ああ、忙しい忙しい。

先生達は今日も忙しく行ったり来たり。

幻想保育園は今日も明るいお日様の下。

クラウド先生は、今日も頑張っています。








絵本








「おはよーございまーしゅ!」

「おはよう、ティファ。今日も元気だね。」

「先生、おはようございます。」

「おはよう、エアリス。今日も可愛いね。」

今日も園児達は保育園の門をくぐる。

門のところに立っているのは、まだ新人のクラウド先生だ。

金髪に蒼い瞳。鋭い目。

端整だが、どこか近寄りがたい雰囲気を持つ先生である。

だがいつも笑顔を絶やさないせいだろうか。

園児達からの人気は高い。

「あ、セフィロス、おはよう。」

「・・・フン、貴様は誰に向かって話しているんだ?」

「・・・はい、セフィロス様、おはようございます。」

「まぁいいだろう。」

幻想保育園は個性豊かな園児ばかりだ。

先生に向かって威張るセフィロス。

「おっはよー!わ、クラウド今日もシケた顔してんなぁー!」

君は先生の抱き付き攻撃がお望みなのかな、ユフィ?

先生に対してタメ口を使うユフィ。

「あ、おはよう、ヴィンセント。」

「・・・・・・。」

声をかけても返事をしないヴィンセント。

個性が豊か過ぎる園児が多いと言っても過言ではない保育園だ。

クラウド先生は日々園児にコケにされまくり、足蹴にされ、終いには下僕と化す(爆

そんなコケにされまくるクラウド先生の唯一のオアシス。

「クラウド先生、どうちたの?誰かに、めっ、されたの?」

その園児の名を、という。

門の前で撃沈しているクラウドに話しかけ、そして心配をしてくれる

クラウド先生にとってこんなに素晴らしいオアシスはないだろう

「うぅぅ〜、〜、皆が先生を苛めるんだよぉ〜。」

クラウドはを抱き締めながら涙目で訴えた。

はきょとんとしてクラウドを見つめている。

「それじゃ、が皆に、めっ、って言って来ようか?」

なんて優しい子なんだ。

クラウドはから体を離して一度を見つめると、その頭をよしよしと撫でた。

そしてニッコリと笑う。

「ううん。先生にはさえいてくれればいいんだ。

むしろお嫁においでとでも言い出しそうな勢いである。

はクラウドに頭を撫でてもらうと、明るく微笑んだ。

そして。

「先生、大好きっ!」




ぐはっっ!!!




そう、この笑顔が好きなんだ。なんて可愛い笑顔なんだ、いやむしろ天使の笑顔だな、ウン!

俺はこの笑顔を見るために生きてるんだそうなんだ俺はやっぱりが大好きなんだ

ああなんて可愛い笑顔大きな瞳青い髪そして優しい声

ああ、先生は今とても幸せだよッ!!!!


脳内妄想爆走中。

クラウド先生はスローモーションでくるくると回転しながら倒れた。

はそんなクラウドを心配そうに見つめ、歩み寄ろうとする。だが。

ー!早くおいでよー!」

ユフィに呼ばれ、は行ってしまった。

門のところに残されたクラウド先生は、冷たい風にさらされていたという。







「先生、絵本読んで?」

クラウド先生が担当しているチョコボ組の園児は、を始めセフィロスやヴィンセントがいる。

ぶっちゃけ敵だらけである。

しかしは時間を見つけてはクラウドの元へ寄って来て、絵本を読んでと頼んだり、

子守唄をせがんだりする。

そんなが、クラウド先生にとっては嬉しくてたまらない。

今日もまた、は絵本を持ってきた。

クラウドは絵本を受け取り、表紙を見た。

「なになに・・・“シンデレラ”?」

「ね、先生読んで。」

笑顔で言われてしまっては、クラウド先生に断ることは出来ない。

クラウドは床に座り、絵本を開く。

はちょこんとクラウドの膝の上に座ると、クラウドが開いた絵本を見つめた。

クラウドはゆっくりと読み始める。

「昔々、あるところに一人の少女がいました・・・」










「・・・シンデレラと王子は、いつまでも幸せに暮らしました。おしまい。」

ぱたんと本を閉じると、は微笑んでクラウドを見上げた。

「とってもいいお話だねぇ!」

「そうだな。」

はクラウドの膝から降り、絵本を受け取る。

急に寒くなった膝に触れながら、クラウドは俯いて自嘲するように笑った。

「あのね、もうひとつ読んで欲しい本があるのっ。」

「いいよ、持っておいで。」

クラウドが言うと、は嬉しそうに微笑んだ。

だが。


、向こうで遊ぶぞ。」

「えっ?あ、ヴィンセント君っ!?」

普段はほとんどしゃべらない無口なヴィンセントが、の手を掴んで行ってしまった。

クラウドは慌てて手を伸ばすが、既に遅い。

は、ヴィンセントに連れ去られてしまった(違

クラウドは小さく溜息をつき、立ち上がった。

だが、後ろから急に服を引っ張られる。

振り向くと、そこにはいつものように偉そうにしたセフィロスが立っていた。

「な、なんだい?セフィロス・・・。」

「・・・私のに近付く行為、万死に値する。」

「はぁっ!?」

何故今時の園児というのはこんな難しい言葉を知っているんだ!!

クラウドはそう叫びたくなる衝動を理性で押さえ、ひくつく頬をさらしながらセフィロスに向き直る。

「ど、どういう意味かな?」

「言っただろう、万死に値すると。クラウド先生、覚悟ッ!!」

セフィロスは言うなり、スラリとどこからともなく長い刀を抜き取った。

セフィロス自身の身長の10倍はあるかという刀だ。

クラウドは顔面蒼白になってストップをかけた。

「ま、待って!先生をいじめちゃ駄目だろっ!!」

「苛めではない。天罰だ。

そんな天罰あってたまるか。

クラウドは自分の顔面に迫ってきた刀の切っ先を白羽取りで受け止め、ぐぐぐと押し返した。

「むっ・・・やるな。」

「やるな、じゃなぁいっ!!なんて危ないことするんだっ!!」

天罰だ。

それは一体どういう天罰デスカ。


その後もクラウド先生とセフィロスの睨み合いは続き、

園児から報告をもらって駆けつけたレノ先生が止めに入ったのだった。








「・・・はぁ。」

今日も散々な日であった。

夕日が沈みそうな赤い風景を見ながら、クラウド先生は教室の片隅に座り込んでいた。

ほとんどの園児は外で遊んでいて、そんな園児達もそろそろ帰り出す頃だ。

校庭の園児達もまばらである。


と、部屋のドアが静かに開けられた。

クラウドはふとドアの方を見やる。

そこには、絵本を抱えたが立っていた。

、もう帰る時間だよ。お迎えは?」

「なんかね、ママがもう少し時間が掛かるって。それでね、絵本読んで欲しくって・・・来たの。」

そういえば、昼間もうひとつ読んで欲しい本があるとか言っていたっけ。

はクラウドに歩み寄ると、絵本をクラウドに差し出した。

クラウドは表紙を見て呟く。

「・・・“人魚姫”?」

はこくんと頷いた。

確か人魚姫の最後はハッピーエンドではなかったはずだ。

まだ幼いには、少し衝撃的な結末かと思うが・・・。

「・・・これがいいの?」

「うん。」

間髪入れずには頷く。

クラウドは絵本を受け取り、いつものように絵本を開いた。

絵本を開くといつもはクラウドの膝の上に乗ってくる。

はちょこんとクラウドの膝の上に座り、絵本を見つめた。





昔々、海に美しい人魚姫がおりました。

海はいつも平和で、けれどそれは人魚姫にとってつまらないものでした。


ある日、海は嵐で荒れました。

人魚達は海の底の岩に隠れたりして、震えています。

しかし人魚姫は、一人水面に上がって行きました。

そして、そこで見たのです。溺れている一人の王子の姿を。

人魚姫は王子を助け、陸まで運びました。

王子は美しい人でした。人魚姫は、一目で王子のことが好きになりました。

しかし、人魚姫は人間ではありません。決して、許される恋ではないのです。

“ああ、王子様。こんなにもあなたのことをお慕いしているのに、

私はあなたに姿を見てもらうことさえ許されない。”

人魚姫は泣きながら海へ帰りました。

その途中、思い付いたのです。海の魔女ならば、自分を人間に変えてくれるかもしれない、と。

人魚姫は真っ直ぐに魔女の元へ向かいました。

魔女に事情を話すと、魔女は言いました。

“人間にしてやってもいい。だが、その代わりお前の声をいただくよ。

そして、その王子と結ばれなければ、お前は海の泡となって消えてしまうよ。”

それでも構わない。人魚姫は言いました。

王子に一目会えれば、それでいいと思っていたのです。

人魚姫は人間の姿となり、陸に上がりました。

陸で見つけたのは、あの王子でした。

王子と目が合い、人魚姫は動けなくなりました。

“今、あのお方が私の目の前にいらっしゃる”

しかし、しゃべろうと思っても声が出ません。

王子はふと立ち上がると、人魚姫に手を差し出しました。

思いが伝わったのだろうか。いや、きっと伝わったに違いない。

人魚姫は王子の手を取り、王子の城へと行きました。

それから、人魚姫と王子は幸せに暮らしていました。

しかし、ある時王子が妃をもらうことになったのです。

“お前なら、私の喜びをともに喜んでくれるだろう?”

王子は人魚姫に言いました。

悲しかった。とても、胸が張り裂けそうなくらいに。

けれど、人魚姫は寂しそうに微笑んで、小さく頷いたのです。

王子が幸せならば、自分は何もいらない。

そう言っているように。



王子が隣の国の姫と結婚をした日。

城のどこにも、人魚姫の姿はありませんでした。

人魚姫は、海岸にいたのです。

夜の暗い海を見つめ、静かに涙をこぼしていました。

“王子様、あなたとの日々は決して忘れません。今まで、たくさんの思い出をありがとう”

人魚姫は、心の中で言いました。

もうすぐ朝日が昇ります。

人魚姫は暗い海に身を投げました。





朝日。





朝日の最初の光が、人魚姫の体を貫きました。

海の中で。

しかし人魚姫は、幸せそうに微笑んでいました。

泡となって消えても、人魚姫は、幸せだったのです。






「・・・おしまい。」

クラウドは絵本を閉じた。

はしゅんとした表情をしている。

やはり、幼いには少し早い内容だったようだ。

「可哀相だねぇ・・・。」

「そうだな・・・でも」

クラウドは言う。

「もし先生が王子様だったなら・・・先生は、妃なんかより人魚姫を選ぶよ。」

はクラウドを見上げる。

「・・・本当?」

「本当。絶対にね。もしが人魚姫だったら、先生はすぐにを選ぶよ。」

の顔に笑顔が戻る。

にっこり微笑むを見て、クラウドもつられて微笑んだ。





「おーい、の母親が来たぞ、と。・・・・」

を呼びに来たレノ先生。

レノ先生がそこで見たものは。





「・・・お休み中か、と・・・。」

絵本を持ったまま眠るクラウド先生と、クラウド先生の膝の上で眠るの姿だった。









<完>


=コメント=
ありきたりな保育園(笑
クラウドは苦労がたえない先生ってことで(笑
レノ先生もいいよね・・・(笑
題名と内容が一致してないけど気にしないで(爆 [PR]動画