アタシはもうこの人から逃れる事は出来ない。
この人は、アタシの羽根を鋭い棘で奪ってしまったのだから。
棘
「・・・もうすぐ、だね。」
彼が言った。彼の傍らには、立派な銀竜が寄り添っている。
可愛らしく彼に甘え、彼はそんな銀竜の頭を優しく撫でる。
「・・・そうね。」
は目を細めて答えた。
その短い答えに彼―――――クジャは振り向き、かすかに笑みを浮かべる。
「どうしたんだい?君らしくない答えじゃないか。」
「そうかしら。」
答えるものの、自分でも自分らしくないと思う。
いつもなら胸に湧き上がる興奮を押さえるのに必死で、こんな淡白な返事はしないというのに。
いや、逆に興奮し過ぎて淡白な返事しか出来ないのかもしれない。
これからこの世界に起こる大々的な事件を思うと、そうなのかもしれない。
クジャは銀竜を優しく撫でながら遠くを見つめた。
もうすぐ日が沈む。高くて大きな木の上から、はクジャと共にそれを見つめていた。
冷たい風が吹く。風が髪を揺らし、通り過ぎてゆく。
「怖いかい?」
クジャに尋ねられ、は振り向いた。
クジャは少し意地の悪い笑みを浮かべてを見つめている。
は小さく鼻で笑うと視線を夕日に移して答えた。
「まさか。むしろ楽しみで楽しみで仕方がないくらいよ。」
「だろうね。人を人と思わず殺す君が、こんなことで恐怖を覚えるわけがない。」
人を人と思わず殺す。それはだけではない。
クジャも人を人と思わず、残虐を繰り返しているではないか。
は反論しようとして、やめた。
どうせこの男はいつもの軽口での反論なんて振り払ってしまうのだから。
「ただアタシは思うのよ。・・・この世界が暴走をしてしまわないか、とね。」
世界の中心・・・イーファの樹だけではない。
もっと、いろんな世界の状況が崩れてしまうのではないか、と。
だがクジャはクスクスと笑うと言った。
「それはそれで良いんじゃないかい?世界がボロボロに崩れても、
その頂点にボクらが立てるのならば文句はない。」
この男は・・・。
は呆れ半分諦め半分で溜息をついた。
「まぁ・・・確かに私達は世界の頂点に立つために生きているんだけどね。」
「ボクは必ずガーランドを見返す。あいつよりも上に立ってやるんだ。」
強い意志。はクジャの横顔を見つめ、小さく苦笑した。
この男の強過ぎる意志には、敵わない、と。
「キミももちろんボクと共に来てくれるんだろう?」
「・・・さて、いつ裏切るか考えてる最中よ。」
冗談混じりに言ってみる。だがクジャは表情を変えなかった。
「そういう冗談はボクには通用しない。
キミはボクを裏切らないんじゃない、裏切れないんだ。」
そうだろう?と瞳が尋ねてくる。
はクジャを真っ直ぐに見つめ、だが口を開く事が出来なかった。
クジャは言う。
「キミはボクの大切な小鳥・・・。ボクだけのモノ。・・・ボクだけの、可愛い小鳥・・・。」
「・・・よくわかってるじゃないの。」
は溜息をついた。
自分はこの男から逃れられない。
この男の、鋭い棘に羽根を奪われてしまった小鳥なのだから。
だがこの男は言ってくれた。
ボクの元にいるのならば、羽根を返してあげる、と。
そして言ったのだ。
キミは絶対にボクを裏切らない。キミはボクだけのモノだ、と。
はクジャを見つめた。
「どこまでもついて行くわ、クジャ。アタシはあなたの、・・・小鳥なのだから、ね。」
クジャが笑みを浮かべた。
「なら、キミには最高の満足を味わわせてあげないとね。・・・最高の満足を、ね。」
「楽しみにしてるわ。」
もうすぐ日が沈む。
そして、夜が明ける。
時代の幕が、切って落とされる。
棘に絡め取られた小鳥の体は、時代の中へ放り込まれて、飲まれるのみ。
<完>
=コメント=
初!クジャドリームです(うわ
無謀だったかな・・・。頑張ったんですけど。
超ベリーショートです。はい。
時期的には\の話の直前。世界の未来を思いながら自分達の野望を話し合う二人。
そんなイメージだったんですが、どうもSMっぽくなってしまいました(汗
いやでも私思うのよ!
クジャは絶対SS(スーパーサディスト)だから(爆笑
超短い話に付き合ってくださってありがとうございました!
[PR]動画