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「寒いね〜」

「そうだな。」

そんな他愛のない会話をしながら、は窓の外の雪を見つめていた。



白い花





「わー、雪だ雪だ〜。」

は宿屋の二階から見えるアレクサンドリアの城下町を見ていた。

いつもと違うアレクサンドリアの城下町。人々の楽しそうな声が響き、楽しげな歌や曲が流れている。

子供は雪合戦で遊び、大人達はクリスマスのケーキを手に忙しく歩を進めている。





今日はクリスマス。

本来ならばここにいるはずのダガーも、今はアレクサンドリアの城に戻っている。

それもそうだろう。仮にも彼女は一国の女王なのだ。

アレクサンドリアに帰って来たときくらい、城にいなければならないのだろう。

「ジタン〜、クリスマスだよ、クリスマス。」

「そぉだな。」

暇なのでジタンに話題を振ってみたが、彼は武器の手入れに夢中であまり乗り気ではない。

「ねー、聞いてる?クリスマスだよ、ク・リ・ス・マ・ス!!」

少し声を大きくしてみた。だが、ジタンは武器のオリハルコンを上から、横から見て手入れをしている。

は少しふくれた。せっかくのクリスマスだと言うのに、ジタンは何も思わないのだろうか。

話しかけても彼の反応は薄い。ならば。



「あだっ!!!」



思い切ってガツンとやってみた(ぇ

ベッドの側に備え付けられている小さなランプ。それで思いっきり彼の頭を・・・・。

「いっっっっっってぇな!!!何するんだよ、!!」

「だから、クリスマス〜〜〜〜〜〜!!」

ジタンは涙目になりながら叩かれた頭を押さえつつ、を睨んだ。だが、涙目になっているため可愛いとしか言いようがない。

「クリスマスがどうしたってんだ〜!!」

「クリスマスだよ?年に一度の大大大大イベントだよっ!?」

「だぁかぁらぁ、それがどうしたんだよ。具体的に言ってくれないとわからないだろ〜!?」

少々ヤケクソ気味である。はチッチッチ、と指を振った。

「わかってないなぁ。クリスマスと言えば、美味しい料理にプレゼントでしょ?ってなことで、何か食べに行こうよ。」

にぱっと笑いながらは言う。ジタンはいつものことながら脱力した。

「料理なら夜になればダガーが城に呼んでくれるだろ?クイナが作ってくれるんだからいいじゃねぇか。」

「そうじゃないよ〜。」

の言いたい事をわかってくれないジタンは、はぁ?と首を傾げる。

つまり、が言いたいことはこういうことなのだ。

ダガーには悪いが、今とジタンは二人きり。せっかく二人きりになれたチャンスなのだから、デートくらいしたいのだ。

だがジタンはわかってくれない。それとも、気付いててシラを切っているのだろうか。

「んもう・・・。」

はベットの上に乗せてあったクマのヌイグルミを抱き締め、ベットに横になった。ジタンがそれを見て言う。

「大体、そのクマのヌイグルミ、いつまで持ってるつもりなんだよ?もうボロボロじゃねぇか。捨てちまえよ、そんなの。」

その言葉に、は激怒した。

がばっとベットから起き上がり、平手でジタンの頬を叩き、目に涙をためて宿屋を飛び出した。クマのヌイグルミを持ったまま。

後ろから自分を引き止める声がしたが、は止まる気にならなかった。

ジタンがくれたクマのヌイグルミ。

ずっとずっと大切にしていた、クマのヌイグルミ。

ジタンが、5年前のクリスマスにプレゼントしてくれたクマのヌイグルミ。

ジタンは知らないのだ。

がどんなにこのヌイグルミを大切にしていたか。

ジタンが生まれて初めてくれたプレゼントだったから。ずっと大切にしようと思って、本当に今まで大切にしてきたことを。

雪が降る中、は宛てもなく走り続けた。

戻りたくなかった。ジタンのところに。

「おっと。」

不意に誰かにぶつかった。顔を上げると、フライヤだった。

ではないか。どうしたのじゃ?こんな雪が降っていると言うのに、コートも何も羽織らずにおるとは・・・。

このままでは風邪をひく。とりあえず宿屋に戻ろう。」

はぶんぶんぶんと首を横に振った。フライヤは不思議そうな顔をしてを覗き込んだ。

「・・・まさか、ジタンとまたケンカでもしたのか?」

「・・・また、じゃないもん・・・。」

フライヤは苦笑した。本当は仲がいいのに、どうしてこの二人は飽きもせずに何度もケンカが出来るのだろう。

「それじゃあ、そこの喫茶店でゆっくり話でも聞こうかの。」

フライヤはを促して、近くの喫茶店へと入って行った。






「なるほど・・・。」

フライヤは苦笑した。

クマのヌイグルミとクリスマスというイベントで二人がケンカしたということも理解出来た。

ジタンもジタンだ。女の子に言ってはいけないことを言ってしまった。食事くらい、付き合ってあげればいいのに。

普通の女の子には優しいのに、どうしてが相手だと素直になれないのだろう。

まぁ、それも二人の仲がいいことを示しているのだが。

「じゃが。このままではどうしようもないぞ?」

「でも・・・悪いのはジタンだもん・・・。」

フライヤは再び苦笑した。

の強情さにも少々問題があるようだ。

「そうじゃな・・・。確かにジタンはの気持ちをわかっていない。じゃが、それも仕方がないことなのじゃ。」

「・・・へ・・・?」

「きっとジタンは覚えているはずじゃ。クマのヌイグルミをにあげたことをな。」

予想外の発言だった。

「でも・・・。」

「なに、恥ずかしくて言えないだけじゃろ。5年も前にプレゼントしたものをがまだ持っている事で、ジタンは照れているのじゃよ。

だから照れ隠しで少しキツいことを言ってしまったのではないのか?」

は押し黙ってしまった。

そんなことを言われたら、何だか自惚れてしまう。フライヤはニッコリと微笑んだ。

「それで、そのクマのヌイグルミはどうしたのじゃ?」

聞かれてはハッと気付く。

ない。

宿屋を出る時には確かに手に持っていたはずなのに、クマのヌイグルミは消えていた。

「・・・落とした・・・!?」

慌てては立ち上がる。だがフライヤはそれを止めた。

「大丈夫じゃよ。外を見るがいい。」

フライヤは窓の外を指差す。はおずおずと視線とフライヤの指先へと向けた。




雪が降る。




こんこんと降る。




クリスマスソングがかすかに聞こえるアレクサンドリアの広場。




そこに、白い息を吐きながら、走ってきた様子のジタンが立っていた。





「あっ・・・!」

とジタンの目が合う。そしては視線をジタンの腕へと落とした。

あった。

大切なクマのヌイグルミ。

ジタンはクマのヌイグルミを持って、そこに立っていた。

は慌てて外へと飛び出した。ジタンと目が合う。

「・・・落とすなよな。人がせっかくあげたプレゼントなんだからさ。」

ジタンはいつものように「ニッ」と笑った。はコクンと頷き、ジタンからクマのヌイグルミを受け取った。

「・・・ありがと・・・・。」

続けてごめんね、と言おうとしたが、それはジタンの言葉によって遮られることとなる。

「あ、そうだ。」

「え?」

ジタンが思い出したように懐を探り、何かを取り出してに見せた。

「・・・花?」

小さな可愛らしい白い花。だがはその花を見て不思議そうに首を傾げた。

冬に花は咲くのだろうか。ジタンは恥ずかしそうに視線を泳がせ、言った。

「・・・冬にしか咲かない珍しい花なんだとよ。珍しい種類なのに、アレクサンドリアの片隅に咲いてるの見かけたから・・・。」

ハイ、と言ってジタンは白い花をに差し出す。はしばらくその花を見つめていたが、やがてニッコリと笑って受け取った。

「ありがと!今年のクリスマスプレゼントだね!」

ジタンは更に顔を赤らめた。

「それじゃ行くか。」

「え?・・・どこに?」

てっきり宿屋に戻るものだと思っていた。ジタンは振り向いて、言った。

「どこにって・・・行くんだろ?食事。」

少し照れ臭そうにジタンは告げる。は嬉しくて、クマのヌイグルミを抱き締めながら「うん!」と言う。

ジタンは歩き出していたが、はジタンに駆け寄るとジタンの横に並んで一緒に歩き出した。

「ありがと。」

「なにが?」

「別に☆」






可愛らしい白い花。名も無い花だけれど、その花は雪の中・・・静かに咲き続けていた。





<完>


=コメント=
クリスマス。楽しい楽しいクリスマス〜♪
・・・のはずなんですが。明希妃は現在疲れております。
一応この話はクリスマス用に書き下ろしたもの・・・。
ってかジタンの性格がわからなくなってきた・・・(汗
もっと優しいと思うんだよね、ジタンって。
ちょっとキツ過ぎるな〜・・・ジタン(汗
しかも冬に花って咲くのか!?(笑
自分で自分に突っ込みつつ、この話を書いてました(笑
ってかジタン?あんたさんにキツく当たり過ぎだって!
どうなのよ?そこんとこ。(笑)