私はもう長く生きられない。

きっと、もうすぐお迎えが来てしまう。

医者の先生もクラウドも何も言わないけど、私にはわかるんだ。

なんとなく・・・・やっぱり、自分の体だし・・・ね。







永遠に








今日は、雨が降っていた。

どんよりとした雲。まだ昼間の3時なのに薄暗い町。

私は病室の窓から外を眺めて、小さく溜息をついた。



もう、何年外に出ていないだろう。

いや、病院の庭を看護婦さんに連れられて散歩することはある。

けれど、町にはもう何年も行っていない。

昔通っていた小学校はどうなってるかな。皆、元気かな。

近所の駄菓子屋さんのおばあちゃん、まだお元気なのかな。

いろんなことを思うたびに、外に飛び出して行きたくなる。けど、それは叶わない。

そして、自分の思いが叶わないと思うたびに・・・彼に、会いたくなる。

「・・・クラウド・・・。」

いつもお見舞いに来てくれる彼。けれど彼だって暇なわけじゃない。

彼は忙しい人。いつも時間を見つけては来てくれるけど、長くは一緒にいられない。

もう、3日も会ってないだろうか。

普通の人から見れば、3日なんて大した日数じゃないのかもしれない。

けれど私にとっては、3日というのは胸が張り裂けそうになる時間。


会いたい。


・・・クラウド、会いたいよ。








「もうこんな時間か・・・。」

俺はバイクにまたがり、バイクのエンジンをかけた。

早くアイツの元に行ってやりたいと思いながら、ただ過ぎていく時間を恨む。



何度、時間よ止まれと祈ったか。

アイツには・・・には、もう時間がない。

は、もういつ死んでもおかしくない体なんだ。

体は病魔の巣。

内臓の機能は著しく低下していて、普通なら生きていられない体だという。

まだ病院の機械が手助けをしているせいで、なんとか保っている命らしい。

常人の何倍も短い人生を終えてしまう彼女。

俺はを逝かせたくない。

ずっと、一緒に暮らしていきたい。

こんなものは、俺のワガママだと思う。

けれど・・・例え俺のワガママだったとしても、俺はと離れたくないんだ。

例え地獄の果てまででも。



俺はバイクをひたすらに走らせて、の病院へと向かった。









私はゆっくり、体を起こして立ち上がった。

全然歩いてなかったせいか、足がふらついてなかなかうまく立てない。

それでも私は、壁に寄り掛かりながら自分の足で床を踏みしめた。

「・・・よし・・・」

私は小さく呟く。

そっと壁から手を離して、自分の足で、ゆっくりと歩き出す。

大丈夫。歩ける。まだ、私の足はちゃんと歩ける。

「クラウド・・・」

私は彼の名を口にして、ゆっくりと病室を後にした。



会いに行くんだ。


クラウドに。


大好きなクラウドに。




病院を抜け出して、私はひたすらに歩き続けた。

朦朧とする意識の中、必死に彼の家に向かって。

会いたい。クラウドに会いたい。

本当に、ただそれだけなの。

会いたい。クラウド、会いたいよ。

神様お願い。クラウドに、会わせて下さい。

激しい鼓動。荒い息。けれど、私にはそんなものどうでもよかった。

例え心臓が爆発したって、私は構わない。

それほどまでに、クラウドに会いたいから。


冷たい雨が肌にしみた。

雨の音がどこか心地良くて、私は何度も意識を失いそうになった。

でもここで意識を失うわけにはいかない。







「・・・どう、して・・・・」

俺は言葉を失った。

の病室には、誰もいなかったのだ。

いつも病室のベッドに横になっているの姿もない。

俺はベッドに駆け寄り、彼女が横になっていたせいで出来たシーツのシワに手を伸ばす。

まだ暖かい。

ここを抜け出して、まだそんなに時間はたっていない。

多分俺とすれ違いの差で、病院を出て行ったんだ。

俺は身を翻し、病室を飛び出した。


病院の廊下だというのに全く気にしている余裕はなく、走り続ける。

何度か看護婦さんに注意されたけど、そんなもの耳には入らない。

俺は病院の自動ドアが開く時間が待ち遠しくてドアを抉じ開け、駐車しているバイクに飛び乗った。

急いでエンジンをかける。


。一体、どこに行ってしまったんだ?



走り出すバイク。

俺は、バイクを走らせながら何度もの名を呼び続けた。






もう何分彼女を探し続けただろうか。

俺は焦っていた。を見つけられなかったら、俺は一体どうなるだろう?

必ず俺が守ると決めたのに。

彼女は、今どこにもいない。





俺にとって、命よりも大切な人の名前。

守りたいんだ。

君のその笑顔を。







そして・・・

俺が見たものは、雨の道路に倒れている彼女の姿。

俺はバイクを止め、しばらくの間動けなかった。

早く駆け寄って、その体を抱き締めてやれ。

そう心は言っているのに、俺はに近付きたくなかった。

動かない。動かずに、雨に打たれている

近寄って、確かめるのが怖い。

・・・。」

小さく呼んでみる。彼女は動かない。

。」

少し声を大きくしてみた。けれど、彼女は動かない。

震える体。これは、寒いからじゃない。

いつもより数倍青白いの顔。

痩せ細ってしまった手足。

俺はゆっくりとバイクを降り、まるで生まれたばかりの子馬のように・・・

たどたどしい足取りで、に近付いた。

俺は力なくの傍に屈み込み、の頬に触れてみた。

冷たい。

優しい息遣いは、聞こえてこない。

「・・・・・・?」

俺はの細い肩を抱きかかえ、動かない彼女を見つめた。

「・・・どうして・・・こんなところにいるんだよ?」

俺が納得出来なかったのは、が倒れていた場所にある。

その場所は、がいる病院から俺の家へと向かう最短の道だった。

そこは人通りも少なく、滅多に車も通らない。

は、間違いなく俺に会いに行こうとしていたんだ。

こんな雨の中。ただ一人で、重い体を引き摺って。

・・・。」

俺は彼女の体を抱き締めた。

冷たい。

彼女を抱き締めたときに感じた、あのぬくもりは今はない。

・・・冗談なんだろ?俺をからかってるんだろ?」

情けない声が、口から出た。

「帰ろう・・・帰ろう、・・・・・・一緒に・・・!」

その言葉の最後は、もう口に出来なくなっていた。

一気に視界が歪み、俺は唇を噛み締めた。

は答えない。

ただ純粋で綺麗な顔で・・・俺の腕に、抱かれているだけ。




どうして、こんなことに。



俺はと離れないと決めていたのに。






俺の視界をライトが照らした。

ものすごいブレーキの音。真っ直ぐにここに向かってくる車。

普通なら慌てて避けるはずなのに、俺はを抱えたまま動こうとしなかった。

「一緒に逝こう・・・・・・。」

それが、俺の最期の言葉だった。

雨で効きにくくなっているブレーキ。

車は速度を落とすことなく、真っ直ぐ・・・











『クラウドのところへ行けない体なんて、いらない』


声がした。


『俺も・・・がいない人生なんて、いらないよ。』


『・・・クラウド、守ってくれてありがとう。私、クラウドに守られてたよ。』


『そんなこと・・・』


『もう何も言わないで。・・・これからは・・・ずっと、一緒。でしょ?』


もう、離れる必要なんてない。


『ずっと永遠に・・・きっと私達なら、生まれ変わってもまた会えるよ・・・。』


『・・・それなら・・・永遠に、一緒だな。俺達・・・』


微笑みながら頷く


俺はそのの笑顔に安堵を感じた。


『クラウド、行こう。一緒に。』


『ああ・・・一緒に・・・』






ずっと、永遠に。

命を落としたからといって、哀しむ必要はどこにもない。

きっとこれは、神様が俺達にくれた最後のプレゼントだったんだ。

ずっと離れないように、という思いが詰まった、最高のプレゼント。

大好きなと一緒にいられるなら、俺は何もいらない。





永遠。

それは、神様がくれた・・・最高のプレゼント。







<完>



=コメント=
悲恋モノ第2弾。
悲恋というか、死ネタですね。
結局は結ばれるんだから、悲恋とは呼べないかも。
このネタは副管理人のなびきが提供してくれました。
助かったよ、ありがとうなびき!


音楽:『星屑』 Shinjyou's Music Room
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