夏休み前のテスト。







結果はどうだったのかな?









心の鎖










その日、廊下はざわざわと生徒達の声で溢れ返っていた。

ある者はガッツポーツを見せ、ある者はがっくりと項垂れ、

またある者は頭を抱えて雄叫びを上げたりしている。

「・・・・・・。」

はまだその反応を見せていない。

目の前の長い紙の中から、必死になって自分の名前を探す。

下からだんだんと視線を上げ、首の角度が上を向いてしばらくして、は自分の名前を見つけた。




12 




「ぃよっしゃっ!良い成績!!」

どうやらの反応はガッツポーズだったようだ。








今日はテストの結果の発表日。

この一ヶ月、缶詰のようになって勉強して、そして挑んだテスト。

その努力は実り、の成績は12位と上位に入った。

次は10位以内を目指そう、と新たな目標を決め、は笑顔で振り返る。

そして、と同じ笑顔で肩を組んで踊っている(?)ジタンとティーダの姿を見つけた。

「ジタン!ティーダ!その様子だと成績良かったみたいだね!」

駆け寄ると、二人はキョトンとした顔をして大爆笑した。

訳がわからないは戸惑っている。

「え?違うの?」

「違う違う!!俺達名誉の補習コンビッスよ♪」

「見てくれよ!俺英語34点〜♪」

二人はなんとも酷い点数の答案用紙をに見せた。

はその答案用紙を凝視して、驚いて声を上げた。

「ティーダ、仲良く補習受けようぜ。」

「そッスね。帰りにどっか寄って腹ごしらえもして行こうぜ。」

二人の仲が良い理由が、なんとなくわかった気がした。

は呆れて溜息をつき、ジタンとティーダを見つめる。

「いいの?内申に響くよ?」

「大丈夫ッスよ。それより3年の結果も見に行こうぜ!」

ジタンとティーダはの手を掴み、3年のテスト結果の紙が貼られている掲示板の前に移動した。

やっぱりそこも生徒で溢れ返っていて、反応は自分達と大して変わらない。

その生徒達の中にクラウドとスコールの姿を見つけ、は手を振った。

「クラウド、スコール。」

呼ぶと二人はすぐに気付き、少し微笑んで手を振り返してきた。

「お前ら成績どうだったんだよ。俺達は仲良く補習だけど。」

「別に・・・いつも通り。」

「俺も前回から大して変わってないな。」

は目の前の長い紙を見つめる。クラウドとスコールの名前を探したが、見つけて驚いた。

いや、クラウドの成績は「すごく良い」程度で、そりゃ驚きはしたけれど、問題はスコールだった。

「・・・・エ?」

見間違いかと目をこする。だが、スコールの名前は間違いなくそこにあって。

「・・・・スコールっ!学年首席!?!?」

そう、スコールの名前は間違いなく一番上にあったのだ。

これにはさすがにも驚いた。

しかし、ジタン達の話を聞いているとスコールは首席が普通らしい。

ちなみにクラウドはそのすぐ下の2位をキープしている。

「ね、もしかしてクラウドも首席取ったりするの?」

「ああ。大体スコールと同じ成績だからな。前回は俺が首席だった。」

気取ったりせずにクラウドは言う。

この二人には、「首席が普通」なのだろうか・・・。

は、もう一度紙を見直し、10位に自分の知っている名前を見つけた。

「あ・・・シャルさん、10位なんだ・・・。」

ぼそりと呟いた瞬間、頭に重さが圧し掛かった。

大きな手。クラウドかスコールだと思い振り向いたが、そのどちらでもない人物だった。

「よう、また会ったな、お嬢さん。」

「シャルさんっ。」

人の良い笑みを浮かべて立っていたのは、この前自分を助けてくれたシャル・イオザムその人だった。

しかも着ているのは男子の制服である。仮にも女だというのに、男子の制服をシャルは着て立っていた。

だがその男子の制服が眩しいほどによく似合っていて、同姓なのには顔を赤く染めた。

「あんたのその青い髪は目立つからな。すぐわかったぜ。何、俺の順位見てたの?」

「あっ、いえそんなつもりはっ・・・ただ見てたらシャルさんの名前を見つけて・・・。」

「嘘だって。そんな弁解すんなよ。俺も今2年の順位見てきたとこだし。」

「え゛」

2年の順位を見てきたということは自分の順位もバッチシ見られたということで。

ちゃん12位だったなーv 良い成績じゃん?」

「え、あ、まぁ・・・。」

褒められた。ちょっと嬉しい気持ちになる。

と、すっかり忘れられていたジタン達がこちらに寄ってくるのが見えた。

クラウドとスコールは驚いた顔をしているし、ジタンとティーダは首を傾げている。

・・・お前、シャルと知り合いだったのか?」

クラウドが尋ねる。はコクンと頷き、シャルを見上げた。

「ある出来事があってね。それで知り合ったの。クラウドとスコールもシャルさんとお知り合い?」

「ああ・・・俺の幼馴染・・・。腐れ縁でな。」

「ぅおい待てやスコール!!腐れ縁ってなんだコラ。」

スコールが呆れたように呟き、シャルがそれに食って掛かった。

その様子を苦笑しながらクラウドは見つめ、に向き直った。

「俺はその都合でいつの間にか知り合いになってた。スコールと俺も幼馴染だしな。

ま、スコールの幼馴染同士って感じかな。」

「へぇー。」

素直にすごい繋がりだと思った。

元々クラウドとシャルは顔見知りではなかったらしい。

スコールがいたから、知り合いになったということである。

シャルはふとジタンの方を向くと、ペコリと頭を下げた。

「いつも妹がお世話になってます。生意気な妹だけど、よろしくな。」

「へっ??」

急に話を振られてジタンは戸惑う。

「妹。エーコって知ってるだろ?」

「え?あ、ああ。・・・・えぇっ!?もしかしてエーコの話によく出て来るかっこいいお姉ちゃんって・・・!」

「あ、それ俺のことだわ。」

「あんた女だったのかっ!?」

驚くジタン。隣では、ティーダも呆気に取られている。

クラウドもスコールもも、三人そろって苦笑を浮かべた。

やはり、シャルを一目で女だとわかる者はいないらしい。

いたとしたら、それはかなりの超人だろう。

「お姉ちゃんっ!!」

子供の声がしてシャルは振り返った。

ランドセルを背負ってパタパタと駆けてくる少女の姿を見つけて、シャルは微笑んだ。

「よ、エーコ。授業終わったのか?」

「うん、終わった。お姉ちゃんもテスト結果見るだけだったんでしょ?ね、帰ろ。」

「よし、んじゃ帰りにソフトクリーム食べて帰るか。」

「食べて帰るー!!」

仲の良い姉妹だ。

シャルはその後スコールと一言二言会話すると、エーコを肩車して仲良く下校して行った。

その姿を見送った後、ジタンが言った。

「んじゃ俺達も帰るか!」

クラウドもスコールもティーダもも、その声に頷き、今日は5人で寄り道をしようという話になった。








は目の前に運ばれてきたチョコパフェに目を輝かせた。

クラウドとスコールはパフェを見て唖然としているし、ジタンは眉をしかめている。

だがティーダは満更でもなさそうだ。

「うへぇ・・・、よくそんな甘いもん食べれるな・・・。」

ジタンに言われ、はきょとんとして答える。

「なんで?疲れてるときに甘いものっていいんだよ。テストで疲れた体には一番でしょ。」

そう、の言っていることは正しい。

体の疲れには糖分が活躍する。頭の回転が悪いときにも、糖分は良いのだ。

だがしかし。

「・・・太るぞ。」

「ジタン何か言った?」

のブラックスマイルでこう言われてしまえば、ジタンも黙るしかあるまい。

ティーダはしばらくがパフェを食べる様子を見ていたが、やがて口を開いた。

「あー・・・美味そうッスね。一口頂戴。」

「ん?いいよ。」

はスプーンでパフェをすくうと、ティーダの前に差し出した。

クラウド達があっ、と思った時には遅かった。

ティーダはパクリと食べてしまったのだ。・・・の食べかけパフェを。

しかもが口をつけたスプーンで。

「「「ああああぁあぁっ!!」」」

クラウド、スコール、ジタンの三人は声を上げた。

はきょとんとしながらスプーンを引っ込めている。

ティーダはというと・・・。


「・・・・(ニヤ)」


「ちくしょうテメェっ!!ちゃっかりしてやがるなホントッ!!」

「あれー?だってジタン、パフェ系駄目なんスよね?」

ティーダは全く悪びれた様子を見せない。クラウドとスコールは背中に紅蓮の炎を背負っている。

は何が起こっているかわからず。

「何?ジタンも欲しかった?あげようか?」

スプーンを口に運び、が言った。

「え?♪くれるの?もらおうっかなー♪」

が尋ねると怒りのオーラを仕舞い、ジタンはニコニコ笑顔で言った。

ティーダと同じくにスプーンで食べさせてもらうと、満足そうな笑みをクラウドとスコールに向けるジタン。

紅蓮の炎が更に燃え上がった瞬間だった。

「え?え? ね、ねぇ・・・どうしたの?クラウドもスコールも・・・そんな怖い顔して・・・。」

ゴゴゴゴゴ。

そんな効果音がぴったりのこの状況。

満足したのは、ジタンとティーダだけであった。







「あー、疲れたなー・・・。」

「なんか無駄に疲れたってカンジッスね・・・。」

喫茶店を出て、ふらふらと歩きながらジタンとティーダが言った。

「なんで?」

「「なんでってそりゃぁ・・・・。」」

ジタンとティーダはチラリと後ろから歩いてくるクラウドとスコールを見た。

先ほどから炎の勢いは衰えたとはいえ、未だに紅蓮の炎は消えていない。

そう、あの後、ジタンとティーダはクラウドとスコールに睨まれっ放しだったのだ。

しかもに少しでも構うと炎の勢いは増し、睨みの鋭さも強烈になる。

そのため、ジタンとティーダはろくにと会話が出来なかったのだ。

はそんなこと気にせず、黙々とパフェを食べていたが。

「・・・ま、あんまり気にしないことにするか。」

「そうッスね。どっちにしろ今日は俺達の勝利だし。」

嫌味であろうか。

はきょとんとしたまま、首を傾げた。





5人は住宅地に入った。途中までは5人とも同じ方向なのだ。

5人は他愛のない会話をしながら住宅地を進んでゆく。

だが、ある時ジタンの目が鋭くなった。

ハッと顔を上げ、住宅地の道の先を見つめている。そこには、10人ほどの人影があった。

10人ほど、というのは、こちらからだと逆光のため人数がよくわからないのだ。

10人以下かもしれないし、あるいはそれ以上かもしれない。

「・・・ジタン?」

がおずおずと尋ねると、ジタンはの腕を掴んで立ち止まった。

クラウドとスコール、ティーダは一瞬不思議そうな顔をしたが、人影が隠れていることに気付き目を細める。

も視線を動かし、そして固まった。

この前、シャルが追い払ってくれたばかりだというのに。

いや、あれだけで彼らが諦めるとは思っていなかった。けれどこんなに早く来るとは。

“あいつら”だった。しかも、今日は人数が増えている。

彼らの手にはナイフが握られていて、それは鈍く光っている。

は半歩後ずさった。

「・・・誰だ?」

クラウドは小声でジタンに聞く。ジタンは彼らから視線を外さずに答えた。

「・・・数日前からに付け纏ってるヤツら。力は大したことないよ。一発殴っただけで吹っ飛んだから。」

は自分の服の裾をきつく握り締めている。

その手はかすかに震えており、怯えていることが明らかだった。

「おう、。今日はボディーガードを連れてんのか?」

彼らの一人が言った。手に持ったナイフをちらつかせ、の恐怖を煽っているかのようだ。

けれど、は震える声で言った。

「・・・ボディーガードじゃ、ない。・・・・友達・・・だもん。」

クラウド、スコール、ジタン、ティーダ。

彼らはボディーガードなどではない。大切な、友達なのだ。

確かによく自分のことを守ってくれる頼りになる彼らではあるけれど。

間違っても、ボディーガードなどではない。

「はっ。友達ぃ?馬鹿なこと言ってんじゃねーよ。悪いがもう手加減なんてしねぇぞ。

今までよくも俺達をコケにしてくれたな。ぶっ殺してやる。」

その一言に、クラウドの目が更に細められた。

「ぶっ殺す?さて、やれるもんならやってみればどうだ。悪いがあんたらじゃ俺達の相手にはならないぞ。」

「は?何言っちゃってんの。ヒーロー気取りも大概にしろよ。こっちは12人。しかも全員ナイフ持ってんだぜ。」

全員がナイフを持っている。12人全員が。

「・・・だからと言って、素手がナイフに劣るとは限らないだろう。」

スコールは一歩前に出て言った。

「そうそう。この間俺が一発殴ってやっただけで情けなくぶっ倒れたくせしてよく言うぜ。」

ジタンが腰に手を当て溜息混じりに言った。恐らく相手を挑発させるためだろう。

「こっちは4人でそっちは12人。しかもそっちはナイフ付き。そういうのってなんて言うか知ってるッスか?」

ティーダが背中にを庇いながら言った。

そして、次の瞬間ティーダの目が鋭く彼らを見据える。






「そういうの、ただの卑怯って言うんだよ。」






彼らが飛び掛ってくる。相手との距離はざっと15メートルほど。

彼らと同時に、クラウドとスコール、ジタンは飛び出した。

「ティーダ、お前はの傍にいろ。」

クラウドの声にティーダは頷いた。



クラウドは振り被って来た一人の攻撃をかわし、鳩尾に一発膝蹴りをかます。

苦しそうな呻き声が聞こえたのを確認し、今度は背中に拳を振り下ろした。

「一人。」




「うぉぉぉっ!!」

ナイフを振り回しながら走ってくる一人をスコールは一瞥し、攻撃を避けつつ屈み込み、足払いをかけた。

前につんのめる相手を回し蹴りで更に弾き飛ばす。

そのついでに、首の後ろにも軽く手刀で攻撃を入れておく。

「・・・二人。」




「ちくしょう!ちょこまかしやがって!!」

「遅いっつーんだよ。」

逆立ちや宙返りをしながら一人の攻撃を避け、ジタンは余裕のセリフを吐いた。

ジャンプで彼との距離をとり、彼が襲い掛かってきた瞬間にしゃがみ込む。

そして、下からアッパーをかました。

「三人目一丁上がり!」





3人やられたところで、残りの9名は初めて分が悪いことに気が付く。

真っ直ぐに立つ3人の姿を見て、9人は後ずさった。

「どう?まだやるつもり?」

ジタンが得意げに言う。

「悪いけどさ、俺達何かしら格闘技の段持ってるから。」

ビクリと彼らが竦み上がったのがわかった。

「ちくしょうっ!こうなったら、3人ずつでかかれ!!」

リーダー格の男子が叫ぶ。クラウド達は身構えた。

3人ずつで来られては、勝てないこともないが微妙に苦しい。

クラウドの舌打ちが、聞こえたような気がした。




「ティーダっ・・・このままじゃ・・・!!」

「大丈夫ッスよ。あいつらはこんなことで負けない。俺が言うのもなんだけど、あいつらは強いよ。」

もちろん俺もな。

そう言い、ティーダは少し微笑んだ。

だが、には嫌な予感がしたのだ。

ねっとりとした嫌な予感。目の前の光景が、何故かスローモーションに見える。

クラウド達はよく戦っている。1対3でも充分に通用しているのだ。

けれど、嫌な予感は晴れない。

むしろ嫌な予感は時間がたつに連れて増幅している。

一体どうして?

この嫌な予感は一体なんなのか。には、どうしてもわからなかった。

気味が悪い。

は胸に手を当て、願った。

何も起こらないで欲しい。

そう願った。








はハッと顔を上げた。

先ほどクラウドが倒したはずの一人が、かすかな呻き声を上げながら体を起こしている。

その手に、ナイフは握られたままだ。

彼の視線は戦っているクラウドに注がれている。

クラウドは彼が体を起こしたことに気付かない。

彼に背中を向けたまま、必死で交戦している。








いけない。







彼のナイフが、閃いた。









「クラウドっ!!!」

の叫び声が、その場に響き渡った。

スローモーション。

ゆっくりと振り向くクラウド。

ものすごい形相でナイフを振り上げる男子。

そして。





























紅い、花弁が舞ったのだと。


































そう思った。


























――――――――っ・・・・・!!!」

クラウドの口から声にならない悲鳴が上がった。

吐息だけの悲鳴。それが、どれほどの苦痛を訴えているか、にはわかった。

クラウドの脇腹に刺さったナイフ。息を荒げている男子生徒。

信じられないとばかりに目を見張るスコールとジタン、そしてティーダ。

赤く染まるクラウドの白いブラウス。

クラウドの口から吐き出された紅い液体。

信じられなかった。

信じたくなかった。

壊れた人形のように倒れてゆくクラウド。







これは夢?



それとも現実?









「クラウド
―――――――――――ッ!!!」











<続く>




=コメント=
・・・ごめんなさい、何も言うことはありません(爆
とにかくグロ系になったことをお詫び申し上げます。
次回は久々にシーモアが登場します。
そして、クラウドとのすれ違い・・・でしょうか。
次章からちょっとシリアス系の話が連続で続きます。 [PR]動画