今日からは楽しい避暑旅行。




・・・になるはずだったのに。




どうして私は必死に走っているんだろう?










心の鎖










からっとした陽気。雲がところどころに浮いているとはいえ、雨の気配はなく。

真っ白な雲が青い空に浮かぶ様子は心地の良い夏の空。

遠くには、大きな入道雲が見える。わたあめのような、もくもくとした白い雲。

ロッジのベランダから見る空は、なんて広いんだろう。

緑色の森がロッジに涼しい風を運んでくれる。

空気は美味しいし、夏の蒸した気持ち悪い暑さを感じることもない。

言ってみれば、最高の快適、が適した言葉だろう。

白いワンピースに身を包んだは、涼しい風に当たりながら空を見上げていた。

涼しくても、夏なんだなあ。

蝉の声が耳に心地良く響く。

ベランダに置いてあるテーブルの上には、甘いアイスレモンティー。

は喉の渇きを感じて、レモンティーに手を伸ばした。

ストローに口を付けると、冷たいレモンティーが喉を冷やす。

気持ち良いなあ。

ミンミンゼミの声も。木々のざわめきも。冷たい風も。夏の空気も。

サワサワ。ミーンミン。






「あーっ、、こんなとこにいた。」

自然の音しかしなかったベランダに、明るい声が響いた。

は小首を傾げて振り返る。

そこにいたのは、半袖半ズボンの洋服に身を包んだジタンだった。

彼のチャームポイントの尻尾もとても目立ち、とても可愛く見えた。

金色の髪が、随分と夏らしいイメージを創り出している。

「ジタン。どうしたの?」

「ヘヘー、今日暇?」

暇かと聞かれても。

この避暑旅行は、基本的生徒達の行動は本人に任されている。

いつ寝ようが、いつ食事をしようが、いつどこに出かけようが、それは個人の自由なのだ。

出かけるときだけに限り、教師に行き先と帰宅時刻を知らせなければならないが。

とにかく、行動が自由な生徒達はそれぞれ思い思いの時間を過ごしている。

ユフィとセルフィはどこかに行ってしまった。恐らく森の中を探検しに行ったのだろう。

そんなわけで、今日が何か予定を考えていたわけでもなく。

「別に・・・予定はないけど。」

「んじゃさっ、俺と2人でデート、しない?」

ニッと笑った口から、そんな言葉が飛び出すとは思わなかった。

は一瞬キョトンとジタンを見つめ、それから驚いたように顔を赤くした。

「な、何、デートって。」

「だって、予定ないんだろ?」

確かに予定はない。今日もベランダか部屋でのんびり過ごそうと思っていたのだから。

けれどまさかデートという単語が出て来るとは。

デートとは、通常男女が一緒に時を過ごすことだ。

辞書の言葉を借りて言えば、「男女が前もって時間や場所を打ち合わせて、会うこと 」である。

普通は恋人同士の間で使われたりする言葉ではないか。

が慌てるのも無理はない。

それに、クラウド達はどうするのだろう?

「だって、クラウド達は?一緒に行かないの?」

「あいつらのことは今日は忘れて、一緒に楽しまない?」

忘れて。

ジタンの言う意味がよくわからないは、首を傾げた。

とりあえず断る道理もないは、首を傾げたまま頷いたのだった。








「どこに行くの?」

ジタンに連れ出されたのは良いものの、どこに行くか教えられていない。

教師達にジタンは「街でショッピング、4時頃帰宅」と告げたのだ。

街でショッピングなんて、ジタンは何か欲しいものがあるのだろうか?

「んー、とりあえず街で美味いもん食わねぇ?」

「美味しいもの?」

「もうそろそろ昼だろ?」

時刻は11時半だ。確かに腹がすいてくる頃ではある。

だが、は急にジタンに連れ出されたため財布を持ってきていない。

つまり、何かを買おうにも何も買えないのだ。

しかしジタンはずっと笑顔のまま。何か考えているのだろうか。

「ジタン、私財布持ってないよ。」

「は?」

ジタンは一言声にし、立ち止まった。

そして、さも驚いたというようにを見つめる。

さー、俺が女の子に金使わせると思う?」

「え?それじゃあ・・・。」

「今日は俺が奢らせて頂きます。な?お姫様!」

パッチンとウィンクを飛ばされてしまっては、も顔を赤くするしかない。

けれど、2人分の食事となればかなりの額がかかってしまうはず。

ジタンの財布が心配で、は歩き出そうとするジタンの腕を掴んで止めた。

「で、でも、そんなのなんだか悪いよ。一回ロッジに戻ろ?私財布持ってくる。」

踵を返そうとしたを、今度はジタンが引き止めた。

その顔には苦笑を浮かべている。

ー、あのさぁ、こういう時くらい男に花を持たせろよ。

女の子に金を支払わせる男って、最低なんだぜ?大丈夫だって。」

そう言い、ジタンはの腕を掴んだまま歩き出した。

はそれに引っ張られて歩き出す。

どんどんと賑やかなショッピング通りへと近付いて行く。

それと共に、人込みもどんどんと増えて行く。

そして、の手はジタンに掴まれたままだ。

なんとなく気まずくなっていたのだが、ジタンはするりとの腕から手を離し、

の手を自分の手と重ね、優しく握り締めた。

その動作があまりに違和感がなかったため、の気まずさはどこかへ消えてしまう。

今、とジタンは手を繋いでいる。

暑い夏の日差しの下だというのに、何故か手は汗ばむことなく。

なんだか、とてもその手の感触が気持ち良かったから。

は、そのままジタンの手を握り返した。








「お前ら!丁度いいとこに!!」

ふと人込みの声から、知った声が聞こえてジタンとは立ち止まった。

大きく手を振っている人物。それは、やはり自分達のよく知っている人物だった。

「シャルさん?」

こちらに駆け寄ってくるのは、シャルだった。

シャルは何故か慌てていて、走っていたのか息を切らせている。

いつもシャルは慌てることがない。そのシャルが慌てているということは、何かあったのだろうか。

が尋ねる。

「シャルさん、何かあったんですか?」

「ああ、それが・・・エーコとはぐれちまったんだ。」

エーコ。その名前にジタンとは顔を見合わせる。

エーコも避暑旅行に来ていたとは。

だが、シャルとエーコがはぐれたとはどういうことだろう?

「さっきまで一緒にいたんだけど・・・、この人込みだろ?どこかではぐれちまったらしい。」

「大変っ!ジタン、一緒に探してあげよう!」

はジタンに言ったが、ジタンは少々乗り気ではなさそうだ。

「おい・・・デート邪魔すんなよなー?」

「ワリィって。今度なんか奢るからさ!!」

シャルは手を合わせて「なっ」と頼んでいる。

「ちぇっ。せっかくのデートが台無しじゃねぇか・・・。」

「デートならちゃんと付き合ってあげるから!ね?」

ジタンは不満げだったが、やがて小さく溜息をつくと諦めたように頷いた。

に頼まれて断れるジタンではない。

それに、この人込みの中に、エーコを放っておくわけにはいかない。

小さいエーコのことだから、人に踏まれて怪我でもしたら大変だ。

ジタンは言った。

「どの辺りではぐれたんだよ?」

「西の通り辺りだ。」

とジタンは頷き、とりあえず探す場所を分担することにした。

このショッピング通りには全部で5つの通りがある。

今自分達がいるのは中央通りと呼ばれる通りだ。

その他には、シャルがエーコとはぐれたという西通り、その対になる東通りがあり、

北と南にそれぞれ2つ通りがある。

「それじゃ、こうしよう。シャルは西通りと北通りを探してくれ。

は中央通り。つまり今いるこの場所だな。

俺は東通りと南通りを探す。今11時半過ぎだから・・・

とりあえず12時に中央通りの入り口で待ち合わせしよう。

もしエーコを見つけた場合は、俺の携帯に連絡だ。OK?」

尋ねると、シャルとは頷いた。

「「「それじゃ、12時に中央通り入り口で。」」」

3人は、同時に駆け出した。









「エーコちゃん!!」

は叫んでみたが、返事はない。

いや、もし返事があったとしても、この賑やかさなら掻き消されてしまうだろう。

エーコが行きそうな場所。エーコが立ち止まりそうなお店。

は必死にその場所を考える。

エーコなら、きっと可愛いお店に寄るだろう。

けれど迷子になっているという不安な状況で、店に入るだろうか?

エーコの性格なら確かにそういうこともありそうだが、肯定し切ることは出来ない。

何せ、エーコはまだ小学1年生なのだ。

どんなにませていて、大人ぶっていても、まだ6歳の幼い女の子なのだ。

「どこに行っちゃったんだろう・・・!」

まだシャルやジタンからの連絡はない。

は再び駆け出す。

エーコを早く見つけないと。どこかで、泣いているかもしれない。

ところが、ふとは立ち止まって振り返った。

「・・・・。」

焦って鼓動がどんどん早くなる。

しまった。

瞬時に、自分の犯した失態を呪った。

ドクンドクンと、心臓の音が胸を打つ。

打たれるたびに、どうしようもない不安感が自分を包んだ。

激しい人込み。そんな中にいれば、方向感覚だって狂う。

それに加え、ここはにとって初めて来た土地だ。地理がわかるはずもない。

更に行ってしまえばは極度の方向音痴。

本来なら笑い飛ばしたいシーンだが、は青褪めて立ち止まってしまった。

今、自分がいる場所が本当に中央通りなのかすら疑わしい。

もしかしたら、走っているうちに別の場所に来てしまったのかも。

中央通りの入り口がどこにあるか、全然予想が出来ない。

「どう・・・しよう・・。」

の小さな呟きは、賑やかな人々の声に掻き消されて消える。

自分の周囲に流れる音楽や人々の笑い声が、どんどんぼやけて不気味に聞こえてくる。

は振り返る。怖くなって、別の方向を向く。

左右を振り向き、そして、再び自分の後ろを向く。

見るたびに変わって見える風景。自分は今、どこにいる?










『迷子なの?可哀想ねぇ。』




待って、行かないで。




『早くおうちに帰りなさいな。お母さんもきっと心配してるわよ?』




帰り方を知らないの。どうやって帰ればいいの?




『帰り道?そんなとこまで面倒見れないわよ。自分で帰りなさい。』




可哀想って言ったのに、何も教えてくれないの?




『いつまでもそこにいられても困るの。早くどこかに行って頂戴。』









「ヘイ・ユー!暗〜い顔してますな〜!」

ハッとして、は顔を上げる。

そこには、何ともふざけた猫の顔があった。

白い何かの動物の上に乗った黒い猫。その手には色とりどりの風船。

しばらくの沈黙が続き、は眉をひそめながら呟く。

・・・着ぐるみ?

「ってちょい待ちやー!久々の再会でソレかい。あんさん、全然変わらんなぁ。」

おどけて言うのは黒い猫。はぽかんと猫を見つめた。

どこかで、会ったことがある。

こんなふざけた着ぐるみを、忘れるわけがない。

「ケット・シー???」

「おっ、憶えててくれたんかい。嬉しいなぁ。」

ニカッと笑うその黒猫、ケット・シーは、の頭をよしよしと撫でた。

ちっちゃい手。でも、その手に撫でられると驚くほど落ち着くのはどうしてだろう。

ケット・シーは、色とりどりの風船のひとつをに手渡すと、ニッと笑った。

「で、ちゃんはどないしたん?」

「えっと・・・エーコちゃんを探してて、それで・・・私も道に迷って・・・。」

どんどんと語尾が小さくなって行く。

だって恥ずかしいではないか。探しに来たのに自分まで迷ってしまうなんて。

それも全部自分の方向音痴が悪いのだとわかってはいるのだが。

顔を真っ赤にして俯いてしまったを見て、ケット・シーはぽかんとしている。

だが、ふとの言葉の意味を理解すると、急に爆笑し出した。

「あっはっはっはっは!なんやそら〜!確かにここら人が多いんで方向感覚鈍るけど、

迷うほど複雑な道ちゃうでー?ぼーっとしながら走ってたんとちゃう?」

「わ、私は方向音痴なんですっ!」

焦ったように言い訳してみたが、ケット・シーの笑いに拍車をかけるばかりで。

ケット・シーは一頻り笑うと、目尻に溜まった涙を拭って溜息をついた。

「あかん、やっぱあんさんオモロイわ。」

「・・・こっちは苦労してるんですけど。」

恨めしげにケット・シーを見つめる

「てか、エーコちゃんを探してたん?エーコちゃんならボク知ってまっせ。」

「えぇっ!?」

「シャルはんとはぐれて泣いとったから、ボクのバイトしてるお店で今面倒見てもろてるわ。

ほら、そこの店や。行ってやりーな。」

ケット・シーが指差したのは、洒落た小さなカフェ。

はケット・シーに礼を言うと、そのカフェへと足を向けた。





店内は外から見たよりも随分と広く、清潔感があった。

ほんのりと香るコーヒーの香りが鼻をくすぐる。

が視線を走らせると、店の隅で店員と会話をしているエーコの姿があった。

エーコの前にはオレンジジュース。きっとわざわざ出してくれたのだろう。

エーコは笑顔で店員と話しており、随分と楽しんでいることがわかる。

店員はの姿に気付くと、小さく会釈した。

「エーコちゃん、お迎えが来たようだよ。」

「え?」

振り向くエーコ。は優しく微笑むと、エーコに歩み寄った。

「あんた・・・確か方向音痴の。」

「そういうふうに憶えられてるのはちょっと恥ずかしいんだけど・・・。」

は苦笑すると、店員に会釈した。

「ありがとうございました。ご迷惑をおかけして・・・。」

「いえいえ、気になさらないでください。僕もエーコちゃんとお話出来て楽しかったですし。」

ケラケラと笑うウェイターの青年は、エーコの頭を撫でた。

エーコは残っていたオレンジジュースを一気に飲み干すと、ぴょんと椅子から飛び降りる。

そして、ウェイターの青年に言った。

「楽しかったわ。またエーコがお話してあげてもいいわよっ。」

「それは光栄だな。またおいで、エーコちゃん。」

エーコは頷くと、の手を取った。

「ほら、行くわよ!」

「はいはい。」

苦笑しながら、はエーコとともにカフェを出た。






外に出ると、ケット・シーがまだ風船を配っている。

とエーコの姿に気付くと、ケット・シー軽く手を挙げて口パクで言った。



『良かったやん』



は苦笑し、「ありがとう」と口パクで返した。

仕事中のケット・シーに、無闇に話し掛けるわけにはいかないし、口パクでいいだろうと思った。

それに、また会えるような気がしたのだ。

学校関係者というわけじゃなさそうだが、ラグナの知り合いではある。

きっとまた会えるだろう。ラグナに言えばいつでも会えるだろうし。

は一度ケット・シーの様子を見てから、ポケットから携帯を取り出した。

エーコも見つかったことだし、ジタンに連絡せねば。

ディスプレイにジタンの番号を表示させ、そのまま呼び出しボタンを押す。

何回かの呼び出し音の後、ジタンが応答した。

『もしもし??』

「もしもし。エーコちゃん見つかったよ。今どこにいるの?」

『今東通り。はどこにいるんだ?』

「中央通りを真っ直ぐ走ったとこなんだけど・・・。ごめん、迷っちゃってて・・・。」

そう言うと、ジタンはピンと気付いたようで、電話の向こうからは苦笑が聞こえた。

方向音痴だとわかってくれているのは確かに嬉しいが、どうにも恥ずかしくてならない。

『んじゃ、今いる場所動かないでくれよ。真っ直ぐ走ってたってことは、

多分まだ中央通りだと思うし。今からシャルと連絡とって、迎えに行くよ。』

「うん、お願いするね。」

電話を切って、溜息をつく。

エーコを見つけたのは良いが、自分まで迷ってしまっては役立たずでしかない気がする。

ジタンにもシャルにも迷惑なのではないか。

どうして方向音痴だなんて性質なのだろう、自分は。

エーコとともに、その場に座り込んでもう一度溜息をつく。

すると、ふと自分をじっと見ているエーコと目が合った。

大きな目で、じっと自分を見つめているエーコ。

真剣な瞳だから、少しなんだか居心地が悪い。

「・・・私の顔に、何かついてる?」

、まだ方向音痴なの?」

そういえば思い出した。エーコは、かなりの毒舌少女だったのだ・・・。

は一瞬頬を引き攣らせ、がっくりと項垂れた。

「・・・うん。どうして方向音痴なのかわからないんだよ、自分でも。」

「ふぅん。」

そう、何かが引っかかるのだ。

方向音痴。言葉にすれば、笑ってしまうような言葉。

けれど、自分は小さい頃は道に迷うような子供ではなかった。

むしろ、地理力は誰よりもあったし、迷子の世話をしたりもしていたのに。

自分は、何かを忘れている気がする。

「エーコは、が方向音痴だろうが味覚音痴だろうが、別に構わないけど。」

ふと驚いてエーコを見つめる。

エーコは相変わらず少し不貞腐れた、生意気そうな表情を浮かべていたが、

自分を励ましてくれたというのは嘘じゃないらしい。

そんな可愛い励まし方が嬉しくて、はにっこりと微笑んで「ありがとう」と告げた。







「おーいっ!ー!!」

声がして、とエーコは顔を上げた。

人込みの中から、ジタンとシャルが手を振ってこちらに向かってくる。

はそれに手を振り返して、エーコの手を取り立ち上がった。

「良かったー、やっと見つけたぜ。」

ジタンはに駆け寄り、安堵の溜息をついた。

シャルはその後ろから少々怒った様子で歩いてくる。

は首を傾げたが、シャルにどうしたのかと聞く前にシャルが叫んだ。

「馬鹿!!!なんで勝手に俺から離れた!?」

ついもビクリとしてしまったが、今の言葉はエーコに向けられたものだった。

エーコは驚いてシャルを見つめている。

「だ、だって・・・。」

「だってじゃねぇだろ!!どれだけ俺が心配したと思ってる!?

ジタンやちゃんにまで迷惑かけて・・・自分がしたこと、ちゃんとわかってんのか!」

いつも陽気なシャルが、ここまで怒るとは珍しい。

それだけエーコのことが大切なのだろうが、エーコは怯えた目でシャルを見つめている。

急に怒鳴られれば、硬直もしてしまうだろう。

シャルはじっとエーコを睨み付けていたが、やがて深い溜息をつくと、エーコの頭を乱暴に撫でた。

「馬鹿・・・。もう心配かけさせんな。」

「ごめんなさい・・・。」

素直に謝ったエーコを見て、シャルはやっと笑って見せた。

それからジタンとに向き直り、苦笑を浮かべて肩を竦めた。

「今日は悪かったな。付き合わせちまって。」

「もーいいよ。デート邪魔されたことなんて、ぜんっぜん気にしてねぇから。」

無茶苦茶気にしてるんじゃねぇか。

シャルはやれやれと頭を振り、懐からサイフを出し、中から野口英世を取り出した。

それをジタンに渡す。ジタンは首を傾げた。

「なんだよ、これ。」

「エーコを探してくれたバイト料。昼飯代くらいにはなるだろ?」

「って、たったの1000円!?どうせなら5000円くらいくれよ。」

「馬鹿野郎。1000円でも結構痛い打撃なんだからな。」

シャルはジタンの頭を小突くと、溜息をついた。

「お姉ちゃんっ、エーコアイスクリーム食べたい!!」

「はいはい。んじゃ今から一緒に行こうな。もう離れんじゃねぇぞ。」

「うん!」

エーコは嬉しそうに笑い、シャルに手を引かれて踵を返した。

だが、ふと思い出したように振り返ると、に言う。

「・・・ありがとっ!」

ぽかんと口を開け、シャルとエーコの後姿を見送る

まさか、エーコに礼を言われる日が来るとは思わなかった。

あの毒舌少女のエーコが、他人に礼を言うなんて。





「・・・さて、と。計画はちょいと狂っちまったが、俺達も行くか。」

「どこに?」

首を傾げて問い返すと、ジタンは笑った。

「昼飯。それから、デートのやり直し、しようぜ。」

ジタンが、優しくの手を取る。

それには微笑み返し、二人はショッピング街の雑踏へと消えた。












<続く>


=コメント=
とうとう31話です。ここまで長かったです(ぇ
今回はラブラブ話じゃないです。

踊る!エーコ捜査線!!!!(マテ

なんてふざけるつもりはないんです本気。
でも、この話は結構重要だと思います。
ヒロインの方向音痴について、ちょっと触れてましたね。
ヒロインちゃん、何かが引っかかるご様子です。
ちょっとずつですが核心に近付いてます。

次回はどうしようか悩んでるんですが、レノ先生とでも絡んでもらいましょうか。
ずっと登場してないレノ先生ですが、実は避暑旅行に来てたりします(笑
ただこの人、肝試し事件のときは1人でグーグー寝てました(爆
そろそろ登場させて、活躍させたいですね。
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