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初めて知ったこの世界の真実。

いえ、今この星に起こっている信じられない危機。

クラウドの言葉を聞くまで、“危機”なんて冗談だと思っていた。

けれど、冗談とか、そういう話じゃないんだ。

本当にこの世界は今、窮地に立たされている。

そして、そのことをまだ大半の人が知らないでいる。

このままじゃいけない。

きっと、立ち止まってるような時間もないんだ。


は無理をし過ぎるんだよ。たまには、肩の力、抜いてみたら?』


架月の言葉も、何故か夢の中のよう。

架月、私は大丈夫だから。

大丈夫よ。何も無理なんてしてない。

けれど、でも、ね?

架月、あなたの言葉が今、私にどれだけ安心感を与えてくれていると思う?










I love my life.










はカームでクラウドの話を聞いた後、まともに動く事が出来なくなっていた。

カームに到着した一行は、宿でクラウドの話を聞くことになっていたのだ。

クラウドが知っている星の危機のこと、セフィロスのこと、全てを。

その話はクラウドの過去のことから始まった。

クラウドはセフィロスに憧れてソルジャーになり、セフィロスとともに任務をこなすうち

戦友と呼べるほどの仲になったと。

5年前、まだクラウドが16歳の頃。

セフィロスとクラウドは任務のために、クラウドの故郷のニブルヘイムに足を運んだ。

そこで、見てはいけないものを見てしまったセフィロスとクラウド。

通常ソルジャーとは、魔晄を浴びた人間のことを言う。

だが、セフィロスとクラウドが見たものとは、ソルジャーとは比べものにならないほど

高密度の魔晄に浸されている人間だった。

高密度の魔晄に浸された人間は、モンスターと呼ばれる。

そのモンスターを生み出していたのが、神羅カンパニーの宝条だという。


『・・・・俺はこうして生み出されたのか?

          俺はモンスターと同じだというのか・・・・』


悲痛なセフィロスの声。



『俺は・・・・人間なのか?』



セフィロスはそれから自分を見失ってしまった。

宿にこもり、誰とも言葉を交わそうとせずに。

そして一度行方不明になったセフィロスが見つかったのは、ニブルヘイムにある建物だった。

神羅屋敷と呼ばれていた建物の隠し階段の先にある研究室。

そこに、セフィロスはいた。

セフィロスは何かに取り憑かれたかのように書物を読み漁り、

地下室の明かりは決して消える事がなかったという。



・・・そして。



『何も知らぬ裏切り者よ。教えてやろう。

この星はもともとセトラのものだった。セトラは旅をする民族。

旅をして、星を開き、そしてまた旅・・・。

辛く、厳しい旅の果てに約束の地を知り、至上の幸福を見つける。

だが、旅を嫌う者達が現れた。その者は旅することをやめ、家を持ち、安楽な生活を選んだ。

セトラと星が生み出したものを奪い何も返そうとしない。それがおまえたちの祖先だ。』

セフィロスはクラウドに言った。

『昔、この星を災害が襲った。お前達の祖先は逃げ回り・・・隠れたおかげで生き延びた。

星の危機はセトラの犠牲で回避された。その後でのうのうと数を増やしたのがお前達だ。

セトラはこうしてレポートの中に残るだけの種族となってしまった。』

セトラ。古代種。

『2000年前の地層から発見されたジェノバと名付けられた古代種。

そしてジェノバ・プロジェクト。

ジェノバ・プロジェクトとは古代種・・・つまりセトラの能力を持った人間を創り出すことだ。

・・・・創り出されたのは俺だ。』

セフィロスは、セトラの能力を持った人間として創り出された。




――――邪魔をするな。俺は母に会いに行く







?」

はハッとして顔を上げた。

ティファが心配そうに自分の顔を覗き込んでいる。

辺りを見回すと、クラウド達の姿はなく、ティファと二人きりだった。

「大丈夫?ぼんやりしてるみたいだけど。」

「ん・・・ちょっとね。」

力無く笑い、は返事を返した。

一気に膨大な話を聞かされてしまい、少し混乱していたのかもしれない。

ジェノバのこと、セフィロスのこと、そして古代種・・・セトラのこと。

考えれば考えるほど疑問が湧き上がって来る。

ひとつの疑問を解決すれば、新たに二つ三つの疑問が出て来てしまうのだ。

考えても考えてもまだ足りない。

いや、考えれば考えるだけ疑問が増えてゆく。

「・・・やっぱり、気になるよね。古代種、セトラのこと。」

ティファがぽつりと言う。は頷いた。

「私がいた世界はね、こんな危険な世界じゃなかったわ。

モンスターなんてもちろんいなかったし、世界を牛耳るような悪徳会社もなかった。

もちろん犯罪や殺人は毎日絶えずあったけど、世界の危機っていうのはなかったの。

・・・古代種やセトラのことだって、何にも知らなかった。」

は俯く。

自分だけ、まだ何もわかっていない。

クラウドの話を聞いて、少しは理解出来た。けれど、まだ根本的なことは何もわかっていない。

それが歯痒く、悔しかった。

皆に置いて行かれてしまうのではないか。そんなふうに思ってしまうのだ。

「だから・・・余計に焦るのよね。何も知らない私に出来る事なんてあるのか、って思うと。」

どうやら自分が古代種らしいということはわかった。

だが、古代種だからといってセトラの特別な知識を持っているわけではない。

特別に戦闘能力に長けているわけでもない。

だから、少し思ってしまう。

もしかしたら自分は、やはりただの足手纏いなのではないか、と。

クラウド達について来るべきではなかったのではないか、と。

ティファはを見つめ、言った。

「焦る必要なんて、ないと思うよ?」

はティファを見た。ティファは優しく微笑んでいる。

は無理をし過ぎるのよ。たまには、肩の力、抜いてみたらどうかしら。」

驚いた。つい、目を大きく見開いて驚いてしまった。


―――は無理をし過ぎるんだよ。たまには、肩の力、抜いてみたら?


弟にも言われた言葉を、まさかティファの口から聞くことになるとは。

けれど、その言葉がの心を暖めて行く。自分でも、それがわかった。

は自然に微笑み、ティファに頷いた。






出発まで時間がある。はカームの町を見て回ることにした。

日本では滅多にお目にかかれないような町並みなのだ。

せめてこういう風景だけでも楽しもうと思う。

地球で言うと、ドイツみたいな町並みだ。煉瓦造りの家が可愛らしい。

はふと思い、道具屋に足を運んだ。

念のため、ポーションとテントを買っておこうと思ったのだ。

旅は長い。何が起こるとも限らないのだから。



道具屋を出てふと見ると、マテリアショップから出てくるクラウドを見つけた。

は少し声のボリュームを上げてクラウドに言う。

「お買い物〜?クラウドさーんっ。」

に気付いたクラウドは、と目を合わせるとあからさまに嫌そうな表情をした。

そんなクラウドを見ても拗ねたように表情を変える。

クラウドはに近寄りながら言った。

「・・・いたのか。」

「何よ、その嫌そうな顔は。あー、悪うござんしたね、声なんかかけちゃって。

お一人で買い物を楽しんでたのね、あーはいはいごめんなさーいっ。」

そこまで言い切ると、はプイとそっぽを向いた。

街中を歩く人達が、何事かと自分達の方をチラチラ見ている。

別にいい。少しでもクラウドに恥をかかせてやりたいと思った。

クラウドは小さく溜息をつき、の手を取ると歩き出した。

急なことには驚き、クラウドに向かって怒鳴る。

「ちょっと!何するのよっ!」

「・・・お前と変な関係に見られるのはまっぴらごめんだ。」

「はぁ?」

は首を傾げた。だが、すぐにクラウドの言葉の意味がわかることになる。

周りの人達が囁いてる言葉が、不意にの耳に入ってきたのだ。

【 ・・・痴話喧嘩? 】

【 随分と可愛らしい痴話喧嘩ねェ・・・ 】

は顔を真っ赤にした。

クラウドはそんなを見て深い溜息をつき、黙々と宿に向かって歩く。

だが、クラウドがふと呟いた。

「・・・本当に、絶対ごめんだ・・・」







カームを出発して、クラウド達はチョコボファームへとやって来た。

本当はチョコボファームなんかに寄らず、そのまま先に進もうと思ったのだが

先に進むには大蛇がいる湿地帯を抜けなくてはならない。その大蛇をミドガルズオルムという。

ミドガルズオルムの大きさは約10mほど。そんな大蛇に捕まっては、助かる確率など0%である。

歩いて湿地帯を渡ったのでは間違いなくミドガルズオルムの餌食だろう。

どうすれば良いのかチョコボファームの主人に尋ねてみた。

そうならないためには、チョコボという動物が必要らしい。

チョコボで湿地帯を一気に駆け抜ければそう問題はない、という。

仕方なく、チョコボを購入しようとしたのだが運が悪かった。

「チョコボが欲しいんだが。」

クラウドがチョコボを売っている少年に言うと、少年は言った。

「おじさんたち運が悪い!」

「ぶっ。」

おじさん。どう考えても、クラウドのことだろう。

クラウドは額に青筋を浮かべて俯いている。

レッド13は呆れた顔をしているし、に至っては笑いを堪えるのに必死になっている。

「おじ・・・おじさんだって・・・クククッ・・・お・・おじさんだってさ、クラウドっ!!」

「うるさいっ!!!」

顔を真っ赤にしたクラウドが叫ぶ。

はもう耐えられないとでも言うように、大声で笑い出した。

「あっはっはっはっはっ!!クラウドおじさんだって!!おじさんだってさ!!」

「うるさいっ!!斬られたいか貴様っ!!」

二人のやり取りを無視して、少年が言う。

「チョコボは売り切れちゃったんだ。外にいるのは、預かり物なんでね。

チョコボが欲しいなら 野生のを捕まえるといいよ。」

「クラウドおじさん〜〜〜!!」

「いい加減にしろっ!!!」

少年の声を遮りながらじゃれ合っているクラウドと

レッド13は溜息をつき、少年に尋ねた。

「・・・それで?野生のチョコボを捕まえるにはどうすればいい?」

「チョコボよせマテリアを付けてれば現れるから、それを捕まえてよ。

今ならチョコボよせマテリアを2000ギルで売ってあげるよ。買うかい?」

「もらおう。」

クラウドとは無視してレッド13がマテリアを購入した。

そして、まだじゃれ合っているクラウド達を見て深い溜息をついた。








チョコボで湿地帯を越え、そこで3人は驚くべき光景を目の当たりにした。

クラウドとレッド13は言葉を失い、はただ目を細めて“それ”をじっと見つめた。

そこにあったのは、串刺しにされたミドガルズオルムの惨殺死体だったのだ。

目玉は飛び出し、真っ赤な口は半開きになり、舌がだらしなく垂れている。

真っ赤な口の中は更に赤く。体からは血が噴き出していた。

見ているだけで気持ちが悪くなる。なんとグロテスクな光景だろう。

「セフィロスが・・・やったのか・・・。」

クラウドがやっとのことで呟いた。

そう、こんなことが出来るのはセフィロスしかいない。

「こんなことする人が私達の相手・・・ってわけ。」

鼻で笑い、は言った。

普通に戦えば間違いなく自分達は瞬殺されてしまうだろう。

そんな相手の実力を目前にして、少し怯えが生じたのだろうか。

だからといって引き返すわけにはいかない。

相手がそれほどまでに強いのなら、自分達も強くなるまでだ。

「・・・行こう。」

クラウドが言い、レッド13とは頷いた。





湿地帯の先にあったのはミスリルマインという洞窟だった。

モンスターの数もすごければ、内部の迷路もすごかった。

だがそれはにとって好都合でもある。戦闘に慣れるためには実戦しかないのだ。

そんな調子でミスリルマインを進み、の腕も大分慣れて来たという頃、出口が見えた。

こんな洞窟、さっさと抜けてしまいたい。

そう思い、3人は出口へと一歩を踏み出した。が。

「ちょっと待った!」

引き止められた。仲間の誰かの声ではない。明らかに敵の声だ。

だがはこの声に聞き覚えがあった。

3人は振り返る。そこにいたのは、スキンヘッドのスーツを着た男だった。

「・・・ルードじゃん。おっはー、こんなとこで何してんのさ。」

気楽にが話し掛けるとルードは黙り込んでしまった。

タークスのルード。彼はしゃべるのが得意ではない。むしろ苦手と言えるだろう。

「・・・・・・。」

長い沈黙。どちらも何をしゃべっていいのかわからないようだ。

「先輩!」

今度はまた違う声が聞こえた。若い女の声である。

3人は視線を巡らせた。すると、一人の女性が目に入った。

金髪をショートにした、スーツ姿の女性である。

「ルード先輩!しゃべるの苦手なんだからムリしないでください。」

「・・・・イリーナ、頼む。」

女性の名はイリーナというようだ。イリーナはひとつ頷くと、クラウド達に言った。

「私、タークスの新人のイリーナ。レノがあんたたちにやられてタークスは人手不足。

・・・・おかげで私、タークスになれたんだけどね・・・・。

ま、それはともかく 私達の任務はセフィロスの行方を突き止めること。

それからあんた達の邪魔をすること。

あ、逆だったか。私達の邪魔をしてるのはあんた達だもんね。」

どうやら彼女はしゃべるのが好きらしい。口を挟む隙もない。

「・・・イリーナ。しゃべり過ぎだぞ。」

今日は千客万来のようだ。次から次へと現れる。

「ツォンさん!?」

次に現れたのは、ツォンだった。

いつもの不機嫌な顔を貼り付けて、ミスリルマインの出口のところに立っている。

「我々の任務を、彼らに教えてやる必要はない。」

イリーナに言うと、イリーナは凹んだようにしゅんとした。

「すいません・・・ツォンさん。」

上官から言われたからだろうか。随分な凹みようである。

「お前達には、別の任務を与えてあったはずだ。行け。定時連絡を欠かすなよ。」

「あっ!そうでした!それでは、私とルード先輩はジュノンの港へ向かった

セフィロスを追いかけます!」

沈黙が流れた。クラウド達からすれば内心してやったり。

セフィロスの行方がわかったのだから。

ツォンは不機嫌さを5割ほど増して、イリーナに言った。

「・・・イリーナ。私の言葉の意味がわからなかったようだな。」

「あっ! す、すいません・・・。」

慌てて謝るイリーナ。ツォンは疲れたように溜息をついた。

「・・・行け。セフィロスを逃すなよ。」

「はっ!」

ルードとイリーナが返事をする。はっきりとした返事は、プロのタークスを思わせた。

と、ルードが出口の直前で立ち止まりクラウド達を振り向く。

そして、言った。

「・・・レノが言ってた。君達に負わされた怪我が治ったら挨拶したいと。

親愛なる君達に新しい武器を見せたいそうだ。」

その言葉に、は一瞬固まった。

それから行ってしまおうとするルードに叫ぶ。

「レノ、怪我してるの!?」

ルードの足が止まった。

「ルードっ!おしえて!」

「・・・には、個人的に挨拶がしたいと言っていた。

今度美味い店を紹介すると伝えてくれと頼まれた。・・・俺は確かに伝えたからな。」

ルードはそれだけを告げると、そのまま行ってしまった。

はその後姿を見送り、静かに俯いた。

「では、諸君。できれば神羅の邪魔はしないでもらいたいものだな」

ツォンの声と、去って行く足音がやけに響いて聞こえた。








「・・・レノの怪我、クラウド達の所為なの?」

ツォン達が去ってしばらくしてから、が呟いた。

クラウドは一瞬言葉に詰まったが、正直に頷いた。

「レノに怪我を負わせたのはクラウド達なの?」

「ああ、そうだ。」

静かに肯定する。

「どうして!?レノは悪くないっ。レノは私を助けてくれた!なのにどうしてレノに怪我させたの!?」

が叫ぶ。だが、クラウドもこれにひるんではいられなかった。

「レノも俺達を攻撃してきたからだ!俺達が手を出さなかったら、俺達が殺されてた!!

お前にはそれがわからないのか!?確かにレノはお前を助け、逃がしてくれたかもしれない!

けどそれとこれとは別問題だ!!どんなにレノがお前を助けても、レノとお前は敵同士なんだぞ!?」

その言葉が胸に刺さる。

そんなこと、わかっている。レノと自分は敵同士。けれど、レノの優しさがあまりに嬉しかったから。

どう考えても、レノが敵には思えなかったから。だから。

「・・・本当に、レノの申し出を受けてタークスにでもなれば良かった・・・。」

その言葉にクラウドは振り向き、そして思い切りの頬を叩いた。




――――――――パンッ――――――――




乾いた音が、洞窟内でやけに響いた。

「・・・二度と神羅に入りたいなんて、言うな・・・・。」

いつもより低く、そしてよく透るクラウドの声。

本当に神羅を憎んでいることが、そのまま伝わってくる。

けれど、ここで負けるわけにはいかない。

神羅に入りたいとに思わせているのは、クラウド本人なのだから。

「じゃあ言わせてもらうけどねぇっ!!」

もう我慢出来ない。

「私が神羅に入りたいなんて思うのは、どこの誰の所為だと思ってるのよ!!

クラウド、あんたの所為だからね!?私がずっと悩んでるのも、ずっと我慢してるのも、

全部クラウドの所為なのよ!!」

「どうして俺の所為になるんだっ!」

「私はもうクラウド達の仲間なのよ!!けどクラウドは私の目を見て話そうとしないじゃない!!

エアリスやティファに比べて扱いにくいのはわかる!けど避けられるのだけは納得出来ないわ!!

私のことが嫌いなら「仲間からはずれろ」って言えばいいじゃない!そっちの方が私も楽よ!!

この世界のことが全てちゃんと理解出来てたら、クラウド達の仲間になろうなんて思わないわ!

こっちから願い下げよ!!!」

なりたくてクラウド達の仲間になったわけではない。

元々、クラウド達の仲間になろうなんて思っていなかったのだ。

ただ、ティファもエアリスも、皆が自分を暖かく迎え入れてくれたから。

それが何故か心に沁みて、自分の居場所を見つけたように思えたから。

けれどそう思ったこと自体間違いだったのかもしれない。

今クラウドと言い合っているのだって些細なことだとは思っている。けれどもう耐えられないのだ。

「もうたくさんっ。エアリスやティファには悪いけど、ここからは別行動を取らせてもらうわ。

むしろもう仲間だなんて思わないで。縁なんて、こっちから切ってやる!!」

叫びたいだけ叫ぶと、は踵を返してミスリルマインを出た。

後ろから追いかけて来る足音も、自分を呼び止める声も、何もしなかった。










〜。ここの問題って、因数分解すりゃいいの?』

『はぁ?何、あんたこんな問題で梃子摺ってるわけ?』

『るさいなー。数学は俺の苦手分野!英語と理科なら任せてくれよ!』

『英語はともかく、理科は化学式とか出てくるでしょ。数学が出来ないとまずいんじゃないの?』

『化学式は俺の受け持ちじゃねーし。』

『・・・呆れた。なんて自分勝手な思想・・・。』

から見れば自分勝手かもね。は真っ直ぐ過ぎるから。』

『意味がわからないわ。ほら、さっさと残りの問題を解く!』

『うぇー・・・。』




もう、随分と昔のことのように思える。

両親は共働きで、弟が一番近しい肉親だった。

だから、知らず知らずのうちにお互いがとても大事な存在になっていたのだと思う。

命を懸けて守りたい相手。キザな言い方になってしまうが、恐らくこれが正確な言葉。

今頃、姉がいなくなってどうしているのだろう。

家事が出来なくて困っているのではないか。問題が解けなくて困っているのではないか。

それとも・・・姉の無事を祈ってくれているのだろうか。

「・・・ありえないわね、アイツの場合。」

小さく呟いて、静かに苦笑を浮かべた。

辺りはもう真っ暗である。クラウド達と別れてから、大分時間がたったのだ。

この世界にも夜はやってくる。

念のためと思って買っておいたテントが役に立った。

モンスター達の目に付きにくい場所でテントを張り、そこで一夜を過ごすことにしたのだ。

体力回復が出来る上、モンスター達に襲われることはまずないという代物。

こんなところで役に立つとは、思ってもみなかった。

このテントを買ったときは、まだクラウド達と別行動を取るなんて思ってもいなかったのだから。

人生、何が起こるかわからないとはまさにこのことか。


『もう仲間だなんて思わないで。縁なんて、こっちから切ってやる!!』


「・・・やっぱりちょっと言い過ぎたかしら。」

あの時一瞬だけ見えた、クラウドの顔。

明らかに傷付いた顔をしていた。少し悔しそうな、哀しそうな、歯痒そうな。

複雑な表情だったけれど、あれは明らかに傷付いたということを示している。

けれど、それだけも本気だったのだ。

レノとクラウドが敵対していることは知っている。もちろん、自分がレノの敵だということも。

だがそれがどうしようもないくらいに悔しかった。

クラウド達を裏切りたくはない。けれど、レノにも傷付いて欲しくない。

どちらも守りたい。両方の味方でいたい。

その考えが甘すぎた。贅沢すぎたのだ。

「・・・両方を守る方法って、ないのかしら。」

ぼんやりとしながら呟く。

クラウド達は今どうしているだろうか。のことなんて無視して、先へ進んでいるだろうか。

それともティファ達と連絡を取って、自分を探しているだろうか。

「・・・クラウドが私を探す?」

クスリと自嘲気味に笑う。もしクラウドが自分を探しているのなら、明日は矢が降るだろう。

「・・・もうあいつのこと考えるのはヤメ!縁は切ったんだから。これからは一人旅になるんだし、

しっかり寝てしっかり体調を整えておかないとね!!」

わざと大きな声で言ってみる。

自分の事を励ますには、あまりに哀しすぎる方法だった。









次の日、早朝にはテントをたたんで出発した。

体力は万全、万全じゃないものといえば、精神くらいなものだ。

思い切り伸びをして自分を奮い立たせる。こんなことで凹んでてどうする。

この先もっと辛いことがたくさん起こるかもしれないのに。

自分は、もう少し強くならないといけない。は思った。

「・・・さてと。とりあえずセフィロスが向かったというジュノンにでも行ってみようかしらね。」

目を細めて見ると遠くに何か街のようなものが見える。

海沿いにあるところを見ると、恐らくあれがジュノンなのだろう。

は腰の武器を確認してから、歩き出した。




ジュノンに入って、は首を傾げる。

やけに寂れた村。そして、その村に不釣合いな行進曲がかすかに聞こえるのだ。

何かを祝うような、明るい行進曲。

「おや、旅人さんかね?」

村の入り口にいた老婆に話し掛けられた。は小さく会釈する。

「こんにちわ、おばあさん。この曲は何なんですか?」

「さぁねぇ・・・。なんでも、神羅の新しい社長さんの歓迎式のリハーサルらしいっちゅう話だね。」

「神羅の新しい社長さんの歓迎式のリハーサル?」

は眉をひそめた。

神羅の新しい社長といえば、ルーファウスのことではないか。

「そのリハーサルってどこでやってるんですか?」

「上の街だよ。神羅の作った大きい街さね。」

は上空を見上げた。

青い空が見えることはなく、ただ黒いプレートが浮かんでいる。

アレが上の街なのだろうか。は老婆に礼を言い、ジュノンの街を見渡した。

街の一角だけ機械化されていて、その扉の前に神羅兵が立っている。

機械が上に伸びているところを見ると、恐らく上の街へ行くエレベーターか何かなのだろう。

は神羅兵に近寄り、彼をまじまじと見つめた。

「なッ・・・なんだお前はっ。」

あからさまにじろじろ見つめているに対して警戒心剥き出しの神羅兵。

だかは気にせずに言った。

「コレって、上の街に行けるエレベーターか何か?」

「そうだっ。だが貴様には関係のないことだろう、さぁ、さっさと行け!」

「ふぅん・・・そういう態度取っていいのかしら?」

腕を組み、嫌味たっぷりな声音で言う。神羅兵は言葉に詰まって口を閉ざした。

一般市民ならこういう態度は取らないだろう。

だからこそ、「こいつは誰だ」という疑問が湧いて出てくる。

きっと神羅兵の頭の中は少々混乱しているに違いない。

「レノとルードは上の街にいるの?」

「な・・・貴様なぜタークスのお2人の名を知っている!?」

「その問いを聞く前に、私が誰かを聞くべきじゃないの?下っ端兵士さん。」

兵士はぐっと詰まる。

「上に行かせてもらうわよ。でないとレノとルードがあなたをクビにしかねないわよ。」

「ふ、ふんっ。下手な嘘を・・・。」

「嘘かどうかはレノ達に確認するのね。私はタークス候補よ。レノ達からスカウトされた、ね。」

兵士はその言葉を聞き、青褪めて唖然とした表情を見せた。

は目を細めて兵士を軽蔑の眼差しで見つめている。

「もう一度言うわ。上に行かせてもらうわよ。」

「・・・クッ・・・。」

兵士は押し黙ると、そのまま扉の前をどいた。

は何も嘘を言っていない。全て本当のことだ。

レノとルードの名前がこんなところで役に立つとは思いもしなかった。

は冷ややかに兵士を睨み付けると、エレベーターに乗って上の街へと向かった。












<続く>


=コメント=
ヤバイな・・・(汗
どんどんクラウドとの仲が悪くなって行ってる。。。
いや、当初はちゃんとジュノンまでクラウド達と一緒の予定だったのよ!
でも急にたんが「レノの怪我は以下略」とか言い出しちゃって(待て
レノを庇う!不思議な怒りに囚われるクラウド!2人の危機!(意味不明
いやでも次回で挽回します!!
絶対。クラウドと仲直りさせてやります!!
というか、少しクラウドを素直に仕立て上げてみます。
どんなカンジかは見てのお楽しみということで(笑

次回をご期待ください!!