なんか甘えちゃう。






このままじゃ駄目ってわかってるのに。









心の鎖










「あーー!!また負けたぁ!!」

何やら騒がしいッスね。それにしてもこの声聞き覚えがある気がするなぁ・・・。




土曜日。

ジタンの家へとやって来たティーダは心の中でそう思ったという。

やけに騒がしいジタンの家。そして、聞き覚えのある声。

和風造りの家からぎゃあぎゃあと騒ぐ声が聞こえてくるのはなんとも不自然なもので。

「・・・休日に何やってるッスか・・・ジタン・・・。」

ティーダはそう呟くのだった。



チャイムを鳴らしてみる。

「ジタン!約束のもの持って来たッスよ!!」

・・・返事がない。

(ここで「ただのしかばねのようだ」と突っ込みたくなるのは明希妃だけだろうか(爆))

「ジーターンー!!」

地団駄を踏みそうな勢いで叫んでみたが、ジタンが出て来る気配はない。

これ以上叫ぶと近所迷惑になってしまうかもしれない。

ティーダはそう思い、不法侵入とはわかりつつもジタンの家へと踏み込んだ。

家の中に入ると、外にいるよりも騒ぎ声が大きく聞こえる。

玄関へ上がり、そこでジタンの祖父と鉢合わせした。

「あ、どうもッス。」

「ティーダか。ジタンに用か?」

「一応そんなトコですけど・・・。」

「ジタンの奴が女を連れ込みおってな。全く・・・ブラブラするのもいい加減に・・・、と思ったんだがな。」

「・・・はい?」

ジタンの祖父はチャラチャラした女を嫌う。

だがジタンはそんな祖父に反抗していたのか、そういう女を少し前まで連れ込んでいたのだ。

自称プレイボーイである。

だが、どうやら今の祖父の言葉からしてジタンを叱り付けたわけではないらしい。

「・・・今までの女とタイプが違ってな。死んだ婆さんを思い出すようだ・・・。」

浸っている。

そしてこんなジタンの祖父にティーダが返した言葉は。

「・・・はぁ。」

「昨日から泊まっているんだが、何かとワシに気を使ってくれてな・・・。」




『お邪魔しちゃって申し訳ありません・・・。』

『私に出来ることならなんでもします!家事くらいなら出来ますので、何でも言ってください!』

『お疲れのようですね・・・肩でもお揉みしましょうか?』

『お夕飯くらいは作らせてください。何が食べたいですか?』




「・・・・。」

ティーダは沈黙した。

ジタンの知り合いで、家事が得意で、優しく良く気が利く、女。

間違いない。一人しかいない。

この騒ぎ声とも一致する。

ティーダはジタンの祖父の隣をすり抜け、騒ぎ声がする部屋の襖をガラッと開けた。


「何してるんスか!――――!!!」


急に襖が開いたことに驚いたのか騒ぎ声はピタリと止み、ティーダの視線の先には

自分を見上げるジタンとの姿があった。

二人の手にはトランプ。ジタンがの手から取り掛けているトランプはスペードの5で、

の手元に残る一枚はジョーカーである。

「ティーダ・・・テメ、誰の許可もらってウチに入り込んだんだよ・・・。」

ジタンが呆れた溜息をもらしながら言う。

「チャイム鳴らしたっつの。それに気付かないお前が悪いんだろー?」

「気付くか普通!」

今度は別の騒ぎ声が流れ出した。

は戸惑って自分の手元のカードを見る。

「・・・ジョーカー・・・。また負けかぁ・・・。」

これで0勝10敗。ジタンが何かイカサマをしているんじゃないかと疑いたくなる数だった。









「寮の門限が過ぎちまったから一日俺んとこに泊まった。それだけ。」

ジタンが言う。ティーダは疑っているような目でジタンを見ていたが、やがて諦めたように溜息をついた。

ジタンは、が何も言わなくても“あいつら”のことは口に出さなかった。

は「ありがとう」の意味を込めてジタンを笑顔で見つめると、ジタンはウィンクを返した。

「事情はわかったッス。けどなんでトランプなんてしてたんだ?」

「「暇つぶし」」

ジタンとの声が重なる。

ティーダはその答えを聞いて、目に見えて脱力したようだった。

は苦笑を浮かべている。

「でも、そろそろ帰ろうかなって思ってたの。もう2時だし、また門限が来ちゃったら困るもんね。」

「なんだよー、もう帰っちゃうの?もう一泊くらいしてきゃいいのに。」

ジタンが口を尖らせて言うと、は苦笑を浮かべたまま答える。

「ちょっと明日は用事があって・・・。今日は寮に帰りたいんだ。ティファも心配してると思うし。」

がそう言うと、ジタンは口を尖らせたまま、渋々頷いた。

本当はもう一泊して行きたいところなんだけどね。

は心の中でそう思い、苦笑した。

「で、お前は俺んちに何しに来たんだよ?」

「あのな・・・お前が英語の宿題のノート見せろって言ったから持ってきてやったんだろ!?」

「あ、そうなの?ワリィワリィ。」

特に悪びれた様子も見せずにジタンは笑う。そして、ティーダからノートを受け取った。

はそれを見て、静かに立ち上がる。鞄を持ち、ジタンに言った。

「それじゃ、ジタン本当にいろいろとありがとね。また来てもいい?」

「もちろん!また来いよ。じっちゃんも喜ぶだろうし。」

は笑顔で「また来るね」と言った。

「そんじゃ一緒に帰ろうぜ。途中まで道同じだろ?」

ティーダが言った。は頷き、ジタンに見送られながらティーダとともに部屋を出る。

そして、玄関で出会った。

誰と?

ジタンの祖父と(何

「・・・帰るのか。」

「あ、はい。お世話になりました。」

ペコリと会釈をして言うを見下ろし、ジタンの祖父はすぐに顔を背けた。

そして、かすかに聞き取れる声で呟く。

「・・・また来なさい。」

それだけを言うと、ジタンの祖父はいそいそと家の奥へ行ってしまった。

ジタンは呆気に取られて自分の祖父の後姿を見つめている。

ぽかんと口を開けたその顔は、可愛くも間抜けであった。

「・・・明日は矢が降るぜ。」

「え?」

ジタンの呟きに、が問い返す。

「・・・あの女嫌いのじっちゃんが、とはいえ女に向かって「また来なさい」だなんて・・・。」

ジタンは口を開けたまま呆然と立ち尽くしていた。

ティーダは呆れての手を取り、そのまま家を出て行った。








。さっきジタンが言ってた「寮の門限が過ぎたから一日泊まった」って・・・あれ、半分嘘だろ。」

「えっ!?」

帰り道、ティーダが言い出したことには驚いた。

突然のことに立ち止まり、ティーダを見つめた。

ティーダは苦笑してを振り返る。

「なんで・・・。」

「ま、なんとなく。ジタンとは長い付き合いッスからね。嘘くらいは見破れるよ。」

侮り難し。まさか見抜かれていたとは。

が俯くと、ティーダは少し慌てたように言った。

「べ、別に何があったか聞き出そうってわけじゃないッスよ!?ただ嘘だろうなって思っただけで・・・。

あと、の目が少し赤いから、昨日泣いてたのかなって・・・。

・・・話したくないだろ?別にいいよ、話さなくて。」

嘘かホントか知りたかっただけ、と。

彼は、太陽みたいな笑顔で言った。





途中の路地でティーダと別れ、はそのまま寮へと向かおうとした。

だが、ふと視線を上げて立ち止まる。

背筋が凍る思いだった。

「おい。テメ・・・昨日はよくもやってくれたな。」

「ナメられちゃ困るんだよ。ふざけんじゃねぇよ、クソ女。」

“あいつら”だった。

は手を握り締めて一歩後ずさる。だがそれに合わせて彼らも一歩前へ出た。

今はジタンもティーダもいない。自分でなんとかするしかない。

しかし。この場を切り抜けられる自信はない。可能性も低いだろう。

「処女喪失じゃ生温いんでね、今日はテメェを殺しに来たんだよ。」

一人がナイフを取り出す。肝が冷えた。

殺される・・・?

本気でそう思った。

鈍く光るナイフ。尋常ではない彼らの目。

しかし、もう少し行けば人通りの多い場所に出る。そこまで行ければ、あるいは。

は意を決して、元来た道を駆け出した。

後ろから追い駆けてくる足音。けれど、ここで負けるつもりなんてない。

路地を曲がり、そのままひたすら駆ける。

そして何かとぶつかった。

「おっと。」

昨日のように転ぶことはなかったが、相手には相当の衝撃が行ったはずだ。

相手はぶつかったを抱き止めてくれた。迷惑だったに違いない。

は慌てて顔を上げて相手を確かめた。

「おいおい、あんまり走ると危ないぜ?」

知らない相手だった。

茶色い髪。銀色の瞳。見たところ男性のようだ。身長も高く、が見上げる形となる。

「待ちやがれこのアマぁ!!」

彼らの声がして、は竦み上がった。

振り返れない。けれどこのままじゃこの人にまで害が加わってしまう。

今すぐこの場を離れなければ。

だが、不意に彼らの足音が止まる。

「げっ・・・・。」

詰まった声。そして、彼らの視線の先には今自分がぶつかった相手。

後ずさる彼ら。きょとんとしている青年。

「・・・お前ら、こんなとこで何してんの?俺の前に現れるなんて、また殴って欲しいの?」

「にッ・・・!!逃げろっ!!!!」

青年が一言しゃべると、彼らは一目散に逃げ出して行った。

状況が把握出来ずにが呆然としていると、青年は呟いた。

「・・・なんなの、あいつら。お前、もしかしてあいつらに追い駆けられてた?」

「はっ・・・はい。『殺す』って言われて・・・。」

「何、あいつらマゾじゃなくてサドだったわけ?よく殴られたそうな顔しながら俺の前に現れるから

いつも殴ってやってたし・・・間違いなくマゾだと思ってたけど。」

間抜けなセリフにはずっこけるところだった。

「ま、あんたには関係ないしね。怪我ない?」

「は、はい・・・。危ないところ、ありがとうございました。」

「いいっていいって。またあいつらと会うことになりそう?」

「多分・・・。」

これくらいで諦める奴らだとは思えない。恐らくまた襲ってくるだろう。

青年は笑顔で言った。

「んじゃもしまたあいつらに追い駆けられそうになったらさ、こう言ってやれ。

『シャルがテメェらをぶっ飛ばしに行くぞ!』ってな。」

笑顔で言われ、はやっと笑みを浮かべた。

「あんたその制服、幻想学院だろ?俺も幻想学院なんだ。高3。シャル・イオザムってんだ。」

青年の名前はシャルというらしい。どうやら、悪い人ではなさそうだ。

手を差し出してきたので、はその手を取り、笑顔で言った。

「・・・です。高2です。」

「へぇ。ちゃん、な。きっと学校でまた会うだろうよ。これからよろしくな。」

とても整った顔で笑顔を向けられると、どういう反応をしていいのか困る。

は少し顔を赤らめ、小さく頷いた。

「お姉ちゃーんっ!!」

シャルの後ろから声がした。見ると、こちらに駆けてくる小さな影がある。

大きなリボンをしていて、今にも転びそうな勢いで駆けてくる小さな少女。

「よう、遅いぞ、エーコ。」

少女はシャルに跳び付き、頬を膨らませた。

エーコだった。外見は可愛いのに生意気で、おませな少女、エーコだったのだ。

は驚いてエーコを凝視している。

シャルはエーコを抱き上げると、「それじゃまたな」と言い、その場から去っていった。

その後姿を見つめ、はしばし呆然と立ち竦んでいた。

「・・・お姉ちゃん、って言った・・・?・・・あの人・・・女だったの・・・?」

そして、姉妹。エーコとシャルが、姉妹。

「・・・・・・・帰ろう。」

呆然としていて、にはそれしか言えなかった。










<続く>




=コメント=
あは、出しちゃった(笑)
シャル(爆笑)
なんとなく出したいなーと思ってたんだけど、やっぱり出しちゃった(笑
ドキッ、7と8のヒロイン対面!!(何
にしても運良いよね、(笑)
次の話は夏休み前のテストの話かなぁー。
“あいつら”とクラウドの対決とかも書いてみたいね。 [PR]動画