やっと私は光を見つけた。




とても近くにあった光なのに




私は気が付く事が出来なかった。




けれど、見つけた光は暖かくて




私をとても幸せな気持ちにさせた。









心の鎖









「ねー、知ってる?、最近明るくなったじゃん?

アレってジタン君達やクラウド先輩達と仲直りしたからなんだって。」

「えぇー!?ヤだ、本当に?でもさ、絶対無理矢理何かふっかけて仲直りしたって感じだよねー。」

「間違いないって。自分の所為でクラウド先輩が怪我したってのに、何考えてんのって思わない?」

”が消え、達の中では解決した話。

しかし事情を知らないほとんどの者達は変わらず陰口を叩いていた。

解決したとはいえ、クラウドが怪我をしたことやが他人を拒絶した期間があるというのは

まぎれもない事実。

だから、にはどうすることも出来ない。

あからさまに聞こえてくる悪口を言われても、じっと耐えるしかないのだ。

「マジでムカつくよねー。」

「何様だコラ!みたいな?」

甲高い笑い声。

胸のあたりが、きつく痛む。



「うるせー。黙って聞いてりゃ勝手なことばっかり。耳障りなんだっつーの。」

「人のことをとやかく言う前に、自分のこと気にしろよ。そーゆー陰口ってウザいだけっスよ。」



陰口を叩いていた女子生徒達が黙り込む。

は顔を上げた。

見ると、ジタンとティーダが明るい笑みを向けてくれている。

それは、とてもを励ますものであり、勇気を与えるものでもあった。

!」

「今度の日曜、空いてる?」

自分のもとに駆け寄ってくる足音、優しい声。

は振り向いた。

「ユウナ・・・ガーネット?」

は驚いて目を見開く。あれだけ冷たく接したというのに。突き放していたというのに。

ユウナとガーネットは、いつもと変わらぬ様子でのもとに駆け寄ってきた。

いつもと同じ日常がやけに嬉しくて、は目を細める。

「久々に一緒に遊びに行こうよ!ね?もう決めたんだから。」

ユウナが言う。はユウナとガーネットを見つめた。

暖かい。素直に、そう思った。

「・・・ありがとう。」

「今じゃなくていいから、いつかちゃんと事情を話してよ?」

は頷く。自分は独りなんかじゃない。













「それじゃまたな、スコール。」

「ああ。」

軽く片手を上げ、クラウドが教室から出て行く。スコールはそれを見送り、小さな溜息をついた。

教室には今、自分しかいない。

夕日の光が差し込む教室。その空気は、何故か少し物悲しい気分にさせる。




『ネクラッ!』

『うわっ、こいつに近寄ると陰気臭ェのがウツるぜっ!!』

『ちょっと、こっちに来ないでよっ!!』




ぼんやりとしていると、ふいに頭に痛みが走った。

スコールはほんの少しよろめき、顔を歪めて額に手を添える。

鈍い痛み。顔の中心にある古傷が、頭の痛みとともにズキズキと痛み出す。

スコールはその場に座り込み、きつく目を閉じて唇を噛み締めた。


『ほらっ、お前にはこういうボロいのがお似合いなんだよっ!』


また、声がする。

ボロボロに破かれた教科書や鞄。幼い男の子の声。

スコールは更に強く唇を噛む。

「・・・るさい・・・!」


『この彫刻刀でさ、お前のその端整な顔傷付けたらどんなに気持ちいいだろうな?』


ニヤリと笑う男子生徒。

鈍く光る彫刻刀。スコールは目を見開く。

震えてくる体。浮き出てくる嫌な汗。



『せーのっ』



振り上げられる彫刻刀。スコールは、彫刻刀から目が離せなくなっていた。






「やめろっ!!!」






叫んだ瞬間、頭痛がふっと消えた。

古傷の痛みも瞬時になくなる。

静かな教室に聞こえるのは、自分の荒い息だけ。

スコールはゆっくりと目を開け、たっぷりと空気を吸い込み、そして吐き出した。

深呼吸で幾分荒い息は落ち着いたが、それでもまだ震えは止まらない。

しんと静まり返っている教室。

スコールは額から手を離し、上を向いてひとつ溜息をついた。

ぼやける視界。まばたきを何回かすれば、その視界もはっきりとする。

「スコール?」

声がして、スコールは視線を巡らせた。

教室の入り口からひょっこりと顔を覗かせている一人の少女。

だった。

「・・・。」

「どうしたの?今、スコールの声がしたから、てっきり誰か他にもいるもんだと思ったけど・・・。」

おずおずと教室に入ってくる

スコールはを見つめてから俯き、スッと立ち上がった。

「いや・・・なんでもない。・・・白昼夢だ。」

言うと、は「スコールでも白昼夢を見ることがあるんだね」と言って笑った。

ふんわりとしたの笑顔。

スコールはその笑顔を見て、少し微笑んだ。

「クラウドはもう帰っちゃったんだね。」

「ああ。15分くらい前に、だけどな。」

スコールは言い、傍に置いてある自分の鞄を手に取った。

そしてに尋ねる。

はどうしてここに?」

「なんとなく。なんとなくフラフラしてたら、スコールの声が聞こえたものだから。」

大声で叫んでしまったから、きっとはっきり聞こえていたのだろう。

スコールは少し苦い顔をして、俯いた。

「ね、スコール、途中まで一緒に帰ろ?」

スコールはすぐに顔を上げた。

自分の顔を下から覗き込むの表情は、どこか戸惑っているようにも見える。

自分の叫び声を聞いたから、心配でもしてくれているのだろうか。

「あ、用事とかある・・・かな?だったらいいんだけど。」

「いや、特に何もない。・・・一緒に帰るか。途中まで。」

そう言うと、は心底嬉しそうな表情を浮かべて、大きく頷いた。

そんなの表情を見てると、本当に救われた気分になる。

その場所にいてくれるだけで、やわらかい空気になる。

スコールはかすかに微笑み、とともに歩き出した。









『コイツってさぁ、ホントにマジで何考えてるかわかんねぇよな。』

『うんうん、コイツ全然しゃべんねぇもん。叩かれても殴られても何にも言わないじゃん?』

『実は人間じゃない!とか?』

『うわ、ありそう!!コイツの泣き叫ぶ声とかすっげぇ聞いてみてぇし!』

『んじゃ、タバコでもコイツの腕に押し付けてみる?』

『マッチでもいいんじゃねぇ?』



「ねぇ、スコール今日疲れてる?」

不意にスコールはを見た。

心配そうにが自分を見つめている。

スコールはゆっくりと尋ねた。

「・・・どうして?」

「無口なのはいつものことだけど、なんて言うか・・・今日は無口ってだけじゃなくて、

何も考えてなくて、上の空って感じがするよ?疲れてるなら無理しないでね?」

スコールは驚いた。

いつもと変わらないはずなのに、自分の様子がいつもと違うということに気付いてしまった

隠すつもりもなかったが、まさか気付かれるとも思わなかった。

元より隠す気などなかったというのも事実ではあるが、それは絶対に気付かれないと思ったからだ。

多分他の者から見たら、いつもと変わりなく見えるはず。

ほんの少しの差だというのに。

スコールは自嘲気味に笑い、目を閉じた。

「・・・そうだな。今日は少し、疲れているかもしれない・・・。」

「何かあったの?」

尋ねるを一瞥し、スコールは静かに言った。




「・・・昔のことを、思い出していた。」
















「ネクラ!!」

学校に行くと、いつもそんなあだ名で呼ばれていた。

確かに、あまり・・・いや、全然笑わない子供だったと思う。

口数も少なく、声も小さくて。

けれどそのくせ顔は良いし成績は良いしで妬まれていたりしたのだろう。

友達は、いなかった。


体育の授業のときは必ずと言って良いほど誰かに突き飛ばされて怪我をした。

授業の教科書は、全てがボロボロに破かれていたりした。

ランドセルや鞄には、コンパスやハサミで傷つけられた跡がたくさんあった。

「泣けよ。」

「泣いてみろよ!」

涙は出なかった。

それは苛めに対する慣れなどではなく、諦めだったと実感している。

これが自分の“普通”だから、何も期待することなどない。

そう思っていたからだ。

突き飛ばされて転んでも、何も言わずにその場を去った。

廊下でひやかされても、誰かに助けを求めたりはしなかった。

それが、自分の“普通”だったから。

今の状態を、どうこうしようとは思わなかった。

しかし、ある事件が起こってから、自分は何かを恐れるようになったのかもしれない。




「この彫刻刀でさ、お前のその端整な顔傷付けたらどんなに気持ちいいだろうな?」

確か、小6のころだったと思う。

クラスメートの一人の男子に、放課後呼び出されたのだ。

その男子は何かと自分に対して突っ掛かってくるような奴で、嫌な奴だとは思っていた。

男子の手には彫刻刀が握られている。

スコールは一歩後退った。

何か、狂った空気が男子から漂ってきていたからだ。

男子はスコールを見つめて微笑んだ。

しかし、目は全く笑っていない。口元だけで笑った、作り笑顔だった。

「せーのっ!!!」

男子の手が振り上げられ、自分に迫ってくる。

スコールは初めて目を見開き、鈍く光る彫刻刀から目が離せなくなった。

咄嗟の事に、目を瞑った。



「っぁぁぁあああっ!!!」



額から頬にかけて熱い激痛が走り、スコールは叫びながらしゃがみ込んだ。

痛さのあまり、目を開けることが出来なかった。

両手で顔を押さえ、ヌルリとした感触に怯えていたのを覚えている。

手の平は真っ赤に染まり、地面には赤い模様が広がった。

スコールは叫び、悶えた。

地面を転がり、激痛から逃れるために叫び続けた。





「傷を完全に消すことは不可能です。」

医者にそう言われた通り、深い傷痕は顔から消える事はなかった。


小学校を卒業し、中学から幻想学院に通い出した。

しかしそれでも、外見を認めてくれる者はたくさんいても、自分の内面を認めてくれる者はいなかった。

独り。

女子達に騒がれ、男子達からはあまり良い目では見られずに。

そんな中。


「これ。」

声をかけられて振り向く。

金髪の少年が、自分に教科書を差し出している。

スコールは首を傾げた。

「・・・さっき、そこの角曲がるとき落とした。」

ぶっきらぼうにそう言い、少年はスコールに教科書を手渡した。

「・・・じゃあ。」

少年は背を向けて呆然とするスコールを置いて歩き出す。

だが、途中で思い出したように振り返り、スコールに言った。



「その顔の傷、いいな。・・・かっこいい。」



これが、クラウドとの出会いだ。

それからは不思議なくらいにクラウドと一緒にいるようになり、それが当たり前になった。

その後ジタンやティーダ達が入学してきて、友達になった。

ずっと楽しくなった学校生活。だが、まだ自然に笑うことは出来ない。

笑おうとすると、顔の古傷が痛んだ。

鋭く、ズキリと。

他人に興味を持つ事も出来なかった。

全てに色がついていなくて、全てに関して無関心で



「・・・クラウド先輩に、スコール先輩・・・?」



やわらかい声。

今まで何もかも全てに無関心だったスコールは、何故かその少女に興味を持った。

しっかりしているようでどこか抜けていて、強く見えるのに本当は弱い。

自分に見せてくれるその笑顔はまさに光そのもので、そんな笑顔の少女に、

・・・いつしか、心惹かれるようになっていた。

今まで誰かに恋したことなどなかったというのに。













「スコール?」

「・・・いや、なんでもない。」

スコールが言うと、は眉を寄せて首を傾げた。

どうやら遠くを見つめてしまっていたらしい。

スコールは微笑み、それから前を見据えた。



今はまだ、その気持ちを彼女に打ち明ける事は出来ないけれど。



「それじゃ、私こっちだから。またね、スコール!」

「ああ。・・・またな。」

去っていく彼女の背中に、小さい声で呟いた。





『好きだ』と。

ただ一言だけ。









<続く>



=コメント=
以上、スコールの過去編でした!!
スコールは少し暗い過去ですね。
さんが光だということを提示したかったんです(笑
で、なんでスコールが自分の過去をさんに話さなかったかというと、
自分の情けないところを見せなくなかったんですね。
苛められていたとはいえ、さんほどではなかったと。
だから、話したくなかったんですね。
次回はジタンの過去です。
原作の\と・・・んー、似たような暗さだと思います(笑 [PR]動画