はぁ・・・なんでこんなことになっちゃったんだろうなぁ・・・。











急に騎馬戦出場なんて、聞いてないよっ!!













心の鎖










「はぁ・・・。」

は溜息をついた。

溜息をつきたくもなるだろう。急遽騎馬戦に出場することになってしまったのだから。

入場門のところで溜息をついているのは、しかいない。

皆やる気あるなぁ、なんて思ったりもするけれど、はそれどころじゃなかった。

「どうしたんだ?溜息なんてついて。」

「溜息のひとつもつきたくなるよ・・・。なんで私が騎馬戦に・・・。」

クラウドの問いに、は半泣き状態で答えた。

クラウドは苦笑を浮かべている。

「ジュースとアイス奢るって言っただろ?」

「太らせる気?」

「・・・って、アイスもつけろって言ったのだろ!?」

クラウドが焦るのを見て、は吹き出した。

面白いなあ。可愛いなあ。

つい、思ってしまう。先輩なのに、同級生のように話せてしまうのだ。

最初は逆に怖くて硬直してしまうこともしばしばあった。

けれど、今では敬語すら使えない関係になっている。

それがとても嬉しくて、今のこの関係がとても楽しくて、はやはり笑うのだ。

ちゃんと話すのって初めてだけど、クラウドとのやり取り見てると面白い子だね〜。」

アーヴァインが後ろから声をかける。

そのアーヴァインの隣にはスコールが腕を組んで立っている。

「ね、ちゃん。僕と付き合ってみない〜?最近セルフィが冷たいんだよねぇ。」

「えぇっ!?」

は素っ頓狂な声を上げる。

助け舟を出してくれたのはスコールだった。

「アーヴァイン。女を見かけたらとりあえずナンパする癖、直した方がいいぞ。」

ボソリと言うスコール。アーヴァインはアハハと笑って肩を竦めた。

「大丈夫だって。僕の本命はセルフィだけだからね〜。」

「俺の妹に近付くのもやめてもらいたいものなのだが。」

スコールは眉間にシワを寄せた。

はポカンと二人のやり取りを見ていたが、やがて理解する。

どうやら、アーヴァインはスコールの妹、セルフィに近寄っているようだ。

遊んでいるようなアーヴァインだが、にはわかった。

アーヴァインは、セルフィのことに関しては本気だ、と。

セルフィの話をするときだけ、瞳が本気の色を見せる。

瞳が、本気の輝きを見せるのだ。

この輝きは演技で出来るようなものではない。

本気の輝きは、美しい。だから、すぐにわかる。



〔生徒達の入場です〕

「あっ。入場だ。それじゃ、頑張ろうね。上はよろしく、ちゃん。」

アーヴァインがウィンクを飛ばしながら言った。

は笑顔でそれに応え、頷いた。

わずかに胸に残っていた不安は、いつしか消えてなくなっていた。







白との対戦。

線の向こう側には、白の騎馬戦チームがこちらを睨んで立っている。

はごくりと息を飲んだ。

何故、白組の上に乗る生徒が女子だけなのだ!?

厳しい視線を送られて、は戸惑っていた。

・・・まぁ、考えても悩んでも仕方ない。

、準備は良いか?」

クラウドが尋ねてきた。見ると、クラウド達は既に馬を組み終わっている。

後はを上に乗せるだけのようだ。

は頷き、一回深呼吸をしてからクラウド達の腕に跨った。

せーのっ、と声がして、一気に身体が持ち上がる。

ふわりと浮き上がる感覚の後、はゾッとした。

そして、やはり思った。

・・・女子生徒達の視線が、自分に突き刺さっている、と。





鉄砲の音が響き、全員が一気に駆け出した。

だが、は目を丸くした。


何故、全ての女子生徒が自分達の方に向かってくるのだ!?

一人の女子生徒と取っ組み合いになる。

頭のハチマキを取られたら、そこで負けになってしまう。

はそうならないように、力いっぱい女子生徒の腕を掴んで放さない。

女子生徒は言った。

「なんであんたがクラウド達の上に乗っかってるのよ!」

どうやらクラウド達の同級生のようだ。は負けじと答える。

「上に乗る予定の子が怪我したからって、頼まれたんです!」

「嘘つかないでよっ!!あんた2年生でしょっ!?」

「2年生ですよっ!それが何かっ!?」

「なんで3年生の競技に2年生がしゃしゃり出てくるわけ!?」

「ちゃんとそのことなら先生に許可取りました!頼まれたんだから仕方ないじゃないですかっ!」

「何が言いたいのよ!先生って、誰に許可取ったの!?」

「ク・・・クジャ先生ですよ!その場にクジャ先生以外いなかったんです!!」

「あんたバッッッッッカじゃないのっ!?クジャ先生に言ったら、許可取れるに決まってるでしょうが!」

「だからその場にクジャ先生しかいなかったんですってば!!」

「そのことを利用しただけじゃないの!?」

なんとも酷い言われようである。

ここまで言われると、クジャも哀れに思えてくるのは気のせいだろうか。

まがりなりにもクジャは先生なのだ。

「あんたなんて、ハチマキ取られて、馬から落ちて、骨折でもなんでもしちゃえばいいのよっ!!」

「痛ッ・・・!!」

女子生徒に思い切り右頬を引っ掛かれた。

頬をこすると激痛が走り、赤い血が手についた。

出血しているらしい。

と、ピーッと笛の音が鳴ってレノがこちらに駆け寄ってくる。

「反則だ、と!そこの女子を負けと見なす、と!」

白チームの女子はしぶしぶハチマキをに手渡し、自分の陣地へと戻っていった。

その渡し方も少々乱暴だった気がするが。

は渡されたハチマキを手に、ポカンとその様子を見送る。

「・・・戦わずして勝っちゃったみたい。」

「それが一番だよ〜。」

が言って、アーヴァインが気楽に答えた。







は現在運動場を彷徨っていた。

彷徨っているのには理由がある。

シーモアを探しているのだ。

引っ掛かれた頬には血が滲み、熱と痛みを持っている。

ほっといても恐らくは大丈夫だろう。だが、万が一傷口に菌が入ったら大変なことになる。

そうならないために、一応消毒だけしてもらおうと思ったのだ。

クラウド達は「一緒に行く」と言っていたが、たかだかシーモアを探すのだけに

彼らを連れ回すのも気が引けたので、こうしてひとりで彷徨っているというわけである。

だが、なかなかシーモアが見つからない。

誰か大怪我でもして、それの付き添いで病院にでも行っているのだろうか?

がそんなことを思っていたとき、後ろから声をかけられた。

さん。そんなところで何してるんですか?」

振り返る。そこには、と同じ青い髪の、人の良さそうな笑みを浮かべた男が立っていた。

「シーモア先生。」

「誰かお探しですか?」

「いえ、シーモア先生を探してたんです。頬を怪我してしまったので、消毒してもらおうと。」

が言うと、シーモアはの頬を見て小さく肩を竦め、歩き出した。

もその後に続く。

「その怪我、どうしたんです?」

「えーと・・・。」

まさか引掻かれたなんて言えないだろう。

引掻かれたということは、つまりは「怪我をさせられた」ということで。

の口から出た言葉は、

「こ、転んだんです・・・・。」

「嘘はいけませんねぇ。」

の言葉はあっさりとシーモアに却下された。

がっくりと肩を落とす。そんなを見て、シーモアは苦笑を浮かべた。

「見てましたよ、さっきの騎馬戦。酷い戦いでしたね。」

「見てらしたんですか・・・。」

「なんだかクジャが無理矢理許可してしまったらしくて。

すみません。本当は出たくなかったんじゃないですか?」

「そんなことないですよ!私は元から出るつもりでしたし。

シーモア先生が謝る必要なんてこれっぽっちもないです。楽しかったですよ。

クジャ先生に「許可をください」って言ったのは私ですし。」

なら良いのですが、とシーモアは笑った。

シーモアはテントの教員席へと戻り、救急箱を持ってきた。

を地面に座らせると救急箱を開け、消毒液を綿に湿らせる。

「ちょっとしみますけど、我慢してくださいね。」

そう言うと、シーモアは綿での傷口を拭いた。

ほんの少しの痛さに顔を歪める。シーモアは苦笑を浮かべる。

「あとは乾燥させればすぐに治るでしょう。下手にガーゼとか貼らない方がいいですね。」

「ありがとうございます。」

は立ち上がると、シーモアに礼を言ってその場を立ち去ろうとした。

が、シーモアがを呼び止める。

はくるりと振り返った。

さんは、何の競技に出るんですか?」

は笑顔で答える。

「借り物競争です。」

「見てますよ。頑張ってくださいね。」

シーモアが言うと、は一瞬キョトンと目を見張り、だがすぐに微笑んだ。

「はいっ!絶対に負けません!」

笑顔で言い、去って行くの後ろ姿を見つめながら、シーモアは軽く息をついた。

そして、さも面白いというようにくつくつと笑いを漏らす。

「さて・・・我が校名物“借り人競争”について行けるでしょうかね?」







〔次のプログラムは、借り物競争です。借り物競争に出場する生徒は、入場門に集まってください。〕

今年の体育祭最後のプログラム。借り物競争である。

はイスから立ち上がり、「うしっ」と意気込んで笑顔を見せた。

【ここで一言申し上げておこう。「うしっ」というのは掛け声であり、間違ってもパペットマペットの牛ではない。

我がサイトの副管理人Nが突っ込みそうなので、一応。】

の番だなっ。頑張って来いよ!」

ジタンがガッツポーズを見せながら言った。

はしっかりと頷き、頭のハチマキを結び直す。

赤いハチマキがの青い髪に絡まる。風に揺れ、シャランと音を響かせるように。

「んじゃ、行って来ます!!」

「負けちゃ駄目ッスよ!」

頑張れっ!!」

は入場門へ向かって駆け出した。

そんなを見て、ジタンとティーダはニヤリと笑う。

「今年はどんなお題が出るのかすっげぇ楽しみッスよ。」

「俺も。去年一番面白かったのは、「一番愛してる人」だったっけ?」

「あはははっ!!そんなお題もあったッスね。はどんなお題に当たるのかなー。」

「ま、何が当たるかはお楽しみってな!」

意味深な会話をジタンとティーダが繰り広げているなど、は知る由もなかった。




はスタートラインに立つ。

50メートルほど行ったところにテーブルが置かれていて、その上に封筒がたくさん置いてある。

封筒の中には一枚の紙。何を借りるかが書いてある紙だ。

(良いのが当たるといいなぁ)

は思う。

〔位置に着いて!〕

は腰を深く沈めた。


パンッ


一気に生徒達が飛び出した。

も生徒達に紛れ、勢い良く飛び出して行く。

はぐんぐん速度を上げ、封筒が置いてあるテーブルに食いついた。

適当な封筒を手に取り、開けて紙を広げる。

そして、目を点にした。

「・・・・んん?」

何かの間違いではないのか?は首を傾げた。

明らかに“借り物”ではない内容。

これを本当に借りて来いと言うのなら、それはなんと変な話だろう。

ふと応援席のジタンとティーダを見やると、固まっているを見て笑い転げているようだ。

はその姿を見て確信する。この紙に書いてあることは間違いじゃない。

間違いなく、今が“持ってこなければいけないもの”なのだ。

「ど・・・どうしろってーのよっ!?」

は紙を見直してもう一度考え直す。

そして、紙をぐしゃっと握りつぶす。

その背中に赤々と燃える炎の幻が見えたのは気のせいではないだろう。



こうなりゃヤケだ。



連れてきてやろうじゃないのっ!!




は、鉄砲玉のように駆け出した。

いや、暴れ馬・・・もしくは暴走牛とでも言ったほうが良かろうか。





「・・・なぁ。なんか、こっちに向かって突進してきてないか?」

ジタンが腕を組んだまま言った。

「・・・そうッスね・・・。」

ティーダも首を傾げている。

はものすごい勢いで真っ直ぐこっちに突進してくると、むんずっとジタンとティーダの手を掴んだ。

「「んなっ!?」」

「なんでもいいからついて来ォーいッ!!!」

は再び駆け出す。片手でジタンとティーダの手を掴んでいる(ぇ

そして今度は、赤組3年生の応援席へと向かった。

クラウドとスコールが目を点にした。

「「は?」」

は有無を言わさずクラウドとスコールの手を引っ掴み、そして遠慮なく駆け出す。

そんなの姿を見て、女子生徒達は非難の声を上げている。

「キャーーーッ!ちょっと、あのコ何してるの!?クラウドとスコール、ジタンとティーダまで!!」

「何様のつもりっ!?自分が可愛いとでも思ってるの!?」

「ショックぅ!クラウドさまやスコールさまがあんな子に引っ張られてるなんてっ!!」

は構わず走り続ける。

そして、速度を緩めることなく、見事1位でゴールインした。


パンッ、パパンッ!


〔1位がゴールインしました!!1位は、2年さんですっ!!〕

ワーッと歓声が上がった。は額の汗を拭う。

ジタン、ティーダ、クラウド、スコールの四人は首を傾げた。

いきなり有無を言わさず自分達をここに連れてきたのだ。

お題に何が書いてあったかくらい、知っておきたいのも当たり前である。

「なぁ・・・。お題、なんて書いてあったんだ?」

「え?」

クラウドが問う。

は振り返る。そして、口元に人差し指を持っていき、笑顔で

「秘密♪」

と言った。

「それよりもちゃんと説明してよねー!借り物競争じゃなくて、借り人競争だなんて聞いてないよ。」

「だってしゃべっちゃったら面白くないし。」

ジタンとティーダは言う。は膨れたが、すぐにまた笑みを漏らした。





〔結果は、赤組の優勝です!!!〕





歓声が上がる中、の幻想学院初の体育祭は、赤組の優勝で幕を閉じた。

はズボンのポケットに手を入れ、そして気付いてポケットから何かを取り出す。

一枚のくしゃくしゃになった紙だった。

は紙を広げて、クスリと笑う。




――――― 一番信頼出来る異性を2人以上連れてくるべし。







これは、だけの気持ちの思い出。

クラウド達には、絶対に内緒。






<続く>


=コメント=
うー・・・長かった・・・(感涙)
長かった体育祭もやっと終わった・・・!!
さて、ネタが切れてきたぞ〜!!
次回はどうしよっかなぁー・・・。
そろそろ中間テストでもやりますか?(笑
皆さんで勉強でもしますか?(笑
クラウドやスコールって勉強できそうだよねぇ。
逆にジタンやティーダはできなさそう(笑
あ、ティーダは意外に隠れて勉強するタイプかも(笑
設定ではさんって勉強できる設定なんですけどね。
でもやっぱりクラウドやスコールには及ばない、と(笑
うわ、楽しい!!(ぇ [PR]動画