闇夜に紛れたその姿は、一体誰?



恐怖を押し込め前へと進む。



それが間違いであっても?



それが危機を招いたとしても?



いや、それがもしかしたら光かもしれないと。



そう望むのは愚かなことなのか。









心の鎖









あれ?私・・・何をしていたんだっけ。

辺りはどこを見ても真っ暗で、何も見えない。

暗闇の中で、孤独に1人ぽつんと佇んでいる。

「クラウド?」

なんだか怖くなって、私はクラウドの名を呼んだ。

けれど、返事はない。私の声は暗闇に響いて、そして消えた。

「スコール?ジタン?・・・ティーダ?」

怖い。私はスカートの裾をぎゅっと握って、震える唇で彼らを呼んだ。

返事は、ない。

どうして?私、どうしてこんなところにいるの?

ぼんやりとする頭を振って、私は改めて辺りを見る。

けれど、誰もいない。声も聞こえない。

ここはどこなの?

私はどうしてここにいるの?

わからなくて、私はその場にしゃがみ込む。

けれど、その瞬間に私の周りの光景がパッと明るくなった。

でも、色はほとんどない。セピア色の光景。

その光景の場所は、どこか見たことのある光景で・・・。

そうだ。ここは、肝試しの場所・・・あの廃物になった宿舎だ。

これは一体どういうこと?

『おいっ!あの先公が来たぜ!!』

『よし、それじゃ殺るか。』

男の子2人と女の子1人が私に近付いて来る。

そして、私を見つめると私に一本の包丁を差し出した。

まだ新しい・・・鋭い包丁。

その包丁を、私の意思を無視して体は受け取る。

どうして?これは、私の体じゃない!

『いいか。俺達4人であいつの体をぶっ刺すんだ。』

『その後は・・・わかってるよな。俺達、死んでも一緒だぜ。』

哀しげな表情で言う男の子達。その2人に、私ともう1人の女の子は頷く。

手に持った包丁が、やけに重く感じる。

そのとき、廊下の角を曲がって1人の男性が現れた。

その人の顔はまるで鬼みたいな怖い顔で、態度もものすごく悪い人だった。

私達4人は駆け出す。

そして、包丁をその男性に・・・



ドスッ



手に生々しい感覚が伝わってきた。

男性は驚いて私達を見てる。

その男性の口からは真っ赤な血が溢れ、傷口からは血が噴き出し、私の視界を真っ赤に染めた。

一気に体温が低下した気分。

私の手は震えて、手は真っ赤に染まっていて、男性は苦しげな表情を浮かべていて・・・。

『貴様・・・らっ・・・!!!』

男性が目を剥いて私達に襲い掛かってくる。

真っ赤に染まったその男性が動く様は、まるでゾンビのようで・・・。

いや・・・・

いやっ・・・!

いやぁぁぁぁっ!!!!









ッ!!」

はハッとして顔を上げた。

その体はびっしょりと汗をかいていて、服がぴったりと体に貼り付いている。

慌てた様子のクラウドがの肩を掴んでいて、今起こしてくれたのが彼だと気付く。

「クラウド・・・?」

「どうしたんだ・・・?うなされていたぞ。」

そう言われて、は思い出した。

4階で女子生徒の霊から逃げ、3階に来たら男子生徒の霊が待ち構えていたのだ。

それから逃げ出し、結局2階の部屋まで戻ってきてしまった。

そこでクラウドはを休ませることにした。走り回って、随分と体力を削がれていたからだろう。

休んでいるうち、知らぬ間に眠ってしまっていたらしい。

は髪をかき上げ、溜息をついた。

「ごめん・・・。変な夢、見て・・・。」

「夢?」

クラウドは首を傾げる。は頷き、口を開いた。

「あのね、多分・・・私、幽霊の女の子の思い出の中に入ってたんだと思う。」

夢で見たあの光景。あんな生々しい夢は初めて見た。

あれは、多分幽霊の少女が生きていたときに実際に見た光景。

その光景を、少女の霊を通しても見たのだろう。

まだ手に感覚が残っている。

恐らくあれは乱暴な暴力教師の男性・・・。

その男性を刺したときの生々しい肉の感触を、まだ覚えている。

気味が悪い。

「私・・・その女の子の体で、先生の体を刺したの・・・。ものすごく怖かった・・・。」

クラウドは黙ったままの体を抱き寄せた。

少し震えているのは気のせいではないだろう。

「わかった・・・。わかったから、もう何も言うな・・・。」

クラウドは言い、の肩を抱く腕に力を込めた。

「そろそろ行こう。さっき下の方で物音がしたんだ。」

クラウドは言い、の手を取って立ち上がらせた。

は少しフラつく足で立ち、クラウドを見つめて頷く。

怖い夢を見て怯えているかと思ったが、その心配はなかったようだ。

クラウドはかすかに笑みを浮かべ、の手を握って部屋を出た。





その直後だった。



「あーーーっ!」



後ろから声がした。

驚くクラウドと。2人はハッとして後ろを見て、そして驚愕の表情を浮かべた。

まさかこんなところで再会するとは思わなかった。

いや、再会するかもしれないとは思っていたが、その可能性は低いと考えていたのに。

とクラウド!!やっと見つけたッスよ!!」

「ったく・・・散々心配をかけたにしては、ぴんぴんしているようだな。」

「ティーダ!?ヴィンセント先生!?」

そう。

そこにいたのは、探し続けていたティーダと教師のヴィンセントだったのだ。

クラウドとは驚きを隠せない。ぽかんとした表情で2人を見つめている。

「ティーダ!今までどこに・・・!それに、ヴィンセント先生だって、どうしてここに!?」

が尋ねると、ティーダとヴィンセントは顔を見合わせた。

どうして、と聞かれても。ティーダとヴィンセントはとクラウドを探しに来たのであって。

けれどとクラウドが驚愕するのも無理はない。

2人はティーダを探すためにこの宿舎の中に残っていたのだから。

その探し人のティーダが目の前に現れれば、誰でも驚くだろう。

ティーダはしばし考えていたが、やっと口を開いた。

「どうやら、スコールとジタンが外で先生達に救助を求めたらしいんスよ。

俺はとりあえず幽霊の奴らに見つからないように隠れてたけどさ。」

「救助を求めたらしい、ではなく、事実求めたのだ。全く・・・教師の仕事を増やしてくれる。」

ヴィンセントは呆れたように溜息をつき、けれど少しほっとしたような笑みを浮かべた。

これで行方不明だった生徒は全員見つかったのだ。

まだ教師達が突入してから20分ほどしかたっていない。

上手く見つけることが出来たのは運が良かったのだろう。

ティーダとヴィンセントに会えたことで、クラウド達も幾分表情をやわらげた。

やはり人数が多いと安心する。

「早いトコ、こんな場所出ようぜ。」

「そうだな。30分もたっていないから、スコール達も外で待っているはずだ。」

早くこんな場所なんて出てしまいたい。外の新鮮な空気を吸いたい。

これ以上ここにいたら、気がおかしくなってしまいそうだ。

この宿舎には、狂った空気が流れている。だから、気味が悪い。

「・・・ねぇ、」

出口に向かって駆け出そうとしたとき、が言って立ち止まった。

その言葉に反応して全員が立ち止まる。

そして、を見つめた。

「・・・さっき、ティーダは『先生達』って言ったよね?だったら・・・ヴィンセント先生以外の先生は?」

尋ねる。ヴィンセントは苦笑して言った。

「あいつらはそのうち出てくるさ。セフィロスは心配だが、シーモアもついているから平気だろう。」

「けど・・・!もし何かのことがあったら・・・!」

心配するのも当たり前だ。達は“彼ら”の怖さを知っているのだから。

ヴィンセントはの真剣な瞳を見て、表情を少々曇らせた。

そのときだった。




ドサッ。




階段の上から、何か丸いものが降ってきた。

全員が体を強張らせ、その“モノ”を見つめる。

「きゃぁぁぁぁぁっ!!!」

は目を剥いて叫び、クラウドにしがみ付いた。

クラウドもティーダも、ヴィンセントも、目を見開いて“ソレ”を見つめている。

「これはっ・・・!!」

クラウドはしがみ付くの頭を自分の胸に押し当て、細い肩をしっかりと抱いた。

見ていて気持ちがよくなるものではない。胸の辺りがざわりと音を立て、不快感が襲ってくる。

それは、少女の首だった。

クラウドに襲いかかり、その勢いで4階の窓から外に落ちた少女の首だったのだ。

けれどおかしい。何故なら、その少女の首は庭に落ちているはずなのだから。

なのに3階から階段を伝って落ちてきたこの少女の首は、不気味に月明かりに照らされている。

ヴィンセントはごくりと生唾を飲み込む。

ズル、と。

3階から降りてきた闇の化身が目に入った。

口元に浮かんだ笑みは恐ろしく不気味で、腐敗した体は気味が悪い。

「走れ!!」

その声はこの場の4人が発した声ではなかった。

4人は振り向く。そこには、セフィロスとシーモアがいた。

セフィロスがもう一度叫ぶ。

「行け!走れ!!」

「先生っ!!」

よかった。セフィロスとシーモアも無事だった。

クラウド達は顔を見合わせて頷き、総勢6名で駆け出した。

後ろから追ってくるものはない。けれど、ざわざわと何かが蠢くような音が聞こえてくる。

それはどんどん自分達に迫ってくる。目には見えない“何か”。



ふと、体が引っ張られた。

窓から外へ。ぐいっと、ものすごい力で。

自分の意思ではない。何かの力が、自分を引っ張った。

!!」

クラウドの悲痛な声。ティーダとシーモアの驚愕の表情。セフィロスとヴィンセントの悔しげな顔。

どれもがスローモーションのようで、は遠ざかる5人に手を伸ばした。

『ごめん。君と話がしたいんだ。』

声がして、は重力に従いながら目を見開いた。

途端に重力がなくなり、自分の体が宙に浮いていることに気付く。

はっとして上を見上げたが、木で隠れてしまってクラウド達は見えない。

の体はふわりと地面に下ろされた。優しい光がの周りを飛んでいる。

蛍ではない。この光は、そんな可愛らしいものではない。

やがて光が集まり、1人の青年が姿を現した。

全身が銀色に輝いているその青年。目鼻立ちが整っており、かなりの美男子だ。

胸には、美しい十字架のペンダントをつけている。

「・・・あ、あなたは・・・?」

『急なことでびっくりしただろう?すまない。けれど、君は必ず無事に彼らの元へ届けるから。

だから、少しだけ僕と話をして欲しい。君に聞いて欲しいことがあるんだ。』

あの幽霊の生徒達や暴力教師とはなんだか違う。

青年の髪は少し眺めで、ゆるやかなパーマがかかっている。

どこかの国の王子のような美しさだが、その美しさはどこか弱さを秘めているようにも見える。

『僕はセシル。4人の生徒や、あの教師とも・・・関わりがある。』

「セシル・・・?あ、私は・・・」

『君のことは知っている。だろう?ずっと君達を見ていたんだ。』

は驚いてセシルを見た。

セシルの表情は硬い。けれど、悪意は感じない。自分に危害を加える気はなさそうだ。

その様子を見て、は警戒心を解いた。

セシルは言う。

『僕は今から40年前・・・大学に通っていた生徒だった。今はもうこの通りだけれど・・・。』

自分の姿を見て、セシルは溜息をついた。

“この通り”というのは、自分がもうこの世の存在ではないことを指して言っているのだろう。

『僕は実習生として幻想学院高等部へとやって来た。夏の避暑旅行にも同行した。

僕はあの4人の生徒とも仲が良かったし、彼らがあいつを・・・教師を殺すなんて思っても見なかったんだ。』

懺悔にも聞こえるセシルの言葉。

はじっとセシルを見つめ、ただ黙ってセシルの言葉を聞いていた。

『そんな殺人と心中の事件があったから・・・この宿舎は廃墟となった。

けれど、そんな事件を・・・彼らを止めてあげられなかった僕はどうすればいい?』

「・・・自殺、したの?」

が目を細めて尋ねる。セシルは黙って頷いた。

『そうするしかなかった・・・。そうするしかなかったんだ。

けれど・・・死んでも、まだ僕はこの世にいる。僕の未練があるからだ。』

「セシルは、私にどうして欲しいの?」

尋ねるに、セシルは寂しげな笑みを浮かべた。

そして、言う。

『多分誰かに・・・話を聞いて欲しかったんだと思う。独りで死んだ僕の言葉を、

わかってくれる人を探してたんだと思う。』

はゆっくりとセシルに歩み寄り、その顔を真っ直ぐ見つめた。

この青年の美しさが、どこか弱さを帯びているのはそういう理由があったのか。

は目を細め、セシルの頬にそっと触れた。

は僕の話を聞いてくれた人だ。だから、僕はもう満足さ。

・・・僕の体に触れられたのも、君が初めてだよ。』

「暖かいよ。セシルの体。」

彼は幽霊。けれど、幽霊だと思わせない暖かさがある。

はやわらかく微笑み、言った。

「この宿舎で起こった事件のこと。生徒4人と教師のこと。そして、セシルのこと・・・。

私、決して忘れないわ。もう眠ってもいいと思うの。40年苦しんだんだもの。」

『ありがとう・・・。君は彼女のようなことを言うんだな。』

「彼女?」

は首を傾げる。

『僕の恋人のローザ。・・・とても優しくて、綺麗な人だった・・・。彼女は今も生きているのだろうか・・・。』

セシルは目を閉じた。

遠い日の、遠い人のことを思っているような面差しで。

そのとき、だんだんと空が白く染まり始めた。

日が昇る。セシルは空を見上げて、それからに向き直って言った。

『ありがとう、。君に話を聞いてもらえて、きっと彼らも・・・生徒達も救われる。』

「私は話を聞いただけだよ。でもきっと忘れない。40年前の出来事をね。」

セシルは、やっと綺麗な笑みを浮かべた。

これがこの青年の本当の笑みなのだろう。もう弱さを帯びてはいない。

真っ直ぐで、光のような綺麗な笑み。

。最後に君に頼みがある。』

「なに?」

日が昇る。セシルの姿が、だんだんと薄れて行く。

『もしも・・・どこかで、ローザという女性に出会ったら、「愛している」と伝えてくれないか?』

それは、セシルの最後の望み。

世界でたった1人の“ローザ”という女性と出会えるなんて、絶対にあり得ない確立だ。

けれど、0%ではない。0.0000001%とか、それ以下の確立でも。

決して、0%ではない。

は微笑んで、頷いた。

「わかった。ローザさんに会ったら、そのときは必ず伝えるわ。」

セシルはほっとしたようだった。

うん。彼は硬い表情よりも、やっぱり綺麗な笑みの方が似合う。

美しいセシル。きっと、このセシルが愛したローザさんも、美しい人なんだろうな。

ふと思い、は言った。

「ねぇっ。でもどうして、私に話を聞かせようと思ったの!?」

消えて行くセシルの姿。セシルは少し恥ずかしそうに微笑むと、消えかけた声で言った。

『君なら、ローザの優しさに似ている君なら、僕の話を聞いてくれると思ったんだ。

僕の考えは間違っていなかった。君は僕の話を聞いてくれた。

感謝してる。ありがとう、さようなら。。』

そう告げると、セシルは太陽の光に照らされて消えた。

スッ、と。まるで、光に溶けるように。

いや、実際溶けたのかもしれない。けれど、その姿があまりに美しかったから。

「セシル・・・。」

何故だか、涙が流れた。

何故涙が流れたのかわからない。けれど、どうしようもない涙が溢れてきた。

セシルの光とともに消えた学校の不穏な空気。

きっとセシルが全てを持っていったのだろう。

空へ。

真っ青で美しい、セシルにぴったりな空へ。




思った瞬間、の意識も光に溶けた。
















ふと目を覚ますと、木で出来た天井が目に入った。

はて。確か自分は廃墟の宿舎の庭にいたはずなのに。

いつの間にロッジに戻ってきたのだろう。

は少し軋む体を叱咤し、ゆっくりと体を起こした。

そして部屋を見回す。そこは、自分の部屋ではなかった。

自分の部屋はここまで広くない。ユフィとセルフィと3人だけだから広さも必要ないのだ。

けれど、この部屋はそれなりに広い。6、7人がゆったりと寝れるくらいの広さだ。

は首を傾げた。

布団の傍に小さな目覚し時計が置いてある。それを見ると、時刻はもう昼の12時を過ぎたところだ。

どうりで明るいわけである。はふぅ、と溜息をついた。

ふと部屋の隅を見てみると、5人分の荷物が置いてある。

だがそれはどう見ても女物ではなく、男物のバッグばかりだ。

「・・・えー、と。」

はきょとんと首を傾げた。

もしかすると、ここは・・・

ちゃん。」

声がして、は部屋の入り口を見た。そして驚く。

「シャルさん!?」

「よっ。お加減はいかが?」

いつもの笑みを浮かべて部屋に入ってきたのは、シャル・イオザムその人だった。

この人も避暑旅行に来ていたのか。驚きである。

「ど、ど、ど、ど、」

「んなどもんなって。俺はシーモアに言われてあんたの様子を見に来ただけ。

この部屋が男子部屋とは言え、クラウド達に様子見に行かせるのは抵抗があるらしくてね。」

シャルは苦笑した。

そうだ、思い出した。この人は一見美男子というカンジだが、実際は女性なのだ。

寝ている女子の様子を男子に見に行かせるのは、さすがにまずいと思ったのだろう。

「どれどれ。熱は?」

「いえ、ありません。」

シャルは「ふむ」と唸り、部屋の入り口に向かって大声で言った。

「大丈夫だってよ。入って来いよ。」

はキョトンとして部屋の入り口を見つめた。

ガチャリとドアが開く音がして、おずおずと入ってきたのは王子達4人。

はポカンと口を開け、シャルはニヤリと笑っている。

「お前らのお姫様は無事みたいだぜ?ほら、さっさと介抱してやんな。」

「えぇっ!?ちょ、シャルさんっ!!」

お姫様だなんてそんな馬鹿な。は瞬時に顔を真っ赤に染めた。

シャルは「照れんな照れんな」とをからかいつつ、部屋を出て行った。

部屋に残されたのは姫が1人と王子が4人。

沈黙が流れる。

「えー・・・っと。皆、どうしたの?」

が苦笑を浮かべてクラウド達に尋ねた。

クラウド達は入り口付近に立って並んだまま動かない。それが異様に変な光景なのだ。

「とりあえず、座ったら?なんか皆に見られてるのってすごく緊張するよ?」

なんだか自分が4人を説教している気分だ。なんだか緊張してしまう。

の言葉に4人は顔を見合わせ、各々苦笑を浮かべての周りに座り込んだ。

最初に口を開いたのはクラウドだった。

「体調、大丈夫か?」

「うん、平気。あの宿舎からどうやって戻ってきたのかは覚えてないんだけど、体はぴんぴんしてるよ。」

笑顔で言うを見て、クラウドは安心したように息をついた。

「ねぇ、私宿舎でどうなったの?窓から落ちて・・・それから、私・・・。」

「宿舎の庭に倒れてたんだ。不思議と外傷はなく、無事の姿で、な。

クラウドがをここまで運んだんだ。」

スコールが言う。

外傷がないのはわかっている。セシルのおかげだ。

その直後、自分は気を失ったのだろうか?

はクラウドに「ありがとう」と言い、それから視線を窓に向けた。

「宿舎、どうなったの?」

「不思議とあの気味悪い空気が一掃されてて、今はただの廃墟になったってカンジだぜ。

何が起こったのかわからねぇけど・・・幽霊の気配も今はない。」

やっぱり、セシルが持っていったんだ。

夢じゃなかった。セシルと出会って話をしたのは、夢じゃなかったんだ。

「そっか・・・。うん、ならいいの。」

「ならいいの・・・って、何かあったのか?」

首を傾げるクラウド達。は黙って首を横に振った。

セシルは今はきっと幸せだ。生徒達はどうかわからないけど、けれど救われたと思いたい。

きっと今は、あの青い空で。

「あの宿舎に、もう幽霊の噂が立たなくなれば、それでいいの。」

クラウド達は顔を見合わせ、不思議そうな表情を浮かべた。

けれどは笑う。窓からのぞく青い空を見つめ、溢れんばかりの明るい笑みで、笑う。




窓から見えるあの宿舎は、もう幽霊屋敷なんかじゃない。

生徒達も、男性教師も、そしてセシルも。

あそこにたくさんの想いだけを残し、この世を去る。



空は晴天。

どこまでも雲ひとつない、青い空。

セシル、聞こえてる?

空に向かって、は想いを投げる。



―――――聞こえてる。ありがとう、




確かに、空から返事が返ってきたような気がした。

セシルの想いは忘れない。そして、生徒達の想いも。

本当は、幽霊になりたくてなったんじゃないんだよね。

皆、純粋な生徒だったんだよね。

だから。


さよなら、セシル。







青い空は、皆の想いを受け止め、輝く。












<続く>


=コメント=
よっしゃー。肝試し編終わりッス。
てか、こんなとこでセシルを登場させるとは思わんかったよ。HAHAHA。
なんてーか、ホラーを求めてた人には不完全燃焼かな(ぇ
あんまり怖いのが長続きして止められなくなるのも困るので、
ここはセシルに登場してもらって場をおさめようと(爆
てか・・・Wはまだ終わってないデス(汗
セシルの性格とかしゃべり方とかわっからねぇー!!(汗
一人称僕だったのははっきり覚えてるんだけどさ(当たり前だ

とりあえず次回から今度こそ楽しい避暑旅行で(爆
王子達と一緒に買い物にでも行きマショー!
楽しくね。学生は学生らしくね(何様のつもりだ) [PR]動画