最後に一度







別れが言えて、良かった。







それぞれの道








セフィロスが死亡。

そんなニュースが神羅内で流れてから一週間がたった。

セフィロスファンだったOL達はまだ立ち直れずに放心状態。

セフィロスに憧れを抱いていた下っ端達は仕事に身が入らず上司に怒られてばかり。

その他の者達は、未だにセフィロス死亡というニュースが信じられずに放心状態。

何にしろ、神羅カンパニーにとってろくでもないことは確かだった。

そしてクラウドも、その中の一人だった。

―――――本当に・・・俺が、セフィロスを殺したのか・・・?

神羅カンパニーの廊下を歩きながら、クラウドは考えていた。




仲間がセフィロスに吹っ飛ばされて、自分にぶつかった。

そして、頭の中で何かが切れた。

バスターソードで、セフィロスに立ち向かった。




そこまでは覚えている。

しかし、そこからの記憶がない。

気付けば自分は神羅の医療室の白く硬いベッドに横たわっていた。

そこで最初に言葉を交わしたのが、あの事件で一緒に行動していたアイツだった。

「大丈夫?」

「お前・・・。・・・俺・・・どうしたんだ?」

クラウドがぼんやりと言うと、ちゃんと彼は説明してくれた。

セフィロスが死んだということ。気を失っていたクラウドと自分が神羅に運ばれたこと。

そして、その日から既に3日が過ぎているということまで。

「そうだったのか・・・。セフィロスは・・・。」

「うん。・・・セフィロスは、もういない。おかげで社内は大騒ぎだよ。」

彼は小さく溜息をつき、肩を竦めた。


それからすぐ彼は医療室を出て行き、その日から会っていない。

社内のどこかにはいるはずだが、広過ぎる社内で偶然会えるなんて可能性はほとんどない。

四六時中動いているのだから。クラウドだって、彼だって。

仕事がある。そして、仕事をする時間帯だって違う。

けれど。




―――――― 会いたい ―――――――





自分でも不思議だと思った。

彼は、不思議な雰囲気を持っている。

そして、その雰囲気をクラウドは知っている。

「・・・・・・。」

今どこでどうしているかわからない幼馴染。

その幼馴染と同じ雰囲気を、彼は持っている。

幼馴染。

ニブルヘイムに行けば、当たり前のように会えると思っていた。

けれど、幼馴染はいなかった。

は、随分と前にどこかに引っ越してしまっていたのだ。

まるで胸が引き裂かれたような気がした。

会いたかった。会いたかったのに。

何かを求めて伸ばした手が、虚無を切ったような感覚で。

「・・・どこにいるんだろうな。」

そんなことを、思う。

その思いが、幼馴染に向けられたものなのか、彼に向けられたものなのか、わからなかった。








それは、クラウドが昼食を取りに社内食堂に足を運んだ時だった。

カウンターでメニューを注文し終えた後。自分の後ろから声がした。

「や。久し振り。」

クラウドは振り向いた。

声をかけられることはよくあった。けれど、全て無視していた。

ろくな奴なんて、いなかったから。

けれど、クラウドは振り向いた。振り向かずにはいられなかった。

「お前・・・!」

「元気そうで何より。良ければお昼一緒にどう?」

彼だった。

と同じ雰囲気を持つ、彼だった。

その姿は、最後に会ったときと全く変わっていなくて。

考えてみれば当たり前だ。4日ほど会っていないだけなのだから。

けれど、クラウドにはその4日間が非常に長く感じた。

一週間。いや、一ヶ月ほどの長さに。

大袈裟だ。そう自分でもわかっている。けれどそう思ってしまう。

「ボクあっちにいるから、おいでよ。」

「ああ・・・。」

話したいことがある。いろいろと。

そう、いろいろと。






「お前・・・仕事はいつもどの時間にやってるんだ?」

最初に切り出したのはこんな話題だった。

彼は苦笑を浮かべているのか、食事の手を止めて口元に手をやった。

彼はどんなときでも神羅兵の被り物を取らない。だから、正直どんな表情をしているかわからない。

けれどしゃべり方からして、少なくとも不機嫌ではないことがわかった。

「ボク?ボクはランダムなんだよね。」

「ランダム?」

「昼だったり夕方だったり夜中だったりするってこと。ちなみに今日は午前中で仕事も終わり。」

クラウドは一度手を止めて彼を見やる。

確かに少し疲れているように見える。仕事が終わってすぐに腹ごしらえに来たのだろう。

彼はしばらく黙って食事をしていたが、少し手を止めるとクラウドを見つめた。

「話があるんだ。」

「話?」

声が少し低くなった。真剣な話なのだろう。

彼はしばし戸惑っていたようだったが、やっとのことで口を開いた。

そして、その言葉を聞いてクラウドは固まった。







「ボク、移動になったんだ。・・・ジュノン社の方に、ね。」







突き放された気分だった。

まさかこんなことを言われるなんて思わなかった。

クラウドはしばらく動かず、しかしあからさまに表情を歪めた。

「・・・移動・・・?」

「そう。もうここには戻ってこない。」

「どうして!?」

「どうしても。ボクの力が必要なんだってさ。・・・・酷いもんだよね。」

ケロリと言っていたが、その言葉にはどこか寂しさが含まれていた。

クラウドは彼を見つめ、目を細めた。

彼は「ごちそうさま」と言ってフォークとナイフをナプキンに包んだ。

そして立ち上がる。

「・・・最後に、お別れが言いたいなって思ってたんだ。偶然だけど、会えて良かった。」

「そんな・・・また会えるだろ?」

彼は首を振る。

「多分・・・もう会えない。これからは、少し危険な仕事をすることになったから・・・。」

「・・・まさか。」

彼は寂しそうに微笑んだ。

「・・・タークスの仕事。」

クラウドは目を見開いた。

ただの神羅兵とタークスが、どれだけ仕事の危険度が違うかわかっているからだ。

止めたかった。けれど、止められなかった。

彼は動かないクラウドを見て、少し微笑んで、それから言った。

「もう会えないかもしれないけど・・・ボク、クラウドのこと忘れないよ。

元気でね。最後に別れが言えて・・・良かった。」

そう言って、彼はクラウドに背中を向けた。

遠ざかってゆく後姿。クラウドはその姿を見つめていたが、不意に立ち上がって叫んだ。






「また!どこかで必ず会おう!!俺もお前のこと忘れない!!絶対に!!!」






彼は振り返らなかった。

けれど、絶対にまた会う。いや、会えると信じている。

彼だけじゃない。

あの、愛しい幼馴染とも。
















―――――――――――  五年・・・




















ミッドガル一番魔洸炉爆破事件。

クラウドは何でも屋として、アバランチというテログループに加勢していた。

爆破事件も、もちろん彼の働きあっての成功である。

「バレットと、仲良くやってね。」

「・・・・興味ない。」

幼馴染のティファが苦笑を浮かべながら言い、クラウドは不機嫌そうに答えた。

そう、興味なんてない。

今興味があるのは、ただひとつだけなのだから。

五年過ぎた今でも忘れられない彼の存在。

今もジュノンにいるのだろうか。考えては、期待し過ぎないように頭を振る。

その繰り返しだった。





「おーいクラウドさんよぉ!お前に面会だぞ!すっげー美人なベッピンさんだぜぇ!」






クラウドは顔を上げた。

「・・・俺に面会?」

首を傾げる。ミッドガルに知り合いなどいないはずなのに。

一体誰が?

重たい腰を上げ、入り口へと向かう。

ドアから顔を覗かせ、クラウドは目の前の人物に言った。


「・・・どこかで会ったことがあったか?」








あるよ。















「私っ・・・!」




















再会まで、あと数秒。


















<完>






=コメント=
以上、神羅時代のお話でした(笑
なんとなく以前から書きたいと思っていたネタ。
主人公、クラウドに別れを告げる(笑
でもってまた再会(意味ないじゃん) [PR]動画