涙って、こんなに暖かいものだったんだね。






初めて知った。涙の暖かさ。








心の鎖









「・・・ごめんね、ありがとう・・・。」

ようやく泣き止んだは、涙を拭ってクラウドとスコールにそれぞれに微笑んだ。

それを見て、クラウドとスコールも微笑む。やっと笑ってくれたのが嬉しかった。

は目を閉じ、深く息を吸い込むとゆっくりと吐き出す。

そして、言った。

「・・・うん、もう平気。大丈夫だよ。・・・自分の力で、頑張るから。」

「自分の力で頑張るのもいいが、たまには他人に頼る事も大切だぞ。」

スコールが言う。はスコールを見つめ、小さく頷いた。


もう、自分の力で歩ける気がする。

自分の周りは、やっぱりまだ暗闇だけれど。

けれど、目指す道はクラウド達が示してくれた。

後はその光に向かって歩いて行くだけだ。




「これから・・・どうする?」

聞かれ、は俯く。

家に帰る。・・・果たして、自分は帰ることが出来るだろうか?

帰ったら、また襲われるかもしれない。今度は、本当に殺されてしまうかもしれない。

自分に、もう行く場所はない。学校の寮にでも入ろうか?

そうとなると、これから大変になる。学費も自分で出さなければいけなくなる。

けれど、その前にやらねばならないことがある。

「・・・とりあえず、一回家に帰って・・・お母さんと、話さないといけない。」

例え受け入れてもらえなくとも、会って話をしなければならない。

危険なことだとはわかっている。だが、もう戻る事は出来ないのだから。

「・・・わかった。だが、俺達も行く。いいな?」

一人を行かせるわけにはいかないと考えたのだろう。クラウドが言った。

は少々驚き、目を見開く。

「そんなの・・・危ないよ?クラウド達にそこまで迷惑をかけるわけには・・・」

「危ないなら尚更だろ?それに俺達は迷惑だなんて思ってない。・・・力になるよ。」

嬉しかった。けれどその分、戸惑った。

自分は、クラウド達に甘え過ぎているのではないか?

そう感じた。けれど、クラウド達は聞いても肩を竦めるだけで。

とぼけて、肩を竦めるだけで。

「・・・ありがとう・・・。」

それが嬉しくて、もう一度、お礼を言った。





朝方になって、クラウドとスコール、そしては家を出た。

目指すはの家。前に進むために、行かねばならない。

朝靄のかかった住宅地の道を、三人は黙って歩いていた。

ただただ三人の足音が響き、朝靄に溶けて消える。

は顔を上げ、立ち止まった。それにつられてクラウド達の足も止まる。


は一件の家を見上げていた。

青い屋根の、小さめの家。

は家を見つめ、そして深く呼吸をした。

その様子でわかった。ここがの家なのだと。

黒い小さな門。そして、門の内側からこちらを覗いている犬。

いつもと変わらぬポスト。庭に生えた一本の木。

全ては、昔と全く同じ風景だった。だからその分、やるせない気持ちになる。

はそっと門を開けた。犬が足元にすり寄って来て、なんだか可愛かった。

家のドアを開けようとしたら、鍵がかかっていた。

わかっていたことだが、自分の存在が拒否されている気がして気持ちは曇る。



鍵を取り出し、ドアを開けた。

家の中は薄暗く、ひんやりとした冷たい空気が肌にまとわりついた。

キッチンもリビングも、酷いありさまだった。

昨日が作り掛けた夕飯の鍋が床に引っ繰り返っていて、

リビングには割れた食器が散らばっている。

は眉をしかめた。どうしてこんなことになったのだろうと、自問自答した。

答えは出なかった。答えが出たとしても、それは納得の行く答えじゃない。

は心を決める。

行こう。

自分は独りじゃないのだから。


は母親がいる個室の前に立った。

後ろを振り向くと、クラウドとスコールが頷いてくれた。

それだけのことなのに、じわりと胸が暖かくなる。嬉しかった。

はドアに手をかけ、ゆっくりとドアを開けた。



真っ暗な部屋の中。だが、光る二つの目があるのが見える。

部屋の中の空気は淀んでいた。窓など開ける事もないのだろう。

「・・・何にしに来たの・・・?」

部屋の中から声がかけられる。は悲惨な母親の状態に顔を歪めた。

「・・・お母さん、私は」

「お母さんなんて呼ばないでっ!!!」

ビクッと身を竦める。見えなくともわかった。母親は、今自分を睨み付けている。

「なによ・・・お母さんお母さんって言いながら、アンタ何にもしてないじゃない!!

終いには男まで連れて来て・・・何様のつもりなのよっ!?」

「違うっ!!!クラウド達は私の大切な友達だよ!!心配してついて来てくれたんだから!」

「良い御身分ね!?今までアンタに友達なんていなかったじゃないの。笑わせないで。

ずっと苛められて泣いてたくせに。馬鹿みたいにずっと泣いてたくせに!!!」

ああ。この人は気付いていたのか。

自分が、暗い部屋の中でずっと声を押し殺して泣いていたことを。

知っていたのに、この人は助けてくれなかった。

優しく抱き締めて、慰めてはくれなかったんだ。

「・・・アンタなんて、生まなければ良かった。」

ぽつりと呟かれた残酷な言葉。

は哀しい視線を母親に向ける。

「アンタなんて、この世に生まれてくるべき人間じゃなかったのよ!!」

遠く、どこかでその言葉を聞いていた。

「生まれつき青い髪だなんて、化け物じゃないっ!!」

海よりも深く、

「アンタは人間なんかじゃないわっ・・・ただの化け物よ!!!」

空よりも高く、






バシンッ

音がして、はハッと我に返った。

「・・・さっきから黙って聞いていれば・・・随分と好き勝手な事言ってくれるな。」

「化け物?だからどうしたって言うんだ。化け物にだって心はあるってことを忘れるな。」

今まで自分の後ろにいたスコールとクラウドが、自分の前に立っている。

先ほどの音は、スコールがドアを叩きつけた音だったようだ。

母親は驚いて、動きを止めて二人を見つめている。

「自分のことをこの世で一番不幸だなんて思うな。」

「お前よりも辛い想いをしたヤツが、この世に何人いると思ってるんだ。」

二人の言葉が、広がって行く。

母親は呆然としていた。はクラウドとスコールの肩を軽く叩き、言う。

「お母さん。私、もうここには来ないよ。」

母親がハッと顔を上げる。

「もう、ここにはいられない。皮肉なことを言うようだけど、もう我慢出来ないから。」

行こう、とクラウド達に告げ、部屋を出て行こうとする

母親はその様子を見て慌ててに駆け寄る。

!!お前まで私を裏切るの!?ねぇ、お母さんを置いて行かないで!!

私はお前を愛しているの!!お前以外信じられないのよ!!」

悲痛な叫び声を上げながらすがり付いてくる自分の母親を見下ろして、は目を閉じた。

そして、きっぱりと言った。

「ごめん。もうそういう哀しむフリとか、やめて欲しいの。」

だってこの人は、私を見殺しにした人だから。

「ねぇ、先に裏切ったのはどっち?・・・私じゃないよ。」

裏切りたくて裏切るわけじゃない。

「先に裏切ったのは、・・・お母さんだよね。」

寂しげな笑顔を浮かべる。

母親は信じられないという瞳でを見上げている。

は母親から目を背けてしまった。




もっと、早くに言って欲しかった。



愛している、と。



優しく抱き締めて、愛している、と。



存在価値が自分にはあるんだよ、と。



そう、言って欲しかった。





「ごめんね。・・・さようなら。」





それが、が母親に告げた最後の言葉だった。

母親は呆然ととクラウド達が出て行くのを見つめていた。

自分はなんて過ちを犯してしまったのだろう、と。

光を見つめていない瞳で、の後ろ姿を見送っていた。




「ふぅ・・・なんだか言い終わったらスッキリした!!」

家を出て、の第一声はそれだった。

クラウド達はを見つめ、苦笑を浮かべる。

「ごめんね。二人にもなんだか迷惑かけちゃったみたいで。」

「別に。そんなつもりは全くない。」

「ああ。・・・俺達は本当のことを言っただけだしな。」

そう、本当のことを言っただけだった。

は化け物なんかじゃない。

ちゃんとした心を持っている。思いやりを持っている。優しさを持っている。

そんなを化け物扱いしたあの女が許せなかった、それだけだ。

クラウド達には、が化け物になんて見えないから。

例えて言うなら、はクラウド達にとっての“青い鳥”だから。

たまにわからなくなる。目の前にいるのは、青い鳥なのではないか、と。

どこか別の世界から来た“青い鳥”なのではないか、と。


そんな二人の心情に気付いた様子もなく、はちょっと苦笑を浮かべて。

朝靄の消えかかっている住宅地の道を、歩き始めた。

ぽつりとが呟く。

「私・・・思ったんだ。」

クラウドとスコールはを見つめる。

の横顔は、吹っ切れたようなスッキリとした表情だ。

「きっと、誰もが自由になれるんだよね。」

答えが出たわけではない。けれど、きっとこの想いは当たらずとも遠からず。

本当の答えは、これから自分で探して、考えていけばいい。

きっと、誰もが自由になれる権利を持っている。

その権利を上手く使える人は少ないけれど、きっと世界中の誰もが持っている権利。



「よーし!!二人にはいろいろお世話になっちゃったから、私が何か奢るよ!

どっかの喫茶店にでも行かない?」

くるっと振り返って言う

そんな姿にドキッとしつつも、クラウド達は顔を見合わせる。

「・・・これから学費とか自分で払わないといけないんだろ?

大変な時なのに、金なんて使っていいのか?」

「いいよ。大したマイナスにはならないしね。それに、私がそうしたいんだからいいの!」

笑顔で言う。そんな時、声がかかった。

「酷いッスねー。俺達も混ぜてくれよ!」

ハッとしては振り返る。

そこには、笑顔のティーダとまだ眠そうなジタンの姿があった。

「二人とも・・・なんで?」

「スコールから急に電話があってさ、なんか呼び出された。」

ジタンが寝惚け眼で言う。

「スコールが?・・・なんで?」

「・・・こいつらにも、の事情を話したから。」

はそれで納得する。

呼び出された、と言っているが、きっと心配して様子を見に来てくれたのだろう。

は何だか嬉しくなった。

自分は独りなんかじゃない。


「よし、ティーダとジタンの分も奢るよ!二人も行こう!」

「マジで!?」

「行く行く!絶対に行くッス!」

「お前らは帰れ。・・・スコール、お前の責任だぞ・・・。」

「・・・やはり電話するべきではなかったか・・・。」




楽しい。


こんな他愛のないことが、こんなに楽しいなんて。



進みたい。



どんな暗闇でも、いいじゃないか。



光は、どこにだって存在するのだから。






<続く>

=コメント=
ようやく問題解決(ぇ
いや、まだ解決しとらんがな!!(笑
とりあえず一個の問題が終わった、ってカンジ?(笑
ってか、久しくティーダとジタンが出てなかった気がして
慌てて出しました(爆
次回はティーダとジタンが主の話にしようかなぁ。 [PR]動画