白紙には戻せない?





どうして?





消せばいいだけじゃない・・・。





簡単なことじゃない・・・・。







心の鎖







「俺はっ・・・・・!!」

ティーダが身を乗り出した。

はビクリと身を竦ませ、驚いた表情でティーダを見つめている。



白紙ニハ、戻セナイ。

アマリニ、鮮ヤカ過ギル絵ノ具ダッタカラ。



ティーダはハッと我に返ると、から顔を背けて小さく「ごめん」と呟いた。

驚かせてしまったに違いない。

急に身を乗り出して、大声で叫びそうになったのだから。

俺は、白紙には戻せない。

そう叫びそうになった。自分でも、驚いていた。

ティーダはそれとなく立ち上がり、ズボンやブラウスに付いた埃を払い落とした。

そしての顔を見ずに言う。

「・・・授業。出るんだろ?・・・もう始まってる。・・・行こう。」

どうしてもの顔を見ることが出来なかった。

笑顔は、誰よりも得意なはずなのに。

傷付いていない仕草、笑顔のポーカーフェイスは、誰よりも得意なはずなのに。

には、何故かその仮面の裏側を見破られてしまいそうな気がした。

「・・・ほら。・・・行こう。」

ティーダが言うと、は静かに立ち上がった。

そしてティーダと同じように服の埃を払い、先を歩くティーダの後に付いて行った。






白紙に戻せる方法があるのなら、是非とも知りたいものだ。

病室のベッドに横になったまま、クラウドは思った。

外は皮肉だと思えるほど良い天気で、雨の気配はゼロ。太陽が輝いている。

クラウドは、に別れを告げられてからずっと考えていた。

何故、全てを白紙に戻す必要があったのか、と。

白紙に戻す必要などない。今までも、これからも。

なのにどうして、は白紙に戻そうとしたのだろうか。


『・・・今までありがとう。・・・さようなら・・・』


「・・・泣きそうな顔、してた・・・。」

今にも泣きそうな顔に見えた。少なくとも、クラウドには。

辛かったのだろうか?

なら、別れなんて告げなければよかった。

は、クラウド達の意見を全く聞こうとせず、一方的に別れを告げたのだ。

それの理由がわからない。

一方的に別れを告げ、クラウド達と距離を置く必要があったのだろうか。

その必要がクラウド達にはなくても、もしかしたらにはあったのかもしれない。

しかし、もしそうなら何故相談してくれなかったのだろう。

「・・・・・・。」

不意に、脇腹の傷がズキズキと痛んだ。

心と共鳴するように痛む傷を押さえて、クラウドは表情を歪める。

「・・・こんな傷・・・大したことない・・・。」

心に刻まれた傷の方が、よっぽどクラウドにとって痛かった。

に別れを告げられたことが。

納得出来ないまま、自分から離れて行ってしまったことが。

「・・・・・・。」

早く退院したい。予定では、あと5日ほどで退院出来る。

もちろん、しばらくは松葉杖が必要になるが、それでもよかった。

にもう一度会って、ちゃんと話がしたかった。

自分の納得出来る答えを見つけ出したかった。

今のままでは、あまりに残酷過ぎる。

・・・・。」

クラウドは、もう一度呟いた。

大好きな彼女の名を。

自分に幸せをもたらしてくれた、青い鳥の少女の名を。





は廊下を歩いていた。

移動授業の教室に急ぎ足で向かっていたのだ。

校内はもう既に把握出来ているが、やはり少し早めに教室に着いておかないと落ち着かない。

は、いつも移動教室のときは5分前には教室に着いておくようにしていた。


廊下の曲がり角を曲がって、はハッと顔を上げた。

壁に寄り掛かって、こちらをじっと見ている人物がいたからだ。

彼はの姿を確かめるように一瞥すると、壁から背中を離した。

だが、それだけで何も言おうとしない。

は目を伏せ、彼の前をそのまま通り過ぎようとした。

だが、瞬時に彼に手を掴まれる。

「っ・・・!」

咄嗟のことで、は教科書を床に落としてしまった。

バサバサと紙が落ちる音が廊下に響き、そして再び静まり返る。

彼は落ちた教科書を見て、呟いた。

「・・・音楽・・・。・・・次の授業は音楽か。」

は俯いたまま何も言わない。

「なら丁度良い。・・・エアリス先生なら欠課くらいでは何も言わないだろう。

・・・来い。少し付き合ってもらおうか。」

彼はの手を少し引っ張り、の反応を見た。

はしばらく黙っていたが、逃げられないとわかったのだろう。

溜息とともに、小さく呟いた。「わかった」、と。

彼・・・スコールは、の呟きを聞くと小さく息をつき、の教科書を拾い上げた。

そして、掴んだままのの手首を離し、距離を置いてから手招きをした。

階段の上へと。

そこは、スコールやクラウドにとっては運命の場所とも言えるかもしれない。

屋上だった。





屋上に入ると、少し暑い風が肌を撫でた。

初夏。もうすぐ、本格的な暑さがやってくる。

スコールは屋上の柵に腕を組んで寄り掛かると、目を閉じた。

はその前に立ち、スコールの言葉を待っている。

しばらくして、スコールは口を開いた。

「・・・クラウドが、5日後に退院だ。」

ピクリとの肩が揺れたのがわかった。

だが、スコールは気付かぬ振りをして言葉を続ける。

「退院当日、2時限目から登校してくる。恐らくあいつは、登校したらすぐにお前の姿を探すだろう。

・・・何を言われるか、お前にならわかるんじゃないか?」

いつもよりも低いスコールの声。

わからないわけがない。聞かれるに決まっている。

何故、別れを告げたのか、と。それはある意味確信に近い。

「・・・俺はそれを言いたかっただけだ。・・・本当は俺も納得出来ていない。

もちろん、ジタンやティーダだってそうだろうな。・・・ジタンに至っては、

俺やクラウド以上に納得出来ていないかもしれない。」

だからこそ、ジタンはを避けている。

もちろんがジタン達を避けているのだが、ジタンはそれ以上にを避けていた。

「・・・それでももしお前の心が変わらないのなら、俺はもういい。

・・・俺の目が・・・お前を見る目が、変わるだけだ。」

その目は、恐らく軽蔑の瞳。

きっと、もう話し掛けてもこないだろう。

「・・・それだけだ。時間を取らせてすまなかったな。」

スコールは静かにそう告げると、の横を通り過ぎ、屋上を出て行った。

バタン、と屋上の扉が閉まり、その場には静寂が訪れる。

は少しも動かないまま、唇を噛み締めた。

そして、空を仰ぐ。そうしなければ、涙が流れてしまいそうだったから。




「・・・これで・・・いいんだよね・・・。」

『これで本当にいいのか?お前、それで後悔しないのか?』

誰かが自分に語りかけてくる。

低い声。けれど、何故か知っている声。

「しないよ・・・。・・・ううん、本当はしてるのかもしれないね・・・。」

何故か、この声には素直な気持ちが話せた。

するりと自分の口を出てゆく素直な言葉は、自分でも驚くくらいだった。

『憎んじまえよ。あいつら、お前のこと助けるって言ったんだぜ?

けど、こんな重要なとき、あいつらは何もしれくれない。むしろ、お前のことを避けてるじゃねぇか。』

「・・・けど、それが私の選んだ道・・・だから。」

『憎んじまえよ。それで、後は俺に任せろよ。お前は、ただ黙って見てればいいんだ。』

「・・・見てれば・・・?」

『そう。・・・あいつら、後悔させてやるよ。俺に任せろよ。』

声は、に語りかける。

何故か知っている声で、低く、暗いところから。



「任せる・・・?」



『そう、俺に。』



全てを。



「憎む・・・?」



『そう、あいつらを。』



クラウド達を。



「私は・・・?」



『ただ、黙って見ていればいい。』



ただ、黙ったまま。



静かで、暗い場所で。



ただ、黙ったまま。










「それも・・・・・、いいかもしれないね・・・・・。」




















































『・・・だろ?』













































は目を閉じた。

空を仰いだまま。太陽の光を浴びたまま。

そして、一瞬、ほんの少しよろめいた。

転びそうになって、それでも自分の足でしっかりと地面を踏みしめる。

俯き、クスリと笑いを漏らした。

「・・・そう、それでいいんだ・・・・。」

の口から聞こえたのは、低い声だった。

「くっ・・・あはははっ!!そうさ、お前は黙って見ていればいいっ!!」

笑い、大声で叫んだ。

バッと顔を上げ、空を睨みつける。だが、口元はニヤリと歪んでいた。

「俺はお前の味方だぜ。後は俺に任せろよ。約束通り、あいつらを後悔させてやるよ。」

は腹を抱え、本当に面白そうに笑った。

まるで狂ったように。何かが、変わってしまったように。

壊れた笑いを漏らしながら、は顔を上げる。

「俺とお前は、一心同体だからな・・・“”・・・・。」

静かで、暗い場所。

そんな場所から這い出た者。

もう、数年間封印されていた者。






「さぁ・・・ゲームを始めようじゃないか。」






は、口元を卑しく歪めたまま、そう呟いた。












<続く>



=コメント=
豹変、の、章(爆
まぁ、一種の二重人格だと思っていただければいいかな、なんて(おい
てか今回超短ッ(汗)
次回は長くなります。ってか長くならなきゃ進まないだろうなぁ(汗
次回、クラウド達がやっとこさ立ち上がります。
の運命やいかにっ!?(笑 [PR]動画