こんな日のコト







もうすっかり忘れていたけれど。








光のさす庭








「ユウナ、ガーネット、一緒に帰ろう。」

「あっ・・・今日はちょっと・・・ごめん、用事があって・・・。」

「ごめんね。・・・悪いけど、また今度。」

教室から去ってゆくユウナとガーネットを、は呆然と見つめた。

“帰ろう”と誘って“ごめん”と言われた事など、今まで一度もなかったというのに。

から断る事はあったが、ユウナとガーネットが断ったことはなかった。

「・・・なんだろ。」

は首を傾げた。

まぁ、無理だというのなら仕方がない。

は近くにいたジタンとティーダの姿を見つけ、二人に声をかけた。

「ジタン、ティーダ、一緒に帰らない?」

すると、二人は目に見えてビクリと肩を竦ませて振り返った。

は首を傾げる。

「あっ・・・え〜っと・・・。」

ジタンが言う。明らかに言葉を濁している。

ティーダも困ったような表情を浮かべている。

「ワリ、今日はちょっと無理だ。」

「ま、また今度な!」

慌てて去ってゆくジタンとティーダ。

はやはり呆然とし、その場に佇んだ。


なんだか様子がいつもと違う。

慌てた様子もわざとらしい。明らかに変な様子で帰ってしまった。

まるでを避けているような、そんな感じ。

「・・・何なのよ、もう。」

小さく呟いてみた。教室にいるのは、今自分一人だけである。

の呟きを耳にする者はいない。





ぽつんと教室に一人で立っていると、胸の辺りがざわめく。

怖いような、哀しいような、切ないような、複雑な気持ちが胸一杯に広がって、鼻がツンと痛くなる。

力を抜くと今にも泣き出してしまいそうで、誤魔化すようには鼻をすすった。

小学校のころ、苛められていたときもこうやって教室に一人で残っていたのを思い出す。

寂しくて、哀しくて、怖くて。

誰かに傍にいて欲しいと強く願ったあの時。

けれど誰も自分に話し掛けてくれる人はいなくて、泣いていたあの日々。

寂しくて、哀しくて、怖くて。

どうしてこんなことしか起きないのだろうと人生を恨んで。





?」

ハッとしては目をこすり振り向く。

不思議そうな表情をしたクラウドが、教室の入り口に立っていた。

「あっ、ク、クラウド・・・。何、どうしたの?」

「いや、人影が見えたから・・・。泣いてたのか?」

は笑って首を振り、言う。

「まさかっ!あはは、なんで?泣くわけないじゃない。泣く理由もないし。

目が潤んでいるのは、あくびをしたからだよ、きっと。」

実際、本当に自分が泣いていたのかわからない。

泣いている、そんな気がしたから目をこすったけど、もしかしたら泣いていなかったのかもしれない。

ユウナやガーネット、ジタンやティーダは、きっと本当に用事があって帰っただけなのだ。

ただそれだけのことなのに、情けないと思う。

「それじゃ、私帰るから。」

はそう言い、鞄を持った。

クラウドはズボンのポケットに手を入れたままを見つめていたが、小さく息をつくと頷き、

踵を返して教室を出て行った。

そんなクラウドの後姿に、また胸がざわついた。

不思議な、冷たく寂しいこの感覚。とても、辛いのはどうしてだろう。






寮までの短い道のりを歩きながら、は溜息をついた。

「ハァ・・・。」

虚しい溜息。溜息の分だけ幸せが逃げるとはよく聞くが、こんなときは溜息をつかずにいられない。

哀しいのだろうか。今日一日、誰にも相手にされていないことが。

「情けないなぁ。」

呟く。声は風に流され、すぐに消えた。

寮の門をくぐっても、気持ちは晴れずに暗いままだ。

いつもより長く感じる廊下。いつもより長く感じる階段。

は重い足取りで自分の部屋に向かった。

ティファはもう戻っているだろうか。下校時刻からかなりたっているから、多分戻っているだろう。

は小さく溜息をつき、自分の部屋のドアを開けた。




ガチャ




そして固まる。

目は点になり、体は硬直して動けなくなった。

目の前の光景に。いや、正しくは目の前にいる人物に。

決してここにいるはずのない人物。はぽかんと口を開けた。

「・・・どうしてここにいるのよ。」

やっとのことでそう言うと、目の前の人物は言った。

「ちゃんと許可ならもらっている。」

スコールだった。

女子寮は男子禁制である。その女子寮のとティファの部屋にいたのは、スコールだったのだ。

「普通は簡単に許可なんて出ないんじゃ・・・。」

「ちゃんと理由ならある。お前が帰ってくるの、待ってたんだ。」

なんと。

は呆気に取られた。

スコールはのベットに腰掛けたままを見つめている。

「え〜と・・・一体どういう意味。」

「来ればわかる。行くぞ。」

スコールは言うと、の手を取った。

は瞬時に顔を赤くし、どもりながら尋ねる。

「い、行くって、ど、ど、どこに。」

「庭。」

スコールの答えは簡潔だった。

スコールはの手をしっかりと握ると、そのまま歩き出す。

あたたかく、しっかりとしたスコールの手。

スコールの指にはまったグリーヴァの指輪だけ冷たくて、ひんやりとしていた。

何故か心は、あたたかかった。








『ハッピーバースディ トゥーユー   ハッピーバースディ トゥーユー』

スコールに手を引かれて連れてこられた寮の裏庭。

歌声が優しくを包む。は目を見開いた。

『ハッピーバースディ ディア    ハッピーバースディ トゥーユー』

あちこちからクラッカーの音と拍手が飛んだ。大きな歓声も上がる。

が戸惑ったようにスコールを見ると、スコールはふっと優しく微笑んだ。

そこには、クラウド、ジタン、ティーダ、ユウナ、ガーネットがいたのだ。

いや、それだけではない。まだまだたくさんの仲間達がいる。

シャル、エーコ、ユフィ、セルフィ、ティファ、クジャ先生にシーモア先生。

皆笑顔でを迎えている。

「・・・理由って、・・・これ?」

おずおずと尋ねる。スコールは頷いた。

「ああ。・・・誕生日おめでとう、。」

笑顔で言うスコール。は少し混乱していて、目の前の仲間達を見て呆然としている。

まず最初には、ユウナとガーネットがに話し掛けてきた。

「ごめんねっ!本当は一緒に帰りたかったけど、ここの飾り付けとかケーキ作りとかあったから。」

「うんうん、ごめんね、。」

なんと。

は呆然としたままユウナとガーネットを見つめた。

次には、ジタンとティーダが話し掛けてきた。

「ワリッ!騙すつもりはなかったんだけどさ、あの後すぐここに直行予定だったから・・・。」

「いやぁ、急に話し掛けてくるから驚いたッスよ。バレたかと思って。」

ケタケタと笑いながら二人は言う。そんな二人を押し退けて、クラウドが言った。

「コイツらがしくじりそうになったから、俺が教室での足止めをしようとしたんだ。

そうしたら思いのほかゆっくりしてたから、俺としても安心だったな。」

そうだったのか。

「女子寮に男子を入れるのはどうかと思ったんだけどねっ!

この偉大なる ☆★☆ボク☆★☆ の権力をもって、実現してあげたのだよ!」

「あなたはただ私の傍で笑っていただけでしょう・・・。許可の手続きをとったのは

あなたではなく、私ですよ。そこのところ、ちゃんとわかってますか?クジャ。」

クジャはいつもの通り笑い飛ばし、シーモアは小さく溜息をついてに笑いかけた。


は辺りを見回して、ただ沈黙していた。

驚きすぎて声が出ない。ぽかんと口を半開きにしたまま、目前の光景に目を見張っていた。

「おらっ、主役はさっさと前に出る!」

シャルが笑顔での背中を力強く叩く。

「ほらほら、ローソクの火、消して!」

「なんだか楽しみだねぇ〜!」

ユフィとセルフィが笑顔での手を引っ張ってゆく。

そして、クジャとシーモアが優しい眼差しでを見つめた。

目の前には、大きなケーキ。



     “誕生日おめでとう 



板チョコにデコレーションされた文字。

その文字に、どれだけ感情が震えたか。

誕生日なんて、ここ何年も忘れていた。

は一度目を閉じ、それからゆっくりとローソクの火を吹き消した。

小さな拍手が上がり、がひとつ成長したことを祝ってくれる。

皆大好き。

誕生日パーティが、始まった。








皆でケーキを切って食べた。

甘いケーキは口の中で広がって、涙が出るくらいに美味しかった。

聞くと、皆で分担して作ったそうだ。

ほとんどは料理の出来るクラウド、スコール、ユウナ、シャルで作ったらしいが。

「皆、本当にありがとう・・・。」

「何言ってんだよ、誕生日くらいはじけたっていいだろ?」

シャルが笑顔で言う。は頷いた。


シャルはエーコに呼ばれて行ってしまった。

と、急に腕が引っ張られる。

驚いて振り向くと、スコールだった。

「スコール?」

「シッ・・・。」

スコールは口元に人差し指を添え、それからを連れて誕生日パーティの輪から外れた。

全員の目が届かないところ。丁度、寮の陰に連れて来られた。

皆の話し声は、かすかに聞こえている。

「どうしたの?」

は尋ねる。

スコールは黙って自分の指にはまっていたグリーヴァの指輪をはずすと、

の右手薬指にはめ込んだ。

は驚いて手を見つめてからスコールを見上げる。

スコールは微笑んだ。満足そうな顔で。

「・・・やる。誕生日プレゼント。」

「で、でもっ、これってすごく大切なものなんじゃっ・・・?」

「ああ。・・・お前にだけ。」

口元に人差し指を持って行き、「秘密な」と言われてしまったら。

は顔を真っ赤にして自分の右手を左手で包んだ。

ずっしりと重いグリーヴァの指輪。




こんなの反則だ。

かっこよすぎて、スコールの目を見ることさえ出来ないじゃないか。











寮の庭には、夜遅くまで光がさしていたという。

それはまさに、光のさす庭。











<完>




=コメント=
ハッピーバースディ〜!華蓮さま〜!
華蓮さまのリクエストです。
11月30日は華蓮さまの誕生日でございます〜。
一応キリリクとしていただいたリクエストをこんな風にアレンジしてみました。
リクエスト内容は
『幻想学院逆ハーで、ヒロインの誕生日を祝うみたいな感じでw
いろいろハプニングはあるけど最後にはハッピーエンドで!落ちはスコール!』
ということでした。こんなカンジになりました(笑
どうでしょう?自分的には結構満足のいく出来になったと思いますv
華蓮さま、煮るなり焼くなりお好きにどうぞっ!(笑
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