そして私は彼と出会った。





・・・いえ、そして私は“彼ら”と出会った。






心の鎖







始業式が終わり、は再び教室に戻ってきた。

今日は始業式だけで下校となる。

けれど、家に帰っても何もすることがない。

学校で本を読んでいる方がよっぽどマシだというものだ。

けれど、は図書室では本を読まないことにしている。

いや、本はもちろん借りるが、いつも屋上で読むことにしているのだ。

「・・・屋上で、本を読んでから帰ろう・・・。」

は鞄を持ち、立ち上がった。と、そこで気付く。


屋上はどこだ。


何せは極度の方向音痴。

慣れれば別だが、今日初めて訪れた校内を把握出来るほどは器用ではない。

そして何より幻想学院は校舎が5つあり、どんなに物覚えが早い者でも校内を把握出来るほど狭くない。

さて、どうしたものだろうか。

本は持っている。読みかけの文庫本が2冊、鞄の中に詰められている。

だから図書室に行く必要はない。けれど、どの校舎の屋上に行けばいいのだろう?

「どうしよう・・・。」

はとりあえず教室を出て、廊下をうろつく。

この館には屋上はなさそうだ。誰かに聞いた方がいいのだろうか?

目の前には一人の女子生徒がいる。同じクラスの生徒ではない。

「・・・あの・・・。」

おずおずと声をかけてみた。女子生徒はに気付き、首を傾げながら振り返る。

そしての姿を見て言う。

「あ、あなた転校生の子でしょ?」

「あ、はい・・・。」

事実なので頷く。そんなを見て、女子生徒はにこりと微笑んだ。

「そんなに硬くならなくていいよ。私ティファ。

あなたと同じ2年生で、C組なの。よろしくね。」

「ティファ、さん・・・?」

「だから、硬くならないでよ。ね?同じ歳なんだから、私達。

呼び方もティファでいいわ。それで、どうかしたの?」

ティファは優しく微笑みながらに尋ねる。

は思い切って聞いてみた。

「あのね・・・屋上って、どこにある?」

「屋上?屋上なら5号館にあるけど・・・。屋上で何するの?」

「本を読もうと思って・・・。人がいないところって屋上くらいしかなさそうだし。」

ティファは少し眉をひそめて考え込んだ。

「ん〜・・・人がいないところ、かぁ・・・。確かに屋上なら人気も少ないけど・・・。

でも、今の時間なら恐らく誰かいるよ?一日のほとんどを屋上で過ごす二人組がいるから。

普通なら、ほとんどの生徒は屋上には近寄らないんだけどね〜・・・。」

「へ?」

ティファの説明ではいまいち良くわからない。けれどティファは苦笑を浮かべ、

「とにかく行ってみたらわかるよ。」

と言うだけだった。




迷いに迷って5号館へと辿り着いた

本当は迷い過ぎた所為で疲れていたが、せっかくここまで来たのにまた迷いながら帰るのも嫌だったので

半ば成り行きで階段を上っていた。

早く校内の造りを把握しよう。そう思うだった。


そして階段を上り切る。目の前の屋上への扉を、は少々脱力しながら開けた。




一瞬は目を細めた。

それは暗いところから急に明るいところに出た所為だったのだろうか。

それとも、目の前にいる“彼ら”の影響だったのだろうか。

どちらでもいい。そんなことはどうでも良かった。

は屋上の扉を開けた格好で、立ち尽くしていた。

すらりとした長身の二人の美男子。

一人は茶色い髪で、顔には大きな傷がある。

もう一人は金髪で、深いブルーの目の青年だ。

恐らく二人ともより少々年上だろう。となると、3年生だろうか。

ティーダやジタンも随分な美少年だと思ったが、また種類の違う美しさには目を見張った。

「あ・・・。」

は美男子二人組が自分を不思議そうな目で見ているのに気付き、

顔を赤く染めて乱暴に扉を閉めた。

そして扉に背を向け、そのまま顔を両手で挟む。

ティファの言った意味が良くわかり、は一人で納得していた。

「・・・おい。」

「ひゃぁあっ!!」

急に話しかけられ、は驚いて飛び上がった。

ぎしぎしと後ろを振り向くと、そこには茶髪の青年が。

青年は首を傾げながらに言う。

「・・・驚かせたか?」

聞かれ、は一瞬呆気に取られたがすぐにコクコクと頷いた。

青年は「そうか、すまない」と短く答え、改めてを見た。

「・・・俺達に、何か用か?それとも、屋上に何か用か?」

「あ、えっと・・・私・・・。ほ、本を読もうと思って・・・屋上に・・・。」

言葉はバラバラだったが、相手には伝わったようだ。

青年は屋上の扉を開け、に軽く親指で示した。

どうやら、「屋上に出ろ」と言っているようだ。は戸惑っていたが、おずおずと屋上へ踏み入れた。

「あ、あの・・・?」

が茶髪の青年に声をかけると、青年は屋上の扉を閉めて言った。

「・・・俺達を気にせず本を読めば良いだろう。」

どうやら厚意でを屋上へ入れてくれたようだ。

けれど、には素直に喜ぶことが出来なかった。

とりあえず出来るだけ美男子ズ(命名)から離れ、コンクリの床に座る。

そして、おもむろに鞄から文庫本を取り出し、顔を隠すように読み始めた。

いや、正しくは読んでいるフリをしているだけなのだが。

こんな状況で、落ち着いて本が読めるわけない。

は美男子ズが早く出て行ってくれる事を祈りながら、本に食い入っていた。



「・・・あんた、転校生だろ?」

15分くらいたっただろうか。金髪の青年が視線をに投げ掛けながら言った。

は内心「何故話しかけてくる!?」と思ったが、無視をするわけにもいかない。

「は、はぁ・・・まぁ。」

適当に相槌を打っておく。

「2−Aなんだって?」

「は、はい・・・。」

「ティーダやジタンと同じクラスか?」

「あ、・・・・はい。」

「ってことは、担任はセフィロスか・・・。」

「はい・・・。」

「どうだ?セフィロスの印象は。」

「え、えーと・・・。」

「大概誰でも怖がるんだけどな。」

「こ、怖くはなかったです・・・。」

今の状況の方がよっぽど怖いです、とはさすがに言えなかった。

「・・・お前、さっきから本のページが進んでないな。」

「はい・・・。・・・えぇっ!?!?」

金髪の青年は呆れたようにの本を見ながら言う。

バレてたようだ。緊張しっぱなしだったので、本のページを送る事を忘れていた。

まぁ、15分間も同じページを食い入るように見ていればおかしいと気付くだろうが。

「・・・俺達に気を使っているのか?」

「そ、そんなことは・・・。」

否定しようと思ったが、正直なに嘘はつけなかった。

「・・・はい・・・。」

「やっぱりな。」

青年達は溜息をつく。

どうやら、この金髪の青年は最初から気付いていたようだ。

だが、気付いていたならさっさと屋上から出て行って欲しかった。

は内心涙を流しながらも小さく溜息をついた。

なんだか異常に気まずい。はどうしようかと本と睨み合いをしていたが、

それはすぐに中断させられることとなる。

なんと金髪の青年がこちらに歩み寄って来るではないか!!

は目を丸くし、焦って座ったまま後ろへと後退した。

けれど後ろは壁だ。すぐに進めなくなり、けれど青年は近寄って来る。

はぎゅっと目を瞑った。



青年の足音が止まり、けれど何も起こらない。

はゆっくり、そっと目を開けてみた。目の前には、青年の手が差し出されている。

上目使いで青年の顔を見てみると、微かに微笑んでいるように見えた。

無表情なのに、瞳が微かに微笑んでいる。そう感じた。

「・・・3年B組。・・・クラウド・ストライフだ。」

「あ・・・。」

は小さな声を漏らした。握手を求めているのか?

はおずおずとその手を取る。

「・・・2年A組・・・。・・・です・・・。」

クラウドはの手を握り返すと、茶髪の青年を親指で示して言った。

「あいつはスコール・レオンハート。俺と同じクラスだ。」

「・・・クラウド先輩に、スコール先輩・・・?」

「先輩なんて言わなくていい。敬語も使わないでくれ。・・・苦手なんだ、そういうの。」

クラウドは肩を竦めた。


不思議だった。

ずっと怖くて、緊張していたはずなのに、たったこれだけのことで緊張が解けてしまった。

どうやら、自分はクラウドとスコールを誤解していたようだ。

見た目、とても冷たい雰囲気だったから、何の確信もなしに怖がってしまった。

けれど、話してみると全然冷たくなんかない。

スコールの方はまだ良くわからないが、でも少なくとも冷たいとは思わなかった。

大人っぽく、クールに見えても、二人とも普通の高校3年生なのだ。

何故だろう?そんな小さな事が、にはとても嬉しかった。

クラウドとスコールのことを少し理解出来たのが、には嬉しい事だった。

「何の本を読んでいるんだ?」

スコールが尋ねる。は手に持った本の表紙を見て、慌てて答える。

「あ・・・。・・・夢物語の、小説・・・です・・・。」

幼稚っぽい自分が何故だか恥ずかしくて、は顔を赤く染めた。

「敬語ナシ。」

クラウドが言い、は慌てて口に手を当てる。

スコールは黙っての本を見つめていたが、“瞳で”微笑み、言った。

「・・・俺も、そういうの好きだな。」

意外だった。呆れられると思ったのに。

クラウドとスコールは微笑んでいる。“瞳で”。

そうなのだ。二人とも、笑わない。けれど、瞳で笑うのだ。

よく見ないと絶対にわからない、特殊な笑み。

クラウドならもしかしたら笑ったりするのかもしれない。

だが少なくとも二人ともあまり笑わないというのは事実だ。

けれど、二人はいつも笑っている。わかりにくいから、きっと誤解されてしまうんだ。

きっと、他人に気を使われるのが二人とも嫌なのだろう。

だから、が自分達に気を使っていると知って溜息をついた。

も彼らを誤解していたから。

「あの・・・えっと・・・。」

が口篭もると、二人は振り向いた。

「・・・わ、私、方向音痴だから・・・ここに来るまでにもたくさん迷って・・・。

それで・・・・。」

二人は首を傾げながらを見つめている。

「・・・こ、校門の場所も・・・わからなくなってしまって・・・。」

の顔は真っ赤だ。けれど、言いたかった。






「だから・・・あの、い、一緒に、帰ってくれませんかっ!?」







「・・・敬語を使わないって約束するなら、一緒に帰ってやるよ。」







意地悪な笑み。






「う・・・。・・・努力、します・・・。じゃなくて、努力、するから・・・。」











真っ赤な夕焼けが輝く中、クラウドとスコールはを見つめて優しく微笑んでいた。










<続く>



=コメント=
どうです?(笑
とりあえずクラウドとスコール登場できました!
同級生の設定でも良かったんだけど、
それだとあまり面白くない気がしたので、先輩設定で(笑
ちなみに、受験とか関係なしで話進めますんで!!(笑)
もしかしたら、卒業とかもあまり関係ないかもしれない(笑 [PR]動画