さて、今日はなんの日でしょう?






8月23日。これまた特別な日。






・・・のハズなのに・・・。








気まぐれ








「・・・え?風邪?」

は聞き返していた。聞き返されたジタンは、呆れたように小さく溜息をつき、頷く。

達は、学校の5号館の音楽室に集まっていた。

の横にはティーダとクラウドもいる。けれど、肝心のあと一人がこの場にはいない。

ジタンは携帯を閉じながら、肩を竦めて見せた。

「高熱で寝込んでるんだと。」

「今の電話、本人が出たの?」

「いや。動けないみたいでさ。セルフィが出た。」

ジタンが電話をかけた人物。

何を隠そう、それはスコールだったのだ。 今日は8月23日。スコールの誕生日である。

4日前はクラウドの誕生日で、その時は別に体調を崩しているようにも見えなかった。

けれど今は高熱を出して寝込んでいると来た。溜息をつきたくなるのも当たり前だ。

せっかくスコールの誕生日なのだからとプレゼントを片手に集まった面々は、同時に溜息をついた。

「なんか困ってるみたいだったな、セルフィ。」

ジタンが言う。それに同意するようにティーダが言った。

「そりゃそうッスよ。だってセルフィって家庭科苦手だろ?」

「確か成績では1だったな。」

クラウドがさりげなく言うと、その場は沈黙した。

気まずい空気が流れ、しばらくしてからティーダが口を開く。

「・・・も、もしかして・・・スコール、朝から飲まず食わずじゃ・・・?」

可能性はゼロではない。セルフィの腕では、作れたとしてもカップラーメンが良いところだろう。

だが、病人にカップラーメンを食わす愚か者がどこにいる。

それでは治る病気も治らないというもの。セルフィもそこまで馬鹿ではないだろう。・・・多分。

「ちなみに聞くッスけど・・・ジタン、家庭科いくつ?」

「2。」

「・・・クラウドは?」

「3。」

なんでこう家庭科の成績が低いやつらばかりなのだろう。

ティーダは最後の頼みの綱を見る目で、を見つめた。

っ!」

「は、はい?」

「家庭科いくつ!?」

凄まれ、はごくりと息をのむ。

全員の視線がに集まり、沈黙が一層重々しく感じる。

は戸惑いながら、小さい声で沈黙を破った。

「・・・・5。」

再び沈黙。

は何か悪いことを言ってしまったのかと思い、3人の顔を見比べた。


「うぉぉー!!いたッス!優等生がいたッス!!」


ティーダの感激振りはすごかったという(ぇ

ティーダはガッシリとの肩を持つと、言った。

はスコールが心配だろ!?」

「え・・・うん、そりゃまぁ・・・。」

ティーダはウンウンと頷いている。

「だったら頼むッス!俺達のプレゼント、スコールに届けてやってくれよ!」

「えぇえええっ!?私がぁっ!?」

驚く

助けてもらおうとジタンとクラウドに視線を向けると、何故だかジタンは乗り気だ。

、スコールの看病してやれよ!きっと喜ぶって。」

「えぇっ!?喜ぶわけないじゃない!私なんかが看病したところで・・・。」

望んでいたナイスなボケをありがとう。

お姫様は天然鈍感。4人の王子は苦労する。

ティーダとジタンが乗り気なのに対し、クラウドは不服そうな顔で腕を組んでいる。

独占欲の強い王子には、どうも面白くないらしい。

「風邪をひいたのはスコールの責任だ。放っておいても大丈夫じゃないか?」

「クラウド・・・冷たいッスね・・・。」

明らかに怒りと嫉妬のオーラを放っているクラウドを見て、ティーダは冷や汗をかいた。

「男の嫉妬はみっともないッスよ。」

「うるさい!!」

怒鳴るクラウドに身を竦ませ、ジタンとティーダは抱き合って震えた(ぇ

は何のことかわからず、ジタン達とクラウドをキョロキョロと見比べている。

クラウドはふぅと深い溜息をつき、やれやれと首を振った。

「・・・まぁいい。、行くのか?」

聞かれ、はハッと我に返った。

「え、えーと・・・皆がそう言うなら・・・行こうかなぁ、と。」

「ならそれでいい。どうせマンションまでは一緒だ。行こう。」

「あ、うん。」

そのまま行こうとするとクラウドを見て、ジタンが慌てて引き止めた。

「わーっ!ストップストップ!俺達のプレゼントも持ってってくれよ!」

紙袋に入ったジタンとティーダのプレゼントを、に差し出す。

差し出すというよりは、突き出すという感じではあったが。

は苦笑し、紙袋を受け取った。

「スコールによろしく言っておいてくれよな。」

「うん、皆心配してたからって言っておくね。」

笑顔で言い、はクラウドとともに音楽室を出て行った。

残されたジタンとティーダは呆れたような笑みを浮かべ、顔を見合わせて肩を竦めた。

そして次の瞬間、二人でニヤリと笑う。

「・・・スコール、次に会ったら覚えてやがれ、だな・・・。」

「・・・そうッスね・・・。オトシマエ付けてもらわなきゃな・・・。」

クスクスと不敵な笑いを漏らす二人。二人の声がハモる。

「「を独占した罪は重いってんだ。」」



マンションへの道を歩きながら、はいろいろと考えていた。

スコールの家に行ったら、まずは何か水分を摂らせた方がいいかな。

あと、お腹に優しい何かを作って・・・塩分も低めの方がいいよね。

元々料理は好きなである。いろいろと考えるのも好きなのだろう。

。」

「へ?」

急に話し掛けられ、はつい間抜けな声を出してしまった。

そんなを見て、クラウドはクスクスと笑う。

「な、何?」

「もし、スコールに変なことされたら・・・すぐに俺のところに来いよ。」

「え?ああ、うん。・・・・・えぇっ!?」

流れに乗ってつい頷いてしまった。

クラウドは吹き出して、笑った。は真っ赤になり、クラウドの腕をポカポカと叩く。

「そんなことあるわけないじゃんっ!!」

「あれ?俺は“変なこと”って言っただけだけど?何想像してんの?」

からかわれている。わかってはいるが、頭に血が上っているには止められる感情ではない。

クラウドは楽しそうに笑い、の額を指で突付いた。




マンションに着き、クラウドは自宅の方へと向かっていった。

スコールの家はクラウドの自宅のひとつ上の階である。

はエレベーターでその階に上がり、スコールの家を探した。

キョロキョロと辺りを見回し、は歩き出す。

ひとつの扉の前で立ち止まり、表札の名前を確かめてから頷いた。

「ここね。」

チャイムを鳴らすと、家の中から明るい声が聞こえてきた。セルフィの声だ。

しばらくして扉が開き、セルフィが出てきた。

セルフィはを見て驚いていたが、やがて笑顔になってに抱きつく。

〜♪何々!?どうしたのっ!?」

「スコールが風邪ひいたって聞いたから・・・お見舞い。」

が言うと、セルフィは嬉しそうに笑った。

「とにかく上がってよ!散らかってるけど。」

「アハハ、気にしないよ。お邪魔しまーす。」

セルフィに案内され、は家の中に入った。

クラウドの家の中と創りは同じだ。シンプルに観葉植物なんかも置いてある。

「なんて言うか・・・こういうの、スコールっぽいよね。」

観葉植物を指差しながらは言う。セルフィは苦笑を浮かべた。

「なんかそういうのに執着するんだよねぇー。」

セルフィはエアコンを入れ、テレビの電源をつけた。

冷気が部屋の中に入ってきて、心地良い温度に下がってゆく。

「それで、セルフィ。スコールは?」

「隣の部屋で寝てるよ。夏カゼひくなんて、ホントアホらしいよねぇ。」

兄に向かってそういう口を叩けるのは、ある意味すごいかもしれない。

「えーと・・・ちなみに聞くけど、スコールが熱出したのっていつ?」

「昨日の夜。」

「・・・夜は何か食べた?」

「スコール寝込んじゃって、私お腹すいてたからコンビニでお弁当買って食べたよ?」

「そうじゃなくて、スコールは何か飲んだり食べたり・・・。」

「してない。」

「・・・今まで、全然?」

「そういえば昨日の夜から何も食べてないね。」

しばしの沈黙。


「キャーーッ!スコールッ!スコールッ!!スコールーーーー!!

生きてる!?ちゃんと生きてる!?死んでないっ!?脱水症状起こしてないっ!?!?」


大声で叫びながら、は隣の部屋の扉を開けた。薄暗い部屋の中は、随分と暑くなっている。

は慌ててスコールのベッドに駆け寄り、彼の無事を確かめた。

高熱は昨日の夜から全くと言っていいほど引いていないらしく、彼の顔は赤い。

汗で前髪は額に張り付いている。

「あー・・・とりあえず無事みたい・・・。でもこのままじゃ死んじゃうよ!」

「んな慌てなくても、放っておいたら治るってv」

「治るわけないでしょ!!」

死ぬ、とまではいかなくても、大変なことにはなるだろう。

とりあえずこの脱水症状をなんとかしなくてはならない。

は部屋の空気を入れ替えるために窓を開け、部屋を出た。

持参したエプロンを着け、服の袖を捲った。

「セルフィ、お腹すいてる?」

「もーペコペコだよ〜。コンビニ行くのも面倒だったから、今日は何も食べてないの〜。」

「わかった。卵粥作るから、セルフィも食べて。」

は笑顔で言うと、キッチンに入った。

冷蔵庫を開けて、今ある食材を確かめる。

卵、牛乳、ハム、レタス、キャベツ、長ねぎ、リンゴ、その他。

これだけあれば充分である。

はリンゴを取り出し、包丁で皮をむいた。そして、実を小さめに切るとミキサーにかける。

コップを取り出し、ミキサーにかけたリンゴを流し込んだ。

リンゴジュースである。脱水症状のときには、手っ取り早く栄養も摂れるので重宝する。

はコップを片手に、スコールの部屋のドアを開けた。

そっとスコールのベッドに近寄り、軽く揺すってみる。

「スコール。起きて。」

スコールは少し身動ぎした後、ゆっくりと目を開けた。

視界がぼやけているのか、少々目が宙を彷徨っている。

「・・・・・・・?」

「あ、良かった。私のことがわからなかったらどうしようかと思った。」

クスリと笑いながら冗談を言う。

スコールは何故ここにがいるのかわからず混乱しているらしく、

を見つめたまま目をパチクリさせている。

「とりあえず、スコールこれ飲んで。」

コップをスコールに手渡す。

「・・・これは・・・?」

「あ、怪しい物じゃないから大丈夫だよ。ただのリンゴジュース。」

体が楽になるよ、と言いながらは微笑む。

スコールがコップを口に運んだのを見届けて、は部屋を出ようとした。

が、ふと立ち止まってスコールに尋ねる。

「ねぇ、お粥食べられる?」

「・・・・・ああ。」

返事を聞いてから、は再び微笑んで部屋の扉を閉めた。





は冷蔵庫から卵を取り出し、卵粥を作りにかかった。

ご飯を鍋に入れ、水を入れてしばらく煮込む。

卵を入れて煮込み、少々塩で味付けをする。

長ねぎを入れるのも欠かせない。長ねぎは熱を下げる効果があるのだ。

「い〜い匂いだねぇ〜。うわ、美味しそう。」

「もうちょっとで出来るから、待っててね。」

様子を見に来たセルフィに笑顔で返し、はガスを止めた。

御椀を食器棚から取り出し、卵粥を盛る。

湯気が良い匂いだ。我ながら上手く出来たと思う。

「セルフィー、お盆ってどこにあるー?」

「えー?食器棚の一番下のところにないー?」

食器棚の一番下。視線を向けると、確かにそこにはお盆が。

はお盆に御椀、レンゲとコップ一杯の水を乗せた。

キッチンから出ると、セルフィが目を輝かせている。

「出来たの!?出来たの!?食べてイイ!?ソレ私の分!?」

は苦笑を浮かべる。

「まずはスコールだよ。ガス台の上に出来たのが乗ってるから、食べてもいいよ。」

言うと、セルフィは嬉しそうにキッチンへと入っていく。

そんな姿を見送り、はスコールの部屋の扉を開けた。

スコールは上半身を起こし、額に手を当てている。起きているようだ。

は部屋の電気を付け、スコールに言った。

「起きてて平気なの?まだ熱あるんでしょ?」

「ああ・・・。・・・大丈夫だ。」

どう見ても大丈夫そうには見えないが、本人が大丈夫だと言うのなら仕方がない。

はベッドに近寄り、お盆をスコールに手渡した。

スコールは呆然と目の前の料理を見つめている。

「・・・どうしたの?」

「あ・・・いや・・・。・・・が作ったのか?」

「言っちゃ悪いけど、セルフィに作れると思う?」

「絶対に有り得ないな。」

そう言い、クスリと笑う。

スコールの笑みを見て、はほっと息をついた。

先ほどまでは本当に苦しそうだったが、笑顔を見せられるようになったのならもう大丈夫だ。

きっと脱水症状で苦しんでいたに違いない。ジュースを飲み、少し体力が回復したのだろう。

「言っとくけど美味しいよ。自信アリ。」

笑顔で言うを見て、同じくスコールは微笑んだ。

そして、まだ少し力が入りにくい手でレンゲを持ち、卵粥を口へと運ぶ。

「・・・美味い。」

「でしょ?」

は嬉しそうだ。自分の手料理を美味しいと言われて、嬉しくない者などいない。

「体調悪くてあんまり食べたくないかもしれないけど、全部食べなきゃ駄目だよ。

もうすぐ夏休みだって終わりなんだから、しっかり体を治しておかなくちゃ。」

「ああ。」

スコールは頷いた。それを見ては満足そうに微笑む。

だが、ふと哀しげな表情になった。

スコールはどうしたのかと思い、少々首を傾げる。

「・・・どうした?」

「でも・・・だって、今日スコールの誕生日でしょ?誕生日に熱出しちゃうなんて・・・

皆でお祝いしようって言ってたから。今日。」

先ほどかかってきた電話はジタンからのようだった。

つまりはそういう用件で電話をしてきたというわけか。

「コレ、皆からのプレゼントだよ。私からのも入ってるから。」

は紙袋を手渡し、微笑んだ。

「残念だったね・・・。来年は皆でお祝いしようね!」

そう言うを見て、スコールはクスリと笑う。

全然残念なんかではない。むしろ、風邪をひいて良かったとさえ思う。

こうして、と二人きりの誕生日を過ごせたのだから。

ついでにの手料理と明るい笑顔付き。嬉しいことこの上ない。

今日は俺の誕生日だろ?なら、少しくらいイジワルしても・・・いいよな?

。」

「え?」

「耳貸せ。」

「耳??」

ちょいちょいと指で誘うスコール。は不思議に思いながらも、スコールに顔を近付けた。

そして。



――――――――・・・・




「・・・っ!?ほぇえぇっ!?」

は自分の頬を抑えて飛び退いた。スコールは笑いを堪えている。

の顔は真っ赤で、今にも爆発しそうだ。

「ス、ス、ス、ス、ス、スコールっ!!!!」

「何動揺してるんだ?」

「何動揺してるんだ?じゃないでしょ!?い、い、今なにしたっ!?」

「何って・・・キス。」

「キスぅぅぅぅぅぅぅっ!?!?」

は混乱している。スコールは吹き出し、声を上げて笑った。

「キ、キ、キスってその!!いやあの・・・スコールが声を上げて笑うなんて

珍しいモン見ちゃったなぁとは思ったんだけど・・・ってそうじゃなくて!!

ど、どうしてキスなんてっ!?」

「別に・・・気まぐれ。頬なんだからいいだろ?」

「良くない〜〜〜〜〜〜!!!」

叫ぶに、スコールはからかうように笑っていた。

は顔を真っ赤に染めたまま自分の鞄を持ち、スコールを睨み付ける。

「私帰るからねっ!も〜スコールなんて知らないっ!!」

スコールは笑ったままを見送った。

は扉の前でふと振り返り、先ほどの赤面はどこへやら。

満面の笑みで、こう言った。

「また学校でね!」

「ああ。」




を見送り、スコールはふぅと息をついた。

こんなに笑ったのは久し振りだ。

そして何より、最高の誕生日だった。

を独占出来たし、の慌てる姿も見られたし。

「・・・来年は仮病でも使ってみるか?」

一人呟くスコールは、楽しそうに微笑んでいたという。











<完>





=コメント=
長い〜〜〜〜!!
なんて長いんだ!!最初はこんなに長くなる予定じゃなかったのに!!
クラウドの誕生日夢よりも遥かに長いよなぁ・・・(汗
私の一番はクラウドなのに、どうしてクラウドの夢は短くしか書けないんだろ・・・。
まぁ、短編夢はほとんどクラウドだし、いいんだけどね、これくらい長くても(笑
ジタンとティーダの誕生日っていつだっけ?(汗
終わっちゃってたら、ヤだなぁ〜(汗
というか、公式で誕生日決まってるの?あの二人って(笑 [PR]動画