「・・・生徒の人数が足りない?」



ヴィンセントが眉をひそめて一人の生徒に尋ねた。



毎年肝試しだとかで生徒の数が足りなくなるのは恒例のことだが、



それにしても時間が遅過ぎる。



ヴィンセントはその他の教師の元へ行くべく、重たい腰を上げた。










心の鎖










「なぁ・・・。もう2時過ぎてるよな。」

「ああ。」

「・・・クラウドと・・・まだ出てこないか?」

「・・・来ないな。遅過ぎる。」

午前2時15分。

2時に一度外で落ち合うと約束をしたはずなのに、クラウド達は現れない。

ジタンとスコールは一足先に外へ出て、二人が来るのを待っていた。

結局ティーダを見つけることは出来ず、何度か生徒の亡霊と遭遇しただけ。

遭遇する度に物を投げ付けたり走り回ったりして逃げ切った。

2階は一通り見て回った。1階も大体は探した。

それでも、ティーダを見つけることは出来なかった。

それだけではない。2時に落ち合う約束したクラウドとまで

廃物の宿舎から出て来ないのだ。

ジタンは足を鳴らし、スコールは黙ったまま腕を組んで宿舎を睨んでいる。

もう2時から15分が過ぎた。

遅過ぎる。

それは2人ともわかり切っていることだ。

だが、下手に動けばすれ違いになるかもしれないという恐れから動けずにいる。

ただ宿舎を見つめ、胸のうちの苛立ちを抑えることしか出来ない。

2人ももう限界だった。

こんな肝試しなんてしなければ良かったと後悔した。

だが、もう事は起こってしまったのだ。今更なかったことには出来ない。

「・・・スコール、ユフィ達に一度連絡しよう。」

「・・・あいつらのことだ、もう寝てしまっているかもしれないが・・・。」

「構わねぇよ、このまま3人が帰って来なかったらどうするんだよ。」

スコールは小さく頷き、携帯を取り出した。

アドレス帳から自分の妹の番号を探し、通話ボタンを押そうとした。

「そこで何をしている!!」

ビクリと竦み上がる。ジタンとスコールは驚いて振り向いた。

偉そうな口調。低い声。

そこにいたのは、ヴィンセント、セフィロス、シーモアという教師の面々だった。

ジタンはあからさまに頬を引き攣らせ、スコールは軽く舌打ちをした。

なんてタイミングの悪い。

「スコールにジタンか。こんな夜中に散歩か?」

棘のある声でセフィロスが言う。

「いや、その宿舎の前にいるということは、肝試しか?」

ヴィンセントが溜息をついた。

「いくら男子とはいえ、こんな夜中に外に出歩くのは感心しませんね。」

柔らかな口調で、けれど言うことは厳しいシーモア。

ジタンは冷や汗をかきながらスコールを見た。

スコールは黙って教師達を見つめているが、その顔は何かを考えているように見える。

「おい、スコール・・・。」

「ジタン、ここは先生達に任せてみるのもいいんじゃないか?」

「えぇっ!?」

ジタンとスコールの会話を聞いて、教師達は顔を見合わせている。

話が読めず、首を傾げたいのだろう。

「けど、スコール・・・。」

「こうなった以上、もう恐らく俺達の手には負えない。」

「そりゃ、そうだけど・・・」

「何をごちゃごちゃ話している?」

シビレを切らしたセフィロスが腕を組んで尋ねた。

スコールは真っ直ぐにセフィロスを見つめると、はっきりと言った。

「肝試しをしていたんです。」

ジタンは困惑の表情でスコールを見つめたが、すぐに諦めたように黙り込んだ。

「ほう。それで?」

「冗談混じりで俺達肝試しに参加したんです。俺とジタン、それにティーダ、

クラウド、・・・そしての5人で。」

ヴィンセントがピクリと反応したのがわかった。

「・・・それで?」

「中で、本物に逢いました。」

「本物?」

セフィロスの目が細められる。

「走っているうち、ティーダとはぐれました。そのティーダを探すということになり、

クラウドと、俺とジタンでパーティを組んで別々に探しました。

2時に外で一度落ち合うと約束し、・・・けれどクラウドもも戻って来ない。

ティーダも戻ってきてない。・・・中で、きっと何かがあったんだ。」

冷静に話しているように見えるが、最後は敬語がなくなってしまった。

スコール自身、相当焦っているのだろう。

セフィロスがスコールに尋ねた。

「携帯か何かで、外に連絡しようとは思わなかったのか?」

スコールは頭を振る。

「しようとしたさ。けど、あの建物の中では電波が繋がらないんだ。」

「電波が繋がらない?そんなバカな。」

セフィロスが驚いたように答えたが、スコールの目は真剣だった。

何故なら、圏外だったのはジタンの携帯だけではないのだ。

スコールの携帯も、クラウドの携帯も圏外だった。

何よりスコールは、あの時の背筋の悪寒を覚えている。

「ジタン、例のメール見せてみろ。」

「ああ。」

ジタンがポケットから携帯を取り出し、あのメールを開いてセフィロスに見せた。

セフィロスはそれを見て眉根を寄せた。

ただ“殺してやる”という言葉が並べられたメール。ジタンは言う。

「これ、建物の中にいるときに届いたんだ。電波は繋がらなくて圏外なのに、

そのメールはまるで何事もなかったかのように俺んとこに届いた。」

「未読メッセージが43件あるのはどういうことだ?」

「それ、全部中にいるときに届いたんだよ。なんだか気味が悪くて嫌だから

開けてないだけ。どうせ中の文章は“殺してやる”の言葉の羅列だぜ?」

つまり、中にいるときに届いたメールは全部で44件。

きっかり44。不気味なことこの上ない数字だ。

「・・・ヴィンセント、今までで本物に遭遇した生徒の話、聞いたことありますか?」

「いや。・・・毎年1、2時間で飽きた生徒が戻ってくるのが恒例だな。」

どうやら、本物を見たというのは自分達が初めてらしい。

教師達の言い方を聞いていると、毎年必ず肝試しをする生徒がいるみたいだ。

なのに、本物に遭遇したのは自分達だけ。

最悪だ。スコールは思った。

「クラウドと、ティーダが中で行方不明になったと?」

「ああ。・・・戻ってこない。」

教師達3人は深い溜息をついた。呆れているのだろうか。

それとも、今スコールが話したことを嘘だと思っているのだろうか。

スコールが言ったことは全て事実なのに。

一度スコールが口を開こうとしたのを、セフィロスが遮った。

「まぁ、毎年事故も何もなかったから私達の危機感も薄れていたのだろう。」

「ある意味、私達の責任でもありますね。」

ヴィンセントは俯いて頭をかき、顔を上げてスコールとジタンを見つめた。

「お前達は本当に手がかかるな。だが“生徒”が危険な目に遭っている以上、

無視するわけにもいかないだろう。」

呆れた物言いだが、ヴィンセントは言った。

ジタンの顔に笑みが浮かぶ。

「中の“奴ら”は生温いもんじゃないぜ。先生達も覚悟しろよ。」

「そんなもの、“教師”になった瞬間に決めている。」

教師達は3人とも半袖Tシャツにジーパンだったが、それでも格好良かった。

生徒を守るというのは、教師の義務だ。

例え相手が得体の知れない亡霊だとしても。

スコールとジタンはヴィンセント達に懐中電灯を手渡した。

ヴィンセントとセフィロスがそれぞれ受け取り、ちゃんと点灯確認をする。

「俺とジタンもすぐにまた中に入る。一度部屋に戻り、懐中電灯を持ってくるから。」

「30分だ。・・・30分たって誰も出て来なければ、お前らも来い。」

セフィロスが言う。ジタンとスコールは、静かに頷いた。



闇夜に不気味に浮かび上がる廃物の宿舎。

教師達3人は、静かに宿舎の中へと入っていった。










「・・・くそっ!こっちも閉じ込められてるっ・・・。」

クラウドは苛立ちながら防火扉を蹴った。

大分この闇にも亡霊にも慣れたのか、は真剣な目で防火扉を見つめている。

先ほどまでの怯えた瞳ではない。

「この防火扉・・・やっぱり、あの亡霊達が閉めたのかな。」

「間違いないだろ。ティーダがこんなことするわけない。・・・“奴ら”、本気で

俺達をここから逃がさないつもりらしいな。」

2階を離れ、4階まで行ってしまったクラウドと

3階にはまだ亡霊がいるかもしれない、だから4階の方が安全だろう。

そう思ったのが災いした。

4階の防火扉が突然閉められ、2人は4階に閉じ込められてしまったのだ。

廊下の所々にはどす黒い血の痕がある。

不気味極まりないが、今はそんなことを気にしている余裕もなかった。

、今何時だ?」

「2時・・・30分を少し回ったところ。」

「くそっ・・・。結局外で落ち合えなかったな・・・。」

クラウドは防火扉開放を諦めたのか、壁に寄り掛かって座り込んだ。

もその隣に腰を下ろす。

辺りはしんと静まり返り、不気味さを増幅させている。

いつどこから現れるかわからない相手に恐怖を持ったまま、2人は沈黙していた。

怖くなくなったわけじゃない。まだ怯えだって残っている。

ただ、覚悟を決めただけだ。

沈黙が続く中、時間だけが過ぎてゆく。




その沈黙を破ったのは、ひとつの足音だった。

かすかな足音が、こちらに向かって来ている。

クラウドは身を乗り出し、足音が聞こえてくる方向を見つめた。

はクラウドの服の裾を握り、きゅっと唇を噛んでいる。

足音と一緒に聞こえてくるのは、ぽたり、ぽたりと水が落ちるような音。

嫌な予感がした。

一瞬ティーダかもしれないと思ったが、水のような音ですぐに違うと否定する。

クラウドは瞬時に立ち上がり、目の前の防火扉開放を再び試みる。

ここが開かなければ2人に逃げ場はない。

必死に扉を押したり、体当たりをかましてみるが扉はびくともしない。

足音はどんどん近付いてくる。

「クラウドッ。」

「くそっ・・・どうすればいいんだっ!!」

焦りと恐怖がクラウドの手元を狂わせる。

は何度も防火扉を叩いた。精一杯の声で叫ぶ。

「助けて!!!誰か助けてっ!!!」

返事がするはずもなく。クラウドは舌打ちをすると、に言った。

、俺がヤツを食い止める。はここを開け放してくれ。」

「そんな・・・無理だよっ。」

「今はそれしか方法がない!俺も出来るだけ抵抗してみる。だからっ・・・。」

言っている間に足音の主が月光に照らされて姿を現した。

にんまりと笑った口元。男子ではなく、女子生徒だった。

最初に出会った亡霊の少女とはまた違う生徒だ。

左手首からの出血、剃刀を持った右手。今までのパターンと同じである。

クラウドはの返事を聞かずに少女に飛び掛った。

はそれを見て慌てて防火扉に向き直る。

扉をどんなに叩いても虚しい音が広がるだけ。

早くしないとクラウドが倒れてしまう、急がないといけないのに。

扉の叩き過ぎで手が真っ赤だ。けれどどうすることも出来なかった。

ふとの頭にひとつの策が浮かび上がる。

廊下には定まった感覚で窓がある。

ということは、窓から外に出てひとつ向こう側の窓に出ることは出来ないだろうか。

防火扉のすぐ手前に窓がひとつある。防火扉を挟んで向こう側に行く事が出来れば。

は窓を開けようとした。だが鍵が閉まってもいないのに開かない窓。

こうなりゃヤケだ。は思い切り窓を蹴り割った。

ガシャンと派手な音がして窓が割れる。クラウドは尚も後ろで交戦中だ。

は窓の外に出ようとして、息を呑んだ。

ここは4階。窓の外は何もない空間である。

生暖かい風がの頬を撫でた。は決意を固める。

窓枠に手をかけ、窓の外に出た。

手と足が滑ればは地面へ叩き付けられる。ジ・エンドだ。

震える手に力を込め、は隣の窓を睨んだ。

ここからでは手が届かない。好都合なことに今自分がはいているのは固いサンダル。

は片足のサンダルを脱ぐと、渾身の力を込めて窓に投げ付けた。

サンダルは上手く窓に命中し、2回目の派手な音が響いた。

40年も前の建物だ。ガラスも脆いのだろう。それが幸いだった。

これならなんとか防火扉の向こう側に出られる。




「くっ・・・!」

クラウドは少女の腕を掴んでその体を思い切り投げ倒した。

呆気なく吹き飛ぶ少女の体。クラウドはあまりの吐き気に口を押さえる。

少女はずるりと立ち上がると、再びクラウドに向かってきた。

クラウドは拳をしっかりと固め、少女の腹を殴りつける。

だが、その感触にクラウドは目を見開いた。

手応えがない。いや、グシャリという嫌な音と感触。

ボタ、と音を立てて床に落ちたのは少女の肉片。

クラウドはひゅっと息を吸い込んで慌てて少女から離れた。

見ると、少女の腹には丁度拳程度の穴が空いている。

『女の子を殴るなんて・・・酷い人ね・・・』

少女のくぐもった声。クラウドは一歩後退り、倒れそうなほどの吐き気に耐えた。

奥歯を噛み締め、異を揉まれるような感覚に必死に耐える。

その時、の声が響いた。

「クラウドっ!」

振り向くとがいない。声は、防火扉の向こう側から聞こえた。

「窓から外に出て、こっち側に回って!早くっ!!」

迷っている暇はなかった。

クラウドは窓枠に手をかけ、隣の窓に飛び移る。

運動神経がずば抜けている彼にとって、それは造作もないことだった。

だが次の瞬間、隣の窓から風を切る音がした。

少女がクラウドを逃がすまいと、窓の外に飛び出したのだ。

「っ・・・!」

クラウドは目を見張る。下は何もない空間だというのに。

少女は一度重力に引き寄せられそうになったが、瞬時に窓枠を掴む。

だが腐敗した腕は少女の体重を支えられはしない。

『あぁ・・・ああぁああっ!!』

少女の肩の肉に亀裂が入ってゆく。クラウドは目を背けた。

『あぁあああああっ!!!!』

おぞましい悲鳴が響き、少女の腕と体が2つに分かれた。

重力に引っ張られた少女の体は地面に叩き付けられバラバラになる。

首が転がり、右足が吹っ飛び、窓枠には少女の右腕が残された。

無惨なその光景にクラウドは頭痛と吐き気を覚える。

「クラウドっ!」

がクラウドの手を引っ張る。

クラウドは廊下に飛び込み、それから屈み込んだ。

心配そうにがクラウドを見つめる。

「クラウド・・・?大丈夫・・・?」

実のところ、大丈夫ではなかった。だが、に口でそう伝える事も出来ない。

口を開けば、すぐにでも戻してしまいそうだったから。

とにかくクラウドは大きく息を吸い、そしてゆっくりと吐き出した。

そうすると随分楽になった。が背中を撫でてくれていたからかもしれない。

やっと口が開けるようになり、クラウドは言った。

「・・・大丈夫だ・・・。悪い。」

「ううん、私は平気だから。早く行こう。ティーダを探さなくちゃ。」

の言葉にクラウドは頷き、立ち上がった。

そしてと手を繋ぎ、駆け出した。









セフィロスが銀色の長髪を靡かせ、正面を向いたままで言った。

「さて。ひとつ尋ねてもいいかな?ヴィンセント。」

「・・・何故私に。」

「今現在私達は2階の廊下にいる。」

「私の言葉は無視なのか。」

突っ込んでも、フォローしてくれる人はいなかった。

「私達の目の前には3人の生徒がいる。男子、男子、女子。」

ヴィンセントは正面に視線を移し、あからさまに眉をひそめた。

シーモアは苦笑を浮かべている。

セフィロスに至ってはいつもの無表情。

と言いたいところだが、明らかに無表情に拍車がかけられている。

「ヴィンセント、私は尋ねる。」

「だからなんだ。」

「目の前の3人の生徒。行方不明のクラウド、ティーダ、に見えるか?」

ヴィンセントは改めて生徒達を見つめた。

そして思い切り

「いや。」

と答えた。

セフィロスはふむ、とひとつ頷き、くるりと方向転換をした。

今来た道を戻るセフィロス。ヴィンセントとシーモアもその後に続く。

だが、自分達の後ろから聞こえる足音にヴィンセントは眉をひそめた。

「おい。今度は私が聞くぞ。」

「なんだヴィンセント。私は今忙しい。」

「早足で歩いているだけだろう。答えろ、なんであの生徒達は私達についてくる?」

教師達3人は立ち止まり、くるりと後ろを振り向いた。

生徒達がクスクスと笑いながらこちらに向かってくる。

3人は勢いよく正面に向き直ると、猛ダッシュで駆け出した。

それに合わせて後ろの生徒もスピードを上げる。

「なんなんだあいつらはっ!!」

「あれが今流行の、“本物”ってヤツなんじゃないですかね?」

「シーモア、今流行というのは適切な言葉ではないぞ。」

走りながら教師達の口論は続く。

「あいつらが本物だと!?くっ・・・神の私に出来ぬことなどないっ。

スーパーノヴァを食らわしてくれるわっ!!

「あ、なら私アニマでも召還しましょうか。」

「貴様らストーリーが違うだろっ!!」

ヴィンセントの叫びも虚しく。

生徒達の足は速い。セフィロス達が全速力で走っても、それに簡単に付いて来て

しまうのだ。思ったより分が悪いのかもしれない。

「げっ。」

ひとつの声が聞こえた。セフィロス達は正面を見据える。

そこにいたのは色黒で金髪の青年、ティーダだった。

行方不明のはずの彼が、今目の前にいる。

「なななななんで先生達がここにいるんスかっ!?」

私達は行方不明のクラウド、ティーダ、を保護しに来たまでだ。

保護ぉ!?いや、俺にはむしろ先生達が追い駆けられてるように見えるんスけど。」

「それも間違いではない。」

「あんたら何しに来たんスか!!!」

いつの間にやらティーダをも巻き添えにしての追いかけっこになってしまった。

セフィロスが叫ぶ。

「くっ。これではラチがあかん!やはり私がスーパーノヴァをッ・・・!

イカは放っておいて、とりあえず二手に分かれましょう。」

一人情熱的になるセフィロスの頭を思い切り殴り付けながら、シーモアが言った。

「ヴィンセント、ティーダを頼みますよ。」

「了解した。行くぞ、ティーダ。」

ヴィンセントとティーダが廊下の角を曲がり、セフィロス達と道を違える。

生徒の亡霊達は何故かヴィンセント達を追わず、セフィロス達の方を追って行った。








ティーダとヴィンセントは荒い息を落ち着かせるため、その場に座り込んだ。

心臓がばくばく言ってる。足にも何だか力が入らない。足が重いのだ。

深呼吸をすれば落ち着くだろう。ティーダは3回、深い深呼吸をした。

少し落ち着いてからヴィンセントに尋ねる。

「先生・・・ホントに、なんでここに?」

「先ほどセフィロスが言っただろう。お前達を保護しに来た。」

額に浮かんだ汗を拭いながらヴィンセントは答える。

ティーダは小さく首を横に振り、「そうじゃなくて」と言う。

「さっき先生言っただろ?行方不明の、クラウドとって・・・。

それ、本当なのか?俺、てっきりクラウド達は4人で行動してると思ってたよ。」

「途中までは4人でいたらしいが、お前を探すために2人ずつに分かれたらしい。

2時に外で落ち合う約束をしたのに、クラウドとが戻って来なかった。」

「くっそ・・・。俺のことなんて気にしなくてもくたばったりしないってのに。」

ティーダは悔しげに呟く。

彼なりにはぐれてしまったことを気にかけていたのだろう。

ヴィンセントは小さく息をつき、口を開いた。

「それよりひとつ聞きたい。あの生徒の亡霊は何だ?」

「え?先生知らないんスか?40年前にここで起こった生徒心中の話。」

「心中?」

ヴィンセントは眉をひそめる。ティーダは小さく頷いた。

「この建物って元々は幻想学院のものだろ?今から40年くらい前に

幻想学院にはもんのすげー暴力教師がいて、その暴力に耐えられなくなった

生徒4人が、教師を殺して自分達も心中したって話ッスよ。

さっき先生を追い駆けてた3人も、その生徒。だから、あと1人この建物の中に

生徒の亡霊がいるはずだぜ。」

ヴィンセントはなるほど、と呟いた。

今までこの建物で肝試しをする生徒が絶えなかったが、

“霊が出る”という噂は嘘ではなかったということだ。

「それで?お前はクラウドとの行方は知らないのか。」

「全然。見当も付かないッス。ただ、さっき4階からガラスか何かが割れるような

音が聞こえたんだ。もしかしたら、クラウド達かもしれない。」

「なら、とりあえず4階に行ってみるか。途中でクラウド達と会えるかもしれん。」

ティーダは頷き、立ち上がった。

心臓の方も大分落ち着いたし、足のだるさもなくなったし、今は走りたい気分だ。

ヴィンセントもティーダにつられて立ち上がると、思い切り伸びをした。

その瞬間を見計らったかのようにティーダが言った。

「あ、先生。“危険だから私の手を握っていろ”っていうのはナシだぜ。」

その言葉を聞き、不機嫌そうにヴィンセントはティーダを見つめる。

「・・・お前相手にそんな寒気がするセリフを言うか、阿呆。」


せめて相手がティーダではなく、だったら良かったのに。

相手がだったのなら、ヴィンセントは“寒気がするセリフ”を口にしただろう。

ああ、哀しきかな。

少しは私にも、華を持たせて欲しい。

ヴィンセントが密かにそう思っていたかどうかは、定かではない。












<続く>



=コメント=
あははは、今回はギャグ風味です。
いや、前半は普通にホラーだけど、後半はかなりのギャグです、はい。
セフィロスはスーパーノヴァ準備しだしちゃうしね!
シーモアはアニマ召還しそうになるしね!(いやこの人の場合冗談かもだけど)
で、とりあえず申しておきますとこの章短めですね。
前回に比べたらすっごく短め。
次回に引っ張りたいので。あははは・・・。
セフィロスファンの方、申し訳なかったです(笑
いやでもさぁ、セフィロスだって羽目を外したいときだってあるでしょう。
だから外しました。アホですこの人。
次回は再びホラーに戻そうかな、なんて思います。
ティーダの無事が確認出来たので、少しまた展開を変えてみようかと。
ご期待ください。 [PR]動画