まさかこんなことになるなんて。





神様、どうして?





どうして、悲劇が繰り返し起こるのですか。










心の鎖










別に、その日もいつも通りだった。

朝から元気に学校に登校して、お昼には皆で昼食を食べて、そして夕方は屋上で過ごして。

そんな、普段通りの、いつもの生活。

何事もなくまた一日が終わるはずだった。

そして帰り際、皆に「また明日」と言って別れるはずだった。

なのに、どうして。





耳が痛くなるほどの車のブレーキの音。

はただ動くことも出来ず、まばたきをすることさえ許されず、

目前で起こった光景を呆然と見つめていた。

自分はどこも痛くない。ただ思ったのは、地面がとても冷たいということだけ。

ひんやりとした地面に座り込んだまま、動けない自分はどうすればいい?

目の前で起こったことに、どう反応すればいい?

「スコール―――――――っっ!!」

自分の叫び声が商店街に響く。

何が起こったのかわからない。もう何を考えていいのかわからない。

ただひとつ真実なのは、目の前に鮮やかな赤い血を流したスコールが横たわっているということ。

道路の真ん中で倒れているスコールは、ぴくりとも動かなかった。








「夏の避暑旅行に行く者は、今日中に私のところに申し出るように。」

HRの時間、セフィロスが言った。

「・・・避暑旅行、って?」

には聞いたことがない単語。

は隣の席のユウナに尋ねた。

「そっか、って高2から転校してきたんだもんね。

あのね、避暑旅行っていうのは、夏の初めに希望者だけ行く旅行のことなの。

田舎の山奥に学校が別荘を持っててね、100人くらいなら泊まれるんだよ。

でも自炊しなくちゃいけないっていう欠点があるから、行きたくないって人が多いの。

1年生から3年生まで行くことは出来るけど、毎年80人前後の生徒しか集まらないんだよね。」

ユウナが丁寧におしえてくれた。

はどうしようかな、と考えながら顎に手を当てた。

ユウナは付け足すように言う。

「クラウド先輩とスコール先輩、ジタンとティーダは毎年行ってるけど?」

「な、なんでそこでその4人が出てくるの。」

「だって、と一番中の良い友達なんじゃないの?」

うん、確かにその通り。

「ユウナ達は行かないの?」

「うーん、私達はちょっとパス。」

ユウナ達が行かないのは少しつまらない気もするが、なんだか面白そうだし行きたくなった。

今日中に避暑旅行へ行くという申し出を出しておこう。






午後4時過ぎ。

もうそろそろ帰ろうと思い、は鞄を持って自分の教室を出た。

ジタンもティーダもゲームセンターか何かに遊びに行ったのだろう。

既に二人の鞄はなく、下校したことが理解出来る。

廊下を歩いていると、向こうに見知った人影があるのを見つけて、は駆け寄った。

「スコールッ!」

「・・・。」

ゆっくりとスコールが振り返る。いつものことだが、なんだか眠そうな表情だ。

は内心苦笑しながら、スコールの隣に並んで歩き出した。

「どうしたの?今日はクラウドも一緒じゃないの?」

「あいつは買い物。・・・今日は安売りの日なんだとさ。」

少し呆れた物言い。だが、そんな言い方は親友じゃないと出来ない。

スコールとクラウドの仲が良いことが、良くわかる一言だった。

「それじゃ、途中まで一緒に帰ろ。私、今日は駅前の本屋さんに用事があるの。」

「何か新刊でも出たのか?」

「うん。大好きな小説の最新刊が発売になったの。だから買いに行こうと思って。」

他愛のない会話をしながら階段を降り、昇降口で靴を履き替える。

スコールが靴を履き替えるのをぼんやりと見つめながら、はクスリと笑った。

「・・・なんだ?」

「ううん、こっちのこと!」

ただ、靴を履き替える。それだけの動作なのに、スコールがすると絵になってしまう。

顔が良い人は得だとは、良く言ったものだ。

少し、ズルいとさえ思えてしまう。スコールは、やっぱり容姿端麗なのだ。

ふと思い、はスコールに尋ねた。

「ねぇ、スコールは避暑旅行、行くの?」

「ああ。そのつもり。今日申し出しといた。」

商店街を真っ直ぐ歩きながら、はスコールにいろいろと話し掛ける。

スコールはの話にときどき疑問を投げ掛けてみたり、相槌を打っている。

の楽しそうな表情を見ると、スコールの頬も自然とほころぶ。

それは、惹かれている人物だからだろうか。

スコールは自問自答してみる。しかし、答えは出ない。

に惹かれているから、自然に笑みが浮かぶのか。

それとも、の影響で自然に笑えるようになったのか。

いや、もしかしたらどちらも答えなのかもしれない。




「でね、その物語の主人公っていうのが・・・。」

スコールはまた相槌を打とうとして、ハッと顔を上げた。

赤い車が猛スピードでこちらに向かってくる。

横断歩道の信号は、赤。





ッ!!!」





無我夢中での腕を取り、思い切り引っ張って突き飛ばす。

車のブレーキ音が響き、そちらに目を向けたときにはもう遅かった。

目の前が暗くなるほどの衝撃。






耳が痛くなるほどの車のブレーキの音。

はただ動くことも出来ず、まばたきをすることさえ許されず、

目前で起こった光景を呆然と見つめていた。

自分はどこも痛くない。ただ思ったのは、地面がとても冷たいということだけ。

ひんやりとした地面に座り込んだまま、動けない自分はどうすればいい?

目の前で起こったことに、どう反応すればいい?

「スコール―――――――っっ!!」

自分の叫び声が商店街に響く。

何が起こったのかわからない。もう何を考えていいのかわからない。

ただひとつ真実なのは、目の前に鮮やかな赤い血を流したスコールが横たわっているということ。

道路の真ん中で倒れているスコールは、ぴくりとも動かなかった。









ッ!!」

病院の待合室。薄暗い待合室に一人座り込んでいる少女を見つけ、ジタンは駆け寄った。

声を掛けても顔を上げない。ジタンはの近くで立ち止まり、

の顔を覗き込むように少ししゃがみ込んだ。

・・・?」

「・・・・・いだ・・・。」

「え?」

小さな呟き。震えている声。ジタンはを見つめたまま、小さく問い返した。

「・・・私の所為だ・・・。」

ジタンはその言葉に目を見開き、しばし硬直した。

が自分自身を責めている。責める必要なんて、どこにもないのに。

ジタンはの隣に腰掛け、その肩をそっと抱いた。

「・・・スコール・・・私を庇って、怪我したんだよ・・・?」

「確かにそうかもしれない。けど、それはスコールが勝手にやったことだろ?

心配することない。ただの交通事故だ。命に別状なんてないよ。」

いつもの軽口が出て来ない。どうして出て来ないのかさえわからない。

ただ、今はを抱き締めてやりたかった。

こんなに壊れそうになっているを見ているのが辛かった。

ジタンはの肩に回した手を思い切り自分の方に引き寄せた。

が自分の腕の中におさまる。

それでもまだ物足りなくて、ジタンはの頭を抱えて自分の胸に押し付けた。

「泣いていい。」

ぴくりとの肩が揺れた。

「我慢しなくて、いいから。」

泣かないで欲しい。けれど、泣いて欲しい時だってある。

今は、泣いて欲しい時。我慢せず、大声で泣いて欲しい時。

は一瞬息をつまらせていたが、すぐにジタンの胸にすがり付いて泣き出した。

ずっと緊張していて、やはり泣くのを耐えていたのだろう。

ジタンはを更に強く抱き締め、静かに目を閉じた。

大丈夫。

は一度、こういった窮地から立ち直っているのだ。

今回も、そう簡単に窮地に陥ったりはしない。





が泣き疲れて眠ってからしばらくして、クラウドとティーダが病院に駆け付けた。

二人とも少々焦った表情をして待合室に飛び込んできたが、が眠っているのを見て

声のトーンを落としてジタンに尋ねた。

「スコールは・・・?」

「まだわからねぇ。でも、大丈夫だろ。あいつ憎たらしいくらいに悪運強いし。」

ケロリとして言う。

冗談で言ったわけではない。本当に、ジタンはそう信じているのだ。

クラウドとティーダはその言葉を聞いて、静かに頷いた。

「交通事故程度で死んだなんてことになったら、スコールのプライドが傷付くんじゃねーの?」

「そうッスね。スコールがこんな間抜けな死を選ぶはずない。」

「むしろ死んでくれた方が・・・。」

が眠っているのを良いことに言いたい放題の王子3人。

だがこの言葉は感情の裏返しだと3人は気付いている。

スコールに生きていて欲しいという想いの、裏返し。



と、そこに一人の医師が現れた。

クラウド達は顔を上げ、医師の反応を待つ。

「君達はスコール君の友達かい?」

「はい。あいつ、どうなんですか?」

ティーダが尋ねる。そんな会話を聞いて目が覚めたのか、が体を起こす。

そして寝起きとは思えないはっきりとした目で、医師を真っ直ぐに見つめた。

「心配することはないよ。出血量は多かったが、傷自体は深くない。

目が覚めれば、すぐに退院も出来るだろうね。ただし安静にしていないと駄目だけれど。

安心しなさい。命に別状はないよ。」

傷自体は深くないと聞いて、クラウド達4人は大きな溜息をついた。

安堵の溜息。ジタンやティーダは、「心配させやがって」と憎まれ口を叩いている。

クラウドは額に手を当てて「あいつが簡単に死ぬわけないか」と呟いている。

もう既にスコールは病室に運ばれており、面会も出来るらしい。

4人は迷うことなく医師からスコールの病室番号を聞き、真っ直ぐそこへ向かった。







スコールの病室のドアをそっと開ける。

頭に包帯を巻き、ベッドに横たわっているスコールの姿がそこにはあった。

少し痛々しいが、命に別状はないと聞いているので気持ちは幾分マシである。

はスコールのベッドに近寄り、傍の椅子に腰掛けた。

ジタンはその後ろに立ち、ティーダは壁に寄り掛かってスコールを見つめ、

クラウドはの隣の椅子に腰掛けた。

呼吸も安定している。どうやら、本当に心配はなさそうだ。

沈黙が続いていたが、気まずい沈黙ではなかった。

はスコールを見つめたまま、動こうとしない。



30分ほどたっただろうか。

の携帯が、急に鳴り出した。

慌てては携帯を見る。未読メールが届いている。

送信者を見てみると、ティファからだった。



『 もう門限を大分過ぎてるよ!

  どうしたの?早く帰ってきてね(^^)

  寮の正門からは入れないと思うから、裏門の方に回ってくれる?

  それで着いたら私にメールして。

  裏門の鍵持って、迎えにいくからね(*^^*)

                                 ティファ     』



「ティファからだ。」

は呟いた。ふと時計を見てみると、門限の5時を2時間ほど回っている。

正門は固く閉ざされていることだろう。だから心配してティファがメールをくれたのだ。

は困ったようにクラウド達を見つめた。

まだスコールのことが心配だ。けれど門限を過ぎてしまっている今、早く寮に帰った方が良い。

クラウドは少し微笑み、言った。

「スコールなら大丈夫だ。俺達が見てるから。」

「でも・・・。」

心配は心配である。

出来れば彼が目を覚ますまで傍にいてあげたい。

ジタンが言った。

「大丈夫だって!こいつが目覚ましたら、すぐにに連絡するからさ!」

なんなら今すぐピコハンで起こしてみる?

冗談混じりにジタンが言う。

は少々苦笑して、「それじゃ先に帰るね」と言い立ち上がった。

一度スコールの額に指で触れてから、そのまま病室を後にした。




しかし、悲劇はまだ終わらない。

  







まさかこんなことになるなんて。





神様、どうして?





どうして、悲劇が繰り返し起こるのですか。









<続く>


=コメント=
クラウドばっか活躍しちゃってるので、今回はスコールとヒロインをラブラブさせよう!大作戦!(無駄に長い)
てなわけで、今回の話のお相手はスコールです。
大波乱ですね。クラウドがやっと退院したと思ったら、今度はスコールが交通事故(笑
この話のネタは、[のEDを久し振りに見て考え付きました。
ヒントは「記憶」です。
EDでスコールがリノアのことを想い、そして泣いたシーンを見て書こうと思ったんです。
「なんだよ、旅行は先延ばしかぁっ!?」とお思いの方。
大丈夫です、先延ばしじゃないです(笑
次回かその次から旅行に旅立ちます。
避暑旅行で、切ない思いを抱えてスコールとラブラブさせるつもりです(笑
あー、これ以上は言えませーん!
でも勘の良い人なら(悪い人でも)物語の流れが読めると思いますよ。

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