なんだか、不思議な気分だった。





そして、複雑な気分でもあった。







心の鎖







「・・・え?それ・・・本当、ですか?」

「私が嘘を言う必要がどこにある。」

放課後の職員室。

セフィロスがやれやれと頭を振りながら言う。

は唖然と、ポカンと、間抜けな顔で口を開けてセフィロスを見やった。

セフィロスから聞かされた事実。

えぇと、確か自分は学費&学生寮のことについて聞きに来たはずなのだが。

何故か、全く予想もしなかったセフィロスの言葉に、唖然としている自分がいる。

「・・・えぇと・・・。」

「理解出来なかったのならもう一度言う。お前の母親からの言伝だ。

『学費のことは心配しなくていい。寮生活の費用までは出してやれないが、

学費は全て私が払う。大学の学費も出してやるから、大学のことも考えておけ』とのことだ。」

セフィロスは淡々と語る。は理解出来ず、眉をしかめた。

「・・・あの、それ、本当ですか?」

「私が嘘を言う必要がどこにある。」

冒頭と同じ言葉を口にし、セフィロスはハァと小さく溜息をつく。

はただただ驚いていた。つい数日前母親の元を飛び出して来たばっかりだ。

学生寮を借りるまで、ということで、クラウドの家に泊めてもらったりしながら

この数日間を過ごしていた。

そして今日。あまりクラウド達にも迷惑はかけられないし、そろそろ学費のことや

寮のことを聞こうと思いセフィロスの元に来たら思いもしなかった母親からの伝言。

しかも学費を全て払ってくれるなんて。

嬉しいのかそうじゃないのか、よくわからない複雑な心境だった。

「そして学生寮のことだが、寮に入るのか?」

聞かれ、ハッと我に返る。

「あっ、はい。そのつもりです。」

「ならこの申込書をよく読み、記入欄を埋めて私に提出しろ。」

渡された一枚の紙。はその紙にざっと目を通し、

セフィロスに礼を言って職員室を出た。




廊下を歩きながら紙に書かれていることを読む。

とにかくは、名前を書いて提出すれば良いだけのことのようだ。

この額ならバイトで充分に払える額だし、丁度良い。



どんっ



と、その時誰かとぶつかってしまった。は慌てて紙から目を離し、

ぶつかった相手を見やる。

どうやら相手はとぶつかった反動で倒れたようだ。

青い髪に、大きなリボンの・・・。

「あたたた・・・。もうっ!どこ見て歩いてるのよっ!」

「ご、ごめんなさいっ。」

慌てて手を差し出し、顔を上げた相手を見て固まる。

「何よ。またアンタなの?」

「あ・・・・。」

を見上げて睨み付ける小さな少女。

そう、エーコだった。

「エ、エーコちゃん・・・。」

「勝手に“ちゃん付け”なんてしないでよね。エーコは呼び捨てにしてもらうのが一番いいの!」

相変わらず生意気だ。

「ところで、アンタどこに行くの?」

「え?高等部の校舎に戻るつもりだけど・・・。」

の言葉を聞き、エーコは呆れたようにわざとらしく溜息をついた。

その様子にムッとするだが、エーコは気付いた様子も見せずに言う。

「アンタ、まだ方向音痴が治ってないのね。こっちに行ったら中等部の校舎よ。

高等部の校舎はあっち!!」

エーコは今が向かっている方向と正反対の方を指差して言い放った。

は「え゛。」と言葉につまり、脱力して頭を抱えた。

「・・・アンタ馬鹿ね。」

「小学生に言われたくないわよ・・・。」

「失礼ねっ!エーコはもう立派なレディーよ!ジタンがそう言ってくれたもの。」

ジタン?

はその単語にぱっと顔を上げた。

「・・・ジタンを知ってるの?」

「もちろんよ。ジタンとエーコは恋人同士なんだから!」

いや、それは有り得ない

声には出さず突っ込んでおく。

「確かアンタとジタンって同じクラスよね。」

「うん、そうよ。」

「仕方ないわねぇ・・・。ジタンと繋がりのある人を見捨てられないわ。エーコ優しいから。」

優しくなんてない。

突っ込みたかったが、そこはぐっと堪える。

「いいわ。エーコが高等部の校舎まで連れて行ってあげる。ただし、これで最後よ。」

「・・・・はぁ・・・。」

まぁ、ありがたいことに変わりはない。は立ち上がり、エーコの後に付いて行こうとした。

だが、不意に呼び止められ足を止める。

。」

は振り返った。ヴィンセントだ。こちらに歩み寄って来る。

「ヴィンセント先生?なんですか?」

「お前に少し話がある。来い。」

は訳がわからず首を傾げたが、とりあえず付いて行かねばならない。

エーコは不服そうな顔でを見つめていたが、やがて「仕方ないわね」と言って、

初等部の校舎へと帰って行った。



はヴィンセントの後に付いて歩きながら思う。

何の話だろう?成績が悪いとか、授業態度が悪いとか、何かの説教だろうか?

けれどは説教されるほど問題児などではない。むしろ優等生だと言える。

先生達からの評判も良いらしいし、転校してまだ日は浅いとはいえ友達も出来た。

何が問題なのだろう。一体何の話だろう。

「入れ。」

ひとつの部屋の前で立ち止まり、ヴィンセントは言う。

はおずおずとヴィンセントを見やり、部屋に入った。

そこはあまり使われていない部屋らしく、少々埃っぽかった。

と言うより、その部屋はどう見ても生徒指導室に見えるのだが。

はイスに腰掛ける。ヴィンセントも部屋の扉を閉め、

の向かいのイスに腰掛けた。

「・・・そう身構えるな。説教などをするつもりはない。」

はヴィンセントのその言葉を聞き、少し肩の力を抜く。

ヴィンセントは軽く息をつくと、話し出した。

「・・・お前はクラウド、スコールの二人組と仲が良いそうだな。」

ビクッとの肩が震える。

「何故だ?ほとんどの者はあの二人組に近寄らないというのに。

興味本心で近寄ったとしても、あの二人の雰囲気に圧倒されて逃げ出す者ばかりだ。」

ヴィンセントはふぅ、と息をつき、を真っ直ぐに見つめた。

は俯いている。

「あの二人に近寄るな。私に心配をかけさせるんじゃない。」

これは本心だった。あの二人に近寄り、泣かされて来た者も何人もいる。

そして、場合によっては睨みとカッターナイフで脅された者だっている。

には、そんな目に遭って欲しくないのだ。

は困ったような表情をしてヴィンセントを見つめた。

視線と視線が交差する。

「お前は知らないかもしれん。だが、あの二人は問題児なんだぞ。」

「けど・・・・。」

は再び俯く。

けれど、良く透る声で言った。

「・・・あの二人は、優しい人です。」

ヴィンセントは目を見開き、を見据えた。

あの二人を“優しい”などと言ったのはが初めてだったから。

「・・・優しい?何故そう思う?」

「確かに・・・あの二人は、誤解されやすいかもしれません。

けど、本当は優しくて・・・感情を表に出せないだけなんです。」

こんな風に、真正面からクラウドとスコールを見つめてくれる。

ヴィンセントは小さく溜息をついた。

自分が心配をする必要などどこにもなかったのだ。

なら大丈夫。これは、にしか出来ないことなのだ。

やはり、は何かを変えられる。きっと、何かを動かし始めるだろう。

「・・・いや、あるいはと思っていたが・・・。」

小さな声で言ったヴィンセント。は首を傾げる。








「お前ならば、そう言うと思っていた。」








ふわりと呟くようにヴィンセントは言った。

は口をほんの少し開けて、驚いた表情でヴィンセントを見つめた。

そして、目を細めて微笑む。

「私、信じてますから。クラウド達のこと。」

ヴィンセントは何の迷いもなく言ったに、正直驚いた。

こんな簡単に、他人を信じられる人物がいるとは考えもしなかったから。

ユウナやガーネットを信じろというのならわかる。

だが、が信じてると言ったのは問題児二人組なのだ。

それが信じられなくて、そして嬉しかった。

「・・・そうか。」

信じてくれて、ありがとう。

そういう想いを乗せて、ヴィンセントは言った。

それが伝わったのか伝わらなかったのかはわからないが、は嬉しそうに微笑んだ。

「悪かったな。こんな話に付き合わせてしまって。」

「いいえ、とんでもないです。先生は、クラウド達のことを本当に心配していらっしゃるんですね。」

ヴィンセントはふと手を止めてを見やった。

心配?そうか、自分はあの二人を心配しているのか。

言われて初めて気付いた自分の気持ち。

やはり、この少女には何か不思議な力があるのかもしれない。

予感は膨れ上がる。

何かが始まる、そんな予感が。

「それじゃ、さようなら、ヴィンセント先生!」

「ああ。気をつけて帰れよ。」

は軽く会釈をし、部屋から出て行った。

バタンと扉が閉まり、ヴィンセントは苦笑を浮かべて小さく溜息をつく。





こんな気持ちは初めてだ。





諦めるのは、まだ早かったのだ。





きっと、全てが上手く行く。





この時は、まだそう信じていた。










っ♪」

はキョトンとして振り返った。

そこにはニッと笑っているジタンが立っていた。

「ジタン。あれ?ティーダは一緒じゃないの?」

いつも一緒のティーダがいない。そこに立っていたのは、ジタンだけなのだ。

ジタンは「あぁ」と声を漏らし、口を尖らせて言った。

「聞いてくれよ!あいつさ、罰ゲームでアイスクリーム奢ってくれる約束だったのに、

『あっ、今日用事があったの忘れてたッス!』とかわざとらしく言ってさ、

一人でサッサと帰っちまったんだぜー?だから明日アイス2個奢ってもらうんだ。」

フンッと胸を張って言うジタンを見て、はプッと噴き出した。

ティーダも可哀相に。明日きっとジタンと言い合いを繰り広げるに違いない。

「でも、何の罰ゲームなの?」

首を傾げては尋ねる。ジタンは言った。

「ババ抜き。」

「ババ抜き?」

ジタンが言うには、ティーダがババ抜きで負けたらしい。

それで罰ゲームにアイスを奢るという話が出たらしいが、ティーダは逃げるように

帰ってしまったということだ。

ジタンは口を尖らせている。はやっぱり噴き出した。

「ま、いいや。明日泣くのはティーダなわけだし?ってなことで一緒に帰ろーぜ!」

「どう話が飛躍して一緒に帰るって話になるのかはわからないけど、いいよ。」

ジタンはニッと笑い、と一緒に歩き出した。





「そういえば、は今クラウドんとこに泊まってるんだっけ?」

は頷く。

「そうだよ。もうすぐ学生寮に入るから、それまでだけどね。」

「へー。でも、クラウドにとっては良いことだったんじゃないかなー。」

は首を傾げる。「なんで?」と視線を投げ掛けた。

「だってホラ。クラウドとかってさ、食生活乱れてそうだから。」

「あはは、それは私も思った。」

クラウドの食生活は乱れてると思い込んでただったが、意外にも

彼は健康に関しては注意を払っているらしい。

その証拠に、クラウドは栄養バランスの良い料理を作ってくれたりもした。

彼が料理するという事自体に驚いたが、健康に注意を払っている事にも驚いた。

「ふーん、結構人って見かけに寄らないもんだねー。」

「私もビックリしちゃった。」

ジタンは夕焼け空を見上げながら歩いている。

もそれにならって、一緒に空を見上げた。

飛行機雲がどこまでも伸びている。オレンジ色に輝いて、どこか神秘的に見えた。

「・・・っと、オレこっちだ。」

「あ、私こっち。」

分かれ道で言う。ジタンは片手を軽く上げて笑った。

「それじゃ、また明日な!」

「うん、またねジタン。」

手を振って別れる。

は別れた後にふと振り返り、夕焼けの光の中に消えて行くジタンの後ろ姿を見つめていた。






また明日。






願わくば、明日も天気が晴れますように。







<続く>

=コメント=
ティーダとジタンを出張らせようとしたのに、
何故かヴィンセントが出張っている(爆
とりあえずジタンは最後に出てきたけど(笑
くそぅ、なんだよ(爆
次回はまたちょっとシリアス化。
ンフ。クラウドの母親登場かしらっ!?(ネタバレ)
さん!頑張るんだっ!!
クラウドの母親にガンガン言ってやれ!!(意味不明
その次が体育祭かなぁ・・・v
ずっとやりたかった体育祭・・・vv(笑
皆が何の競技に出るかはお楽しみ(笑) [PR]動画