する恐怖から団結するだろう。

そうなれば、ガルバディアは世界を敵に回すことになる。

魔女戦争の悪夢が繰り返される。それだけは避けたいのだ。

かつてのガルバディアの敵国エスタを率いていたのも魔女。

そんな魔女をガルバディアに取り込むのは反対。

デリング大統領は愚かだと人々は言う。

東の大国エスタは最大の脅威であり、かつて魔女アデルとともに世界中を侵攻した国だ。

突然の終戦以来、エスタは沈黙を続けてきた。魔女アデルの消息もわからない。

だが、エスタが再び攻めてくる可能性は大きい。

ガルバディアは力を蓄えるために他国を占領していった。

その頃から、何かが狂い始めたのかもしれない。








「リノア、こっちだ。」

「うんっ。」

とリノアはカーウェイ邸を出発し、大統領官邸の裏にやって来ていた。

リノアはスコール達よりも先に任務を完遂させ、あっと言わせてやりたいのだ。

子供染みていると自覚している。けれど、悔しいものは悔しいのだから仕方ない。

は近くに止めてあった車に飛び乗り、リノアに手を貸した。

2人はそこから官邸の屋根へと登る。

「私だって・・・SeeDじゃないけど・・・遊びじゃないもん・・・」

「ああ。わかってる。・・・わかってるよ。」

そう言ってくれる人が、今までいなかった。

リノアは隣にいるを見つめ、心底嬉しそうに微笑んだ。

こんなに心強いなんて思わなかった。傍に、誰かがいてくれるということが。



2人は魔女のいる部屋へと侵入した。

不気味な部屋だ。白く薄いカーテンが何重にもかけられている。

そして、その部屋の中心に、魔女が1人静かに座っている。

リノアはを見つめた。は頷き、リノアも頷き返す。

「あの・・・私、このガルバディアの、軍の、大佐の、カーウェイの娘のリノアです。」

緊張しているのか、自分でも何を言っているのかわからなくなってきている。

その時、がすっと前に出た。

「初めまして。俺はリノアの兄で、と申します。」

リノアは驚いてを見つめた。嘘も方便というが、こんな嘘をつかれるとは思っても見なかった。

も少し緊張した面持ちで魔女に話し掛けている。

魔女に対応するのも初めてなのだろう。当たり前だ。

「これからは父がお世話になると思いまして、ご挨拶に参りました。

セレモニーの直前になってしまい、申し訳ありません。

魔女イデア。本日は我々兄妹から贈り物があるので、是非受け取って頂きたく思います。」

緊張しているとはいえ、完璧な挨拶だ。リノアは自分が最後まで続けなくて良かったと思った。

つっかえつっかえ言ってしまったのでは、きっと魔女にも不信に思われただろう。

「さぁリノア。イデア様に贈り物を。」

がリノアを促す。リノアは頷き、イデアにゆっくりと近付いて行った。

だが、突然見えない力によってリノアの体は跳ね飛ばされた。

寸でのところでがリノアの体を受け止めたためリノアに怪我はなかったものの、

もリノアも目を見開いて驚いている。

その時、はリノアの持っているバングルの変化に気付いた。

何故か淡い光を放ち、バングル本体が震えているのだ。

咄嗟には叫んだ。

「リノアっ、バングルを放せ!!!」

はリノアの持っているバングルを取り上げ、それを魔女に投げ付けようとした。

だがバングルは何故か手から離れることなく、振動を続けている。

は青褪めた。

魔法だ。魔法が使われている。

「くっ・・・あっ!!」

次の瞬間、の握っているバングルごとの体が宙に吊り上げられた。

は叫ぶ。

「っ・・・逃げろ!リノアっ!!!」

危険過ぎる。早く逃げろと頭の中でサイレンが鳴り響いている。

だんだんと意識が朦朧としてきて、それでもサイレンの音だけははっきりしている。

逃げなければ。今の自分1人では、この魔女に敵いはしない。

頭の中の信号が、赤に変わった。

『・・・私の愛しいの血縁か?お前は。』

「なん・・・だってぇ・・・!?」

外から聞こえたのではない。頭に直接話し掛けられている。

魔女の声だ。

『愛しい私の・・・その血縁のお前を殺すわけにはいかない。

に感謝するがいい。愚か者の・イオザムよ。』

「うぁっ!?」

ぐいっと引っ張られる体。官邸のテラスへと向かう魔女。

広場には、大観衆が待ち受けている。

部屋の扉がバタンと閉まり、はテラスに引きずり出された。

バングルを放そうにも手から離れてくれない。どうにも出来ない状態なのだ。

それでも必死に、魔女の力に抵抗だけはしてみる。

魔女に出来るだけ近寄らないように、バングルごと力を自分の方に引っ張ってみる。

かなりの力が必要だが、耐えることは出来そうだ。

魔女イデアは観衆の前で、静かに語り始めた。

「・・・臭い。・・・薄汚れた愚か者ども。古来より我々魔女は幻想の中に生きてきた。

お前達が生み出した愚かな幻想だ。恐ろしげな衣装に身をまとい残酷な儀式で

善良な人間を呪い殺す魔女。無慈悲な魔法で緑の野を焼き払い

温かい故郷を凍てつかせる恐ろしい魔女。・・・くだらない。」

には魔女が何を言っているのかわからなかった。

「その幻想の中の恐ろしい魔女がガルバディアの味方になると知りお前達は安堵の吐息か?

幻想に幻想を重ねて夢を見ているのは誰だ?」

「イ、イデア・・・一体何を・・・イデ・・・!」

イデアの言うことに焦りを感じたのか、デリング大統領が近付くのが見える。

は叫んだ。

「馬鹿野郎ッ!!そいつに近付くんじゃねぇっ!!!」

だが、の叫びも虚しく。

魔女の鋭い爪が、デリング大統領の胸を貫いたのだ。

イデアはデリングを突き刺したまま語る。

「現実は優しくない。現実はまったく優しくない。ならば、愚かな者、お前達! こうするしかない。」

は目前の光景が信じられなかった。

大観衆の面前で、世界を苦しめていた張本人、デリング大統領が息絶えたのだ。

ドサリと地に崩れ落ちるデリングの体。

その音があまりにリアルで、は目を見開いたまま硬直した。

イデアは続ける。

「魔女には生贄と残酷な儀式が必要らしい。」

そう言った瞬間、今まで抵抗出来る程度の力だったのが急に強くなり、を引き摺り出した。

抵抗もほとんど無に近い。

ぐんぐん引っ張られ、そして急に地面から足が離れた。

宙にぶら下げられる状態となったは、魔女の力によって大観衆の面前に晒されたのだ。

は悔しげに魔女を睨む。

大観衆の中にスコールとアーヴァインの姿を見つけた。2人とも酷く驚いている。

!!」

アーヴァインの声だ。は叫んだ。

「リノアがっ・・・俺のことはいいから、リノアを保護してくれ!!このままじゃ危険だ!!!」

あの部屋にまだいるはずだ。けれど、どうなっているかわからない。

何せ魔女がいるのだ。何が起こるか予想も出来ない。

「・・・よくしゃべる生贄だ。」

魔女は憎々しげに呟くと、に向かって手のひらを向けた。

次の瞬間、見えない強力な力がに襲いかかった。

一瞬で意識が吹き飛ばされる。

は力なく項垂れ、宙に浮いたまま意識を失った。





は俺には追いつけない。悪いけど、兄ちゃんはお前とは格が違うんだ。』





どこかで、兄の言った言葉を聞きながら。












<続く>


=コメント=
やっぱり狙撃まで行けなかった(笑
次回狙撃まで必ず到達します。
今回はさん大活躍ですね。
さんの運命やいかに!?(笑
そして次回はさんとある人が再会します。
今まで名前しか出て来てないけど、重要なキャラですよ!
・・・ウチのサイトにとっては、ですが(笑
乞うご期待!! [PR]動画