今日も校内は音で溢れ返っている。



ピアノやバイオリン、トランペット、クラリネット。



たくさんの楽器が、音楽を奏でている。










二重奏










ーっ、一緒に帰ろう!」

授業が全て終わった後、教室で帰る仕度をしていると友達に声をかけられた。

けれど、残念だけどちょっと今日は無理かな。

この後、レッスン室を借りてバイオリンの練習をしようと思っていたから。

私は友達に両手を合わせて、小さく「ごめん」と言った。

「あ、どうせまたレッスン室に行くんでしょー。たまには一緒に帰ろうよー。」

「ごめん。明日レッスンだし、ちょっと練習しておきたいの。ホントごめんね。」

言うと、私の友達は少し呆れたような素振りを見せたけど、結局は苦笑におさまった。

「それじゃ、明日はサ店にでも付き合いなさいよ。」

「わかってる。ありがと。」

笑顔で友達にそう言うと、私は鞄を持って教室を出た。





ここは、幻想音楽高等学校。

私はその一生徒だ。

音楽学校というだけあって、生徒は皆一人一人専攻の楽器を持っている。

私が専攻しているのはバイオリン。

他に専攻出来る楽器には、ピアノやクラリネット、マリンバ、フルートなんかがある。

ちなみに言うと、ピアノを専攻していない生徒には副科というものがあって、

その副科は必ずピアノを受け持たなければならない。

ピアノは最低限やれってことみたいだけど。

明日はレッスンがある日。私の学校では、校内でレッスンをしてくれる。

もちろん、生徒は必須のレッスン。私のバイオリンの先生はヴィンセントって言って、

普段はすっごくかっこよくて優しい先生なのに、教えるときはすっごく怖いの。

でも、ヴィンセント先生がバイオリンを持つと絵になっちゃうんだよね。

とにかく、そんなわけで私はバイオリンの練習がしたかった。

だからレッスン室を借りて練習しようと思ったんだけど・・・。


「レッスン室ですか?生憎満員なんですよ。」


うあちゃー・・・。私はその場に座り込みたくなった。

そりゃ、明日は全員レッスンの日だから、練習したくなるのも当たり前だよね。

うぅー・・・私が甘かったのかなぁ。

仕方ないから、私は8つある音楽室のどこかで練習することにした。

けど、レッスン室が満員で借りられなくて、とぼとぼ廊下を歩く姿って・・・

はぁ・・・情けない・・・。



私はひとつの音楽室の扉を開けた。

誰かがピアノを弾いてる。もしかして、練習してるとこお邪魔かな?

どうしようか考えていると、ピアノを弾いてる人物がこちらを振り返った。

「あれ?クラウド?」

・・・」

ピアノを弾いてたのは、クラスメートのクラウド・ストライフだった。

ただ、同じクラスでもあまり会話をしたことがない。

言ってみれば、私はクラウドのことをあまり、というか全然知らなかった。

無口で無愛想、ということはなんとなく知っているけれど。

「ごめん、練習中お邪魔だったかな。」

「いや、別に。なんとなく弾いてただけだから。・・・は?」

「私はバイオリンの練習しようと思って。明日レッスンだから。

レッスン室借りたかったんだけどね、満員だって言われちゃった。」

苦笑しながら私が言うと、彼もつられて苦笑した。

あ、笑うんだ。なんて間抜けなこと考えてしまったり。

「いいよ。練習しろよ。」

「・・・その言葉、とってもありがたいんだけどね?でも君が見てるというのはちょっと・・・。」

練習しろ、なんて言いながら、ピアノの椅子から立ち上がる様子を見せないクラウド。

それってどう考えても、練習風景を見てるつもりだよね?

それって無茶苦茶やりにくくないですか?

「元は俺が練習してたんだぞ。そこを譲ってやったんだから、これくらい当たり前。」

ちょっと待って。さっきなんとなく弾いてただけって言ったじゃん!

はぁ・・・けどクラウドが動く様子は全くないし・・・。

本当はすっごくすっごくすっごく嫌だけど、今は仕方ないか・・・。

私はそう思って、ケースからそっとバイオリンを取り出した。

「あ、ごめん、ラの音ちょうだい。」

「ん。」

彼がピアノを叩く。ラの音が部屋に響いて、私はその音を頼りにバイオリンの音を調整した。

バイオリンはラの音で調整するのが普通。

調整し終わって、私は小さく息をついた。

はぁ・・・まさかクラウドの前で演奏することになるとは思わなかった・・・。

練習なんて言ってるけど、クラウドの前で練習なんて出来ないし、演奏だよ、もう。

覚悟を決めると、私はそっとバイオリンを奏で出した。

静かな旋律が部屋の中に響く。

クラウドは黙って聴いてくれているようだった。

こんな私の演奏、聴く価値なんてないのに。

・・・けど、やっぱりバイオリンだけだと不安。伴奏のピアノがあった方が断然やりやすい。

そう思ったとき、バイオリンの音に合わせてピアノの音が流れ出した。

驚いて演奏を止めて、クラウドを見つめる。

今、クラウドが弾いたのは間違いなく私が弾いてる曲の伴奏だった。

クラウドも弾くのをやめて、私を見つめてる。

「・・・ほら、早くしろよ。」

「え??」

「バイオリン。・・・伴奏弾いてやるんだから、早くしろ。」

彼がこの曲の伴奏を弾けるということに驚いたけど、とにかく今は演奏しなくちゃ。

私はちょっと慌てながら、曲の続きを奏で出した。

それに合わせて、クラウドのピアノが部屋に響く。

バイオリンの音とピアノの音が綺麗なハーモニーを奏でて、私の耳に届いた。

私とクラウドの二重奏。

こんなに綺麗な二重奏って初めて聴いた。

私にバイオリンの実力があるわけじゃないから、多分クラウドのピアノの弾き方で

バイオリンの音が綺麗に聴こえるんだと思う。

演奏が終わっても、私は何もしゃべれなかった。

なんだかまだ余韻に浸っていたいって感じ。

クラウドが言った。

「お前、バイオリン上手いよ。・・・これからもっと上達するだろうな。」

「そんなことないよ!クラウドのピアノ、すっごく素敵だった。吸い込まれそうだったよ。」

こんなこと言ってる自分自身に驚いちゃうよ、ホント。

クラウドは少し驚いた様子を見せてから、ふっと微笑んだ。

私が初めて見た、彼が本当に笑った顔。

その顔が思ったよりずっとあどけなくて、私も自然と笑みを浮かべていた。



「・・・今度、一緒に映画でも見に行かないか?」

「え?」

突然の彼の言葉に、私は一瞬呆気に取られた。

けど彼は微笑みながら立っているだけで。

「・・・喜んで。」

私は笑顔で言って、彼の手を引っ張った。

「帰ろう。もう下校時刻過ぎちゃってる。」




まだ腕を組むのは無理だけど、多分そうなるのも時間の問題。

毎日のように二人で二重奏を奏でられるのも、時間の問題・・・かな?








<完>

=コメント=
というわけでパラレルですね。
音高ですよ!音高!!(笑
一番書きやすかったかもしれない、この作品。
そりゃそうだよね、明希妃だって音楽学校通ってるし(笑
この作品で描いた校内の様子というのは、明希妃が通ってる学校の様子そのままです。
音楽室8つあるんですよ、うちの学校(笑
休み時間とか音楽室の近くを歩いてるといろんな音が聞こえてくるしね。
この前はスパイダーマンとターミネーターの音楽が聞こえてきました(笑
あ、あとマリオなんかもあったかな(笑

とはいうものの。

うちの学校にはこんな出会いみたいなのは絶対にありません(断言)
だってイイ男すらいないもの(爆
夢見させてよ、ホント(笑 [PR]動画