変人。








本物の変人。







うわぁ、初めて見た。







心の鎖








「風が気持ちいいね。」

はいつものように屋上で放課後を過ごしていた。

太陽が傾きかけ、オレンジ色に輝いて町を明るく染めている。

雲は全くないわけではないが、雨の気配は感じられず。

いつものように、一日が終わろうとしていた。

「桜・・・。」

「え?」

スコールが呟くように言う。は首を傾げてスコールを見上げた。

いつものことだが、至近距離にある彼の横顔にドギマギしてしまう。

整った鼻すじ。逞しい唇。遠くを見つめる鈍色の瞳。

やっぱり彼は、“かっこいい”ヒト、なのだ。

「桜が、散ってく。」

「桜?」

スコールは頭上に飛んできた桜の花弁を手で掴まえ、に見せた。

綺麗なピンク色の花弁。今日は風が強い。その風に流されてここまで飛んできたのだろう。

「本当だ・・・。でも、全部散るにはまだ時間がかかりそうだね。」

まだ今が見頃の桜。葉桜にさえなっていない。

住宅地の向こうに見えるたくさんの桜の木。桜の並木道。

そんな並木道を下ったすぐのところに、の家はある。

自分の家を見つめて、は俯いて視線をそらした。

「ねぇ、スコールの家はどこなの?」

「・・・あそこ。」

スコールは大きなマンションを指差す。

「へぇ〜。あそこ広いマンションでしょ?家族何人で住んでるの?」

「・・・二人。」

「・・・え?」

聞き間違いかと思い、つい聞き返してしまう。

「・・・俺とセルフィ。・・・両親とは離れて暮らしてる。」

聞いてはいけないことを聞いてしまった気がしてはスコールから視線をそらした。

自分だって親とはほとんど会話をしないし、似たようなものだと思う。

けれど、自分が家族のことを聞かれたくないように、スコールだって聞かれたくなかったかもしれないのに。

「・・・あいつも、俺と同じ。」

「え?」

スコールは振り向き、屋上の隅で昼寝をしている彼を指差して言った。

腕を顔に乗せて寝ている彼。コンクリートで昼寝なんて、似合いもしない彼。

「・・・・クラウド、も・・・?」

「ああ。・・・俺と同じマンションで、ユフィと二人暮らししてる。」

は複雑な気分になる。なぜ、親と離れて暮らしているのだろう?

「・・・あいつ、家でイザコザがあったみたいだな。」

「・・・イザコザ?」

スコールは頷く。

「・・・親に、忌み嫌われていたらしい。親が、子供嫌いで・・・。

ユフィと一緒に、逃げ出したかったのかもしれない。」

信じられなかった。自分と同じ境遇の人間がこんなに身近にいたなんて。

今、こんなにも穏やかな顔で寝ているというのに、何故だかその顔が寂しそうに見えて。

「実家が金持ちだからな・・・仕送りくらいはしてもらってるんだろ。」

「よく金持ちは事情アリって言うけど・・・本当なのね。」

ふざけて言っているわけではない。だが、今何を言ったらいいのかわからなくて、

よくわからない言葉が口から出てしまった、それだけだ。

「そういえば・・・」

スコールはを見て、手を伸ばした。

そして、の頬に触れる。

「・・・ここ、どうした?」

ビクッと身を竦ませては飛び退いた。

「ご、ごめんっ。私用事があるから先に帰るねっ!!」




鞄を持ち、逃げ出すように屋上から飛び出す。

いや、実際に逃げていたのだ。バレるとは思わなかったから。

後ろからスコールの呼び止める声が聞こえたが、止まれなかった。

スコールに触れられた頬を制服の袖でこすった。

どうしてわかってしまったのだろう?バレないようにファンデーションをつけてきたのに。

親に殴られて赤くなった頬。なんでいつも親は自分を殴る?何も悪い事などしていないのに。

昔いじめられていた自分を助けてくれなかったのは親の方なのに。

「そんなに急いでどこに行く!!」

後ろから声がして立ち止まる。自分の他に、その場に生徒はいない。

自分しかいない。は振り向いた。

そして、目を点にした。

そこにいたのは長い銀髪の男。頭やら首やら腕やら足やらに羽根の装飾物をつけている。

そして、なんともハデな紫色のスーツ。

「まだまだ人生始まったばかりだろう?慌ててはいけない。

何事も慌てては全て塵と化して終わってしまうよ!若いというのは良い事だ、うんうん。

ボクのように老けてはいけないよ。ん?ボクはまだまだ若くて美しいだって?

あっはははは!嬉しい事を言ってくれるじゃないか!」

滅茶苦茶なことを言う。自分は何も言っていない。

勝手に一人でしゃべって納得して自分で自分をヨイショしちゃってる。

何様だコイツ。

「ってか・・・あなた誰ですか、変人。」

「アゥチッ!!失敬失敬。自己紹介がまだだったね!うら若き乙女よ!」

別にあたしゃうら若き乙女でもなんでもないわと突っ込みたかったが、

突っ込んでも何も変わらない気がしてやめた。

というより、変人と言われて拒否しないので突っ込んでも拒否されない気がした。

「ボクはクジャ。初等部2年D組を担任してる最高級のティーチャーさ!!」

「・・・初等部?」

「そうとも!!可愛らしい天使達に囲まれながら勉強を教えるボク・・・

なんとも素敵な光景だとは思わないかいっ!?」

「可愛らしい天使は別ですが、あなたを素敵とは思いません。」

小学2年生の子供達はきっと可愛らしいだろう。

だがクジャは別だ。変人。変人過ぎるほど変人。断言してもいい。

クジャはしくしくと声を上げて泣き出した。喜怒哀楽の激しいヤツめ。

は頭を抱えそうになった。こんなヤツが教師だなんて。

「おやおや。クジャ。ふざけてるとさんに嫌われますよ。」

穏やかな口調。白衣を着た人物がこちらに歩み寄って来る。

「やぁ!シーモア!久し振り!!」

「何が久し振りですか・・・。毎日顔を合わせてるでしょう。」

はきょとんと彼らのやり取りを見つめている。

シーモアはクジャを軽くあしらうとに向き直った。

「改めましてこんにちわ、さん。コイツが何か変なことしませんでした?」

「何が変なことだいっ!?全くもって失敬だよ、シーモア!プンプンっ。」

「あなたは黙っていなさい?」

にっこりと笑顔をクジャに向けたシーモア。クジャは殻笑いをして黙り込む。

「えっと・・・あの・・・。」

「ああ、すみません。私はシーモアと申します。」

はペコリと会釈をする。シーモアは人の良い笑みを浮かべて頷いた。

「あの・・・化学の先生なんですか?」

「いいえ。保健室が私の受け持ちです。」

白衣で化学系だと思ったのだろう。シーモアは苦笑を浮かべた。

はまだなんとなく不思議そうな顔でシーモアを見つめている。

「ほう・・・なるほど。」

「へ?」

急になるほどと頷かれて、は眉を寄せて首を傾げる。

「今日はあなたに会いに来たんですよ。ヴィンセントから聞きましてね、あなたのことを。」

「私のことを・・・?」

真剣はシーモアの瞳。は戸惑ってシーモアを見つめた。



「ええ。なんでも極度の方向音痴だとか♪」



はポカンと口を開けた。

「校門までお連れしましょうか?」

「・・・お願いします・・・。」

未だに校内のことが把握出来ていない。

学校が広過ぎるんだ!と開き直ってみたいが、自分が方向音痴だという事実は変えられない。

は泣き泣きシーモアについて行った。







「ただいまー・・・。」

は家のドアを開けながら言った。返事は無論のこと返ってこない。

わかってはいるが、胸の辺りがモヤモヤして息苦しくなる。

母親は個室に篭りきり。仕事をしているわけではない。もう部屋から出ることさえ出来ないのだ。

原因は父親の浮気。父はほとんど家に帰ってこない。その所為で母親のストレスは更に上がり、

その矛先はに向けられる。に八つ当たりをして泣き崩れる母親。

いつも、こんな家を飛び出せたらいいって思っていた。

そんなに苦しむなら、離婚でもなんでもすればいいのにと思った。

でも、そんなことを言えばまた殴られることをは知っている。

「誰のためにこんな生活に耐えてると思ってるのよ!?」と言われるだけだ。



は鞄を置き、キッチンに入った。

夕飯を作らねばならない。母親の分も作らないといけない。

エプロンを付け、は慣れた手付きで夕飯を作る。

その時だった。

バタンッと大きな音がして、母親の部屋の扉が開かれる。

母親の髪はボサボサで、目は正気の目じゃない。

「あんたがっ・・・あんたさえいなければっ!!!!」

は目を見開いて後ずさった。母親の手には小さなナイフ。

殺されると思った。殺されるかもしれないと思った。

逃げないと殺される。早くここから逃げないと。

襲い掛かってくる母親に、は咄嗟にエプロンを投げ付けた。

視界を奪われ暴れ狂う母親の横をすり抜け、鞄を持って逃げ出そうとする。

だが、左腕に鈍い痛みが走った。

見ると、母親の投げたナイフが刺さっている。本当にこの人は、自分を殺すつもりなのだ。



は無我夢中で家を飛び出した。どこに行けばいいかなんてわからない。

自分はクラウドやスコールのように行動力があるわけでもない。

暗い夜の闇に放り出されたは、どこへ行くでもなく走り続けた。





ふと気が付けば、知らない場所に来ていた。

もう、家に戻る事は出来ない。警察に言いたくはない。

警察に言えば、母親は間違いなく捕まるだろう。例え殺人未遂だとしても、

今まで自分を育ててくれた“母親”だ。出来る事なら捕まってなど欲しくない。

自分の甘い考えだとはわかっている。

けれど、自分の母親はあの人以外にいないから。

世界でたった一人の自分の母親なのだから。


「いったぁ・・・・」

左腕のナイフをゆっくりと引き抜く。激痛が走ったが、そのままにしておけばもっと危険だった。


これからどうしよう?頭が朦朧としていて、何も考えられない。

信じられないことが急に起こって、混乱してしまったのかもしれない。

母親に殺されそうになるなんて、考えもしなかった。

母親があそこまで壊れてしまっていたなんて、考えもしなかった。

まさか襲い掛かってくるなんて。こんな時に、父親がいてくれたら。

父親は浮気をしてしまったが、優しい人だった。

こんな時にいてくれたら、どんなに頼りになるだろう。




「・・・・・・?」

ハッと顔を上げる。そこには、驚き困惑した顔のクラウドが立っていた。

ふと横を見ると、そこはスコールが言っていたマンションだった。

自宅とスコール達のマンションは、かなりの距離だったはず。

走って走って、こんなところまで来てしまったのか。

「お前・・・・どうしたんだよ?」

クラウドが歩み寄って来る。どうやら、左腕の傷には気付いていないようだ。

「な・・・んでもないよ・・・。クラウドは・・・?・・・お買い物・・・?」

はクラウドの持っている買い物袋を見て言った。

声が掠れるが、彼に心配をかけさすわけにはいかない。

は左腕を自分の背中に回し、隠した。

「あ、ああ・・・。」

クラウドは気付いているだろう。に様子がおかしいことに。

だから早くこの場から離れたかった。気を抜いたら、今にも倒れてしまいそうだったから。

この場で倒れれば、クラウドに迷惑がかかる。それだけは避けたかったから。

「そっか・・・クラウド・・・料理上手そうだもんね・・・。」

自分でもなんて間抜けなことを言っているのだろうと思った。

早くこの場から離れたい。けれど、会話は長引いてしまう。

「・・・お前・・・どうした?どうしてここにいる?」

1番聞かれたくないことをズバリと聞かれてしまった。

は朦朧としている頭を必死に回転させ、言い訳を考えた。

走っていたらここに来てしまった。・・・駄目だ、安易過ぎる。

クラウドの顔が見たくなったから?・・・こんな時に何を考えているんだ。

駄目だ、頭が働かない。ついでに言うと、左腕にも力が入らない。

もう、自分の後ろに手を回しているのも限界だ。

左腕は、だらりと垂れ下がった。

「っ!?」

クラウドはハッと息を飲み、目を見張った。

バレた。ああもう、どうにでもなれ。

ッ・・・この傷・・・!」

「あー・・・ごめん、大丈夫だから、気にしないで・・・。」

バレてしまったら、なんだか妙に身体全体の力が抜けていく。

膝に力が入らなくなり、瞼がゆっくりと下りて、身体が重力に逆らえなくなる。

っ!!!」

クラウドの叫び声を聞いた気もしたが、はその前に意識を失ってしまった。








<続く>




=コメント=
うっわぁ!!グロッ!!!(爆笑)
昨日バトロワを見たからちょっと洗脳されてるのかもダワ(笑
にしても、虐待・・・やってしまったよ、私・・・(汗
母親コエェー!!!(汗
しかも父浮気!?ぎゃぁー!!!
あ、この幻想学院は結構私の経験に成り立ってますが、
虐待やら父の浮気やらは無いのでご安心を(笑
私のママンは面白い人ですし、
パパンは浮気なんて出来ないルックスですから。この顔じゃ女も寄ってこねぇ(爆笑
ついでにいうと、金もないので浮気も出来ません(笑)
あー・・・こんな展開・・・ごめんなさい。
いいのだろうか・・・。
だんだん自信がなくなってくる・・・(汗
もしかしたらいずれこの章は隠しページ行きになるかも(汗 [PR]動画