私の命はどうなっても良いの。








消えたって、別に構わないの。








けれどお願い。








彼だけは、無事に・・・・。








この命と引き換えに








星空を見ると、いつも過去のことを思い出した。

星のひとつひとつが瞬いていて、それが人々の命のようだと思った。

エアリスは、夜空の星とも話が出来たのだろうか?

そんなふうに思ったりもした。

素敵な女性だったエアリス。

『だった』と過去形にしないといけないのは、胸が張り裂けるように辛い。

もう、彼女はいない。

暖かい笑顔で傍にいてくれた彼女は、もうどこにもいない。

暖かい言葉をかけてくれた彼女は、もうどこにもいない。

あの忌まわしい日・・・彼女の死んだ直後は、視線が虚無な空間を彷徨っていた。

無意識のうちに、彼女を探していたのだと思う。

信じたくなくて。

彼女が死んでしまったことを、受け入れたくなくて。

彼女の死を、嬉しいなんて感じてしまった自分が憎たらしい。

彼女に嫉妬していた自分が、醜くて、哀しくて。

どうして、エアリスに嫉妬などしたのだろう?嬉しいなどと感じたのだろう?

自問自答しても、答えは見つからない。

否、きっと答えはわかっているのだろう。

胸の奥に秘められた、静かで尊い想いが答えだとわかっている。

ただそれを、表に出したくないだけ。

まだ今は、感情を表に出す時ではない。

少なくとも・・・まだ今は。




「ふぅ・・・。」

は小さく息をついた。

明日は北の大空洞に突入する日。仲間達は、それぞれ思い思いの時間を過ごしている。

命が尽きるか否か。そんな恐怖の狭間で、考えることもたくさんあるのだろう。

星はいつもと変わらず瞬いていて。空はいつもと同じで広いのに。

明日は、こんな世界の行く末を決める、最終決戦なのだ。

きっと、この戦いのことはほとんどの人間に知られることはないだろう。

負けたとしても、勝ったとしても。どんな結果が、未来に待っていようとも。

残酷な話だと思う。けれど、そんな道を選んだのもまた自分なのだ。

どこから運命の歯車は狂い出したのだろう。

考えもしない方向に、回り出してしまったのだろう。



全ては。そう全ては。


全ては、いつから狂い出したのだろう・・・。



自分の過去を思い返してみると、なんと不幸な人生だったのだろうと思う。

神羅に入って裏切られて、親友を失い、記憶を失い。

自分の情けなさを思い知らされて、打ちのめされた。

けれど、それだけではなかった。

不幸なことばかりではなかった。

確かに苦しいこともあった。哀しいことも多過ぎた。

けれど、その分楽しいこともあったし、嬉しいこともあった。

そして、は自分の選択に後悔をしていない。

間違ったことをしてきたとは思っていない。

自分を真っ直ぐに信じて、ここまで来たのだから。

怖くないと言えば、それは嘘になる。

どうして、怖いと感じてしまうのだろう?

無意識のうちに震え出した体を、は自分で抱え込んだ。

寒いわけではない。これは、恐怖から来る震えだ。

「・・・死にたくない・・・。」

死ぬかもしれない。そう考えると、たまらなく怖かった。

覚悟は決めたはずなのに。情けないな、なんて思う。

「・・・死にたくないよ・・・。」

エアリスは死ぬ直前、何を想ったのだろう。

この世界の行く末?クラウドのこと?仲間のこと?

エアリスは死んだのに。殺されたのに。

なのに、自分は生きている。そして、死にたくないと思っている。

今逃げ出したいとさえ、思っている。

なんて情けない自分。なんて馬鹿な自分。なんて愚かな自分。

体の震えはおさまらない。それどころか、足まで震えてきてはしゃがみ込んだ。

「・・・も・・・やだ・・・。」

これ以上ない恐怖と絶望感に捕われ、は声を漏らした。

金色の光を信じると決めたのに。裏切れるはずなどないのに。

裏切るつもりなど、これっぽっちもないというのに。

恐怖は、を捕らえて放さない。

「・・・?」

声がした。足音が近付いてきて、その人物はの隣にしゃがみ込む。

クラウドだった。

「どうした?体調が悪いのか?」

「・・・・違う・・・。大丈夫・・・。」

どう見ても大丈夫そうには見えない

クラウドはそっとの背中をさすった。

暖かいクラウドの手。大きくて、全てを包み込みそうなクラウドの手。

クラウドの優しさを感じて、は目を閉じた。

少しずつ体の震えがおさまっていくのがわかる。

背中をさすってもらった。ただそれだけのことなのに、何故安心出来てしまうのだろう。

震えが少しおさまって、は小さく、けれど深く息を吐いた。

そしてゆっくりと立ち上がる。

「・・・ごめん、ありがとう・・・。」

「どうしたんだ?気分でも・・・悪くなったのか?」

は首を横に振る。

「・・・怖くなった。」

「怖く・・・?」

クラウドは首を傾げてを見やる。

は俯いたまま、髪をかき上げて上目遣いでクラウドを見つめた。

「・・・明日・・・死んでしまうかもしれないって考えると・・・

どうしようもなく、怖くなった・・・。」

死にたくないという気持ちは、どうしようもない。

怖くないと強がったところで、何にもならない。

けれど、強がっていたかったのだ。

皆が覚悟を決めてしっかりと地面を踏みしめている時に、一人だけ震えていたくなどなかった。

・・・。」

クラウドは瞳の光を揺らすと、そっとに近寄った。

そして、その細い肩を抱き寄せる。

まだほんの少しカタカタと震えている彼女の体を、優しくそして強く抱き締めた。

がこんなに思い詰めていたとは、クラウドも思わなかった。

絶対に勝って、平和を手にして、再び戻って来よう、と。

そう言い合ったとは言え、そんなに容易いことではないことくらい、クラウドだって承知している。

だから、何も言わずにを抱き締めた。

今にも壊れてしまいそうな彼女が、愛しくて。

胸がつぶれそうなくらいに、息苦しいほどに、愛しくて。

クラウドは、囁いた。

・・・。怖いのは、だけじゃないんだ。」

はピクリと身動ぎすると、そっと顔を上げる。

不安げなその瞳は、真っ直ぐにクラウドを捕らえた。

「皆怖い。もちろん俺だって、怖いと思ってる。

・・・死にたくない、なんて・・・馬鹿なこと、考えてる。」

クラウドの密かな語りは、の体に染み渡って行く。

「どうすれば生きて帰れるだろうとか、セフィロスを本当に倒せるんだろうかとか、

俺達は無謀なことをしようとしてるんじゃないかとか・・・。本当に、馬鹿なこと考えてる。」

クラウドは苦笑を浮かべてを見つめた。

その表情が、何故か今にも泣きそうな表情に見えて、も表情を歪める。

「・・・けど、それが人間だ。・・・いろいろ考えて、怖いとか、どうしようとか、馬鹿なこと考えて。

・・・馬鹿でも、どんなことを考えたって、いいじゃないか。

俺達は俺達の思った道を行くだけだ。信じるものはなにか・・・俺は、それを考えてた。」

クラウドはいったんそこで言葉を切り、やっと笑顔になってを見つめた。

優しい、迷いのない笑顔。クラウドははっきりと言った。

「俺は、を信じるよ。そして、決してを死なせたりはしない。

例え世界が滅びようとも、を一人にはさせない。・・・俺は、そう決めたんだ。」

微笑むクラウドを見て、は目頭が熱くなるのを感じた。

こんなに自分を想ってくれていたなんて。

嬉しかった。そして、絶対にもう迷わないと誓った。

怖いと感じても、それは仕方ない。人間は、感情を持っているのだから当たり前なのだ。

だから、は決めた。

クラウドが自分を信じてくれているのなら、自分もクラウドを信じようと。

自分はどうなっても良い。けど、クラウドだけは絶対に無事に帰れるように。

自分の命と引き換えになっても良い。けれど、クラウドだけは必ず。

「クラウド・・・。」

「・・・ん・・・?」

クラウドの胸に頭を預け、は呟いた。

「・・・ありがとう・・・。」

の震えは、もうおさまっていた。

クラウドは微笑み、の額にキスを落とす。

そして、顔を上げたの唇に、自分の唇を重ねた。

最初は軽く。徐々に、それは深い口付けと変わって行った。












この命と引き換えになっても良い。







未来が、彼の幸せで満ち溢れていますように。








<完>


=コメント=
また突発で書いちゃったよ(号泣)
ED前、北の大空洞突入前夜(笑
なんとなく・・・甘いシリアスを書きたくなって書いた(威張り)
題名と内容が合ってません。バラバラやんか・・・(爆
くぅおぉーーー!!(叫
短いしね・・・。もうちょっと長くしたかったけど、
ここまでが私の限界だった・・・・(ホロリ) [PR]動画