彼女はタークスの中でもずば抜けて仕事が早かった。







顔良し、頭良し、器量良し、思いやり良しの最高のタークス。







は、そんな人物だった。











喪失







「これが次の任務だ。」

ツォンは数枚の書類をに手渡した。

は革のソファにどっかと座り込むと、軽く書類に目を通す。

そして、眉をひそめた。

「・・・これが?」

「そうだ。」

ツォンは即答した。

は嫌そうに書類に最後まで目を通し、疲れたように溜息をつく。

うざったそうに髪をかき上げ、書類をテーブルの上に置いた。

「・・・こんな任務、一体誰が考えるのよ。」

「ルーファウス副社長の命令だ。私も出動する。」

「あー・・・そ。罪のない人を殺す任務は、あんまり気乗りしないけど・・・。」

書類には、神羅カンパニーの社員の名前がズラリと書かれていた。

この社員達は、皆連続して任務に失敗したり、上司に逆らった者達だ。

今回のとツォンの任務は、この社員達を抹殺すること。

そして、その殺人を上手く口実を付けて揉み消すこと。

気乗りも何も、出来ればやりたくなどはない任務だ。

だが任務を遂行しなければ、やツォンがこのリストに載る可能性だって有り得る。

殺されるのは真っ平だ。だから、殺る。

「時間は?」

「午前3時ごろ。・・・動くぞ。」

「了解。」

は言うと、ソファから立ち上がった。

ツォンはテーブルの上の書類に手を伸ばし、ふと思ってを引き止める。

。この任務の後、一緒に食事でもしないか。」

「あら。ツォンさま直々のお誘いなんて珍しいわね。」

は首だけ振り返り、クスリと笑った。

「ツォンが奢ってくれるならね。」

「女性に支払わせるなど、男のすることじゃない。」

ツォンは苦笑を浮かべた。は微笑み、肩を竦める。

「わかったわ。」

は言うと、部屋を出て行った。扉が閉まる音を聞き、ツォンは軽く息をついた。





「ぐあああっ!!!」

絶叫を上げる男を目前にして、は冷徹な瞳でトドメを差した。

赤い鮮血が舞い、部屋を毒々しい色に染める。

それでも、は無感動な瞳で事切れた男を見下ろしていた。

「そっちは終わったか。」

「ええ。」

は肩越しにツォンを見やり、言った。

ツォンは真っ赤に染まった己の手をハンカチで拭き、死体を蹴飛ばした。

「とりあえずはこれで任務完了だな。」

「あとは死体と部屋を片付けて、殺された者達はクビになったってことにしましょう。」

「それは下っ端にやらせるさ。」

ツォンは言い、部屋を出た。それに続いても部屋を出る。

薄暗い廊下を歩きながら、ツォンは小さく息をついた。

ツォンの顔色はあまり良くない。

はツォンの歩調に合わせながら歩き、小さく尋ねた。

「・・・疲れてるんじゃない?」

「いや、問題ない。」

素っ気無い彼の言い方だが、はふっと微笑んだ。

「ならいいけどね。・・・途中でぶっ倒れても私は知らないわよ?」

「私はそこまでヤワじゃないさ。」

「それはご立派なことで。」

は苦笑を浮かべると、視線を前へ移して歩いた。

ツォンはそんなの横顔をチラリと見ると、言う。

「さて、どこで食事をしようか?」

「社内食堂なんて嫌よ。」

今度はツォンが苦笑を浮かべる番だった。

女性を食事に誘っているのだ。まさか社内食堂に行くはずなんてないのに。

「当たり前だ。2番街のレストランにでも行くか?」

すると、はぱっと表情を明るくしてツォンを見た。

その表情は「ホント?」と語っている。

2番街のレストランは高級レストラン。味は上等。雰囲気も上等。

大人のデートには持って来いのレストランである。

料理の値段がかなり高めなのが欠点と言えば欠点であるが、

タークスであるツォンのサイフを考えれば、高いとは言えたかが知れている。

ツォンは前々から決めていた。

をデートに誘うのならば、2番街のレストランにしよう、と。

「本当に良いの!?私、あそこには一度行ってみたかったの!」

「ああ。もちろんだ。 はあそこには行ったことがなかったのか?」

「そりゃ行きたかったけど、そんな暇今までなかったし、一人であそこまで高級なレストランに

行くのもなんか変だし・・・。いつも社内食堂で済ませてたから。」

神羅の社内食堂は、決してマズくはない。

むしろ、下手なファミリーレストランよりも美味いと言えるだろう。

だがしかし。やはり味は良くても社内食堂なのだ。

もちろんサラリーマンの親父達が屯しているし、静かな雰囲気などカケラもない。

値段が安いだけあって、トレイはプラスチックや紙の安物。

時間がないためいつもこんな社内食堂で我慢をしていたが、だって女の子なのだ。

本当は高級レストランに行きたいに決まっている。

ツォンは社内食堂の様子を思い出したのか、ああ・・・と複雑な表情を浮かべた。

「それじゃ、2番街に行こう。」

「うん!」

ツォンに連れられ、は2番街へと向かった。









「ん〜〜vvv 美味しいっ!!」

ステーキを頬張りながら、は言った。

ツォンはそんなを見て、満足そうに笑っている。

「お気に召されたのなら光栄だ。」

「ありがとうツォン!すっごくすっごく美味しいよ〜vv」

本当に美味しそうにステーキを食べる

ツォンはクスリと笑うと、自分もステーキを口に運んだ。

肉汁が口の中に溢れ出して、なんとも言えない香りが広がる。

これぞ高級ステーキの味。社内食堂とは比べ物にならない。

「でもこれ、すごく高いんじゃないの?」

少々不安げに聞くを見て、ツォンは肩を竦めた。

「私達はタークスだぞ?これくらいの値段が払えなくてどうする。」

「それはそうなんだけど・・・・。」

決して安い値段ではない。高いのだ。当たり前だが、高級なのだ。

そんな高級な料理二人分の値段となると、相当な額になる。

そんな額を、ツォン一人に払わせてしまって良いのだろうかと思ったのだ。

「・・・ねぇツォン、やっぱり私自分の分払うよ?」

「何を言ってるんだ。自分の分だけとはいえ、女性に支払いをさせるなど男のすることじゃない。」

ツォンはさも当たり前だとでもいうように言った。は苦笑を浮かべる。

素直じゃないだけで、本当は優しいのよね。

ツォンを見てると、いつもそう思う。

仕事は早く、紳士的で、しかもルックスには文句ナシ。

彼氏または夫にするなら、最高の人だと言っても良い。

けれどツォンは恋愛沙汰には全く興味がないらしく、告白をされても

「私は君の上司で、君は私の部下だ。それを忘れないでもらいたいものだな。」と返してしまう。

しかしこうしてツォンと二人で食事に来たりすると、本当は女好きなのではないか?とも思うであった。

「・・・どうした?」

聞かれ、ハッとしては顔を上げた。

どうやら無意識のうちにぼーっとしてしまっていたらしい。

「ううん、なんでもない。ちょっと考え事。」

「疲れているんじゃないのか?」

「それはツォンも一緒でしょ?」

そう言って、互いにクスリと笑う。

だが、ふとツォンは目を伏せた。は首を傾げる。

「・・・ツォン?」

「・・・、もしも結婚を申し込まれたら、お前はどうする?」

「は?」

唐突なツォンの言葉に、は言葉を失った。

ツォンは続ける。

「・・・いや、もしも、の話ではあるが・・・。」

は眉をひそめ、言った。

「何かあったの?」

「・・・今日、ちょっと、な。」

は身を乗り出す。

「何があったの?ツォン、言って。何かあったのね?」

ツォンはしばらく言葉を選ぶように考えた後、重々しく口を開いた。

「・・・副社長が、是非ともお前と婚約したいとおっしゃっていてな・・・。」

「はぁっ?ルーファウスが!?」

「プレジデント社長もかなり乗り気なんだ。是非ともお前と副社長を婚約させたい、と。」

「ちょーっと待って。勝手に話を進めてもらっちゃ困るよ。

私はまだ婚約も結婚もする気なんてないからね。」

「しかし社長が言ったら頷くしかないだろう・・・。」

は腕を組み、イスにどかりと座りなおした。

そしてツォンを睨みつけ、言う。

「ふざけないでよ。勝手にこっちの人生を決められちゃ迷惑だわ。しかもルーファウスと婚約?

何それ。ぜーったいに有り得ないんだから。ルーファウスはただのお友達!

恋愛対象には見られないよ。」

ツォンが念を押して「本当か?」と聞き返すと、は「当たり前でしょ!」と返してきた。

そんなを見て、ツォンは心のどこかで安心している自分を感じていた。

手放したくなどない。自分だけのものにしたい。

出来るなら、神羅という枠からも抜け出して。

「ツォン?何、ぼーっとしてるの?」

に聞かれ、ツォンは苦笑を浮かべて「なんでもない」と言った。

「そろそろ出ようか。舌は満足させられただろうか?」

「うん!すっごく美味しかった!ごちそうさま、ありがとう。ツォン。」

笑顔のを見て、やっぱりこの笑顔が好きだとツォンは思う。

この笑顔のおかげで、自分は笑顔が出来るようになったのだ。

この明るい笑顔のおかげで。

手放したくないと思いつつも、手放すときが来てしまうかもしれない。

そんな空気を掴むような不安が、ツォンは苦手だった。

怖くて、胸が押しつぶされそうになる。

「・・・それじゃ、行こうか。」

「そうね。本当にごちそうさま。」

こうしていつものように神羅ビルに戻り、いつものように仕事をして、

そしてまた自分の手は赤く汚れることだろう。




けれど、なくしたくないものだってあった。

なくしたくないものほど、自分の元から消えてしまうことは、わかっていた。

けれど、やっぱり信じたくなくて。

あんな言動をしてしまった自分が本当に腹立たしくて。

『私はもう神羅に戻らない!タークスにもソルジャーにも、私はもう戻らないっ!!』

あんな冷たい表情をしてしまった自分が憎たらしくて。




後に残ったものは、君のいない仕事場。

虚無に広がる喪失感。

失うことなど、望みはしなかったのに。

私自身が、君を傷つけた。

君はどう思うだろう?

私がこんなにも傷ついていると知ったら。

君を傷つけた刃で、誤って自分をも傷つけてしまったと知ったら。

君は神羅に戻ってきてくれるだろうか?

・・・否、きっとそれはないだろう。

こんなことで君が同情するわけがない。

君は、私よりも大切なものを見つけているから。

私よりも、金色の光を信じることだろう。

たとえ戻ってきたとしても、それは私の好きな君ではない。

自分の意思を持ち、その意思を決して曲げようとはしない女性。

それが、私の好きなだから。








私の目前が、苦しいほどの喪失感で溢れていても







――――――――――――――・・・?









<完>


=コメント=
最近突発的に書くことが多いよね(爆何唐突)
しかもツォン夢なんて絶対に書かないと思ってたのに(爆笑
まー・・・悲恋だけど(笑
珍しいよね、私にしてはこんな形の夢って(笑
なんとなく神羅時代が書きたくなったので(笑
そろそろスコールあたりが恋しくなってくると思うんだけど・・・(笑) [PR]動画