封じ込められた願い。






封じ込められた、気持ち。






静かで、真っ暗な場所で・・・






私はただ、黙って・・・見ていた・・・。










心の鎖









クラウドは、幻想学院の校門前で校舎を見上げていた。

まだ脇腹の傷は、鋭い痛みを持っている。だが、これ以上の病院生活はクラウドには耐えられなかった。

入院中ずっと考えていたのこと。

結局、どれだけ考えて悩んでも、答えは見つからなかった。

見つかるとも思っていなかったが、やはりクラウドには辛いことだった。



校門をくぐると、女子生徒の黄色い声が聞こえた。

思わず耳を塞ぎそうになる。だが、松葉杖を持っているせいで耳を塞ぐことができない。

女子生徒達は我先にと駆け出し、クラウドの行く手を阻んだ。

「クラウドくん!怪我はもう平気なのっ!?」

「先輩、荷物お持ちします!!」

そんな声ばかりが聞こえてくる。クラウドは適当にあしらいながら、教室に向かおうと思った。

こんなものをいちいち相手していたら、日が暮れてしまう。

クラウドの頭には、今はのことしかなかった。

とにかく、もう一度会って話がしたいと思った。だから、早くこの場から離れたい。

クラウドはふと思う。

以前から、遠目でキャーキャー言われることはあったが、こんなに囲まれて騒がれることはなかった。

それは、クラウドが「近付くな」というオーラを発していたからだ。

だが、今彼女達は何の迷いもなく自分に近寄ってきた。何故?

・・・そうか。

クラウドはひとつの答えに辿り着く。

そう、が自分のオーラを変化させたのだ。

恐らく、優しい雰囲気のオーラに。

がいたから、自分はこんなにも変われた。

やはり、とこのまま距離を置くのはクラウドの心が許さなかった。

わかるのだ。自分の心が、を求めている。

「クラウドくん、授業ね、かなり進んだんだよ。私がおしえてあげるね!」

「私今日お弁当作ってきたの!ねぇ、一緒に食べようよ〜」

まあ、自分のオーラが優しくなったということは置いておいて。

この煩さはなんだ。クラウドは思った。

放っておいてくれればいいのに、何故こんなにぞろぞろと付いて来るんだ?

「クラウドくん、災難だったよね。」

「そうそう!あの生意気なのせいで怪我したんでしょ?可哀相〜・・・」

さえいなければ、クラウドくんだって怪我しなかったのに・・・。」

「迷惑な話よね。クラウドくんの気持ち、私すっごくよくわかるよ。」

クラウドはその言葉に立ち止まった。

それにつられて、彼女達も一緒に立ち止まる。

クラウドは手を握り締め、彼女達を睨みつけた。

「あんたらに・・・・何がわかる!!」

急に叫んだからだろうか。彼女達は、ビクッと竦み上がった。

「何もわかってないくせに・・・のことを、何も知らないくせに!!

勝手なことを言うな!!偽善のつもりか!?これ以上俺を怒らせるな!!」

ああ、やっぱりだ。

自分には、がいないと駄目なんだ。

彼女達は、急に怒り出したクラウドに怯えて少し距離を取った。

クラウドはもう一度彼女達を睨みつけ、彼女達を無視して校舎に入った。

やっぱり自分には、がいないと駄目なのだ。

感情をコントロールすることも、思いを爆発させるタイミングも掴めない。

がいないと・・・。

ふとクラウドは視線を上げた。じっとこちらを見ている青い髪の少女に気付いたのだ。

「っ・・・!」

クラウドは脇腹の傷が痛むのを無視して、歩き出した。

は動かない。冷たい瞳で、クラウドを見つめているだけだ。

・・・!」

クラウドは口を開いた。

もしかしたら、逃げられてしまうかもしれない。

それでもいい。の声を、聞きたかった。

必死で歩み寄ってくるクラウドを見て、は小さく鼻で笑った。

その笑いに、クラウドは足を止める。

・・・?」

は変わらず冷たい目でクラウドを一瞥し、身を翻して廊下の角を曲がって行ってしまった。

クラウドは、しばらく動けなかった。

違う。

あの目は、あまりに冷たすぎる。

なのに、何故かではないような、そんな感じ。

「クラウド。」

後ろから声がして、クラウドは振り返った。

そこには、スコールが立っていた。

「スコール・・・。俺がいない間・・・に、なにかあったのか?」

クラウドはゆっくりと尋ねた。スコールは一度俯き、そして口を開く。

「・・・俺にもわからない。5日・・・いや、この4日間・・・の様子がおかしい。

恐らくこの4日間、誰とも会話をしていないだろう。同室のティファにさえ、無視を決め込んでいる。

授業で当てられた時はちゃんと答えているらしいが、それ以外での声を聞いたヤツはいない。

しかも、無視というより・・・他人を見下したような態度を取っているようだ・・・。」

先ほどのの目。冷たいあの視線は、どうやら見間違いではなさそうだ。

一体に何が?クラウドは俯き、視線を泳がせた。

「・・・今日の放課後・・・俺はを追う。・・・付き合うか?」

スコールの言葉に、クラウドは頷いた。

「俺達も付き合うッスよ。」

声。クラウドとスコールは声がした方を見つめる。

そこにはジタンとティーダが立っていた。真剣な瞳でクラウド達を見つめている。

スコールとクラウドは、頷いた。

「・・・今日の放課後、全てをはっきりさせよう・・・。」

が自分達から離れなければいけなかった理由。

あんな冷たい目で他人を見るようになってしまった理由。

そんな全てを、はっきりさせよう。







夕方。

クラウド達は、校門の近くでが出て来るのを待った。

の後を追い、全てをはっきりさせるために。

しばらく待つと、が出て来た。

は少し立ち止まり、クラウド達を見つめてニヤリと口元を歪めた。

そして、さも自分は気付いていないという風を装い、校門の外へと出て行った。

クラウドはその後姿を見つめて呟く。

「・・・誘っている・・・?」

は、自分達を誘っているようだった。

こうなるのを知っていて、そして望んでいて、誘っているようだった。

「・・・行くぞ。」

スコールが言い、四人はそっとの後に付いて行った。

とは言え、は四人が付いてくることを知っているようだったし、別にこそこそと行く必要はなかった。

人気のない住宅地に入り、しんと静まり返る道に歩く音だけが響く。

は後ろの四人の様子を見ながら、小さな公園に入った。

そして、四人を待ち構えるように立っている。

四人は覚悟を決め、公園へと踏み込んだ。

しばし見つめ合い、沈黙が流れる。両者とも口を開こうとせず、静まり返る公園はどこか不気味だった。

最初に口を開いたのは、スコールだった。

「・・・俺達はお前に話があって付いてきた。」

「知ってるよ。」

冷たく低い声で答える

「だから誘ったんだ。・・・誘いに乗ってくれて、一応はありがとう、って言った方がいいのか?」

クスクスと笑うを見て、四人は背筋が冷えた。

スコールは少し間を置き、再び話し掛ける。

「・・・何故俺達を誘った?」

「そりゃ、あんたらに話があるからに決まってるだろ。」

スコールを睨みつけては言う。

ジタンが吠えた。

「お前っ、そのしゃべり方やめろよ!!どういうつもりだよ、!」

だが、ジタンをクラウドが引き止めた。今にも飛び出しそうなジタンは、少し冷静にならなければならない。

クラウドは言う。

「・・・ジタン・・・あいつは、じゃない・・・かもしれない・・・。」

「なっ・・・!?」

驚愕の表情を浮かべるジタン。

ジタンは、ハッとしてを改めて見つめた。

青い髪。紫色の瞳。普通に見れば、間違いなくその人だろう。

しかし、瞳の色を見れば、差は歴然だった。

くすんだ紫色。キラキラと輝く、あのの瞳ではない。

は笑うと、口元を歪めて言った。

「正解〜。そう、俺はじゃありません。」

一人称が、俺。

それは、明らかに目の前の人物がではないということを示していた。

「お前は・・・誰だ?」

クラウドが尋ねる。

「俺?さて、俺は誰でしょう。・・・なーんて言うとあんたらが怒り出すのは目に見えてわかるからな。

俺はな、に作られた人格みたいなもんだ。世界が敵に回ったとしても、俺はの味方だ。

・・・俺が生まれた理由、知りたいか?」

が言うと、クラウド達は頷いた。

「それじゃ・・・長くなるけど話してやるよ。俺が生まれた理由をな。」

は腰に手を当てると、静かに語り出した。

自分が生まれた理由を。過去の、に起こった出来事を。





「あんたらだって、が過去いじめられたことは知ってるだろ。

生まれつき髪が青いってだけの理由で、はさんざんな目にあった。

そりゃもう、酷いもんだったんだぜ。石を投げ付けられて、教科書は破られて、花壇に放り込まれて泥だらけ。

弁当には泥水が流し込まれて、当然食える状態じゃなかったし。

けどな、そんなにも、唯一の心の支えってのがあったんだよ。

一人きりの友達。そいつがいたから、は壊れずに済んでたんだ。」



唯一の友達。たった一人の、友達。心の支え。



が泣いていると必ず、優しく肩を叩いたり、自分の弁当を分けてやったりしてた。

そいつはさ、しゃべれないヤツだったんだよ。生まれつき口が利けないって病気だったんだ。」



だからこそ、二人は仲良くなれたのかもしれない。



「で・・・ある時事件が起こった。そいつは、と一緒にいたがためにいじめのターゲットにされた。

と同じ目に遭ったんだ。石投げられて、教科書破られて。それでも二人は頑張ってた。

けどな、そいつはを庇って怪我をした。コンパスの針でグサッ。右目を失明。」



叫び声にならない悲鳴を上げて崩れ落ちた友達。

その時ほど、声を持たない彼女を見て辛く思ったことはなかった。



「で、それっきり。そいつはには近付かなくなった。

は本当に独り。周りに助けてくれる友達はいないし、家に帰っても虐待の日々。」



そして、全てが壊れた。



『どうして・・・誰もいなくなっちゃうの・・・?私・・・独り・・・?』

は孤独の恐怖を感じたくなかった。だから、空想の人物を作り上げて、その人物を心の支えにしたんだ。」


暗い恐怖は怖い。冷たい恐怖は怖い。


「そして生まれたのが・・・俺。」






『怖いよ・・・怖いよ・・・!』

《大丈夫・・・・俺がいるよ・・・》

『・・・誰?』

《友達。君の、友達。絶対に俺は君を裏切らない。》

『・・・友達?』

《そう。君だけの、友達。君も、俺だけの・・・友達・・・。》











クラウド達は、ただただ驚いていた。

目の前の“”の出生の理由に。

”は言った。

「でも・・・ずっと俺と一緒の日々を送ってるうちに、これじゃいけないって思ったんだろうな。

俺は・・・・の心の奥に封印された。静かで、暗くて、寂しい・・・そんな場所にな。

もちろん反発したさ。なんで俺を封印するんだって。俺を裏切るのか?って。

けどは言ったんだ。『これじゃ、私自身は強くなれない』って。だから俺は、諦めて

の心の奥に封印されてやった。」

静かで暗くて寂しい、の心の奥深くに。

けれど、それが再び姿を現した。

「・・・封印されたはずの俺が、なんでまた姿を現したかわかるか?」

”は、ニヤリと笑った。



「お前らが、を見捨てたからだよ。」



クラウド達は言葉を失った。

自分達が、を見捨てた?そんなつもり、ない。

「待てよ!俺達はを見捨ててなんかっ・・・!」

「いない、とでも言うつもりかよ。そうは言わせないぜ。」

ジタンの言葉を遮り、“”は言った。

「ジタン、お前クラウドの病室でに怒ったよな。俺達友達だろって。

、逃げ出しただろ?なら、なんであの時追い駆けなかった?」

尋ねられ、ジタンは言葉に詰まった。

確かに、自分はあの時を追い駆けなかった。

手を伸ばして、そして届かなかったから。

「ティーダ、お前古い教室に閉じ込められてたを助けたよな。

あの時、なんで『俺は白紙に戻せない』って言わなかった?、期待してたんだぞ。」

ティーダはハッとした。

最後まで吐き出せなかった言葉。それを、が期待していた?

「スコール、お前屋上でに言ったよな。お前を見る目が変わるだけだって。

あの言葉に、どれだけが傷付いたかわかってんのか。」

スコールは呆然とした。

確かにあの言葉は本気だった。けれどそれはがきっと気付いてくれるだろうと思ったから。

それが、逆にの重荷になった?

「クラウド、お前自分が入院してたからを傷付けてないって安心してるんじゃねぇだろうな。

甘いぜ。ずっとのこと考えてたんだろ。どうして、なんでってずっと考えてたんだろ。

なら、なんでに電話でもメールでもしてやらなかった?」

クラウドはその言葉に、動けなくなった。

ちゃんと、話し合うべきだった。メールでも電話でもなんでもいい。

に連絡を取って、少しでも話をしようとするべきだった。

「大体、お前らはなんでがお前らから離れていったのかさえわかってないだろ。

はな、過去と同じことになりたくなかったんだよ。」

友達が、を庇って怪我をした。

そして、何も言わないまま離れて行った。

クラウドは、ナイフで刺されて怪我をした。

そして、何も言わないまま・・・

「俺は、から離れて行ったりしない。」

クラウドはきっぱりと言った。だが“”は動じたりしない。

「だったらにそう言えばよかっただろ。はお前らが自分から離れていくのを恐れたんだよ。

相手から離れていくくらいなら自分から離れて行った方が傷だって浅い。そして何より、これ以上お前らが

傷付くのを見たくなかった。だから離れて行ったんだよ。つまりはお前らを庇ったってわけだ。」


『・・・今までありがとう。・・・さようなら・・・』




を守るつもりが、逆にに守られていた。

は、自分達を守るために、わざと自分達を遠ざけた。

「お前らを庇ってやったことなのに、お前らときたらその事に気付かずのことを軽蔑し出した。

それが、にとってどれだけ辛い事だったかわかってるのかよ。」

どれだけ、辛かったのだろう。

どれだけ、涙を我慢したのだろう。

どれだけ、自分達を憎んだのだろう。

「それで・・・お前が、出て来たというわけか・・・。」

スコールが呟く。“”は頷いた。

「物分りがよろしい方ばかりでこっちとしては嬉しいぜ。俺はを傷付けたお前らを許せねぇ。

のナイトですって顔しながら、一番を傷付けたお前らを許せねぇんだよ!!」

その言葉が、クラウド達の胸に突き刺さった。

一番を傷付けたのは、自分達。

のことは一番理解してると思っていたのに、何も理解していなかった。

「・・・と話がしたい。・・・出来るか?」

クラウドは言った。だが“”は肩を竦める。

”は自分の胸を親指で示し、言った。

「無理だろうな。ここの奥底に隠れて、出て来ようともしねぇ。お前らに拒否られるのが怖いんだろうよ。」

・・・。」

ティーダは呟いた。胸の奥で疼く、自分の気持ちを噛み締めて。

しばし沈黙が流れた。

クラウドも、スコールも、ジタンも、ティーダも、今どうすればいいのかわからずに混乱している。

「後悔してるだろ。」

クスリと笑いを漏らす“”。

クラウド達は、その問いに答えられなかった。

あまりに、後悔の念が大き過ぎて。

どうしてあの時にああしなかったんだろう、とか、どうして何か言ってあげられなかったんだろう、とか。

沈黙が、重かった。

クラウドはしばし考えた後、口を開いた。

には・・・今、この俺達の会話が聞こえているのか?」

「聞こえてるはずだぜ。けど、聞いてはいないな。」

聞こえているけれど、聞いてはいない。

きっと、聞くのが怖いのだ。だから、耳を塞いで隠れている。

「多分、もう一生は出て来ないだろうよ。」

「なら・・・は・・・どうなるんだよ?」

ジタンが尋ねる。

「その時は、俺がになる。・・・くくっ、それも楽しそうだな。」

本当に楽しそうに“”は笑って。

壊れた笑いで、腹を抱えて笑って。

ジタンも、ティーダも、絶望に包まれていた。

唇を噛み締めていないと、涙が溢れてきそうで、堪えるのが大変だった。

「・・・一応、聞こえては・・・いるんだな?」

「あ?」

に、俺達の声が。」

確かめるようにクラウドは問う。

”は面倒臭そうに肩を竦めるとクラウドに言った。

「だから、聞こえていてもに聞く気がなければ意味なんて・・・」

「聞こえているのなら、それでいい。」

”の言葉を遮り、クラウドは言う。

クラウドは、脇腹の痛みを堪えて一歩前に歩み出た。

そして一度目を閉じ、ゆっくりと目を開けてからしゃべり出す。

「・・・ごめん、。」

突然の謝罪の言葉に、全員の肩がピクリと揺れた。



「俺・・・が、そんなに思い詰めてこの選択を選んだなんて・・・思いもしなかった。

ちゃんと考えれば・・・ちゃんと、全員で考えて・・・話し合えば良かったよな・・・。」

全員で話し合って、納得の行く選択を選べれば良かった。

「俺・・・に、何度も助けられた。・・・何度も、俺を助けてくれた。

最初は俺達のこと、怖がってたくせに、慣れると・・・よく俺達に声をかけてきてくれて・・・。

俺、いつもスコールと二人だったから・・・そんなの行動が、嬉しかった。」

孤独から、救い出してくれたのはだった。

が困ったら、必ず助けるって心に決めてたのに・・・が辛い思いをしてる時、

俺・・・結局何も出来なかったな・・・。・・・が辛い思いをしてるの、見抜けなかった。」

そんな自分が、情けない。

「でも、今回のことでわかった。やっと、理解出来たんだ。・・・のこと。

・・・もう、を悲しませたりしない。辛い思いなんて、絶対にさせない。

許してくれとは、言わない。けど、せめて・・・の傍にいさせて欲しい・・・。」

の傍に。いや、本当は、に傍にいて欲しいのかもしれない。

あの空気は、何故か落ち着くから。



スコールが、一歩前に出た。

・・・すまない・・・。」

スコールの謝罪。低い声は、落ち着いていた。

「俺は・・・お前の考えが理解出来なかった。何故俺達から離れていくのか。何故俺達を避けるのか。

俺は・・・自分のことしか考えてなかったんだ。・・・俺は、に見捨てられたんだと思った。

納得出来なかった。もし、お前が戻ってこないのなら・・・俺はどうすればいいのかわからなかった。」

また、孤独に戻る事になるから。

「けど・・・見捨ててたのは、俺達の方だったんだな・・・。俺達を庇おうとしたの思いを、

俺達は自分が傷付いてるフリをして踏みにじった。・・・の思いを、無駄にしたんだ・・・。」

滅茶苦茶に踏みにじって、それでも傷付いてるフリを続けて。

「謝っても、謝り切れない。酷い事を言って・・・ごめん・・・。

けど、俺はちゃんと本当のに謝りたい。・・・もう一度、話がしたい・・・。

お前の声が、・・・・聞きたい・・・。」

優しいトーンの、優しい声。

謝りたい。彼女に。彼女自身の心に。



「俺、馬鹿だからっ・・・。」

ジタンが一歩前に出た。

「俺・・・馬鹿だから、のことばっかり責めて・・・俺は、何にも知らないフリしてた。

病室で・・・あんなに怒鳴って、ごめん・・・。のこと、避けてて・・・ごめん・・・。」

の態度が許せなかった。だから、自分もを避けていた。

「俺、に出会わなかったら、本当にボロボロになってたと思う。

きっと、毎日女とっかえひっかえで・・・、満足出来ない日々を送ってた。

けど・・・に会えたから、そんな日々から抜け出せたんだ。感謝してる。」

は、いつも優しいから。

「俺、に甘えてた。を支えられるように、に頼られるように・・・

頑張って、しっかりしようって思ったんだ。けど、そう思えば思うほどに甘えて・・・

・・・甘えたくなって・・・。」

は、優しく包み込んでくれるから。

「でも、もうに甘えっぱなしにはならない。俺、に頼って欲しかったんだ。

いつも一人で抱え込むから・・・だから、頼って欲しかったんだ。

甘えさせてくれるは・・・俺にとって、頼って欲しいだから・・・」

甘えさせて欲しい。頼って欲しい。

そして、包み込んで欲しい。



。俺、のこと忘れて・・・全てを白紙に戻すなんて、出来ないッスよ。」

ティーダが一歩前に出て、言った。

「ただ忘れればいい、なんて・・・口にすれば簡単だけど、俺には無理ッス。

は・・・鮮やか過ぎる絵の具だったんだ・・・。」

白い紙全体を、その色で染め上げたくて。

「俺、毎日・・・自分の紙を、の色で染め上げていくのが楽しみだったんだ。

は、毎日鮮やかな色を変えるから・・・だから、楽しみだった。」

毎日、白紙が鮮やかな色に染め上がっていくのが嬉しくて。

「俺、もう白紙には戻せない。のこと忘れて、以前の生活に戻るなんて、嫌だ。」

もう二度と、白紙には戻せない。

やっと口に出来た。伝えたかった言葉。






「・・・お前ら、何のつもりだよ・・・。」

”が呟いた。

その顔には、はっきりと動揺の色が浮かんでいる。

だが、クラウド達の心は決まっていた。

もう一度、に会いたいから。

いや、もう一度なんて辛過ぎる。

に、自分達の元に戻ってきて欲しいから。

だから。





・・・」


っ!」


・・・!」


気付いて。自分達の声に、気付いて。



「お前ら、一体何のつもりだよ!?を滅茶苦茶に傷付けておいてっ・・・!」

”は叫んだ。

「俺達はを傷付けたかもしれない。」

「けれど、傷は何度でも癒すことが出来る。」

は俺達の傷を癒してくれた。」

「なら、今度は俺達がの傷を癒す番ッス。」

気持ちはひとつ。

ただひとつ。



「・・・おい・・・・・・どうしてだよ?」

”が不意に言った。

「こいつらは・・・お前を傷付けたんだぜ?滅茶苦茶にっ!」

”の叫びは、公園に響いた。

「なのにっ・・・なのにどうしてだよ・・・お前は、また俺を心の奥に閉じ込める気かよ・・・!」

静かで、暗い場所に。

「お前は自分の味方の俺より、自分を傷付けた奴らを選ぶのかよっ!?」




『確かに私を傷付けたのはその人達かもしれない・・・。

けれど、その傷を癒せるのもまた、その人達なの・・・。』




「わからねぇ・・・わからねぇよっ!お前、こいつらを憎んだんだろ!?」




『憎んだよ・・・?すごく悲しくて、思いが通じないのが辛くって・・・。

けど・・・どうしても、憎み切れなかったから・・・。やっぱり、皆が好きだから・・・。』




”は、その場に崩れ落ちた。

地面に座り込み、何度も何度も地面を殴り付けた。

”は、泣いていた。

大粒の涙を、大きな瞳から流していた。

・・・!俺、怖いよ・・・!独りで閉じ込められるの、怖いよぉっ!」

『大丈夫。・・・私、もう独りじゃないから・・・。だから、もう怖くないよ。』

もう、怖くないよ。

「あそこ・・・何の音もしなくって・・・暗くて、寒いんだっ・・・!怖いんだよぉ・・・!」

『大丈夫。もう暗くない。寒くないよ。私ね、今心がすごく暖かいの。もう、大丈夫だよ。』

もう、大丈夫だよ。

「あそこに入るとっ・・・冷たい鎖が俺を縛り付けるんだっ・・・痛いよ・・・怖いよ・・!」

『心の鎖は、もうないから。心の鎖は・・・クラウド達が、解き放ってくれたから・・・。』

心の鎖は、もうないから。



「俺・・・独りじゃ、ない・・・?」

『独りじゃない。私がいる。』

「もう・・・怖く、ない・・・?」

『怖くない。怖くないよ。』

「・・・俺・・・“幸せ”になれる・・・?」

『・・・私、幸せ。だから、きっとなれるよ・・・。』





”は、よろめく足で立ち上がった。

そして、最後に問う。





・・・ずっと・・・俺の友達でいてくれる・・・?」






『もちろん』






すぐに返事が返ってきた。

それが、何より嬉しかった。

「・・・うん・・・・。」

”は呟き、目を閉じた。

そして、そのままゆっくりと倒れて行く。

スコールも、ジタンも、ティーダも駆け出そうとした。

だが、それよりも早く、クラウドは松葉杖を放り出して、に駆け寄った。

そして、その体を抱きとめる。

脇腹に激痛が走ったが、そんなことは気にしない。

自分の腕にをしっかりと抱き締めて、クラウドは呟いた。

「ごめん・・・!」

こんなに、苦しませて、ごめん。

「・・・私も・・・ごめん・・・ね・・・。」

が、戻ってきた。

クラウドは一瞬目を見開き、そしてすぐに目を細める。

目頭が熱くなった。目の奥が、熱くなった。

・・・!」

っ!」

っ!!」

スコールやジタン、ティーダが駆け寄ってくる。

スコールはよろけるクラウドを支え、ジタンとティーダはクラウドもろともに抱き付いた。




もう離さない。



もう、離れない。










食い違っていた時の歯車は、再び正しく廻り出す。

ゆっくりと、くるくる、くるくると。














<続く>



=コメント=
やっと問題解決!!(笑
うわー!!長いぃぃぃ!!(笑
もしかしたら最長記録更新?(笑
やっと痛い話から抜け出せるよ・・・(感涙
次回は旅行でもしましょうか(笑
まだ考え中〜(笑



音楽:『星屑』 Shinjyou's Music Room
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