☆これは悲恋モノです。苦手な方はご遠慮ください。
大丈夫な方も、ハンカチを用意してご覧ください。
空はどこまでも澄んでいて、
そんな美しさが逆に、私の胸を引き裂いていた。
病室
「こんにちわ!具合はどう?」
私は笑顔を浮かべながら、いつものように彼の病室の扉をくぐった。
彼は私の姿に気付き、手に持っていた本を閉じて笑みを浮かべる。
そんな笑みも、今では見るのが辛い。
「体調、良いんだ。なんだか・・・とても気分が良い。」
彼は窓の外を眺めて、そんなふうに言った。
窓の外は晴天。真っ白な雲が所々に浮いていて、そんな背景と彼は見事にマッチしていた。
私は震える手を背中の後ろに隠しながら、無理に笑顔を浮かべる。
「駄目だよ、調子が良くてもちゃんと静かにしてなくちゃ!クラウドはすぐに無理するんだから。」
「無理って・・・この状態で、どうやって無理しろって言うんだよ。」
クラウドは苦笑した。青白い顔で、それでも明るく微笑んだ。
私は涙をこらえて、手に持っていた花束をクラウドに差し出した。
色とりどりの花が詰まった、小さな花束。
その花束に、私はひとつの想いを込める。
「お見舞い。早く良くなってよね。」
ありがとう、と言い、クラウドは私の手から花束を受け取る。
その時に触れたクラウドの手は、びっくりするほど冷たかった。
「、毎日来なくたっていいのに。」
「いいの。私が来たいって思って来てるんだから。」
私はベッドの傍の椅子に腰掛け、枕脇の花瓶に花を生けた。
クラウドはその花を本当に嬉しそうに見つめ、微笑む。
ブルーの瞳が、花を見て揺れてる。なんて綺麗なんだろう。
血色のない頬も、白い唇も、なんて綺麗に見えてしまうんだろう。
「・・・い、いつ、退院出来るって?」
声が震えてる。クラウドはふと私に視線を移し、少し寂しそうに笑った。
「まだしばらくは・・・。」
「・・・そ、そうだよね・・・。」
本当は知ってる。クラウドが、もう退院なんて出来ないってこと。
クラウドは、二度と病院から出ることなんて出来ない。
そのことを知ってるのは、医者の先生と私だけ。
先生と話し合って、クラウドには話さないと決めた。
クラウドに話すのは、とても辛すぎるから。
「、もし俺が退院したら・・・。」
クラウドは目を伏せ、口を開いた。私は首を傾げて、「何?」と問い返す。
「もし、俺が退院したら・・・・その時は、俺と一緒になってくれないか?」
私は目を見開く。
クラウドは目を細めて、私を見つめている。
私は泣きたくなった。目頭が熱くなって、泣きたくなった。
「クラ・・・ウド・・・。」
「・・・駄目、かな?」
駄目じゃない。駄目なんて言うわけない。
だって私は、クラウドが大好きだもの。本当に、愛しているもの。
出来ることなら、クラウドと一緒になりたい。
大好きな彼と、これから先ずっと一緒に暮らしたい。
「駄目・・・なわけないよ・・・!」
私はクラウドに抱き付いた。クラウドは、弱々しい腕で私を抱きとめる。
私は泣いた。今なら、泣いたって構わない。
嬉しくて泣いた。悲しくて泣いた。悔しくて泣いた。
三つの涙が、一気に私の目から溢れ出す。
クラウドがこんなふうに言ってくれたのが嬉しくて。
けれど、この約束は一生守られることがない。それが悲しくて。
クラウドを、救ってあげられない自分自身が悔しくて。
私の顔は、涙でぐちゃぐちゃだった。
それでもクラウドは、私を優しく抱きとめてくれた。
大声で泣く私を、まるで子供をあやすかのように抱き締めてくれた。
優しいクラウドの体温。その体温を感じながら、私は泣き続けた。
―――――――もうかなり腫瘍は大きくなっている。・・・もったとしても、あと半年の命だろう。
先生の言葉が頭の中で響き渡った。
その宣告をされてから、もう既に4ヶ月が過ぎている。
早くてあと1ヶ月。もってもあと2ヶ月しか一緒にいられない。
命のカウントダウンは、もう始まっているんだ。
―――――――助かる方法は・・・ないんですか・・・?
―――――――残念だが・・・今の医学では、どうにもならない。
どうして、私はこんなに辛い恋を選んでしまったんだろう。
―――――――これは医者としてではなく、私個人の言葉だ。
どうして、私はクラウドじゃなきゃ駄目だったんだろう。
―――――――彼に残されたわずかな時間。その時間は、君と過ごすために使うのが一番良い。
―――――――わかるね?・・・出来るだけ、彼の傍にいてやりなさい。
「・・・私、ウェディングドレス着るよ。クラウド、タキシード着てね・・・。」
涙を拭いて、精一杯の笑顔でクラウドに言う。
クラウドは微笑んで、頷いた。
「新婚旅行は、どこへ行こうか?」
「どこでも良いよ。クラウドと一緒なら・・・どこでも。」
そう、彼と一緒なら、どこへでも行ける。
どこでも良いと告げると、クラウドは困ったように笑った。
結局、俺が考えるんだろうと言って。
私は、クラウドが落とす一粒一粒の笑顔が大好きだ。
吹き出して笑った顔。優しく微笑んだ顔。困ったように笑った顔。
はにかんだ笑み。からかうような笑み。眩しいほどのあどけない笑み。
そんな笑顔が私は大好きだ。
きっともうすぐ、この病室には誰もいなくなる。
そして、私はここへ来なくなる。
この病室が空室になった時、きっと私は毎夜泣き明かす。
真っ赤な目をさらして、それでもきっと泣き続けるだろう。
彼が落とした笑顔を思い出して。
彼との思い出を頭に描いて。
そして、私はきっと歩き出す。
彼との約束は守られないけれど、それでも破ることだけは絶対にしないように。
「クラウド、笑って?」
「なんだよ、急に。」
「いいから、笑って?」
私が言うと、クラウドは照れながら、いつもの笑みを浮かべた。
それを見て、私は決心を固める。
絶対に、クラウドのことを忘れたりしない。
そして、クラウドとの約束を破ったりしない。
「私、クラウドの笑顔・・・大好きだよ。」
「俺も、の笑顔が好きだよ。」
ありがとう。
心の中で、そう呟いた。
「クラウド、ずっと笑っていてね。」
「ずっと笑ってるよ。」
* * * *
彼がいなくなった日。
やっぱり私は大泣きをして、目を真っ赤に腫れ上がらせていた。
けど、クラウドは最期まで私のことを想ってくれていた。
『どうしてっ・・・ねぇ、どうして笑っていられるの!?なんで今笑っていられるの!?』
大声で言う私に、クラウドは微笑んで言った。
『だって・・・ずっと笑っていてねって・・・、言っただろ・・・?』
約束、守ってくれたんだよね。
私との、約束。
今度は、私が約束を守らなくちゃ。
約束は守れないけど、絶対に破らないよ。
誰もいない病室。
彼が寝ていたベッドには誰もいない。
ベッドの傍の窓。白いカーテンがはためいて。
窓の外は、約束をした日と同じ、青い空が広がっていた。
<完>
※作者が泣いてコメントを書ける状態ではないので、
今回のコメントは遠慮させていただきます。
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