その日は、珍しく星が美しい夜だった。





雲ひとつない澄み切った闇の空に、輝く星がちりばめられていて・・・。






過去・現在・未来







それはクラウド達がニブルヘイムの宿で一日を終えようとしている時のことだった。

もう時期夕食の時間だ。だが、ふと視線を走らせるといつも傍にいるであろう人物がいない。

黒ずくめの洋服に、赤いマントを羽織った人物。

傍から見れば、不思議な格好をしていると思われる彼。

「ヴィンセント?」

は名前を呼んでみる。けれど、返事はおろか姿さえ見えない。

クラウドはあまり気にしていないようだ。ベットに横になったまま本を読んでいる。

はクラウドに近寄り、声をかける。

「ね、クラウド、ヴィンセントがどこに行ったか知らない?」

クラウドは問われ、本から視線をに移した。

「いや・・・見てないな。」

「おかしいなぁ。さっきまでいたのに。」

二人とも事実を述べていた。

クラウドは本当にヴィンセントの行く先なんて知らなかったし、

だって先ほどまで部屋にいたヴィンセントを目撃している。

ただ、彼が部屋を出て行くところは見ていないし、部屋を出て行くような物音も聞いていなかった。

彼は気配を消して部屋を出て行ったのだろうか?

もクラウドも読書に没頭していたため、気付かれずに部屋を出れる可能性は充分にある。

「そのうち戻ってくるだろ。もうすぐ夕食なんだし。」

「うん・・・。」

クラウドが言い、は頷いた。

そう。もうすぐ夕食の時間。普通なら戻ってくるだろう。

ヴィンセントだって必ず戻ってくるはずなのだ。

けれどには、何故だかヴィンセントが遠くに行ってしまったような気がしてならなかった。

何も言わずにいなくなる訳ないのに。

けれど、そう考えれば考えるほど不安は募った。

大体、今までヴィンセントが黙っていなくなる事など一度もなかったのだ。

なのにどうして?

「・・・私、ちょっと探してくるね。」

そう言って出て行こうとするを、クラウドは呼び止める。

「心配しなくても、そのうち戻ってくる。が探しに行く事ないだろ?」

「でも・・・。」

まだ考えるに、クラウドは少々ムッとした。

いや、正しくはに対してではなく、に心配をかけるヴィンセントに対してだ。

クラウドはふと考える。

自分が急にいなくなったら、同じようには心配をしてくれるのだろうか?

探しに来てくれるのだろうか?

「・・・ね、すぐ戻ってくるから、ちょっと探してくるよ。」

そう言い、は部屋から出て行った。止めようとしたクラウドの手が空を切る。


一人残された部屋で、クラウドはしばし固まっていたが、やがて溜息とともに手を下ろした。




「ヴィンセント・・・。」

ニブルヘイムの中を駆け回って探してみたが、ヴィンセントはどこにもいなかった。

宿屋は既に探したし、いるとしたら宿屋の外なのだ。

けれどニブルヘイムの中にはいなかった。

の不安は当たってしまったのだろうか。彼は、一体どこに行ってしまったのだろうか。

彼のいない場所は、何故だか空虚感に満ちている。

は足を止めた。

「ヴィンセント・・・。」

俯いて、再び彼の名を呟く。

目の前には給水塔があって、給水塔に取り付けられた風車がくるくると回転している。

クラウドとの思い出の給水塔。

たくさん、たくさん、一緒に遊んだ二人だけの遊び場。

夕焼けの空の中、クラウドに別れを告げられたあの日。



は給水塔に腰掛けた。

体が熱い。走った所為だろうか。

はたっぷりと空気を吸い込み、そして吐き出しながら空を見上げた。

なんて綺麗な星空なのだろう。

雲ひとつない透き通る闇。そして、そんな闇に散りばめられた輝く星々。

この辺りは、まだ空が綺麗なのだなと感じる。

は視線を走らせた。

「・・・・??」


神羅屋敷の方角。いや、神羅屋敷の屋根の上。

月をバックに、黒いシルエットが浮かび上がっていた。

逆光で人物の顔や着ている服の色などはわからないが、にはすぐにわかった。

風にはためくマント。そして、風になびく髪。

恐らくは、彼。



は駆け出した。もちろん、神羅屋敷に向かって。




ヴィンセントは、神羅屋敷の屋根の上にいた。

星空を見上げ、その背中はどこか寂しそうで。

何かを思い、そして嘆いているような、そんな背中。

は裏にあったハシゴを使い、屋根の上へと降り立った。

「ヴィンセント。」

「・・・か。」

ヴィンセントがゆっくりと振り向いた。は彼の姿を見て溜息をつく。

「よかったぁ・・・。どこに行っちゃったのかと思って、心配したんだよ?」

「・・・何故だ?」

「何故だ?って言われても・・・。ヴィンセントがいなくなったら、心配だもの。」

ヴィンセントは鋭い目で黙っている。は首を傾げた。

「・・・ヴィンセント?」

「何故私を心配する必要がある。」

ヴィンセントに近寄ろうと思ったは、その言葉にピタリと足を止めた。

鋭く低い声。

彼と出会ってまだ日が浅いとはいえ、こんなに鋭い声を聞いたのは初めてだった。

の表情は、戸惑いを隠せていない。

「・・・ヴィンセント?どうしたの?」

「・・・・・・。」

ヴィンセントは何も言おうとしない。は眉をひそめてヴィンセントを見つめた。

「ヴィンセント、あなたはもう私達の仲間でしょ?仲間がいなくなったら、心配しちゃいけないの?」

「仲間などではない。私はお前達に付いて行くと言っただけだ。」

「そんなのおかしいよ。ヴィンセント、何かあったの?」

はそっとヴィンセントに歩み寄った。

ヴィンセントはから顔を背ける。そして、微かな声で呟いた。

「・・・・ルクレツィア・・・。」

「え?」

「お前を見ていると・・・・ルクレツィアを思い出す・・・。」

はヴィンセントの顔を覗き込む。闇のせいで、ヴィンセントの表情はわからなかった。

「ルクレ、ツィア・・・?」

確か、ヴィンセントがかつて愛していた女性の名だ。

ヴィンセントは、がルクレツィアに似ていると、そう言った事があった。

その事を思い出した時、瞬時には理解した。

ヴィンセントは、自分とルクレツィアを重ねて見ているのだ。

本当は重ねて見たくなどないのかもしれない。けれど、そう見えてしまっているのだと感じる。

は少し寂しくなった。

ここにいるのは、仲間のヴィンセントなのだろうか、と。

もしかすると、ここにいるのは30年前の彼なのではないだろうか、と。

「・・・ね、ヴィンセント。」

が言った。ヴィンセントはを見つめる。

「ほら、見て。すごく綺麗な星空だよ。」

は空を見上げながら言う。

「満天の星、ってよく言うけど、こういう夜空のことを言うんだね、きっと。」

「・・・?」

は視線を星空からヴィンセントへ移した。


「私はルクレツィアさんに似ているのかもしれない。直接会った事なんてないから、そんな事はわからない。

けれど、私はだよ?ここにいるのは、ルクレツィアさんじゃなくて、なんだよ?」

ヴィンセントは目を見開いた。

そして、今までルクレツィアとを重ねて見ていた自分を恥じた。

は、こんなに純粋な気持ちで自分を見てくれているというのに。

自分は、なんてくだらない事で悩んでいたのだろう、と。

「・・・・・・私は、」

「もういいよ。私は、ヴィンセントが大好きだから。」

はニッコリと笑いながら、言った。


「・・・!?きゃっ!!!」

「!!ッ!!」

屋根から滑り落ちそうになったに、ヴィンセントが慌てて手を伸ばす。

間一髪のところでは屋根からの墜落を免れた。

ヴィンセントは溜息をつく。は舌をペロリと出して、「ごめん」と呟いた。

ヴィンセントはを引っ張り上げ、屋根の上へと立たせる。

はホッとしたようで、苦笑にも似た笑いを漏らした。

「それじゃ、そろそろ帰ろっか。もう夕食の時間だよ?」

は言い、屋根から下りようと歩き出す。

だが、次の瞬間ぐいっと引っ張られた。体がよろめき、落ちると思って目をキツく閉じる。

けれど、思った重力が自分の体にかかることはなく、気付いた時にはヴィンセントの腕の中にすっぽりとはまっていた。

「ヴィ、ヴィンセントッ!?!?」

あまりの恥ずかしさに、の声が裏返ってしまう。

だが、ヴィンセントは何も言わず、腕に更に力を込めた。

いつもと違うヴィンセントの様子に気付き、は慌てるのをやめた。

ヴィンセントは冗談で人を抱き締めたりしない。




「・・・今夜は冷える。だから・・・もう少し、このままで・・・・。」


ヴィンセントが呟いた。

は優しく微笑み、「いいよ」と返した。


微かに震える彼の肩を優しく抱きとめながら、はどこか暖かい気持ちになっていた。

星空はどこまでも澄んでいて、ヴィンセントの気持ちを、そのまま表したかのようだった。





ここにいるヴィンセントが過去の彼であろうとも、

現在の彼であろうとも、

皆、未来へと向かって進み出す。

過去、現在、未来・・・そして、時代は進んで行く。






<完>


=コメント=
短いーーーーーー!!!
上に甘くないーーーーーー!!(怒
ご、ごごご、ごめんなさっ!!(ガタガタガタ
こんなのでいいのか・・・。
本当にすみません!栃樹稀嵩サマ!!
こんなのでよかったらもらってください(涙
短いし甘くないし・・・
しかも小説と題名、激しく接点がない!!(駄目じゃん
ご希望に沿えなかった私って一体!!!(ノーーーンッ!!)

ガゥンガゥンガゥンッ!!!!

ぎゃぁぁぁっ!鉄砲玉が飛んできた〜〜〜!!(焦
ヴィンセント「・・・・(怒」
あ、あの・・・ヴィンセント・・・さん?
ヴィンセント「・・・・許さん。」
ぎゃぁぁぁぁっぁぁぁ!!!(逃走
っと!栃樹稀嵩サマのリクエストでしたv [PR]動画