その時彼女は俺に言った。


「翼が欲しいなぁ。」


首を傾げる俺に、彼女はにっこりと微笑んだ。
















青い空。雨の気配も感じさせないカラッと晴れた日。

海の潮の香りと、波の音が心地好い。

風は時折優しく吹きつけ、木々をざわめかせた。

なんて良い天気なんだろう。

天気の良い日は、砂浜で昼寝をするのが良い。

たまに冷たい水飛沫が飛んできて、ほてった体を冷やす。

太陽は休むことなく照り付けて来るが、その日差しもやがて心地好くなる。


何故だろう、今日は太陽が近く感じる。手を伸ばしかけて、やめる。

まるで子供みたいだ。いつもはこんな気持ちになったりしないのに。

目を閉じても潮の香りと波の音は変わらなくて。

はただ時間の中で、ぼうっと砂浜に寝転んで空を眺めていた。



「なーにしてるッスか!」

「わわっ!!」

急に声が降って来て、は慌てて体を起こした。

振り向くと、そこには悪戯な笑みを浮かべて立っている一人の青年。

ティーダだった。

「〜〜〜もうっ!!ティーダっ!びっくりさせないでよね!!」

ティーダは心外そうな顔をしてしゃがみ込んだ。

「あれ?そんなに驚いた?」

「急に話しかけられたら、誰だって驚くよ!」

大声を上げて驚いてしまった自分が恥ずかしいのか、は顔を赤くして俯いた。

せっかく気持ち良く寝転がっていたのに。

ティーダは「ふーん」と気のなさそうな返事を返し、海を見つめた。

そして、の髪を見てぷっと噴き出す。

「な、なによ・・・。」

・・・髪、砂だらけッスよ?」

「ぇ・・・えっ!?あっ!!!!」

は自分の髪を触り、初めて髪が砂で汚れていることに気付いた。

ティーダは苦笑し、の髪に付いた砂を落としてやった。

「あ、ありがと。」

「いいよ。」

ティーダはの隣に腰を下ろすと、遠く地平線の向こうを見つめた。

青い海に、青い空。

二つの青が美しく重なり、風景に彩りを与えている。

地平線。その向こうに何があるのだろう?

地図を見ればわかる。地平線の向こうにある島。その島で暮らしている人々。

けれど、地平線の向こうは未知の世界のような気がして、なんだかワクワクした。


ずっとずっと遠く。飛んで行けたらいいのに。





「ねぇ。」

が言った。ティーダはに視線を移す。

「ティーダは、翼が欲しいって思ったこと、ある?」

「翼?」

「うん。」

は立ち上がり、両手を思い切り広げた。

ティーダは目を細めてを見つめる。

「こうしてね、両手を思いっきり広げると・・・どこまでも飛んで行けそうな気がするんだ。」

「どこまでも・・・?」

風がとティーダの髪を揺らす。

「私がヴァルファーレを召喚して、ヴァルファーレの力を使えば飛ぶ事は出来るよ?

でも、そういうんじゃないの。・・・自分の翼で、どこまでも飛んで行きたいって思うんだ。」

は目を瞑り、手を広げている。

その姿は、なんだか大きな鳥のようにも見えて、ティーダは少し微笑んだ。

そして、自分もぱっと立ち上がってと同じように両手を広げる。

風が体に吹きつけ、まるで自分が風になっているかのような気持ちになった。

いや、鳥になっているのかもしれない。風?鳥?どっち?

「・・・気持ち良いね。」

「そうだな。」


とティーダは砂浜で両手を広げ、風を感じていた。

翼があったら、こんな感じなのだろうか。

鳥は、こんな気分で空を飛んでいるのだろうか。

「私、見えるよ。」

「え?」

唐突に言い出した。ティーダは少々驚いてを見つめる。

「今ね、ティーダの背中に大きな翼があったの。

白くて、とっても逞しそうな大きな翼。」

にっこりと微笑みながらは言う。

ティーダは顔を赤らめながら、面食らった顔で立っていた。

「な、なんだよ、急に。」

「本当だよ?私には見えた。大きい、ティーダにぴったりの白い翼。」

どこまでも羽ばたいて行けそうな、逞しい翼。





「翼が欲しいなぁ。」





ティーダは首を傾げる。は、笑っていた。





「そんな翼が、私も欲しいなぁ。」






純白の翼。人間は飛ぶ事が出来ない。

けれど、きっと心の翼なら誰でも持っているだろう。

だから、誰でも羽ばたくことが出来る。

遠くても、どんなに遠くても、諦めない限り・・・信じている限り。

どこまでも、どこまでも。



「・・・俺には見えるッスよ。」

「え?」

の翼。白くて、優しい・・・フワフワした翼。」

は一瞬キョトンとした表情をしたが、すぐにフワリと微笑んだ。

「・・・うん!」


翼。翼。翼。

助走をつけて跳び上がったら、そのまま空に上がって行けるだろうか?




「よし!、久し振りに一緒に泳ぐッス!!」

「えぇ!?」

「大丈夫だって、ホラ!」

「ティ、ティーダはいつだって強引過ぎるのよ〜!」

ティーダはの腕を掴み、海へと跳び込んだ。



青い空。青い海。

そんな背景に、白い羽根が散りながら消えるのが、かすかに見えた。




<完>



=コメント=
また突発的に書いちゃったよ・・・。
あはは、](笑
ティーダ〜(笑)ヒロインの性格がわからん!(ぇ
キングダムハーツの連載が終わったら、]もやりたいなぁ・・・。
でもZも書きたいよなぁ・・・(ぇ
どーするべか・・・(笑 [PR]動画