思いもしないハプニング。





私は強い自分に生まれ変わったはずなのに。





私、また独りになってる・・・。





弱い自分に、戻ろうとしてる・・・・。






心の鎖








「それじゃ、またね。」

「バイバイ、。」

「うん、また明日。」

ユウナとガーネットが笑顔で言い、もそれに笑顔で応えた。




今日も一日が終わった。

夕暮れ時の教室には、まだ少数の生徒が残っている。

もその中の一人だった。

鞄に教科書とノートを入れ、プリントを教科書の間に挟む。

そして、一度息をついて窓の外を眺めた。

いつもならばジタンとティーダの二人組みと一緒に帰るのだが、

今日は二人とも遊びに行くとかで先に帰ってしまった。

徒歩5分の寮まで帰るのに、わざわざクラウドとスコールを誘う気にもならない。

それに今日は、近くのスーパーマーケットにいろいろと買出しに行きたかったのだ。

お塩が切れてたな。砂糖の残りも少ないし、少し買い溜めしておこう。

そんなことを考えながら、は鞄を片手に教室を出た。

ぼんやりとしながら、昇降口まで行き、のろのろと靴を履き替える。

学校の校門を出て、は近くのスーパーへ歩き出した。

スーパーまで10分ほどだ。

同じ方向へ歩く女子生徒達も周りにはたくさんいたが、その女子生徒達の行き先はスーパーなどではない。

スーパーよりも先にある、今流行りのアクセショップ。

は行った事がない。というより、行く暇もないしお金もない。

「・・・年頃の女子高生が、スーパーで買い物なんて・・・ハァ。」

小さく溜息をつき、は俯いた。

クラスでも近くの席の女子生徒達が「キャーっ!このアクセ可愛い〜!」と騒いでる隣で、

は「キャーっ!卵が安ーいっ!」と騒いでいるのだから泣きたくもなる。

「・・・本当に私、女子高生?」

自分に問いかけ、もう一度溜息をついてやめた。

なんだか考えるだけ虚しくなってくる。

とにかく今は、今日安売りのトマトは絶対に手に入れなくちゃ、ということだけ考えよう。






無事に安売りだったトマトと、塩と砂糖を買い終わり、はやっと帰路に着くことが出来た。

商店街は主婦ばかりである。そんな主婦達の人込みの中に、ビニール袋を持った女子高生が一人。

なんとも不思議な構図である。

だがどうやら、神様は平和なままでは終わらせてくれないらしい。



商店街を出て、人通りの少ない狭い通りに出たとき、事は起こった。

「・・・?おいっ。お前ちょっと待てよっ!」

声がして、はあからさまにビクッと身を竦ませた。

これがもし聞いたこともないヤツの声ならば、こんなに驚いて身を竦ませることもなかっただろう。

もしかしたら、足を止めることさえしていなかったかもしれない。

だが、今のには立ち止まるしかなかった。

ズラリと男子不良学生4人に囲まれる。

無意識のうちに、ビニール袋を持つ手は震えていた。

「やっぱりだ。お前、泣き虫でゴミ以下のじゃねぇか。」

見知った顔触れ。だが、残念ながら感動の再会ではない。

「うわー、久し振り〜。元気だったぁ?チャン。」

「あれ?何怯えてんの。お前、もしかしてまだ泣き虫のままなわけ?」

ニヤニヤと嫌な笑いを浮かべている不良学生達。

は目を見開いたまま、激しい手の震えを抑えるのに必死だった。

どうして。何故。

頭の中を、その二つの単語が交差した。

何故今?過去のことは忘れて、やっと新しい自分を見つけて。

そうして、歩き出したばかりなのに。

「どう・・・して・・・。ここにっ・・・」

がやっとのことで口を開くと、不良学生達は下品な声で笑った。

だが、の疑問も当たり前だった。

は父の転勤で、引っ越して来たのだ。

当たり前のように、もう顔を合わせることもないと思っていた。

「俺達、遊ぶために遠出してきたの。悪い?」

「“ノロマ”。・・・俺達、確かお前のことそういう風に呼んでたよな?」

「あれ、それとも“クソ女”だっけ。」

冷や汗が背中を伝った。

忘れるわけがない。“自分を苛め苦しめた、張本人達”のことを忘れるはずもない。

小学校、中学校、ともにずっと苛められ続けた過去。

それはあまりに深い傷で、今も尚その傷跡は残ったままだ。

「なー?クソ女。ちょっと俺達と遊ぼうぜぇー?」

「っ・・・!呼ばないでっ!!」

舐めるような視線で歩み寄ってくる一人を突き飛ばし、は身構えた。

だが、その反応でさえも相手は楽しんでいる。

「あれー?コイツ、前はもっと気が弱かったんじゃなかったっけ?」

「いいじゃん。こうでなくちゃ、楽しくないだろ?」

「“呼ばないで”だってー。何傷ついちゃってんの? ん?」

完璧に遊ばれている。逃げようと振り向いたが、既に逃げ道は塞がれていた。

「いっそのこと、抱いちゃおうぜ。ここで。」

背筋が凍る。明らかに中学時代の頃の苛めとは違う。

は一気に蒼白になった。

逃げなくちゃ。

ただその一言が頭を支配する。

ここで応戦しても、相手は男子4人だ。絶対に敵うわけがない。

下手に手を出せば、どんな仕打ちを受けるかわからない。

逃げなくては。早くここから離れなければ。

「クソ女でも女だしな。使い物にはなるだろ。」

嫌だ。

こんなヤツらに抱かれるなんて、虫唾が走る。

逃げたい。

逃げたいのに、足が動かない。

地面に根っこが生えたみたいに、少しも動こうとはしない。

「んじゃ、まず手始めに俺から行きますか。」

一人が近付いてきて、を突き飛ばした。

踏ん張ろうともしたが、足に上手く力が入らずにはその場に倒れ込んだ。

「襲っちまえ!」

このままじゃヤられる。

は即座にビニール袋を投げ付けた。

ビニール袋にはトマトと塩、砂糖が入っている。それなりの重さはあるはずだ。当たると痛いに決まっている。

袋は近寄ってきた男子の顔面にヒットし、男子の動きを止めた。

はそのまま立ち上がって駆け出す。

「畜生っ!!クソ女のくせにっ!!」

「行くぜっ!このまま逃がしてたまるか!!」

後ろから声と足音が近付いてくる。

必死に地を蹴っているのに、男子達との差は縮まってゆくばかりである。

過去のことがフラッシュバックする。

こうやって、中学の頃も追い駆けられた。

必死に逃げても、すぐに追い付かれて捕まって、いろんな物で殴られてボコボコにされたっけ。

けれど今度はそれだけでは済まない。

ボコボコにされる方が、まだマシだ。

は走り続けた。捕まりたくないという一心で、ひたすらに。

走りながら、は泣いた。恐怖と、哀しさに囚われて。



と、すごい衝撃が顔を襲って、はその場に倒れる。

十字路で、たまたま通り掛かった人と衝突してしまったのだ。

「いてっ・・・ててて・・・」

ぶつかった相手を押し倒す形になって、の足は動きを止めた。

「クソ女っ!逃げるんじゃねぇっ!!」

後ろから男子達は迫っている。もう涙は止まらなかった。

「・・・?」

自分の下から名前を呼ばれ、はハッとして視線を移す。

そして、顔を歪めた。

「おまっ・・・どうしたんだよ!?何泣いてんだよ!」

たまたま通り掛った通行人。それは、神様がくれた救急だったのかもしれない。

「っ・・・ジタンっ・・・!!」

はジタンの胸にすがりつき、声を上げて泣いた。

そこにいた通行人は、なんとジタンだったのだ。

尋常ではない彼女の様子を見て、ジタンの表情も凍りつく。

「コラコラ、クソ女。逃げた挙句、他人様に迷惑かけるとはどういうことだ?あぁ?」

追い付いた男子達など目もくれずに、はジタンの胸にすがりついたまま泣き続けた。

ジタンは上半身を起こし、自分に寄りかかるの頭を左腕で抱いた。

そして、男子達を睨み付ける。

「・・・お前ら、何のつもりだよ?」

「は?いやいや、他人様には全く関係ないんで。そのクソ女、こっちに渡してくれない?」

「お前ら、コイツに何したんだよ!?」

怒鳴るジタンに、男子達は一瞬戸惑ったような顔をしたが、すぐにニヤニヤと笑い出す。

「だから言ってんだろ?他人様には関係ねぇんだよ。なんたって俺達、“幼馴染”だしィ?」

「なぁ、チャン?」

男子達の態度と、の様子を見ていれば状況くらいは把握できる。

ジタンは男子達を睨み付けたまま、に肩を貸しながら立ち上がった。

ジタンにつられ、もよろつく足で立ち上がる。

「別にコイツとお前らの関係を聞いてんじゃねぇよ。コイツに何したんだって俺は聞いたんだ。」

「別にー?ここで抱いちゃおっか、って言っただけだぜ?」

ジタンの表情が一層険しくなる。

「・・・抱く?」

「そう。あ、大丈夫。どうせ本気じゃないし。遊びだから。」

それが引き金だった。ジタンはをその場に座らせると、ものすごい勢いで一人に殴りかかる。

ガッ、と嫌な音がして、その場に男子が倒れ込んだ。

「!おいっ!!大丈夫かっ!」

倒れ込んだ男子が咳き込むと、口から白い欠片が零れ落ちる。

どうやら歯が折れたらしい。

ジタンは冷たい目で男子達を見下ろすと、の腕を掴んで立ち上がらせた。

「逃げるぞ。」

低くそう告げ、ジタンはの手を引いて駆け出した。

男子達は追ってくる様子を見せない。きっとそれどころではないのだろう。

ジタンとしては好都合だった。このままなら、逃げ切れる。






「・・・ここまで来れば大丈夫かな。」

住宅地に入り、さんざん走り回った後、ジタンはふと立ち止まって呟いた。

そして、まだ泣いているに向き直って目を細める。

「おい・・・、大丈夫か・・・?」

はすすり上げながら、首を横に振った。

とりあえず衣服の乱れがないことから、追い駆けられただけで何も無かったのだろうと把握する。

ジタンは困ったような笑みを浮かべ、の肩をぽんぽんと叩いた。

「もう大丈夫だぜ。安心しろよ。」

そう言うと、かすかにが頷いた。ジタンもそれに頷き返し、小さく息をつく。

「とりあえず・・・俺ん家、来いよ。そのままじゃ帰れないだろ?ティファには連絡しとくから。」

半ば強引に、ジタンはの手を引いて自分の家へと歩き出す。

は少々引きずられるように、ジタンの後に着いて行った。

「・・・ジタン・・・ありがとう・・・。」

「ん?何が?」

いつものノリで言うジタンに、はどれほど救われたか。

わずかにだがは笑みを浮かべ、ジタンの歩幅に合わせるように少し早足になった。

「・・・そういえば・・・どうして、ジタン・・・あそこにいたの・・・?

ティーダと遊びに行ったと思ってたのに・・・。」

「ま、とりあえずそういう話は家に着いてからな。もその状態じゃしゃべるのキツいだろ。」

まだしゃくり上げていることを言っているのだろう。

そんな彼の優しさに、は目を細めて俯く。嬉しいから。



「さて。なんのおかまいもできませんが。」

おどけた調子でジタンは言い、立ち止まった。は顔を上げ、目を見開く。

「・・・ここ?」

「ここ。」

が驚くのも無理ない。何故ならそこは、屋敷と言っても良いほど大きな家だったのだから。

和風造りの家。広い庭があり、庭には小さな池がある。池には鯉が泳いでいる。

夜になれば、肝試しも出来そうな家である。

「ジタン・・・こんなに、すごい家に・・・住んでたんだね・・・。」

「はー?すごい?何言ってんだよ。全然すごくねぇって。まぁとにかく、上がれよ。」

ジタンが勧めてくれるので、は少し会釈をしてから家に上がった。

家の中もこれまたすごかった。

洋風の「よ」の字も感じさせないような、和風の家。

夏に縁側でかき氷やスイカを食べたら美味しいだろうな、なんて思ってしまう。

ジタンはひとつの和室にを座らせると、「救急箱を取ってくるから」と言い残して和室を出て行った。

残されたは、転んだ時に擦り剥いた膝を見て溜息をつく。

赤く滲んだ血が痛々しい。

ふと時計を見ると、もう既に5時を回っていた。

寮の門限は5時だ。それを過ぎると、寮から出ることも寮に入ることも出来なくなる。

しまった、と思いつつも、あまり重大なことには考えてなかった。

「お待たせ。んじゃ膝出して。」

救急箱を片手に戻ってきたジタンが、に足を出すよう促した。

はおずおずと怪我をしている方の足を出す。

ジタンは座ると、の足に消毒液をかけた。

「・・・ねぇ、それで・・・どうして、あそこにいたの・・・?」

「ティーダと遊びに行ったはずなのに、ってヤツ?」

「うん・・・。」

ジタンは顔を上げると、言った。

「いやー・・・これでも遊んできたんだよ。ゲーセン寄って、遊んで、んで帰ってきたんだけどな。

ティーダが今日はちょっと用事があるとかで、早めに切り上げてきたんだ。

で、家への帰り道で急に人と衝突したと思ったら、それがなんとびっくりだった、ってワケ。」

なんと幸運なことだろう。

考えたくもないが、もしあそこでジタンとぶつかっていなければ一体自分はどうなっていただろう。

「・・・あいつら、誰なわけ?」

「え?」

「あいつら、一体とどういう関係なんだ?」

唐突に言い出したジタンに、は少々戸惑う。

けれどジタンの瞳は真剣で、とてもじゃないが好奇心で聞き出そうとしているようには見えない。

何故だか、話さなければならない気がした。

「・・・小学校、中学校・・・ずっと同じクラスだった、幼馴染。

・・・けど、私は幼馴染だなんて思いたくもないし、幻想学院に来てからはもう会うこともないと思ってたの。

私を・・・苛めてた張本人だから。会いたいなんて、思いもしなかった・・・。」

ジタンはの言葉を聞いて、少し苦い顔をした。

目を伏せ、だがすぐにいつもの表情に戻る。

そして、明るい声音で言った。

「ま、そんなことだろうとは思ってたけどな。あいつらがの幼馴染なんて、絶対信じねーし。」

続きを聞かれると思っていたは、不思議そうな顔でジタンを見やった。

そんなを見透かしたように、ジタンは笑う。

「いーよ。思い出したくない思い出だろ?無理に話さなくてもいーって。

の口から、あいつらとの関係を聞けただけで俺は充分だから。」

が誰かに聞いて欲しいと思ってるなら、話は別だけど。

どうする?と逆に聞き返されて、はふるふると首を横に振った。

ジタンは、「ならばよろしい」と満足そうに言って、救急箱の蓋を閉じた。

膝は丁寧に手当てされていて、これならばすぐに治りそうだ。

「・・・ありがとう、ジタン。」

「何が?」

「いろいろ。・・・ありがとう。」

そう言うに、ジタンはほんの少し顔を赤らめて。

は、その赤面の意味がよくわからなかったけれど。



「今日は泊まってけよ。もう6時だし、寮の門限過ぎてるだろ?」

当たり前のように言うジタンに、は少し困った表情を浮かべた。

「そんな・・・急にお泊りなんてしたら、ジタンの家族の人にも迷惑かかっちゃうよ・・・。」

「家族?あー、そんなこと気にしてたんだ?」

苦笑するジタンを見て、は首を傾げる。

「家族っつっても、俺にはじっちゃんしかいねーし。」

「・・・ご両親は・・・?」

聞いてからしまったと思う。どうしてこう、自分は無神経なんだと自分自身を呪った。

ジタンは少し寂しそうに笑うと、

「俺が5歳の頃、交通事故で二人とも即死。3つ年上の兄貴がいるけど、

兄貴は家飛び出して今はどこにいるかわかったもんじゃないし。」

と言った。

やはり自分は馬鹿だ。ジタンに、きっと嫌なことを思い出させてしまったに違いない。

ごめん、と言おうとしたが、が言う前にジタンはいつもの笑顔に戻っていた。

「ってなことだから、泊まりなんていつでもオールオッケーってことだ。だから泊まってけよ。」

そう言われても。

迷惑がかかるとわかっていて、なかなか頷けるものではない。

渋るに、ジタンは言った。



「どうせ寮に入れなくて、どうしようか困ってたんだろ?」



ニカっと笑いながら言うジタンを見て、は少し膨れた。







何でも見透かしてしまうのは、やっぱりジタンの良いところでもあり、悪いところでもあるらしい。







<続く>



=コメント=
はい、の悪者登場(爆
最近あまり活躍してないジタンがヒーロー(笑
次はティーダをヒーローにしてあげたいなぁ。
あんまり活躍してないもんね、ティーダ(笑
クラウドはともかく、スコールも出してあげたいなー・・・。 [PR]動画