暗くなるまで一緒に遊んで。







星が瞬き始めるまでたくさん遊んで。







そんな中、二人で交わしたひとつの約束。







今はもう、霞がかった記憶だけど。









約束






「クラウドー!!!」

外から声がする。あの透き通る声は、のものだ。

朝食を食べていたクラウドは、声を聞いてぱっと立ち上がった。

テーブルの上には、食べかけの朝食が残されている。

その様子を見て、母親が溜息をついた。

「クラウド。ちゃんとご飯を食べてから行きなさい。」

聞いて、クラウドは渋々イスに座り直した。だが、今までの倍の速度で食べ始める。

入るだけ口にものを入れ、数回噛んだだけですぐに飲み込む。

少しでも時間短縮をしようとしているようだ。

母親はそんなクラウドの姿を見て、苦笑を漏らした。

偉そうなことを口にしていても、やはり所詮は7歳の子供なのだ。

遊びたいという気持ちは抑えられないのだろう。

「ごちそうさまっ、行って来ます!!」

クラウドは勢い良くイスから立ち上がると、外へと飛び出して行った。

母親は食べ終わった食器を片付けながら、やはり苦笑を漏らすのだった。




今までクラウドはこんなに子供らしく遊ぶ事などなかった。

けれど、今では7歳児らしい雰囲気を持ち、声を上げて遊ぶようになった。

今まで滅多に見せた事のなかった笑顔も、しょっちゅう見せるようになっている。

ここまでクラウドを変えたものはなんなのだろうか。

わかっている。

一人の少女の存在だった。

一人の少女の存在が、クラウドを変えたのだ。

悪い方向にではなく、とても良い方向に。

近所の子供達に話しかける勇気を持っていなかったクラウドに、勇気を与えた。

近所の子供達に「一緒に遊ぼう」と言っても、結局結果は変わらなかったけれど。

でも、断わられて戻ってきたクラウドに、はにっこりと笑って「一緒に遊ぼう」と言ったのだ。

その一言が、クラウドにとってどれほど救いだっただろうか。


近所の子供達はとクラウドの二人とは遊ばない。

けれど、二人は気になどしていなかった。





爽やかな風。

青い空に雲はひとつもなく、鮮やかな晴天がどこまでも続いている。

太陽な大きく、近く。今日は暑くなりそうだ。

雨の気配など全く感じさせない陽気の中、クラウドはに駆け寄った。

「おはよう!」

「おはよ、クラウド。」

にっこりと笑いながら二人で挨拶を交わす。そして、二人はニブル山の入り口に向かって駆け出した。



ニブル山の入り口付近はモンスターも出ないし、二人にとっては絶好の遊び場だった。

なわとびで遊ぶも良し、近くの岩によじ登るのも良し、地面にラクガキをするのも良し。

だが、ちょっと奥まで行けばモンスターが出て来ることを、二人はちゃんと理解していた。

だから細心の注意を払いながら遊ぶ。

「クラウド速いー!」

岩をよじ登りながら、が言った。既に上の方まで登って行ってしまっているクラウドは

下に視線を投げ掛け、そして自慢げに笑った。

「むー・・・ズルイよ、クラウド!」

「あはは!ホラ、手、貸せよ!」

クラウドが手を伸ばす。はそれに掴まり、クラウドがを引っ張り上げた。

二人は岩の一番高い位置に立った。



山の向こうに太陽が見える。

薄く霧が立ち込めているニブル山。けれど、大人達が言うように不気味な山なんかじゃない。

そりゃ、モンスターは出るし、薄暗いし、魔晄の匂いは漂っているし、綺麗な山ではないかもしれない。

でも、ニブル山の美しさはそういうものとは関係なかった。

神秘的な雰囲気。それが、ニブル山の雰囲気だった。

大人達は声を上げて笑うだろう。ニブル山のどこが神秘的なのか、と。

だがクラウド達にはわかるのだ。このニブル山が、他の山とは違う何かを持っているのだと。

「なぁ、知ってるか?」

クラウドが言った。

「何が?」

「死者の魂は、ニブル山を越えて遠くへ行くんだって。」

「シシャ?」

首を傾げて、が聞き返した。

「死者。死んだ人のことだよ。」

「死んだ人は、このお山を越えて遠くへ行くの?」

「正しくは、死んだ人の魂が、ね。言い伝えだから本当か嘘か知らないけど。」

ふぅん、と相槌を打ち、は黙った。


死者の魂は、ニブル山を越えて遠くへ行く。


ニブルヘイムに昔から伝わる言い伝えだった。

クラウドとの視線はニブル山のずっと向こうへ延びている。

山の向こう、ずっと向こうへ。





「はー!今日も楽しかったね!」

日が沈み始めた頃、二人はニブルヘイムに戻ってきた。

今日も一日が終わった。

クラウドは、不思議に思っていた。

と一緒に遊ぶようになってから、今まで長く感じた一日があっという間に感じるのだ。

いつも首を傾げて思っていた。

時間がたつのが、信じられないほどに速い。

そして、時間がたつのが、虚しいほどに寂しい。

けれど、は変わらない。

いつも同じ優しい笑みを浮かべて、クラウドを待っていてくれている。

光のように眩しい存在。自分だけのものにしたい存在。

ワガママと思う。

「なぁ、。」

「んー?なぁに?」

「あのさ、って大人になったら何になりたい?」

はキョトンと目をパチクリさせ、首を傾げた。

「なんでそんなこと聞くの?」

「いや、なんとなく。」

本当に、なんとなく聞いてみただけだった。

大人になったら、は何をするんだろうとか、ふと考えてしまったのだ。

だから、聞いてみた。

はちょっと考えると、何かを思いついたようににっこりと笑い、言った。

「あのね、お嫁さん!」

「え?」

今度はクラウドがキョトンとする番だった。

首を傾げて、を見据える。

「私、クラウドのお嫁さんになる!クラウドは、私のお婿さんになるの!」

そういう意味で聞いたのではなかったのだが、クラウドにとっては満足だった。

胸が弾むほど、嬉しかった。

「約束だよ?」

「うん、約束。」

小さな小指を出し、約束をしたあの日。

可愛らしい約束。



・・・あの約束をしたのは、いつ・・・・?















「フィア、パパ起こして来て。」

「はーい。」

女性の声と、小さな子供の声がする。

とたとたと走る音が遠くから近付いて来て、


どさっ


「うっ。」

自分の上に、何か重みのあるものが乗っかったのがわかった。

「パパー。ごはーーん。」

「ん・・・・・?」

上から声がする。ゆっくりと目を開けると、そこには我が子フィアの顔があった。

フィアはクラウドの腹の上に乗っている。

そしてクラウドは、リビングのソファで横になっていた。

「フィア・・・?」

「パパ、ごはんー。」

視線を動かし、窓の外を眺める。外はもう暗くなっていた。

「フィア、パパの上に乗ったら駄目でしょー?」

こちらに歩み寄って来る足音が聞こえ、クラウドの視界に女性が現れた。

エプロン姿のだった。

フィアはぴょんとクラウドから降りると、の隣に立った。

「目覚めた?随分ぐっすり寝てたみたいだけど。」

「あぁ・・・。」

クラウドは体を起こした。ソファで本を読んでいたはずなのに、いつの間にか寝てしまったようだ。

まだ頭がぼんやりとしているが、しばらくすれば完璧に目も覚めるだろう。

「珍しいこともあるのね、クラウドがリビングで熟睡なんて。」

「いや、熟睡はしてないと思う・・・。」

「なんで?」

が意外そうな顔で聞き返した。

「夢、見てたんだ。・・・昔の。」

「夢?」

夢は浅い眠りの時に見るものだ。深く眠っている場合、夢は見られない。

つまり、クラウドは浅く眠っていたということになる。

「・・・それにしてはぐっすり寝てたけど・・・。良い夢だったの?」

「・・・あぁ。との、昔の約束の夢。」

は首を傾げる。

クラウドは自嘲気味に笑った。

「なんで今まで忘れていたんだろう。・・・約束、した時・・・すごく嬉しかったんだけどな。」

「なんの約束したっけ?」

が俺のお嫁さんになるって約束。俺はのお婿さんになれって言われた。」

は少々沈黙し、あぁ、と思い出した。

「可愛らしい約束だったわね。」

「あぁ。」

二人はクスリと笑った。

「パパもママもなんのお話してるのー?」

横では話の内容がよくわかっていないフィアが頬を膨らませている。

ヤキモチを焼いているのだろうか。だが、そんな我が子が可愛くて仕方ない。

クラウドはフィアの膨れた頬を指で突つき、

「ママとした昔の約束の話だよ。」

と言った。






―――――約束だよ?


―――――うん、約束。





―――――忘れないでね?


―――――忘れないよ。






<完>



=コメント=
突発的に書き上げたこの話(笑
なんとなく昔の二人が書きたいなぁと思って書いちゃいました。
甘要素は皆無と言ってもいいですね(笑
あー・・・ちなみに。
子供のフィアは4歳って設定です。
クラウド26歳のさん25歳ですね(笑
まだクラウドはヴィンセントの年齢に追いついてないのかぁ・・・。
・・・・ま、ジェノバ細胞のおかげで
実際に歳を取ってるわけじゃないからいいんだけどね?(笑 [PR]動画